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ホーリー大穴 一層
初めての狩り
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村長の孫、カイがやって来た。
「オビト弁当だ。お前の母さんに頼まれた」
「カイのあんちゃん!」
「どこまでできるようになった」
「解毒魔法は、コンプリートだ。風障壁は難しい」
「まあな、ちょっとやってみろ」
おれは、竜巻を起こして、3メートルも上昇した。
「アハハ、そりゃすげえ。お前が浮いてどうするんだ。竜巻の中に入っていないと意味ないだろ」
「じゃあ、あんちゃんやってみろよ」
「いいぞ『竜巻』!」
カイは、分かりやすく、大きな鎌イタチの竜巻に包まれて見せた。
「おれと根本的に違う」
「ちょっとヒントをやりすぎたかな。さっきの鎌イタチが小さくなったら完成だ。まあ、頑張れや」
「あんちゃん、ありがとう」
やっぱりクリーニングの進化系じゃないとだめだ。生活魔法がカギだったんだ。毎日使うからうまくなる。それが竜巻になって体の外を覆うのか。最初は、服が破れるんじゃないか。下手打ったら、鎌イタチの傷も負う。風の効果範囲を体よりだいぶ離さないと竜巻にできないぞ。それって、子供じゃあ無理だろ。カジカたち、大丈夫かな。
それで、二人に会うために、久々に炭焼き小屋に行ってみた。二人は、共同作業で、おれよりいいところまで風を纏っていた。
「お前ら、凄いな」
「オビト!」
カーク〈ようオビト〉
「どうなっているんだ、もう少しで、風障壁が完成しそうじゃないか」
「私たち、契約しちゃった」
「もちろんおれが、使い魔だ。サイカの魔法コントロールがすごいんだ」
「カークの魔力量が無いとこんなに練習できなかったよ」
「カークの方が魔力量凄いんだろ、良かったのか」
「調整できないと、宝の持ち腐れだし。おれたち、ずっと一緒ってことだ」
「お父さんも、お母さんも、村のみんなも認めてくれたんだよ」
「カークは、ミの村に住んでいるのか」
「おうよ。うちは、子沢山だから口減らしな」
「それも自分で言う。なんだ心配して損した。おれは、ここまでだよ」
そう言って、風をまとって見せた。まだ、鎌イタチを発動するには、危険な大きさ。
「いいんじゃない」
「もう少し大きくしないといけないな」
「そうなんだ。頑張るよ。一緒に、一層に入ろう」
「うん」
「やったる。それでだ、ちょっと聞いてくれるか」
「なんだ」
「オビト、オレ、サイカと、ケイヤクシタ。ソシタラ、ジイチャンガ、イニシエノキオク、クレタ」
「すげえ、人の言葉だ」
「私と契約したから話せるようになったんだって」
「頼もしいぞカーク」
カーーークック 〈なっ、すげえだろ〉
こいつらとは長い付き合いになりそうだと思った。
家に帰って、二人の話を母さんにすると、ディノニクスのことをじいちゃんと二人で教えてくれた。夕食は、野菜スープと鶏肉のソテー。じいちゃんも、だいぶ元気になった。
「母さん聞いてよ。5歳のお使いで友達になったサイカとカークが、風障壁を発動しそうなんだ」
「すごいわね。サイカちゃんも5歳よね」
「カークは何歳だ?」
「しらね。会った時は、おれと同じ身長だったけど、もう、おれより10センチ高い」
「じゃあ、まだ0歳だ」
「そりゃないだろ、もう、言葉を話すぞ。それも、人の言葉もだ」
「知識の引継ぎだ。わしらみたいに、読み書きしない代わりの恐竜の知恵じゃ」
それ、仲間にやってもらった精神感応と同じだな。そう言えば、あの時の目的は、言葉と文字だったけど、その時、少しだけ、あいつらの記憶が流れてきた。
「カーク君は、ディノニクスでしょう。ディノニクスは、身長が3メートルから5メートルになるのよ。カーク君を抱いてみた?成体でも、体重は、50キロから70キロしかないわ。見かけよりとっても軽いわよ」
「あいつオスなんだ、おれに触らせない。人嫌いじゃないぞ。あいつ、サイカの使い魔になったんだ。ミの村に住んでいるって言ってた」
「サイカちゃん、テーマ―になったのね」
「わし、ちょっと、ミの村に行きたいぞ」
「じいちゃん連れて行ってくれ」
「オビトは、修業じゃろ。カイから聞いたぞ、竜巻の上に乗ったんじゃてな、ワハハ。向こうは、もうすぐ風障壁を完成なんじゃろ。負けるな」
「今は、風をまとっているぞ」
カイの兄ちゃん、余計なことを
おれは、この後必死になって、風障壁を完成させた。じいちゃんが、ひょこひょこ、ミの村に行っていたのは、おれをからかう為の情報収集。本当に本人の趣味だけど、いいこともあった。おれとサイカとカークが、第一層に入る日が同日に決まった。おれたちは、向こうで会える。
ところが、オレの付き添いの、ヒの村の村長の孫カイと、サイカとカークの付き添いのミの村のサキが、犬猿の仲。ヒの村vsミの村の戦いになってしまった。おれたちに、スライムの倒し方とか教えて、そんでもって、どっちが魔石を多く収穫したか競うと言いだした。
この話は、双方の村に、瞬く間に広がった。
おれたちの記念すべき日が、イベントになった。双方の村の若集が、炭焼き小屋前の広場に集まった。ここをスタート地点として、日が暮れたら帰ってきて魔石の数を競う。夜は、ここでキャンプファイヤーを焚いて、双方夕飯を出し合ってねぎらうというものだ。周りは交流イベントだが、付き添いの、カイとサキは、めちゃめちゃ鼻息が荒い。のっけからにらみ合いをしている。どうもこの二人、過日、せっかく同い年で、同じ日に一層に潜ったのに、その日から、づっとこんな感じらしい。仲がいいのやら、ライバルなのやら。サイカが言うには、仲がいいに決まっていると言っていた。
おれたちは、広場の中央で対峙させられた。腕組みしているカイとサキ。意味なく不敵な笑みを浮かべている。サイカは、サキの横で癒し系の顔をして手をひらひら振っているけど、カークはやる気だ。
「二度目だな」
「二度目ね」
「今回は、うちが頂く」
「あら、うちには、カークがいるのよ。今回もうちよ」
「なーに言ってる。オビトは、素手で、ウサギを捕まえたことがあるんだぞ。一角ウサギを捕れば、スライムなんかへでもねえ」
