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第1章
監視のお仕事
しおりを挟む監視班の朝は早い。
文字通り本当に朝は早く午前7時に始業で終わりは午後6時と、早い始業の割にはかなり遅い終業だ。
単純計算で考えると拘束時間は11時間だが、13~16時まで3時間の休憩時間がある。その点は朝夜構わずに長時間働かされる救出班よりはホワイトな環境かもしれない。
「休憩が3時間あると何するか迷うな……原田は何をして過ごしたりするんだ?」
「僕は一度家に帰って家事をしたり、買い物したりしてるかな。あとは同じ監視班の人と遊んだりもするね」
「へーいいなそれ」
時刻は午前7時10分。
俺は現在、原田に監視班の仕事を詳しく教えてもらっている。とりあえず1日の仕事の流れを聞いたんだが、さっそく7時半から朝食の配膳をしなければならない。他にも、昼食は12時、夕食は17時半と決められた時間に食事を提供すると決められている。他空いた時間には能力者の能力実験をする為に担当能力者の付き添いや能力者の体調・能力評価をまとめたりとするらしい。
「なんか…思ったより楽そうだな」
「うん、実際に簡単だよ。だから僕は監視班を選んだし」
「あぁ…そういえばそうか。
でも今は大忙しみたいだけどな」
あっやばい。
無意識に出た言葉を抑えるため咄嗟に口元を塞ぐ。
昨日からずっと考えていたことが口から漏れ出てしまった……原田には聞こえてなければ良いのだが。
原田の方を見たらバッチリ目が合う。俺と目が合った原田は苦笑いを浮かべる。どうやら聞こえたみたいだ。
「……うん、簡単なのは担当能力者が1人や2人の場合だね。今は最低3人の能力者の担当につかないとだから8時間だけ働くなら時間が足りないよ。
あと能力の危険度が高い子を担当したりすると、付き添いや能力評価の記載に時間がかかっちゃうんだよね」
「ま…じか、もしかして休憩時間も仕事してたりするのか?」
「……たまにするかな、まぁ基本は残業だけど。
ただ、今はまだ2人体制だからマシだよ」
残業ありで休憩時間も働くかもしれないのか。
まぁそんなの救出班の頃からしてるから平気ではあるが、ちょっと休めるかもと期待していたから結構がっかりしてる。
それに能力者の監視が目的だから休みがあるかもわからない。………ん?待て?毎日、食事の配膳をするなら休みがないのでは?
「なぁ原田」
「どうしたの宮迫くん」
「仕事で能力者の為に毎日の食事を配膳したり、能力者についてまとめることになるんだろ?いつ休むことができるんだ?」
「さっきも言ったけど2人体制で能力者を監視するから、休みたい時に監視で組んでいる人に仕事をお願いをすれば、週1、2日は休むことができるよ」
あぁ確かにそれなら問題ないな。
2人のうち1人が休んでも、もう1人が能力者を監視できれば問題ないものな。
……でもたしか、俺の場合は1人で能力者の監視を担当させられそうだよな?
ってことは休みがないと言うことじゃないか。
「え…俺1人体制っぽいんだけど…」
「…僕も同じこと考えてた。
流石に休みがないのはおかしいし、そのことについては僕も上に伝えておくよ」
「本当か!」
俺は「原田様~!」と原田に向かって手を合わせ拝む。原田もノリ良く「くるしゅうない」と腕を組んでふざけていると、扉を叩く音が部屋に響く。
俺と原田は部屋の入り口へ視線を向ける。そこには30代ぐらいの男2人が部屋の中を覗くように立っていた。
「原田ここにいたか、もう朝食の時間になるぞ」
「あ、羽間さん」
原田は慌てて椅子から立ち上がり、羽間という男に駆け寄って行く。羽間に「会議室で何してんだ?」と言われた原田はしどろもどろになりながらも「新人教育をしていました」と話していた。そこでやっと羽間ともう1人の男の視線が俺へと向いた。
「……誰、お前」
「羽間さん、この子は救出班から異動になった宮迫くんですよ」
「宮迫です、よろしくお願いします」
「…ふーん…お前が」
羽間は俺を上から下まで見たかと思ったら、こちらを馬鹿にするように鼻で笑う。そして原田に「じゃ、朝食と着替え全部よろしく」と言い残して部屋から立ち去っていった。
今、明らかに羽間は原田に仕事を押し付けたよな?何なんだアイツ。
「大丈夫か?」と原田に声をかけようとしたところで、廊下から再び羽間の声が聞こえる。
「あいつ本当に救出班だったの?めっちゃヒョロガリだったけど」
「見るからに現場行ったことなさそう。俺でも倒せるわアレ」
「分かる!てかせっかく厄介なのを押し付けたのにすぐ辞めそうじゃん」
「明日には病んで来なくなるね」
ギャハハッと笑い声が廊下に響き渡る。
聞こえてるっての。
「………ごめんね宮迫くん。
こんなことになると思ったから、監視班の部署じゃなくて会議室に集まったのに…」
「俺は大丈夫だ。それより原田の方が大変そうだが」
「…あ、いや僕も、うん、大丈夫」
俺と原田の間に会話がなくなり、部屋が静まり返った。
原田、本当は大丈夫じゃないだろうな。
俺は原田に気づかれないようひっそりと視線を向ける。顔色を伺いたいのだが、原田は俯いているのでよくわからない。
「はら…」
「宮迫くん、そろそろ7時半だよ」
俺が声をかけるより先に原田が話し出す。
あぁ、そうだった。先ほど羽間も朝食の時間だと言っていたな。
監視班初の仕事か、緊張する。
「さっそく朝食を受け取りにいこうか」
「おう、その前に厨房の場所確認しとこう…」
「ふふっ厨房は僕も一緒に行くからそんなに気を張らなくても良いよ」
「は、原田様!!」
教育係が原田で良かった。
そんなことを考えていたら、「じゃあ行こっか」と言いながら原田は廊下の方へ歩いていく。慌てて俺も原田の背中を追うように会議室を出ていった。
応援ありがとうございます!
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みんなの感想(2件)
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初めまして( . .)"
このお話めちゃめちゃ好きです( > <。)
可愛いし尊いしもうやばいですね!(語彙力)
更新楽しみにしてます!!
読んでいただきありがとうございます。
尊いと感想をもらえるとは思いませんでした!嬉しいです☺️
更新頑張っていきます!
初めて見たんですけど私に超大ヒット?しました!!更新楽しみに待ってます!
読んでいただきありがとうございます!
ハマっていただけたなら、私も嬉しい限りです!
更新頑張っていきます。