ホーリーノヴァ

虎キリン

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ホーリー大穴 一層

カジカ

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 マルタ島の夜空は、澄み切っていた。文明と言っても魔法文明は、公害を出さない。出しても呪いぐらい。呪術は、それでも魔法だ。何とか対抗できる。

 その剣と魔法の世界に、異端ともいうべき術を使う集団がいる。『忍者』。彼らは、仙術と言う、魔法とは違う種類の術を使う。ところが、肉体系スキルは、剣士のそれとよく似ている。この剣士スキルの頂点だったのか、ドラゴンスレーヤーだった。忍者たちは、彼を敬い、彼の後を追い崇めた。

 カジカもその一人だ。それも、ドラゴンスレーヤーの旅の道連れに選ばれた。彼女は忍びの最高峰を極めた忍者。それなのに、肉体系スキルは、ドラゴンスレーヤーの足元にも及ばない。彼は、カジカが行き詰まっていた壁を指摘して、それを超えさせた。彼のために、言葉や文字を教えるために精神感応した時、彼の感情が流れて来た。とても安心できるもので、カジカは、初めて肩の力を抜いた。

 カジカは、巨木の天辺に立って大きな満月を眺めた。あの時のことが思い返される。

 そんなに強い彼が、タイフーンドラゴンに倒された。私は、それはもう信じられないぐらいおどおどしたし、タイフーンドラゴンに憤った。そして、彼がいなくなったことに失望した。そんな私を見て、ライナ姫が言ったことは、強烈だった。

「ドラゴンスレーヤーは、確かに亡くなったのに、私が彼に与えた魔力を感じます。彼は、この世界に転生するでしょう」
「いつですか?」
「さあ?、100年後か200年後か、千年後かわかりませんけど、私の魔力に負けない強大な霊体。彼が、復活するのだけは分かります」

 これは、いちるの希望だ。いつ復活するかわからないドラゴンスレーヤーを待つのはばかげている。しかしその後ライナ姫が言った一言が、カジカを永遠の命に走らせるきっかけになった。

「私も、ドラゴンスレーヤーを愛しています。確かに一瞬の出会いでしかなかったのですが、魔力で深く繋がっているのを感じます。私は、天使になって良かった。天使もドラゴンと変わらず長生きです。彼にまた会える」

 強烈な嫉妬心。その逆に、自分と一緒になってもいいと言ってくれた彼の言葉。カジカは、その約束に突き動かされて、トゥルーバンパイヤの力を得た。

 ライナ姫はその後、本当に人族を守ってタイフーンドラゴンと死闘を演じた。人族が滅びなかったのは、ライナ姫のおかげと言っていい。それに自分も精いっぱい力を貸した。彼女とは、ライバルであり戦友だ。


‥‥‥‥ごめんね、ライナ。私、彼を見つけちゃった。ルインって、私にごまかしきれると思ったのかしら

 彼は、まだ5歳。ライナの言う通りライナの魔気に包まれている。こんな強大な魔気を私が感じないはずがない。ルインに、成長するまで遠くから見ているだけにしろ。と、言われた。本人の意思だという内容は、筋が通っている。確かにあの旅の道ずれは、楽しかった。今世で、一から一緒に成長する仲間を作りたいのはよくわかる。でも、それだと、後十年も待っていないといけない。ライナは、待てるだろうな。でも、私は‥‥‥‥‥‥

 ドラゴンスレーヤーの十束剣、ジャックスソードは、ドワーフのドレイクが保管している。けれど、私も黄金の短剣、コビ刀を持っている。魔力無効化のきっかけになった短剣だ。これを遺品のように扱っていたが、今では違う意味を持っている。彼に、返さないといけないコビ刀。オビトに会う切っ掛けの短剣。だけど、オビトに返すまでは、私の短剣だ。

 カジカは、月夜の巨木の天辺で、そっと、コビ刀を触った。




「オビト、朝じゃぞ」
「じいちゃん、昨日あんなに酒飲んだのに早起きな」
「いい酒は、翌日に残らん。オビトも大きくなったら分かる」
 分かる分かる
「今日も大空洞に行ってくるぞ。スライムをいっぱい狩って魔石の欠片を取ってくる」
「じいちゃんも元気になったら行くぞ」
 じいちゃんは、ここで、いつもの気合を入れて見せる。
 ボギッ
「イタタタ」
「無理するなって。そういや、サイカに聞いてくれって言われてたんだ。あの景品の短剣。どんなアイテムが付くんだ」
「あれか、スライムの魔石じゃよ。核を壊さんで取り出せたら、その中の魔石も欠片じゃのうて、れっきとしたアイテムじゃろ。水色じゃったら、弱い回復効果が有るな」
「短剣に回復効果付けてどうすんだ」
「アンデット対策になるじゃろ。要は使い様じゃ」
「なるほど」
 なんか丸め込まれた感じ。いったいどうやって、完全な核をスライムから抜き取るんだ。訳わからん。
「それで、どうやったら、完全な核をスライムから取り出せるんだ」
「それが分かっとったら、景品なんかにせん」
 サイカごめん。やっぱりじいちゃんだ。