勝負は、エルフに売れる品物。普通ならスライムの魔石のかけらの量で勝負が決まるが、一角ウサギを捕まえたとなると話が別だ。一角ウサギの角は、スライムのかけらの十倍で取引される。
「へ、へえ、すごいのね。せいぜい、ひえぎ草で足を切らないことね。うちのカーク君は、サイカを乗せて走れるのよ。鬼アザミだってへっちゃらなんだから」
ひえぎ草:軽い麻痺性のある草。葉に当たると擦り傷になりやすいので注意
鬼アザミ:軽い毒を持った草。赤い毛玉のような花を咲かせるのが特徴
「そんなの、普通に長ズボン履くだろ。カークが走るの早いのは知ってる。一角ウサギをすぐ狩れるようになるさ。でも、今は違う。いい勝負なんじゃないか」
まあまあ、仲がいいんだなと思った。ただなー、主催者が、おれのじいちゃんって言うのがなー。絶対二人を煽ったのはじいちゃんだ。
一角ウサギを狩ろうとすると、その進化系のホーンラビットに襲われることがある。カークは、二人の話を興味深げに聞いていた。
「よっしゃ、ええか。双方とも、夕方には帰ってくるんじゃぞ。わしら、山で旨いもん獲って夕飯の準備をする。勝った方には、アイテムが付く短剣やるで。じゃあ、頑張れや」
「用意、ドン」
用意ドンを言ったのは、ミの村のおじさん。おじさんもなんか景品を出してくれる。結局勝っても負けても、何かくれるらしい。でも、アイテム付きの短剣か。やる気でてきた。
おれたちは、自分の村の一層への入り口に走った。サイカはゴーグルをして、カークに乗った。カークは、走るのめちゃ早い。しかし指導のサキに合わせているから、おれらと同じスピードで出発。やっぱりいい勝負になりそうだ。
「あんちゃん、走りながら、スライムの狩り方を教えてくれよ」
「まあ待て、風障結界の中は暑いんだ。一層は、そうでもないが、空気も雰囲気も全然違う。生えている植物も、生き物も違うんだ。エルフ様が言うにゃあ、昔倒した恐竜たちが魔力と同時に熱を発しているんだと。その環境に慣れろ。その時、スライムの探し方や倒し方を話しても間にあう」
恐竜と言えば、油田の元だもんな。それに魔力の発散か。こりゃ、300年前に倒したって言う恐竜って死にきっていないな
前々の人生の知識は科学だ。おれは、この世界の人と、ちょっと理解のプロセスが違う。
「ところであんちゃん。サキと結婚するのか」
ブハー「なんでそうなる」
「仲よさそうじゃないか。二人とも二層までは行っているんだろ。二人が組めば三層だって夢じゃない」
「サキと組むのは嫌じゃないぞ。でも、あのはねっ返りと結婚か。オレらは15で、来年成人だ。考えたことなかったぞ」
カイは、年甲斐もなく5歳のおれに正直に心中を吐露している。本当に、ここは、人も自然もいいところだ。
村の中を抜けて風障壁に向かう時、村人が総出で、おれたちを応援してくれた。その中に母さんも。おれは、手をぶんぶん振って声援に答えた。
風障壁。
風の結界と言うのはドーム状になっている。ホーリー大空洞の五層あたりにの空中に緑に光る大きな風結晶があり、それが、ホーリー大空洞をドーム状に蓋している。でも、近寄ると壁にしか見えない。何度もカイのあんちゃんと二人で風障壁を出し合ってすり抜けるのを確かめているが、規模が違う。おれは、この巨大な壁を見上げてくしゃみした。
くしゅん
「改めて見ると、でかいだろ。オレの後に続け。行くぞ『風障壁』!」
「『風障壁』!」
二人は、風のバリヤーをカプセル状に張って風障壁の内部に踏み込んだ。風の巨大な結界は、優しくこのカプセルを包み込む。
キチキチキチ
キキキキキ
パフーーーアーーー
「何だ此処。村と全然雰囲気が違う」
「実際は、同じ植物だったんだぞ。まだ、見晴らしがいいだろ。二層の入り口付近は森になってる。7歳になったら林はいいが、12歳になるまで森には近づくなよ。二層から4層は地下道で坑道ダンジョンになっている。ここは、外だろ。平和な所だよ」
カイは、腰に手を当てて、この、懐かしいような、古い記憶を呼び覚ますような風景を眺めている。殆どが巨木の林と草原。柴がある所もあるが、そう言うのが、この大空洞の周りを永遠と囲んでいる。
ムッとする緑の臭い。
「ここは、まだ、危ない虫はいない。五層からは、虫にも気をつけないといけないんだと。とりあえず、水場に行ってみるか。カウリーの老木を見て驚くな」
カウリーは、樹齢が何千年歳にもなる巨木。ジュラ紀からあるご先祖様のような巨木。草原にオアシスの様に生えている。ここに水場がある。
「エルフ様が、植林したんだ。小さいのは、まだ300歳な。こっちの親木は、2500歳だって言ってた。エルフの生命魔法で、水をくみ上げてくれているんだ。だから、ここは、こんなに穏やかなんだよ」
「おれたち、ここに住めるんじゃないか」
「無理だ。下の層から怪物が、いつ上がってくるかわからないんだぞ。カウリーは、このホーリー大空洞を怪物の巣にしないためのエルフの恵みだ。それでいいじゃないか」
ルインやるな。水があれば、食物が育つ。食べ物があれば、獣も暴れない。この大空洞の中に、食物連鎖を作ったんだ。
「高齢のカウリーには、巨大な樹液が宝石になったカウリガムが根元近くにあることがある。もう、取りつくされているけど、それを見つけたら、凄いお金になるぞ」
巨大な琥珀か。中に虫が閉じ込められていて、蚊の血液から恐竜のDNAを取り出してって言うあれか。この世界は、恐竜が、普通に生きているから関係ないけど
「あんちゃん、見つけたことあるのか」
「無いな。ここが大空洞になる前は、カウリーの巨木だらけだったそうだ。三百年前天使の集団詠唱のホーリーで、恐竜軍団を地下大空洞に落としたんだ。そりゃ、地下最奥まで行ければ、いっぱいあるんじゃないか。そんなことしようと思ったら、命がいくつあっても足りないがな」
水場をぼーっと見ていたら一角ウサギが水を飲みに来た。
「オビト隠れろ。スライムもいいが、一角ウサギだ。あれの角は、スライムの魔石のかけらの10倍で売れる。動きを見ておけ。スライムが倒せるようになったら、一角ウサギにも挑戦するぞ」
「おう!やってやる」
一角ウサギは、長い耳をぴくぴくさせて警戒しているが、水を飲みだすと、それに夢中になって周りが見えていないように感じた。
「おれたちは、鎌イタチが撃てるだろ」
「目標に向かって撃ったことない」
「でも、水を飲んでいるときだったら、やれそうだろ」
