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第1章
朝食
しおりを挟む「………はぁ」
109号室の前に佇んで俺は一人、深いため息を吐いていた。
「なんかもう、すでに疲れたな」
先程まで朝食を取りに原田と2人で厨房へ向かっていた。
そこで何故か俺は他の監視班から出くわすたびに注目を浴びていた。特に話しかけられることもなく、ジロジロと視線だけが俺に向けられるので酷く居心地が悪かった。
そんなに見ても面白いことなんてないのに。
怪訝な顔をしていたであろう俺に、原田は苦笑いを浮かべながら「大丈夫、そのうち見られなくなるよ」と言っていた。しかし、俺的には何が原因で見られているのか全く見当もつかないので、心の内がもやもやしたままだ。
そして、朝食を運びながら厨房から出ていく瞬間までずっと、俺への視線が途切れることはなかった。
「……切り替えないとな」
これから先ほどとは桁違いに厄介な奴等を相手にしなければならない。こんなので疲れていてどうするんだ。
ほんとくよくよしている場合ではないな……一先ずは監視班での初仕事を成し遂げなくては。
俺は109号室前で立ち止まっていたが、意を決してカードキーを取り出した。
扉にカードキーをかざす。ピピッと電子音が聞こえたと同時にカチャリと鍵が解錠された。
行くか。
緊張をほぐすように深呼吸をした後、壁際に運んでおいた朝食の入ったワゴンを手で押し、ゆっくりと扉を開いた。
「おはようございます、夏彦さん」
扉の先には俺を待っていたであろうナカモトが立っていた。
「…おはよう、ナカモトお前、早起きなんだな」
「はい、1番に夏彦さんと話したかったので♡」
「あー…そうか…」
朝から元気に話すナカモトへ適当に返事をしながら、ワゴンをリビングまで運んでいく。ガラガラとワゴンの音が静かな廊下に響いた。
ナカモトも俺に続くようにリビングまでついてくる。
「そのワゴン重たそうですね、
僕に何か手伝えることはありますか」
「いや大丈夫、大人しく食事をとってくれるだけでいい」
「………夏彦さん……まだ僕のこと警戒しているのですか?」
悲しげな表情でこちらを見つめるナカモトに「当たり前だろうが」と内心悪態を吐き、無言で朝食をテーブルに並べる。
そんな俺に、ナカモトは何か諦めたかのようにため息を吐いて椅子へと座った。
再び静かになった空間で、食器のカチャリッとぶつかる音だけが聞こえる。
…気まずいから早く他の奴らも来てくれないかな。そう考えていると廊下の方からドタドタと歩く音が微かに聞こえた。どうやら誰か起きたようだ。
部屋の沈黙を破るようにリビングの扉を盛大に開ける音が響き渡る。勢いよく開いた扉は壁にぶつかり、戸当たりからドンッと大きな音を立てた。
「お腹減った~!」「ねぇご飯まだ~?」
この声はヤグチか。
扉の方を見ると、壁に穴が開いてないかみたいな心配を全くするそぶりのないヤグチ双子がドカドカとテーブルまで歩いてきていた。
「おーいお前」「今日の朝食何?」
「…今日は和食だ」
ヤグチのお前呼びにイラつきながらも淡々と答える。
「えー」「肉が良かった!」と文句をつけながらヤグチたちもそれぞれ席に着く。他の能力者を待っていられないのかヤグチ双子は、いただきますを言わずにさっさと朝食に手をつけていた。
ほんとこいつらは…と呆れた視線をヤグチ双子に送っていると、こちらの視線に気づいたのかじっと俺の顔を眺めてきた。
「ん?お前、名前なんだっけ」「あー…宮なんとかくんだっけ?」
「宮迫だ」
まさか名前を覚えられてないとは。
「あーそうそう宮迫宮迫!」「体幹ゼロだったやつ!」と言い出すヤグチに、あれはお前らが突き飛ばしたから転んだのだろうがと言いかけたが、絡まれたくないので黙ることにした。
「何ですかこの低身長共、夏彦さんの名前覚えられないとか脳みそも小さいのですね」
先程まで静かだったナカモトがヤグチ双子に悪態をつく。
あー…まずい、面倒そうな展開になるぞこれは。
「はー?なにこいつ」「ボクらお前より背高いけど?」
「夏彦さん、可笑しいですよあの子供。
明らかに僕より小さいのに、背が高いことを自信満々に主張してきてますよ、精神異常者でしょうか?」
「「おい宮迫!なんだよこの生意気な奴!!」」
「待て待て、喧嘩するな」
ヤグチ双子が俺やナカモトと高いことになると180cmをゆうに超えることになるのだが、と心の中でツッコミを入れていたが、収集がつかなくなりそうなので両者の間に入り喧嘩を止める。
「淫乱ピンク髪!」「胡散臭い顔しやがって!」
「今なんて言いました!?この単細胞!!」
「ナカモト手を出すな、とりあえずみんな落ち着け」
ナカモトとヤグチたちが睨み合っているのを諌めていると扉がまた開かれる。
視線をそちらに向けるとミナミダとアヤザキが扉の前に立ってこちらを見つめていた。
俺は咄嗟に「おはようミナミダ、アヤザキ」と声をかけ、こちらへ来るよう手招きする。
「おはようございます!」
「…っす」
挨拶を返したミナミダはそそくさとリビングに入り、ナカモトの隣へと座った。そして、ミナミダは「廊下まで声が聞こえたけど何かあった?」と話しかけていたが、自身を落ち着かせていたナカモトは「別になんでもないです」とそっけなく返事をしていた。
同じくリビングに入ったアヤザキは誰に話しかけることもなく席に座り、「いただきます」と礼儀正しく言ったあと黙々と朝食を取り始めた。