「二人共、ご飯よ」

「今行く、じいちゃん早く」
「待ってくれ、わしを置いて行かんでくれ」
「しょうがないな。はい、杖」
「青スライムの魔石が有ったら治りも早いのにのう」
「その年まで、核の取り出し方わからんかったんだろ。あきらめろよ」
「わしゃ、ええとこまでやった。取り出したんじゃ。でも、にょきにょきスライムが核から出てきて元に戻るんじゃ。ありゃ反則じゃろ」ぶつぶつ、ぶつぶつ

 なんかぶつぶつ言ってる。ふうん、身体能力を極限まで上げて、核だけ物理的に抜き取っても、再生しちゃうんだ。すげえなスライム

「おやぁオビト、朝ごはん食べるのにも、バックを持っているのかい」
「これ、気に入った。これに瓶入れて、魔石の欠片を入れるんだ」
「いいわね。じゃあなんか瓶を見繕わないとね」

 そう言って、母さんがポーションの瓶を出してくれた。

「このポーションの瓶、大きいね。色も見たことない」
「でしょう。これはエクスポーションの瓶よ。シンプルなのに、とっても丈夫なのよ。でも、蓋がなくなって使えないのよ。コルクの栓でいい?」
「コルクでも、ポーションの瓶になるんじゃないの」
「いいよいいよ。私からの景品。本を読みたいんだったね。あと十匹頑張れば買えるわよ」
「本当!やる気でてきた」
「オビト、装備の方が先じゃろが」
「じいちゃん、なんか作ってよ」
「わしがか!しょうがないのう」
「いいんじゃない。おじいさんは、今、役立たずなんだから」
「酷いのうエルダさん」
 あははは
 うふふふ
「わし、イベントを成功させた功労者じゃないんか」
「さすが、おれのじいちゃんだ」
「本当。うちの誇りよ」
「本当にそう思っとるんじゃろな。二人共」
 あははは
 うふふふ


 あれが、彼を生んでくれたお母さん。エルダさんだったっけ。それに間抜けそうで、ちゃんと彼にホーリー第一層の攻略ヒントをくれるおじいちゃん。暖かい家族だわ。

※攻略ヒント
 ホーリー大穴第四層は、アンデットの巣。回復系アイテムを装備した剣が有効。


 カジカは、ルインの言うことを守って、オビトから遠く離れたところにいる。でも、使い魔まで、そうしろとは言われなかった。昨晩、このヒの村の近くの森で、イモリとコウモリをそして第一層で、風燕を使役した。

 使い魔の目だったら、かぶりつきで見てもいいよね

 ただなー、オビトが、たまにビクンとするのが気になる

 これから、このホーリーの攻略に行く。人が来れない層は、第5層から。そこに自分の住まいを作る。ここまでオビトが来たら、人の領域を超えたのよ。会っていいはず。今は、見守るだけで我慢する。

 第四層は、人の限界層。対外はそこで、アンデットの仲間入り。


 カジカは、魔法を使いたがらない。トゥルーバンパイアになって、呪術も使えるようになったが、それも嫌い。身体能力と仙術を駆使した今まで通りの戦いが好き。つまり、風の結界をオビトと同じ様にすり抜けられない。