「練習したい。鎌イタチの練習は、ここに入るのがぎりぎりだったんだ」
「分かる分かる」
近くで、ひそひそ話をしていても、一角ウサギは、逃げなかった。水を飲んでいるときだったら確かにやれそうな気がする。
「ただな、これは外道なやり方だぞ。一角ウサギが水場に堕ちたら血で水が濁る。普通は、誰もやらないんだ。でも、勝負に勝ちたいだろ」
「あんちゃんがだろ。でも、おれもそうかも知れない」
「正直なこったハハハ。スライムも水場近くを探せばいるぞ。そろそろ練習だ」
おれは前世、剣士として強かった。今世は、魔法の才能がある。竜妃ライナ姫がくれた魔力は、魂に癒着している。この魔力は、おれのもんだ。一から覚えたことは、全部おれの実力だ。ドラゴンスレーヤーの剣のスキルや身体スキルは、確かにいまだに有るが、前世で魔法は、死ぬ間際にやっと発動した程度。竜の姫さんの恩恵だろうが何だろうが、今覚える魔法は、おれの実力だ。
「魔法で倒すのか」
「そうだ、スライムの核を壊せば、実態を保てなくなって萎む。攻撃を外したら体当たりしてくるぞ。ボヨンって来ると言っても痛いぞ。鎌イタチの練習ができて丁度いいだろ。散切りが出来ればもっといいけど、鎌イタチでもなんとかなる」
「散切りも、教えてくれるんだろ」
「今日は、諦めろ。それよりまず1匹だ」
まず1匹。その通りだと思った。
「反撃を怖がるな。近寄らないと当たらないぞ」
水場の近くを見て回っていたら茂みからスライムが現れた。青い透明なスライムだ。確かに真ん中に魔石の丸いのがある。あれを壊せばいいんだ。
おれは、スライムの前に飛び出した。スライムは、ぽよぽよしている。
「『鎌イタチ』!」
スパッと、スライムが切れた。だが、核を外した。スライムはポヨンと元に戻って怒っている。
もう一回だ。「『鎌イタチ』!」 ダメだ、的が小さすぎる。近づかないと、核に当たらない。
近づくとスライムがポヨンと飛んで、体当たりしてきた。
「『鎌イタチ』!『鎌イタチ』!」
「バカ、めくらめっぽうに撃つな」
ボヨン
「イタッ」
「言わんこっちゃない」
普通ならスライムは、これで逃げるのだが、相手をばかにして逃げない。まだ戦いは続く。
「スライムじゃない核を見るんだ。もう一回」
「こいつ、やったな」
おれは、ものすごくスライムに近づいて鎌イタチを連発した。
「『鎌イタチ』!『鎌イタチ』!」
きゅーーー
「よし、一匹目」
スライムは萎み、壊れた核から、魔石の欠片が残った。
最初は、グダグダだったけど、その後は、カイが目を見張るほどの出来。10匹倒したところで、遅いお昼になった。母さんがカイの分もお弁当を作ってくれている。水場は荒らしていないので、そのまま飲めるそうだ。カウリーが吸い上げた地下水は最高だった。
「あんちゃん。スライムは、1日、何匹倒せばいいんだ」
「あいつらは、すぐ分裂する。ここは魔気が濃いからな。一日10匹は倒したい」
「おれ、もう10匹倒したぞ。おれ、一人前か」
「気が早いな。スライムも種類があるんだ。今日は、一番弱いやつを狙って、ここに来たんだ。狩るのが上手くなったら毒持ちだとか麻痺持ちのスライムともやり合わないといけないぞ」
「そーかー」
「今までのスライムは、青かっただろ。毒持ちは紫、麻痺持ちは黄色だ。最初、そんなスライムを見たら逃げるんだぞ」
ステータス異常は、レベルが高くなってもキツイ。
「わかった」
「昼からは、遠距離からの鎌イタチを練習して、一角ウサギに挑戦してみるか?当たれば、一発逆転だ。一角ウサギは、肉も美味い」
「やる。水色のスライムは、近づけば何とかなるけど、毒持ちや麻痺持ちは怖い。そいつらは、一角ウサギより格上ってことだろ」
「その通りだ。今日教えたことが出来るようになって、一角ウサギが狩れるようになったら初めて毒スライムを倒しに行ける。その時は、また、一緒に行こう」
なるほどと思う。先輩の言うことは、すんなり受け入れられる。
鎌イタチは、最初小さな竜巻を起こして、その回転力から鋭利な風を出す。だから、的が定まらない。カイは、これを駒回しの駒を投げるように器用に鎌イタチを投げ飛ばす。つまり、アンダースローやミドルスローで球を投げるように鎌イタチを飛ばす。カイに見本を見せてもらって真似するのだが、これが結構難しい。カイが、オーバースローで、鎌イタチを発生させると、特大になる。カイは、いいピッチャーになれると思った。
「カイのあんちゃんすげぇ」
「オビトの為に落ち木をいっぱい拾って来たんだ。がんばれ」
おれの場合は、カイの半分ぐらいの距離じゃないと当たらないし、当たっても弱い。これは、魔力だけじゃないと思った。だって、オレの魔力の方がカイより強い。
「なんで、こんなに違うかな」
「10歳違うんだぞ。10年頑張れば、上手くなる」
それは、そうなのだが、しつこく鎌イタチをアンダースローでやってて、気づいたことがある。これ、手刀でスラッシュやった方が早くね。でも、そんなの急に出来ると魔法じゃないってすぐばれる。今度一人で試そうと思った。ただ、最終的には、鎌イタチの方が、スラッシュより巨大なのを撃てそうだし、これはこれで修業だ。鎌イタチにスラッシュを乗せるのもありだなとか、今まで考えたことなかった技を思いつた。それって、練習していてとても楽しい。
スラッシュ:刀の斬撃。オビトは手刀でもできる
「う~ん。これだと、さっき茂みに隠れて一角ウサギを見ていた距離ぐらいだよな。ぎりぎりだ。でもやってみるか」
「やりたい」
そんなわけで、一角ウサギを怯えさせないようにゆっくりと水場に向かった。
こっちは、隠密に歩いているのに、遠くから騒がしい音と共に、叫び声が聞こえる。それも、どんどんこっちに近づいてくる
‥‥‥、………、・・、カーム、カーム、カーム、カーム、ホー、ホ-ン。
「カーム、イギア、ホギャーーー」
カークが、誰かに追われて逃げているときの声だ。慌てて、叫び声の方を見ると、カークの上にはサイカが乗っていて、その後ろから、大きな二本の角があるウサギが追っている。
「ありゃ、ホーンラビットじゃねえか。カークの奴、一角ウサギを何の考えもなしに追ったな」
「あれはやばい。助けないと」
「オビトいいか。おれたちは、カークとサイカを逃がして、ホーンラビットを攻撃するぞ。待ち伏せだ」
「分かった」
カークとサイカが通り過ぎた。今だ!
