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1.夏日
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教室の窓から差し込む陽光が、満の白い腕に照りつけていた。半袖を着ていて守るもののない肌を、七月の陽光は容赦なく灼いていく。
「やっと終業式終わったぁ。体育館、暑すぎ」
「夏休み中にプール行こうよぉ」
「え、絶対行こ! 新しい水着も欲しいんだけど」
同級生の女子たちの会話が、ハンディファンの駆動音と一緒に耳に入ってくる。暑さのせいか声色はあからさまに気怠そうで、いつもの甲高くよく通る声は休憩中らしい。直接姿を見なくとも、彼女たちが机にだらりと身を預けているのが想像できた。
今日は夏休み前、最後の登校日だった。
体育館で終業式が行われたが、正直なところ式の時間は拷問のようだった。申し訳程度に小窓のカーテンは閉められて日光は遮られていたものの、全校生徒が揃ったことで人口密度が高まった体育館内はサウナのように蒸されており、女子も男子も関係なく汗を垂らしながら耐えていた。いつも長々と語りつくす校長先生も、今日ばかりは自分も暑いからか、少し短めに話を切り上げてくれた。
教室に戻ってきても暑さは変わらず、皆砂漠を歩く旅人のようにげんなりと顔を歪めていた。
しばらくすると、ようやくエアコンが稼働し始めた。
ひんやりと冷たい風が通ると、同級生が歓声を上げる。女子生徒が長く下ろしていた髪を結い上げて、冷たい風を首筋に当てようとする。髪が風によってわずかに靡いている様子はとても涼しげに見えた。ただの教室がまるで砂漠のオアシス、あるいは天上の楽園になったかのように、教室は感動に包まれている。
ただ、教室が涼しくなったとしても、運の悪いことに満の席は教室の端の窓辺だ。容赦なく太陽光が差し込んで、机と椅子はすっかり熱されている。それを分かっていながらも渋々座ると、布越しにぬるい熱さを感じて満の中から楽園の幻想はすぐに崩れ去った。
カーテンを閉めようかと思ったものの、窓枠に腰掛けて喋っている同級生たちがいたため、すぐに諦めた。一言、「カーテンを閉めるから一瞬退いてくれ」と頼めばいいだけなのだが、椅子の熱が満の気力を根こそぎ吸い取ってしまったように動けない。そもそも満は同級生と然程親しくはないうえ、自分から他人に話しかけるのが得意ではなかった。だから、その労力をかけることに消極的だった。
陽光は熱いが、冷房が効いてきて教室の中は先ほどより涼しくなっている。ならば、まあいいかと諦めて頬杖を突いたその瞬間、背後から影が落ちてきた。
「藤山、そこ暑くないのか?」
明るい声で同級生の一人に背後から声をかけられた。
満が声のほうに視線を向けると、その同級生は「ごめん、カーテン閉めるから一瞬退いてくれるか?」と、窓際の同級生たちに呼びかけるという満が諦めたことを一瞬でやってのける。そして高身長の影が光を遮ったかと思えば、さっと素早くカーテンが閉められた。窓辺で日に当たる満を気遣ってくれたのだろう。
「吉本、ありがとう。ごめん、自分で閉めればよかった。ちょうど暑くて迷ってたところでさ」
「だよな。なんか、藤山が直射日光で溶けちゃいそうだと思ったからよかった」
そう言って、快活な声と共に覗く白い歯が眩しい。
満に話しかけてきたのは吉本という同級生で、学級委員を務めている真面目な男子生徒だった。誰に対しても気さくで、教室の隅で日陰の苔のようにひっそりと過ごしている満に対してもよく気遣って話しかけてくれる、誰がどう見ても気のいい人物だった。
真面目な優等生だが、吉本は軟弱さとは無縁な容姿をしている。バスケ部で鍛えているから体格もいい。さっぱりと切られた短髪からは、まさにスポーツが得意な好青年という印象を受けた。