さすが能力者たちだ、自由すぎる。
本当はみんなで一斉に食事をとってもらいたかったが、しょうがない。
俺はナカモトとミナミダの方を向き、「お前たちもご飯食べような」と声をかけた。
「え!?聞きました!?夏彦さんのご飯呼び可愛すぎませんか!?」
「あーソウダネ、そんなことより早く食べよ」
「そんなことじゃないですよ!」
ナカモトの言葉を無視するようにミナミダも朝食を食べ始める。
「ほんと夏彦さんのありがたさをもっと身に染みて理解してほしいですね」と文句を言いながら、ナカモトも続くように朝食に手をつけた。
かちゃかちゃと食器や箸がぶつかる音とヤグチ双子の会話だけが部屋に聞こえる。
ヤグチたちの「例のアレどうする?」「あとで試してみようよ~」とよくわからない話を聞きながら、みんなの食べている様子を眺める。ヤグチ以外は黙々とご飯を食べていた。
しっかり食べているな関心関心、そんなふうに考えているとミナミダと目が合った。
ミナミダは俺の方を見ていたことがバレたからか、慌てた様子で合った目線を外したかと思えば、また目を合わせた。
「…えっと、あの、……あ!ここのご飯、PCGの基地にいた時のより美味しいです!」
ミナミダの嘘ではないだろうが無理やり捻り出したような感想に俺は苦笑いを浮かべた。
やはりミナミダは『宮迫夏彦』に関して、何やら隠していることがありそうだ。
俺のことについて、知らぬ間に周知されている状況はなかなかに怖いな。春希に関する事であれば、今すぐにでも答えてほしいのだが。
そうこう考えているうちに全員食事を終えたようだ。
「ごちそうさま」と言って静かに席を立ったアヤザキ以外は各々リビングで寛いでいた。
ヤグチ双子は持ち込んでいた携帯ゲーム機で遊び、ナカモトとミナミダは椅子に腰掛けたまま、俺が食器を片している姿を眺めていた。
ナカモトは楽しげに、ミナミダは観察するように見ているが、何をこう…見るものがあるのだろうかと思ってしまう。
ナカモトとミナミダの視線から逃れるようワゴンで姿を隠しながら食器を仕舞っていると、一番下に置いてある衣服が目に入る。そこで俺は今日のスケジュールを思い出した。
あぁそういえば、このあと2人の能力実験があるんだった。
昨日保護されたばかりだから、2人の能力が大まかにしか分からないので徹底的に調べるらしい。
「ミナミダ、ナカモト」
「どうかしましたか夏彦さん」
「今日は2人の脳力実験をするらしいから、この服に着替えておいてくれ」
その場から立ち上がった俺はワゴンから衣類を取り出し、2人に衣服を手渡す。
衣服を受け取ったミナミダは徐ろにその服を広げた。
そして、病院の患者服のような形の衣服を確認するや否やミナミダは盛大に顔を顰めた。
「げっ、こんな病人みたいな格好でオレら何されるんすか」
「能力の効果範囲とか調べるだけだから脱がされることはないと思うぞ」
「んー…そうすかね…」
そう言ったが、実際何をするかは俺も詳しくは知らない。
何とも煮え切らないミナミダに対し、ナカモトの方は興味なさげに「夏彦さんがいれば他のことはどうでもいいですね」と言って俺の腕に巻きついた。
コイツは隙あればくっついてくるな。俺はピッタリと片腕に抱きついてくるナカモトを無理やり引きはがす。
「あぁ…ひどい…」と被害者ぶるナカモトを無視して、俺は「また戻ってくるから9時半にリビング集合な」と2人に言って返事を待たずにリビングから出ていく。
「夏彦さん行かないで…」とリビング越しにナカモトの声が聞こえたが気にせず玄関へ向かうと、いつの間にか廊下に出ていたヤグチ双子が待ち構えていた。
「あ、やっと来た」
「宮迫ー!オマエに用があるんだけど」
「それ片付けたらボクらの部屋に来てくれない?」
ヤグチ双子はニヤニヤと小馬鹿にしたような笑顔をこちらに向けてくる。
なんだこいつら突然…。
クラッカーで脅かしたり、突き飛ばして部屋に追い出したりするようなこいつらのことだから何か企んでいるに違いない。そう思い、俺はヤグチ双子を警戒して2人から距離を取る。
「要件を言え」
「「何その態度」」
ジトっと見上げるようにこちらを睨むヤグチ双子に俺も負けじと睨み返した。
互いに睨み合っているとヤグチ双子の方が根気負けしたのか、「ま、いいや」「今は許してあげる」と勝手に宣い、続け様に喋り出した。
「昨日のさ、ボクらの部屋見たでしょ?」「散らかっていてさぁ…ちょっと片付けて手伝ってくれない?」
「「だってお前、ボクらの監視役何でしょ?」」
何か癪に障るような言い方だが確かにヤグチ双子の部屋は汚かった。あんな物の山ができている部屋なんてテレビでしか見たことないぞ。
正直あの部屋の片付けなんてしたくない。しかし、コイツらの担当としてこういうこともしないとダメなんだろうな。
「お願い~!」「良いでしょ~?」と大きな潤んだ目をこちらに向けてくるヤグチ双子に、俺はため息を吐いたあと「…分かった…でも本当に手伝うだけだからな」と告げた。
「お、やりー」「じゃあさっさとそれ片付けに行ってよ」
俺の返事にヤグチの2人は満足げに頷き、そして顎でそれとワゴンを指した。
お前らに呼び止められていなければすでに片付けられていたが?と思いつつ、「はいはい」とヤグチに言い玄関へと向かう。
初日から色々やることができたな…そんなことを考えながら、俺は109号室をあとにした。
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