「『鎌イタチ』!」
「『鎌イタチ』!」
何とかホーンラビットを足止めしたのに、カークが、水場に突っ込んでしまった。バッシャーーーンと上がる水しぶき。ホーンラビットは、鎌イタチを受けながらも戦意と保ってカークに突進している。
まずい!
「スラッシュ」
スラッシュは、ホーンラビットの胴体に直撃した。この時、カイも、鎌イタチを撃っていた。
「あんちゃん、ありかとう」
「?おれか。それしかないか」
ドウと倒れるホーンラビット。カイは、短剣で、ホーンラビットに止めを刺した。
びしょびしょになったサイカとカークを水場から引き揚げてやった。これで、もうこの水場に一角ウサギは、当分やってこないだろう。
「大丈夫か」
「ありがとう」
「カーク」
「びしょびしょだな。タオルを使ってくれ。カークは、自分で水を払えるだろ」
サイカは髪が長い。タオルで髪を拭いた後、カークと一緒にドライの魔法で乾かしていた。
だいぶ遅れて、サキが、二人に追いついた。二人は、サキに物凄く叱られていた。
「あなた達、今日は、スライムだけって言ったでしょ。ごめんねカイ。二人を助けてくれて」
「オビトも頑張ったぞ」
「オビトもありがとう」
「二人とも、お礼は?」
「ごめんなさい」
「カーク」
「ごめんじゃないでしょ」
「ありがとう、カイ、オビト」
「アリガトウ」
やっとカークも落ち着いて人の言葉を話すようになった。
「もう、今日は、終わりにしてもらっていい?」
「仕方ない。それで、戦果は?」
「12匹よ」
「10匹だ」
「勝負は、勝負だからね」
「仕方ない。帰ってホーンラビットの丸焼きを作るか」
「本当!」
「サキは、食い意地で一等だな」
「ひどい」
やっぱり二人は、仲がいい。水場から離れたところで血抜きをやって、オレとカイがホーンラビットを猪のように縛って担いだ。大物だ。めちゃめちゃ重い。
サイカたちは、ミの村経由で帰る。そうしないと、村の人が心配する。こっちもヒの村に着いたところで、村人に歓迎された。みんな、大物のホーンラビットを見て、イベントに参加する気満々になった。近所のおじさんがホーンラビットをおれと担ぐのを代わってくれたし、母さんが、おかずを持って炭焼き小屋まで来てくれると言った。今日は、いい一日になった。
キャンプファイヤーを囲んで、ミの村とヒの村の交流が始まった。目玉は、ホーンラビットの丸焼き。2位だったおれは、ミの村のおやじに皮のバックを貰った。それに副賞として、カイが倒したホーンラビットの角を1本貰った。これが、スライムの魔石の欠片の10倍の値段。この角は、売らないつもりだ。1等の賞品は、短剣だが、アイテムが付いていない。1等より2等の方が良くなってしまった。サイカが悔しがるが、それがうちのじいちゃんだ。
「ねえ、この短剣、アイテムが付いていないのよ。オビトのおじいちゃんにそう言ったら、アイテムが付く短剣だって言ったじゃろ。よく見てみい。穴、空いとるじゃろって言われた」
「ごめんな、うちのじいちゃんは、そう言うじいちゃんなんだ。後で、カークとこの穴にハマるアイテムを探す相談をしよう。じいちゃんに聞いとくよ」
「お願いね。それで、次は、いつホーリーに行くの?」
「明日」
「明日?もう10匹倒せたんでしょう」
「前言ったろ。うちは、父ちゃんが外に出かけていないからオレが稼ぐしかないんだよ。じいちゃん、口は元気だけど、ぎっくり腰だし」
「そうなんだ。私たちも行くけど今日と一緒でカークと練習。カークってスライムの核を握りつぶせるのよ。それはいいんだけど、私一人だと、核を傷つけたところで今日は終わり。サキがもう一日だって」
「そうだな、一人でもやれないと連携がうまく行かないからな。今日カイから聞いたんだ。スライムが倒せたら、次は一角うさぎ。一角ウサギが倒せるようになったら、毒スライムだそうだ。明日、スライムを10匹倒したら、狙ってみようと思うんだ」
「私もスライムを倒してオビトと合流したい」
「待ってる。サイカならすぐだ」
この時カークはと言うと、両方の村人に愛想を振りまいて、しっかり市民権を得ていた。そして大量に貰った料理をおいしそうに食べていたので、おれたちもそこに座って飯を食べた。
キャンプファイヤーは、大成功だった。その火の明かりとは反対方向。森の中の夜の闇に光る眼。その目は、ずっとおれを見ていた。
「オビト弁当だ。お前の母さんに頼まれた」
「カイのあんちゃん!」
「どこまでできるようになった」
「解毒魔法は、コンプリートだ。風障壁は難しい」
「まあな、ちょっとやってみろ」
おれは、竜巻を起こして、3メートルも上昇した。
「アハハ、そりゃすげえ。お前が浮いてどうするんだ。竜巻の中に入っていないと意味ないだろ」
「じゃあ、あんちゃんやってみろよ」
「いいぞ『竜巻』!」
カイは、分かりやすく、大きな鎌イタチの竜巻に包まれて見せた。
「おれと根本的に違う」
「ちょっとヒントをやりすぎたかな。さっきの鎌イタチが小さくなったら完成だ。まあ、頑張れや」
「あんちゃん、ありがとう」
やっぱりクリーニングの進化系じゃないとだめだ。生活魔法がカギだったんだ。毎日使うからうまくなる。それが竜巻になって体の外を覆うのか。最初は、服が破れるんじゃないか。下手打ったら、鎌イタチの傷も負う。風の効果範囲を体よりだいぶ離さないと竜巻にできないぞ。それって、子供じゃあ無理だろ。カジカたち、大丈夫かな。
それで、二人に会うために、久々に炭焼き小屋に行ってみた。二人は、共同作業で、おれよりいいところまで風を纏っていた。
「お前ら、凄いな」
「オビト!」
カーク〈ようオビト〉
「どうなっているんだ、もう少しで、風障壁が完成しそうじゃないか」
「私たち、契約しちゃった」