満はそっと、自分の体躯を見下ろした。スポーツマンな吉本に対して、帰宅部で体育の授業以外では運動もしない満は細身で頼りなく、明らかに軟弱そのものだった。身長も百七十センチにぎりぎり届かないくらいの、地味な容姿だった。吉本と並ぶと誰が見ても貧相で、横に並ぶのは少しだけ気後れしてしまう。そんなこと、吉本は気にもしないだろうけれど。
いつの間にか、前髪が少々睫毛に引っ掛かるくらい伸びており、満の地味で少し暗い印象に拍車をかけていた。満は鬱陶しい前髪を軽く払いながら、そろそろ前髪くらいは切ろうと決めた。
吉本は満の心情など知らないまま気軽に目の前まで来ると、満を覗き込むようにして屈んだ。
「藤山は、夏休みどこか遊びに行ったりする?」
「あー……、いや、特には。ずっとバイト入れてるんだ」
我ながらつまらない回答だ。せっかく会話を広げようとしてくれているのにごめん、と頭の中で謝る。吉本は特に気まずそうな顔もせず、快活な笑みを浮かべた。
「そっか。俺たちもほとんど部活だから、同じようなものだよ」
「バスケ部も大変そうだな。夏休み中も、あの暑い体育館で毎日練習なのか?」
「そう。もう汗だくだよ。夏休み中だと四十度とか余裕で超えるし、ほぼサウナ」
その暑さを思い出したのか、吉本は顔を顰めて手で顔を扇ぐ。四十度を超える体育館など想像するだけでもぞっとする。
「それでも走り回れるんだから、本当に凄い」
心からの賛辞を呈すると、吉本は照れ臭そうに笑った。
「なあ、ところでバイトが入っていない日はあるのか? バスケ部は午後休みの日もあるんだけど、もしよかったら空いてる日に二人で遊びにでも行かないか?」
吉本の誘いに、満は少々たじろいだ。クラスの中心人物の吉本が自分を遊びに誘ってくれるとは思わなかったのだ。
「なんで俺と?」
率直に尋ねると、吉本は若干困ったような、照れているような微妙な表情で頬を掻いた。
「いや、藤山と遊んだりしたことないだろ? せっかく同じクラスなんだし、一回くらい遊んでみたいと思って」
「そうか……?」
満は流行り物に敏感でもないし、そもそも遊びに行くという経験値が低い。あまり楽しさを提供できるとは、自分でも思えなかった。きっと吉本は気を遣ってくれているのだと思うと、そんなに気を遣うことはないのにと申し訳なさを抱く。
「……ごめん、遊ぶのは難しいかも。バイトは昼も夜もシフトに入る日が多くて」
満のその返答に、吉本は瞠目した。
「昼も夜も? それこそ大変だろ。なんでそんなにバイトを?」
「え、いや、休みの間に稼いでおきたいだけだけど……」
途端に心配そうな顔をする吉本に、しまった、と自分の軽率な発言を後悔した。吉本が優しくて、すぐに満のことを心配してくれるということは分かっていたのに。
「藤山、無理してないか? 暑いんだし、ちゃんと休みも入れないと」
「大丈夫だって。休憩なしでずっと働くわけじゃないし」
あまり心配されると次第に自分が悪いことをしている気分になってきて、慌てて言い訳をする。しかし、それを聞いた吉本の表情はますます曇っていった。
四月に同じクラスになってからはや三か月以上経つが、吉本は度々こんなふうに、必要以上に満を心配してくることがあった。
学級委員の責任感があるからか、と思えば申し訳なさが募り、満はそのたびに言い訳をしている気がする。
どうにか気にさせまいとする満の様子を見て、吉本は納得いかないというように口を尖らせた。
「……藤山って、少し危ういところがあって心配になる。やっぱり夏休みに遊ぼうぜ。一日くらい、休み入れられないの?」
「いや、そんな心配しなくていいって。大丈夫。ごめん、ありがとうな」