 今度から、魔法も覚えないとね

 そう思いながら、風障壁を見上げた。

「風遁、風障陣」

 この方が、魔法より自然だと思うけどなー

 仙術は、自然の力をほんの少し借りるだけ。無理やり風は起こさない。この技も、ルインが作った風の結界で起きた現象をちょっと利用させてもらっているだけ。

 カジカは、風を纏って、散歩でもするように、この結界内に入った。中に入るとムッとするような魔気。気温も高い。

 トゥルーバンパイアになって良かったなと思うのは、空を飛べることだ。

 縦穴から五層まで行っちゃお

 まだ、早朝だからなのか人の気配は無い。カジカは、コウモリの羽を広げて、大穴に向かった。

「何これ」

 縦穴の中は、ものすごい吹き降ろしの風が吹いていた。これでは地下大空洞の十層まで落とされる。逆に中央は、風が吹きあがっていた。

 う~ん、でも、外から五層を見てみたいし

 ルインが作った風の結界は二重構造になっていた。巨大な縦穴の中では、循環する風が、恐竜たちの魔力を利用して吹き荒れている。大穴中央からの吹上。その風が反転するところに、ドーム状の風障壁。それらの中央に極大の風の魔晶石が浮かんでいた。これが縦穴の風を循環させている。そして、恐竜たちの魔気を吸って、巨大な吹き上げる風の結界でこの穴をふさいでいた。天頂の空気を吸い込む竜巻が不気味。
 地上の風障壁の結界付近で、地中に穴を掘った後を見つけたが、なぜかそこから風が吹き出し、その穴がえぐられていた。それなのに風の元である地表では、蟻が簡単に行き来している。

 ルインって優しんだか厳しいんだか。
 あのヒュージ結晶を壊すのは、私でも難しそう。よく考えているわ。結界が消えるときは、恐竜たちの魔気が消えたときね

 どうせ下に降りるんだし、五層から攻略して上に上がろ

 カジカは、吹き降ろしの風が吹き荒れる中に、バンと羽を広げて飛び込んだ。

 一層目から徐々に風圧が増していく。

 じゃあ、五~六層目が一番きついってことじゃない。アイテムもあそこにあるし。

 五層目

「風遁、風遁返し」

 風が嵐のように感じる五層目。ここで、この風を利用した反転仙術を仕掛けた。それでもドンドン降りてくる風。錐もみ状態の中、5層目のカウリーの巨木の大きな枝の根に家が建っているのを見つけた。

 カウリーの木は、下半分が、ただの丸太の様な一本の木。皮は、鱗のようですべすべ。魔物は、この木に簡単には昇れない。大穴の近くは、風がきつく翼のある魔物も近寄りたがらない。なかなかな安全地帯の住まいだ。

 クルクルクルクル、バッ、バアン。
 羽を強く張って正常飛行。結構きつかった。

 とりあえず、あの建物の近くに家を作るのいいかも。じゃあ、ご近所さんに挨拶ね

 カウリーの枝の根元に見つけた建物は、1軒だけではなかった。伝い梯子の様な通路で、5軒ほどが繋がっていた。その中の一番立派な建て構えの家に行く。

「ごめんください」

「誰じゃな?今日ここに来る予定の奴いたっけかな」

 中から、ぼやきながら出て来た壮年のおじさんは、エルダードワーフだろうか。鍛冶屋だけでなく建築や器具なども作る人間と変わらない大きさのドワーフだ。ただ、頭の大きさが、人の倍ある。通目に見たら小人と言う風体の種族。

「あ、悪魔!」
「ごめんなさい。ここに来るの結構大変だったから」
 そう言ってコウモリの羽をたたんで、肩甲骨にしまった。

「もしかして、お前さんトゥルーバンパイアか。初めて見た」
「大丈夫よ。血は、私用の血液銀行があるわ。それに、何もしないんだったら、一月ぐらい我慢できるわ。普通のご飯だって食べられるんだから」
「じゃあ、じゃあ‥」
「口をあんぐり開けるのやめて。カジカよ」 
「英雄様ではないですか」
「そう言うのもやめて。あの時の私の動機は、不純だったのよ。あなた、エルダードワーフでしょう」
「ガンツですじゃ。ここで、トレジャーハンターの為に、コテージを経営しておるのですわ」
「1泊幾らで?」
「金貨1枚」
「あら、安いのね」
「ここは、五層の主のテリトリーの真反対側になりますんじゃ。それでですぞ。ここで、わしの作った装備やキャンプ道具を買うことも出来ますぞ」

「トレジャーハンターってどんな子がいるの?」
「いろいろですな。エルフがいますぞ。それから、人狼やドワーフ、サラマンダーも居ますぞ。変わったところでは、人族ですかな」
「人族って、四層までしか攻略できないんじゃないの」
「人族を侮ってはいけませんぞ。あの種族は、短命とはいえ成長速度が速い。壺にハマれば、天使族にだって負けませんぞ」
「なんとなくわかるわ」
「それで、今日は、なんの用じゃね?」