「もちろんおれが、使い魔だ。サイカの魔法コントロールがすごいんだ」
「カークの魔力量が無いとこんなに練習できなかったよ」
「カークの方が魔力量凄いんだろ、良かったのか」
「調整できないと、宝の持ち腐れだし。おれたち、ずっと一緒ってことだ」
「お父さんも、お母さんも、村のみんなも認めてくれたんだよ」
「カークは、ミの村に住んでいるのか」
「おうよ。うちは、子沢山だから口減らしな」
「それも自分で言う。なんだ心配して損した。おれは、ここまでだよ」
そう言って、風をまとって見せた。まだ、鎌イタチを発動するには、危険な大きさ。
「いいんじゃない」
「もう少し大きくしないといけないな」
「そうなんだ。頑張るよ。一緒に、一層に入ろう」
「うん」
「やったる。それでだ、ちょっと聞いてくれるか」
「なんだ」
「オビト、オレ、サイカと、ケイヤクシタ。ソシタラ、ジイチャンガ、イニシエノキオク、クレタ」
「すげえ、人の言葉だ」
「私と契約したから話せるようになったんだって」
「頼もしいぞカーク」
カーーークック 〈なっ、すげえだろ〉
こいつらとは長い付き合いになりそうだと思った。
家に帰って、二人の話を母さんにすると、ディノニクスのことをじいちゃんと二人で教えてくれた。夕食は、野菜スープと鶏肉のソテー。じいちゃんも、だいぶ元気になった。
「母さん聞いてよ。5歳のお使いで友達になったサイカとカークが、風障壁を発動しそうなんだ」
「すごいわね。サイカちゃんも5歳よね」
「カークは何歳だ?」
「しらね。会った時は、おれと同じ身長だったけど、もう、おれより10センチ高い」
「じゃあ、まだ0歳だ」
「そりゃないだろ、もう、言葉を話すぞ。それも、人の言葉もだ」
「知識の引継ぎだ。わしらみたいに、読み書きしない代わりの恐竜の知恵じゃ」
それ、仲間にやってもらった精神感応と同じだな。そう言えば、あの時の目的は、言葉と文字だったけど、その時、少しだけ、あいつらの記憶が流れてきた。
「カーク君は、ディノニクスでしょう。ディノニクスは、身長が3メートルから5メートルになるのよ。カーク君を抱いてみた?成体でも、体重は、50キロから70キロしかないわ。見かけよりとっても軽いわよ」
「あいつオスなんだ、おれに触らせない。人嫌いじゃないぞ。あいつ、サイカの使い魔になったんだ。ミの村に住んでいるって言ってた」
「サイカちゃん、テーマ―になったのね」
「わし、ちょっと、ミの村に行きたいぞ」
「じいちゃん連れて行ってくれ」
「オビトは、修業じゃろ。カイから聞いたぞ、竜巻の上に乗ったんじゃてな、ワハハ。向こうは、もうすぐ風障壁を完成なんじゃろ。負けるな」
「今は、風をまとっているぞ」
カイの兄ちゃん、余計なことを
おれは、この後必死になって、風障壁を完成させた。じいちゃんが、ひょこひょこ、ミの村に行っていたのは、おれをからかう為の情報収集。本当に本人の趣味だけど、いいこともあった。おれとサイカとカークが、第一層に入る日が同日に決まった。おれたちは、向こうで会える。
ところが、オレの付き添いの、ヒの村の村長の孫カイと、サイカとカークの付き添いのミの村のサキが、犬猿の仲。ヒの村vsミの村の戦いになってしまった。おれたちに、スライムの倒し方とか教えて、そんでもって、どっちが魔石を多く収穫したか競うと言いだした。
この話は、双方の村に、瞬く間に広がった。
おれたちの記念すべき日が、イベントになった。双方の村の若集が、炭焼き小屋前の広場に集まった。ここをスタート地点として、日が暮れたら帰ってきて魔石の数を競う。夜は、ここでキャンプファイヤーを焚いて、双方夕飯を出し合ってねぎらうというものだ。周りは交流イベントだが、付き添いの、カイとサキは、めちゃめちゃ鼻息が荒い。のっけからにらみ合いをしている。どうもこの二人、過日、せっかく同い年で、同じ日に一層に潜ったのに、その日から、づっとこんな感じらしい。仲がいいのやら、ライバルなのやら。サイカが言うには、仲がいいに決まっていると言っていた。
おれたちは、広場の中央で対峙させられた。腕組みしているカイとサキ。意味なく不敵な笑みを浮かべている。サイカは、サキの横で癒し系の顔をして手をひらひら振っているけど、カークはやる気だ。
「二度目だな」
「二度目ね」
「今回は、うちが頂く」
「あら、うちには、カークがいるのよ。今回もうちよ」
「なーに言ってる。オビトは、素手で、ウサギを捕まえたことがあるんだぞ。一角ウサギを捕れば、スライムなんかへでもねえ」
勝負は、エルフに売れる品物。普通ならスライムの魔石のかけらの量で勝負が決まるが、一角ウサギを捕まえたとなると話が別だ。一角ウサギの角は、スライムのかけらの十倍で取引される。
「へ、へえ、すごいのね。せいぜい、ひえぎ草で足を切らないことね。うちのカーク君は、サイカを乗せて走れるのよ。鬼アザミだってへっちゃらなんだから」
ひえぎ草:軽い麻痺性のある草。葉に当たると擦り傷になりやすいので注意
鬼アザミ:軽い毒を持った草。赤い毛玉のような花を咲かせるのが特徴
「そんなの、普通に長ズボン履くだろ。カークが走るの早いのは知ってる。一角ウサギをすぐ狩れるようになるさ。でも、今は違う。いい勝負なんじゃないか」
まあまあ、仲がいいんだなと思った。ただなー、主催者が、おれのじいちゃんって言うのがなー。絶対二人を煽ったのはじいちゃんだ。
一角ウサギを狩ろうとすると、その進化系のホーンラビットに襲われることがある。カークは、二人の話を興味深げに聞いていた。
「よっしゃ、ええか。双方とも、夕方には帰ってくるんじゃぞ。わしら、山で旨いもん獲って夕飯の準備をする。勝った方には、アイテムが付く短剣やるで。じゃあ、頑張れや」
「用意、ドン」