ほとんど無理やりに会話を切り上げようとしたところで、ちょうど担任が教室に入ってくる。まだ言いたいことがありそうな顔をしながらも、吉本は自席に戻っていた。満は安堵して、静かに溜め息をついた。
同級生の噂話を小耳に挟んだことがある。吉本の両親は都庁で働いているらしく、その優等生ぶりは真面目な両親譲りなのだろうという話だ。その話を聞いたとき妙に納得した。誰にでも平等に接する吉本の姿を見ると、その公務員の真面目な両親の背を見て育ったのだろうと思ったからだ。そして、その両親から大切に扱われて育ってきたのだろうということも、想像に難くなかった。
吉本は気さくで話しやすく、いい奴だというのがクラスの共通認識で、満もそれに異論はない。どちらかと言えば、それを好ましいと思っている。ただ、満に対してはなぜか過干渉なところがあり、それには少しだけどうしたらいいか分からなくなるのだった。
吉本には小学生の弟がいるのだということも噂話で聞いたことがある。吉本とは反対に柔い見た目をしているらしい。それを聞いたとき、もしかしたら吉本は満をどこか弟に重ねていて、それで過保護気味になるのかもしれないと思った。
満は、自分を吉本とは正反対の存在だと思っていた。人間関係も、体格も。両親のいない満は、家庭環境すら吉本とは対極的だ。
大事にされている吉本を妬ましいとは思わない。しかし、満が毎日昼も夜もバイトのシフトを入れて必死に稼ごうとしている理由を説明しても、きっと共感は得られないだろうと思う。同情するか、ますます心配されてしまうだけだろう。それが、満には少し息苦しいのだ。
「なあ、吉本っていつもわざわざ藤山に話しかけにいくよな? 何を話してんの?」
「何って、普通の世間話だけど」
自席に戻った吉本と別の同級生の密やかな会話が聞こえてくる。吉本の席は一列挟んだ斜め後ろにあり、そう遠くないから割と会話は聞こえてきてしまう。
同級生がふうん、と気のない返事をする。
「あいつ、ちょっと暗くない? 絶対自分から話しかけてこないし。……さっきも、ちょっと会話聞いてたけどさ、吉本が遊びに誘ってやってるのに素っ気なかったじゃん。気遣って話しかけることなくね?」
吉本に話しかけている男子生徒は、いつも吉本と一緒に行動しているうちの一人だった。なんとなく、吉本を心配している様子なのが窺えた。
男女問わず人気がある吉本は、いつも誰かしらに囲まれている。それなのに、わざわざその輪を外れて満のほうへ話に行ってしまうのを不思議に思っている同級生が多いのは、満自身も分かっていた。放っておけばいいのにと、言わないだけできっと皆思っているだろう。言外の圧力が、満の席にまで届いてくるようだったから。
吉本はその同級生を諫めるように、少し固い声色で返事をする。
「いいだろ、別に。話してみると普通にいい奴だし」
「ふうん。その割には遊びの誘いも振られるんだな?」
「うるさいな。藤山も忙しいんだから、仕方ないだろ」
それから教師が話し始めたことで、吉本たちの会話は聞こえなくなった。
吉本はクラスの中心で、対する満は日陰の存在だ。吉本のような存在が心配されるのは当たり前だ。多くの同級生たちに好かれている中で、わざわざ端にいる満を心配する吉本は稀有な存在だと思う。
しかし、明るい日向から手を差し伸べられたとしても、満にはその手を取ることはできなかった。日陰で根を張った足はそう簡単には動かせないのだ。
深海魚は、水面から顔を出しては生きられない。体の組織ごと、深海で生きることだけに特化した進化をしてきたからだ。生きる環境が違うということはそういうことで、それは簡単に変えられるものではない。
自分もそういうものだと理解をしている。きっと、吉本にはそんな満の価値観は理解できないだろう。理解できたとしても、この諦念に共感することはきっとない。