「う~ん、そうね。私用のコテージを作ってくれない。ここに拠点がほしいのよ。それから、そのコテージの管理も頼めない。幾らになるかしら」
「建てるだけなら、金貨100でどうかの。管理は、月金貨3枚でええ。その代わり調度品を買ってくれ。わし自慢のコレクションを買うやつがおらんのじゃ」
「分かったわ、金貨200枚出すから好きに作って」
「嬉しい客が来た。これを待っとったんじゃ。ありゃ、何で待っとったんじゃ」
「どうしたの」
「そうじゃ。あんたに伝言じゃ『やっと、ここまで来たのですね。遅かったではないですか。早速、私の所に来て下さい。話し合いましょう』だそうじゃ。この伝言に、金貨5枚もくれた。いい客じゃった」
「ちょっと待って。それって天使でしょう。いつ来たの?」
「5年前じゃったかのう。物凄い別嬪(べっぴん)の天使じゃった。その時、その伝言相手の子は、自分用のコテージを作ってと、わしに頼むから、調度品なんかを作って待っているといいわよと言っとったな。それで、趣味に拍車がかかったんじゃ」

「5年前!あの子、私にオビトのことを5年も黙っていたのね。ガンツさん、その子、他に何か言っていなかった」
「そう言えば、使い魔は、相当上位にしなくっちゃいけないから、いい魔物がいたら教えてほしいって言うてた。それで、風燕と影梟を紹介した」
「影梟ってどんな魔物?」
「影梟は、この層に住む魔物じゃよ。夜目が利く。風燕は、ホーリーと外の世界を行き来する鳥じゃ。これで、外の世界と、五層まで繋がるじゃろ」
「ありがとうガンツさん。これ、血晶よ、予約の証。後でお代持ってくる」

 カジカは、来た時同様、手を振りながらバッと、コウモリの羽を広げて嵐のように去って行った。

「なんじゃあれ。でも、本物のトゥルーバンパイアか。初めて見た」


 カジカは、影梟を探して五層を飛んでいた。

 あームカつく、ムカつく。ライナに五年も先を越された。それに、…………

「出会いが二カ月違うというのは大きいですわ。その上カジカは、口約束(・・・)とはいえ、婚約の約束を交わした仲ですもの、羨ましいですわ。ですが、魔気の繋がりは、生死を超えます。不思議ですわ300年の繋がりを感じます」

 この間、遭った時、言っていた。なんか引っかかること言ってたのよねと、思っていた。多分このことね。悔しい


 五層ともなれば、像ぐらいの大型魔獣もいる。天井にいるのは、コウモリと恐竜が合体した様な生物。彼らは、いずれ私が征服する。ダンジョンはとても広いが、大穴から離れるほど太陽が弱くなる。二十構造の風の結界が、ずいぶん奥まで太陽の光が入るように、光を屈折しているがそれでも限界がある。奥に行くほど植物は、背の低いものに変わっていった。

 ちょうど日の光が切れたなと思った時、地上側から音波攻撃が来た。コウモリの音より低い、もっと大きな生物だ。

「影梟か!!!私に音波攻撃を仕掛けるとはいい度胸だ」

 キーーーーン
 倍返しの音波攻撃。影梟は慌てて隠れ家の背の低い木から飛び立った。背丈が1メートルはある猛禽類が、私から逃げるという良い判断をした。

「賢いな。お前に決めた。5層の中でも別格に強くしてあげるわ」

 カジカは、シュパッと行って、その黒い梟を羽交い絞めにして血を吸った。血を飲ます契約と違い、これだと、眷属になる。

 カジカは、血をぬぐいながら
「こう言うのは、オビトに見せたくないわ」
 と、独り言を言った。
「さあ目覚めなさい。あなたの名前は、モアよ。メスだったのね。気が合いそう」
 ピキーーーーン
「あとで、風燕に合わせるわ。ちゃんと、その子とも契約するから友達になってね」

 風燕の方は、自分の血をちょこっとだけ飲ませただけなので、ただの使い魔だ。風燕もちょこっと傷つけてその血を私もなめる。それで、もっと深いつながりになれる。トゥルーバンパイヤの眷属になると、契約で傷つけた傷などすぐ癒える。
 ライナは、これを違う方法だが、5年も前にやっている。

「モア、一層まで上がりましょう。道を覚えてね」
 ピキーーーーン
 そう言うと、私を先導してくれる。たぶん四層に上がる道を知っているんだわ。

「モア、嬉しいわ。地上まで急ぎたいの。お願いね」
 早く地上に戻って、ライナに直談判するんだから。それに、この五年間ライナが何していたのか気になる。

 カジカは、自分の住処を五層に自力で作らなくて済んだとか、五層から地上への近道のヒントを間接的にライナに教えてもらったのを無視して、地上に急いだ。しかし、ライナの思惑はこれだけではない。コテージには、ライナ用のゲストルームも作られる。この説明をガンツがする前に、カジカが飛び出したのだから仕方ない。
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