用意ドンを言ったのは、ミの村のおじさん。おじさんもなんか景品を出してくれる。結局勝っても負けても、何かくれるらしい。でも、アイテム付きの短剣か。やる気でてきた。
おれたちは、自分の村の一層への入り口に走った。サイカはゴーグルをして、カークに乗った。カークは、走るのめちゃ早い。しかし指導のサキに合わせているから、おれらと同じスピードで出発。やっぱりいい勝負になりそうだ。
「あんちゃん、走りながら、スライムの狩り方を教えてくれよ」
「まあ待て、風障結界の中は暑いんだ。一層は、そうでもないが、空気も雰囲気も全然違う。生えている植物も、生き物も違うんだ。エルフ様が言うにゃあ、昔倒した恐竜たちが魔力と同時に熱を発しているんだと。その環境に慣れろ。その時、スライムの探し方や倒し方を話しても間にあう」
恐竜と言えば、油田の元だもんな。それに魔力の発散か。こりゃ、300年前に倒したって言う恐竜って死にきっていないな
前々の人生の知識は科学だ。おれは、この世界の人と、ちょっと理解のプロセスが違う。
「ところであんちゃん。サキと結婚するのか」
ブハー「なんでそうなる」
「仲よさそうじゃないか。二人とも二層までは行っているんだろ。二人が組めば三層だって夢じゃない」
「サキと組むのは嫌じゃないぞ。でも、あのはねっ返りと結婚か。オレらは15で、来年成人だ。考えたことなかったぞ」
カイは、年甲斐もなく5歳のおれに正直に心中を吐露している。本当に、ここは、人も自然もいいところだ。
村の中を抜けて風障壁に向かう時、村人が総出で、おれたちを応援してくれた。その中に母さんも。おれは、手をぶんぶん振って声援に答えた。
風障壁。
風の結界と言うのはドーム状になっている。ホーリー大空洞の五層あたりにの空中に緑に光る大きな風結晶があり、それが、ホーリー大空洞をドーム状に蓋している。でも、近寄ると壁にしか見えない。何度もカイのあんちゃんと二人で風障壁を出し合ってすり抜けるのを確かめているが、規模が違う。おれは、この巨大な壁を見上げてくしゃみした。
くしゅん
「改めて見ると、でかいだろ。オレの後に続け。行くぞ『風障壁』!」
「『風障壁』!」
二人は、風のバリヤーをカプセル状に張って風障壁の内部に踏み込んだ。風の巨大な結界は、優しくこのカプセルを包み込む。
キチキチキチ
キキキキキ
パフーーーアーーー
「何だ此処。村と全然雰囲気が違う」
「実際は、同じ植物だったんだぞ。まだ、見晴らしがいいだろ。二層の入り口付近は森になってる。7歳になったら林はいいが、12歳になるまで森には近づくなよ。二層から4層は地下道で坑道ダンジョンになっている。ここは、外だろ。平和な所だよ」
カイは、腰に手を当てて、この、懐かしいような、古い記憶を呼び覚ますような風景を眺めている。殆どが巨木の林と草原。柴がある所もあるが、そう言うのが、この大空洞の周りを永遠と囲んでいる。
ムッとする緑の臭い。
「ここは、まだ、危ない虫はいない。五層からは、虫にも気をつけないといけないんだと。とりあえず、水場に行ってみるか。カウリーの老木を見て驚くな」
カウリーは、樹齢が何千年歳にもなる巨木。ジュラ紀からあるご先祖様のような巨木。草原にオアシスの様に生えている。ここに水場がある。
「エルフ様が、植林したんだ。小さいのは、まだ300歳な。こっちの親木は、2500歳だって言ってた。エルフの生命魔法で、水をくみ上げてくれているんだ。だから、ここは、こんなに穏やかなんだよ」
「おれたち、ここに住めるんじゃないか」
「無理だ。下の層から怪物が、いつ上がってくるかわからないんだぞ。カウリーは、このホーリー大空洞を怪物の巣にしないためのエルフの恵みだ。それでいいじゃないか」
ルインやるな。水があれば、食物が育つ。食べ物があれば、獣も暴れない。この大空洞の中に、食物連鎖を作ったんだ。
「高齢のカウリーには、巨大な樹液が宝石になったカウリガムが根元近くにあることがある。もう、取りつくされているけど、それを見つけたら、凄いお金になるぞ」
巨大な琥珀か。中に虫が閉じ込められていて、蚊の血液から恐竜のDNAを取り出してって言うあれか。この世界は、恐竜が、普通に生きているから関係ないけど
「あんちゃん、見つけたことあるのか」
「無いな。ここが大空洞になる前は、カウリーの巨木だらけだったそうだ。三百年前天使の集団詠唱のホーリーで、恐竜軍団を地下大空洞に落としたんだ。そりゃ、地下最奥まで行ければ、いっぱいあるんじゃないか。そんなことしようと思ったら、命がいくつあっても足りないがな」
水場をぼーっと見ていたら一角ウサギが水を飲みに来た。
「オビト隠れろ。スライムもいいが、一角ウサギだ。あれの角は、スライムの魔石のかけらの10倍で売れる。動きを見ておけ。スライムが倒せるようになったら、一角ウサギにも挑戦するぞ」
「おう!やってやる」
一角ウサギは、長い耳をぴくぴくさせて警戒しているが、水を飲みだすと、それに夢中になって周りが見えていないように感じた。
「おれたちは、鎌イタチが撃てるだろ」
「目標に向かって撃ったことない」
「でも、水を飲んでいるときだったら、やれそうだろ」
「練習したい。鎌イタチの練習は、ここに入るのがぎりぎりだったんだ」
「分かる分かる」
近くで、ひそひそ話をしていても、一角ウサギは、逃げなかった。水を飲んでいるときだったら確かにやれそうな気がする。
「ただな、これは外道なやり方だぞ。一角ウサギが水場に堕ちたら血で水が濁る。普通は、誰もやらないんだ。でも、勝負に勝ちたいだろ」
「あんちゃんがだろ。でも、おれもそうかも知れない」
「正直なこったハハハ。スライムも水場近くを探せばいるぞ。そろそろ練習だ」