満はまた溜め息をついた。先ほどより重い溜め息を。
明日からは夏季休暇に入り、しばらく学校には来ない。夏休みの楽しみなどは特にないが、生きる環境の違う人たちが一つの箱に入れられてしまうこの息苦しさから解放されることを思えば、少しだけ心が軽くなった。
◆
終業式の日の予定は式とロングホームルームだけで、部活や委員会に所属しない生徒たちは昼前には帰宅できる。帰宅部の満も、解散と同時にさっさと学校を出て帰路に着いた。
空いた時間は専らバイトに明け暮れているため、今日もその予定だった。バイトは夕方からでまだ少し時間に余裕があったため、満は一度荷物を置くために帰宅することにした。
団地にある自宅のアパートに着いて、まず部屋の前で一度深呼吸をする。十年以上住んでいる家だというのに、満はいつも、この家に入るたびに微かな緊張感を伴っていた。せっかく学校の息苦しさから解放されたと思っても、家に帰ればまた別の息苦しさがあるのだ。
ひどく重く感じるドアを開けて玄関に入ると、部屋の奥から笑い声が聞こえてきた。テレビのワイドショーを流しているらしく、男性芸人の豪快な笑い声が響いている。その響きにどこか虚しさを覚えるのは、その笑い声に反してそれを見ている人間は興味なさそうに乾いた嘲笑を湛えているというのが思い浮かぶからだろう。
夜のように光の入らない廊下を歩くと、床の軋む音がやたらと耳に入る。掃除が足りない廊下は少々埃っぽく、鼻が仄かにむず痒くなる。
短い廊下の先、リビングのドアは薄く開いていた。そっと部屋の中を覗くと、そこには中年女性が床でだらしなく寝そべっていた。そして思った通り、テレビを見ているのに心底興味がなさそうで、馬鹿笑いする画面の向こうの芸人に嘲笑を浮かべている。それが、満の養母だった。
満が帰ってきたことに気付いているのかいないのか、彼女はちらりともこちらを見ない。それに対して、寂しさを覚えることはもうなかった。気付いていようがいまいが、どちらにせよ彼女の態度は変わらないのを分かっているからだ。十年以上そんな様子だから、満ももう慣れきってしまっている。
「あの……荷物を置きに帰ってきました。この後はバイトに行きます」
念のため声を掛けるが、養母は反応しなかった。テレビから視線を外さない。これも想定内だ。「おかえり」の一言を貰うだけの期待すら、満は十年前にとっくに捨てている。それでも声を掛けるのは、以前声を掛けずに部屋にいたときに「いつ帰っていたの」と、まるで幽霊を見たかのように気味悪そうな顔をされたことがあるから、というだけだった。
そんな態度をされていても、満はこの家の養子だ。
両親が死んでからしばらくして、満はある日突然、この藤山家に引き取られた。
養親が見ず知らずの子供だった満を引き取ったのが、ただ里親になることで貰える助成金が目当てだったのだろうということに考えが至ったのは、数年前だ。
最初こそ、養子として引き取ってくれたのだから子供が欲しいのだろうと思っていたし、満は幼いなりに恩を感じて、いい子でいようと思っていた。養親と、新しい家族になれるのだと純粋に信じ込んでいた。
しかし蓋を開けてみれば、養親は満を子供として大事に育てようという気がさらさらないのだと分かった。
養父と養母の仲は冷え切っているようで、家の中で会話をしているところをあまり見なかった。そもそも、養父はいつも帰りが遅く、満ともほとんど顔を合わせなかった。
養母は満に対しても口数が少なく、時折口を開いたかと思うと「家事やっといて」と命令する始末で、子供というより家事もしてくれる便利な置き物、くらいの認識のようだった。
同級生が父親とキャッチボールをしたこと、母親に何かを買ってもらったこと、家族で遊園地へ遊びに行ったことなどを楽しそうに話しているのを耳にしても、満にはどこか夢物語のように思えた。