おれは前世、剣士として強かった。今世は、魔法の才能がある。竜妃ライナ姫がくれた魔力は、魂に癒着している。この魔力は、おれのもんだ。一から覚えたことは、全部おれの実力だ。ドラゴンスレーヤーの剣のスキルや身体スキルは、確かにいまだに有るが、前世で魔法は、死ぬ間際にやっと発動した程度。竜の姫さんの恩恵だろうが何だろうが、今覚える魔法は、おれの実力だ。
「魔法で倒すのか」
「そうだ、スライムの核を壊せば、実態を保てなくなって萎む。攻撃を外したら体当たりしてくるぞ。ボヨンって来ると言っても痛いぞ。鎌イタチの練習ができて丁度いいだろ。散切りが出来ればもっといいけど、鎌イタチでもなんとかなる」
「散切りも、教えてくれるんだろ」
「今日は、諦めろ。それよりまず1匹だ」
まず1匹。その通りだと思った。
「反撃を怖がるな。近寄らないと当たらないぞ」
水場の近くを見て回っていたら茂みからスライムが現れた。青い透明なスライムだ。確かに真ん中に魔石の丸いのがある。あれを壊せばいいんだ。
おれは、スライムの前に飛び出した。スライムは、ぽよぽよしている。
「『鎌イタチ』!」
スパッと、スライムが切れた。だが、核を外した。スライムはポヨンと元に戻って怒っている。
もう一回だ。「『鎌イタチ』!」 ダメだ、的が小さすぎる。近づかないと、核に当たらない。
近づくとスライムがポヨンと飛んで、体当たりしてきた。
「『鎌イタチ』!『鎌イタチ』!」
「バカ、めくらめっぽうに撃つな」
ボヨン
「イタッ」
「言わんこっちゃない」
普通ならスライムは、これで逃げるのだが、相手をばかにして逃げない。まだ戦いは続く。
「スライムじゃない核を見るんだ。もう一回」
「こいつ、やったな」
おれは、ものすごくスライムに近づいて鎌イタチを連発した。
「『鎌イタチ』!『鎌イタチ』!」
きゅーーー
「よし、一匹目」
スライムは萎み、壊れた核から、魔石の欠片が残った。
最初は、グダグダだったけど、その後は、カイが目を見張るほどの出来。10匹倒したところで、遅いお昼になった。母さんがカイの分もお弁当を作ってくれている。水場は荒らしていないので、そのまま飲めるそうだ。カウリーが吸い上げた地下水は最高だった。
「あんちゃん。スライムは、1日、何匹倒せばいいんだ」
「あいつらは、すぐ分裂する。ここは魔気が濃いからな。一日10匹は倒したい」
「おれ、もう10匹倒したぞ。おれ、一人前か」
「気が早いな。スライムも種類があるんだ。今日は、一番弱いやつを狙って、ここに来たんだ。狩るのが上手くなったら毒持ちだとか麻痺持ちのスライムともやり合わないといけないぞ」
「そーかー」
「今までのスライムは、青かっただろ。毒持ちは紫、麻痺持ちは黄色だ。最初、そんなスライムを見たら逃げるんだぞ」
ステータス異常は、レベルが高くなってもキツイ。
「わかった」
「昼からは、遠距離からの鎌イタチを練習して、一角ウサギに挑戦してみるか?当たれば、一発逆転だ。一角ウサギは、肉も美味い」
「やる。水色のスライムは、近づけば何とかなるけど、毒持ちや麻痺持ちは怖い。そいつらは、一角ウサギより格上ってことだろ」
「その通りだ。今日教えたことが出来るようになって、一角ウサギが狩れるようになったら初めて毒スライムを倒しに行ける。その時は、また、一緒に行こう」
なるほどと思う。先輩の言うことは、すんなり受け入れられる。
鎌イタチは、最初小さな竜巻を起こして、その回転力から鋭利な風を出す。だから、的が定まらない。カイは、これを駒回しの駒を投げるように器用に鎌イタチを投げ飛ばす。つまり、アンダースローやミドルスローで球を投げるように鎌イタチを飛ばす。カイに見本を見せてもらって真似するのだが、これが結構難しい。カイが、オーバースローで、鎌イタチを発生させると、特大になる。カイは、いいピッチャーになれると思った。
「カイのあんちゃんすげぇ」
「オビトの為に落ち木をいっぱい拾って来たんだ。がんばれ」
おれの場合は、カイの半分ぐらいの距離じゃないと当たらないし、当たっても弱い。これは、魔力だけじゃないと思った。だって、オレの魔力の方がカイより強い。
「なんで、こんなに違うかな」
「10歳違うんだぞ。10年頑張れば、上手くなる」
それは、そうなのだが、しつこく鎌イタチをアンダースローでやってて、気づいたことがある。これ、手刀でスラッシュやった方が早くね。でも、そんなの急に出来ると魔法じゃないってすぐばれる。今度一人で試そうと思った。ただ、最終的には、鎌イタチの方が、スラッシュより巨大なのを撃てそうだし、これはこれで修業だ。鎌イタチにスラッシュを乗せるのもありだなとか、今まで考えたことなかった技を思いつた。それって、練習していてとても楽しい。
スラッシュ:刀の斬撃。オビトは手刀でもできる
「う~ん。これだと、さっき茂みに隠れて一角ウサギを見ていた距離ぐらいだよな。ぎりぎりだ。でもやってみるか」
「やりたい」
そんなわけで、一角ウサギを怯えさせないようにゆっくりと水場に向かった。
こっちは、隠密に歩いているのに、遠くから騒がしい音と共に、叫び声が聞こえる。それも、どんどんこっちに近づいてくる
‥‥‥、………、・・、カーム、カーム、カーム、カーム、ホー、ホ-ン。
「カーム、イギア、ホギャーーー」
カークが、誰かに追われて逃げているときの声だ。慌てて、叫び声の方を見ると、カークの上にはサイカが乗っていて、その後ろから、大きな二本の角があるウサギが追っている。
「ありゃ、ホーンラビットじゃねえか。カークの奴、一角ウサギを何の考えもなしに追ったな」
「あれはやばい。助けないと」
「オビトいいか。おれたちは、カークとサイカを逃がして、ホーンラビットを攻撃するぞ。待ち伏せだ」
「分かった」
カークとサイカが通り過ぎた。今だ!
「『鎌イタチ』!」
「『鎌イタチ』!」
何とかホーンラビットを足止めしたのに、カークが、水場に突っ込んでしまった。バッシャーーーンと上がる水しぶき。ホーンラビットは、鎌イタチを受けながらも戦意と保ってカークに突進している。
まずい!
「スラッシュ」
スラッシュは、ホーンラビットの胴体に直撃した。この時、カイも、鎌イタチを撃っていた。
「あんちゃん、ありかとう」
「?おれか。それしかないか」
ドウと倒れるホーンラビット。カイは、短剣で、ホーンラビットに止めを刺した。
びしょびしょになったサイカとカークを水場から引き揚げてやった。これで、もうこの水場に一角ウサギは、当分やってこないだろう。
「大丈夫か」
「ありがとう」
「カーク」
「びしょびしょだな。タオルを使ってくれ。カークは、自分で水を払えるだろ」
サイカは髪が長い。タオルで髪を拭いた後、カークと一緒にドライの魔法で乾かしていた。
だいぶ遅れて、サキが、二人に追いついた。二人は、サキに物凄く叱られていた。
「あなた達、今日は、スライムだけって言ったでしょ。ごめんねカイ。二人を助けてくれて」
「オビトも頑張ったぞ」
「オビトもありがとう」
「二人とも、お礼は?」
「ごめんなさい」
「カーク」
「ごめんじゃないでしょ」
「ありがとう、カイ、オビト」
「アリガトウ」
やっとカークも落ち着いて人の言葉を話すようになった。
「もう、今日は、終わりにしてもらっていい?」
「仕方ない。それで、戦果は?」
「12匹よ」
「10匹だ」
「勝負は、勝負だからね」
「仕方ない。帰ってホーンラビットの丸焼きを作るか」
「本当!」
「サキは、食い意地で一等だな」
「ひどい」
やっぱり二人は、仲がいい。水場から離れたところで血抜きをやって、オレとカイがホーンラビットを猪のように縛って担いだ。大物だ。めちゃめちゃ重い。
サイカたちは、ミの村経由で帰る。そうしないと、村の人が心配する。こっちもヒの村に着いたところで、村人に歓迎された。みんな、大物のホーンラビットを見て、イベントに参加する気満々になった。近所のおじさんがホーンラビットをおれと担ぐのを代わってくれたし、母さんが、おかずを持って炭焼き小屋まで来てくれると言った。今日は、いい一日になった。
キャンプファイヤーを囲んで、ミの村とヒの村の交流が始まった。目玉は、ホーンラビットの丸焼き。2位だったおれは、ミの村のおやじに皮のバックを貰った。それに副賞として、カイが倒したホーンラビットの角を1本貰った。これが、スライムの魔石の欠片の10倍の値段。この角は、売らないつもりだ。1等の賞品は、短剣だが、アイテムが付いていない。1等より2等の方が良くなってしまった。サイカが悔しがるが、それがうちのじいちゃんだ。
「ねえ、この短剣、アイテムが付いていないのよ。オビトのおじいちゃんにそう言ったら、アイテムが付く短剣だって言ったじゃろ。よく見てみい。穴、空いとるじゃろって言われた」
「ごめんな、うちのじいちゃんは、そう言うじいちゃんなんだ。後で、カークとこの穴にハマるアイテムを探す相談をしよう。じいちゃんに聞いとくよ」
「お願いね。それで、次は、いつホーリーに行くの?」
「明日」
「明日?もう10匹倒せたんでしょう」
「前言ったろ。うちは、父ちゃんが外に出かけていないからオレが稼ぐしかないんだよ。じいちゃん、口は元気だけど、ぎっくり腰だし」
「そうなんだ。私たちも行くけど今日と一緒でカークと練習。カークってスライムの核を握りつぶせるのよ。それはいいんだけど、私一人だと、核を傷つけたところで今日は終わり。サキがもう一日だって」
「そうだな、一人でもやれないと連携がうまく行かないからな。今日カイから聞いたんだ。スライムが倒せたら、次は一角うさぎ。一角ウサギが倒せるようになったら、毒スライムだそうだ。明日、スライムを10匹倒したら、狙ってみようと思うんだ」
「私もスライムを倒してオビトと合流したい」
「待ってる。サイカならすぐだ」
この時カークはと言うと、両方の村人に愛想を振りまいて、しっかり市民権を得ていた。そして大量に貰った料理をおいしそうに食べていたので、おれたちもそこに座って飯を食べた。
キャンプファイヤーは、大成功だった。その火の明かりとは反対方向。森の中の夜の闇に光る眼。その目は、ずっとおれを見ていた。
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