きっと助成金でプラスになるだけの金しか使いたくなかったのだろう。養親は満に対して、世間体を守ることができる必要最低限のことしか施さなかった。それ以上の贅沢は許されなかったし、彼らが労力を使うようなことは絶対にしなかった。
ぺらぺらの薄い布団だとしても、寝床がある。食事は自分で用意しなければならない日もあるが、貰えないわけではない。それだけで十分だろう——と、何度自分を慰めたか分からなかった。
自分と養親の間にそびえ立つ決して越えられない壁が明確に見えたのは、十歳になった頃のことだ。
思い出すのは、窓に叩きつけるような激しい大雨の日のことだった。小学校の昼休み、いつものように外へ遊びに行くことができず暇を持て余した同級生たちが、やたらと騒がしかったのを覚えている。満は空が晴れようが曇ろうがいつも静かに教室で過ごしていたが、今日は逆に図書室へ移動しようか迷っていた。
好奇心と無鉄砲さの塊のような小学生男子たちの中で、大人しい性格の満は浮いた存在だった。周りの同級生たちに馴染めず独りでいることが多く、その頃から人の多い教室にいると息苦しさを感じていた。人の少ない図書室は、まだ過ごしやすい場所だったのだ。
しかし、今日のような日は図書室も人が多いだろうと、居場所のなさに心細くなり始めていたとき、同級生の男子が満に声を掛けてきた。
「なあなあ、ちょっと聞いていい? 藤山の親って、本当の親じゃないんだろ?」
「え……?」
初めにそう声を掛けてきたのは、クラスのリーダー格の男子である佐山だった。にやにやと口元を歪めた表情は、あからさまに揶揄の意図を含んでいる。
席に座ってぼうっとしていたところに突然不躾な質問を浴びせられて、すぐにはその意味を理解できずに唖然と見上げることしかできなかった。
そんな満の様子を見て、佐山は得意げに口角を上げる。
「藤山のおばさんが言ってたって、母さんたちが話してるのを聞いたんだ」
どく、どく、と自分の心音がやけに大きく耳に響いた。なぜ養母がそんなことをわざわざ他人に言ったのか、佐山はそれをなぜ、ここで満に聞いてくるのか。満の頭の中には疑問が浮かぶ。
今思えば、佐山は雨のせいで外へ遊びに出られず、ただ苛立っていたのかもしれない。そこで、大人しくて手頃な話題もあった満をターゲットとして見つけたのだろう。
佐山と満が話していることに気が付くと、佐山の取り巻きたちも集まってきた。あっという間に取り囲まれて、満は何か尋問を受けているような気分になった。下卑た笑みが増えると、満の鼓動はどんどん速まっていく。
「藤山、なんで本当の親いないの? 捨てられた?」
後から輪に入ってきた佐山の取り巻きの一人が、あまり興味なさそうに、欠伸混じりで質問を重ねてくる。
しかし深く考えないで口にしたのであろう同級生の軽い言葉が、驚くほど的確に満の心臓を抉った。ナイフを突きつけられたかのように、胸に痛みを感じた気がする。きっと心臓が目に見えたなら、だらだらと血を流していたに違いない。喉元までせり上がってくる何かを堪えながら、満は白くなるほどに自分の手を握り締めた。
「す、捨てられたわけじゃ……ない……」
「え? 何、聞こえない」
絞り出すような小さな声が気に食わなかったのか、同級生は不機嫌そうに机を叩く。
俯く満の様子など気にした様子もなく、佐山は笑い声を上げた。
「知らないのかよ? こいつの親、人を殺してるんだぜ」
「えっ?」
まさかそんな回答が返ってくるとは思わなかったのだろう。同級生はあんぐりと口を開けて固まっている。
頭が痛むのを感じながら、満は黙って会話を聞いていた。呼気が震えてしまいそうだった。
その頃、ちょうど満は事件のことを調べていて、あの日何があったのか、新聞に載っている限りのことを知った頃だった。
だから、佐山の得意げな顔を見て、その後に続く言葉をなんとなく予想することができた。できてしまった。
佐山はわざとらしく明るい声色で言う。
「なんと、父さんが母さんを包丁で刺したらしいんだよ! そんで、その父さんを兄貴が殺したんだって」
「なにそれ!?」
恐れを知らない子供の無邪気な好奇心を以て、同級生は目を輝かせた。
「うちの母さんは、シンジュウしようとしたんじゃないかって言ってた」
「シンジュウ?」
「一緒に死ぬってこと。どちらにせよ、親も子も人を殺すなんて悪魔ねって」
「ええー!? やばい、怖い! サイコパス一家じゃん!?」
「なー。父親も兄貴も悪魔なんだから、こいつも……」
その瞬間、満は堪らなくなって椅子を蹴り立ち上がっていた。倒れた椅子が立てた大きな音に、教室は水を打ったように静まり返る。
満はほとんど無意識のまま佐山に飛びつき、その胸ぐらを掴んでいた。遠巻きに見ていた何も知らない同級生たちが、固唾を飲んで満を見つめている。
「おい、佐山を放せよ!」
取り巻きの一人が声を上げる。佐山自身も、まさか満が反撃に出るとは思いもよらなかったのか、焦ったように声を荒げた。
「藤山、何怒ってるんだよ? 本当のことだろ!?」
「違う!」
「何がだよ! くそっ、放せよっ」
満は佐山に勢いよく胸を押される。思わず佐山を掴んでいた手を離してしまい、よろけてそのまま尻餅をついた。
「サイコパスとか、悪魔とか言われたのが嫌だったわけ? なら、理由を説明してみろよ! お前の父さんはどうしてお前の母さんを殺したんだよ。それを、なんで兄貴が殺したんだ?」
満は黙りこくる。それは、満のほうが説明して欲しいと思っていることだった。満が一番、そう思っている。
それなのに、訳知り顔をして土足で満の家の過去に踏み込んでくる佐山が、堪らなく嫌だった。
そうして黙って対峙しているうちに、誰かが呼んだのか、担任の教師が教室に飛び込んでくる。
「二人とも、何をしているの!?」
担任は慌てて満と佐山の間に入る。まだ若い担任は喧嘩の仲裁に慣れていない様子で、目に見えて慌てていた。
佐山は眉を吊り上げて、満を睨み付けながら叫ぶ。
「こいつが、俺は何もしてないのに急に掴んできたんだ!」
「えっ? 藤山くんが……?」
大人しい生徒の凶行を信じられないというように、担任は満を見つめた。満はもう一度、拳を握り締める。
「何も、何も知らないくせに……!」
思わず佐山を睨み付ける。すると、佐山も苛々とした様子で近くの椅子を蹴り飛ばした。
「じゃあ、なんだよ? ほら、説明してみろよ?」
「ちょっと! やめなさい、佐山くん!」
担任に咎められても、佐山は怯まず挑発するような視線をじっと満に向けている。
「……っ」
「もしかして何も知らないの? じゃあ、やっぱり捨てられたのと同じじゃん」
湧き出る感情に押されるまま、目から涙があふれた。そのままもう一度掴みかかりそうになったが、それはすぐに担任に押さえられた。
結局、行き場のない怒りをどうすればいいのか分からず途方に暮れるうちに隣のクラスの担任も駆け付けて、二人は引き離された。それぞれ順番に職員室に呼び出されて、説教をされる。職員室で担任が他の教師に事情を説明したときの、呆れたような視線と溜め息に身が竦んだ。
「藤山くん。お父さんとお母さんが亡くなっているというのは同情するけれど、揶揄われたからって、手を出すのはいけないわ」
担任は同情のポーズを見せながら満を諌めようとするが、言外に煩わしく思っていることが分かってしまう声色だった。
「お家の人にも連絡しますからね」
そう言われて、満の憂鬱に拍車が掛かった。きっと家に帰れば養母に、面倒事を起こすなと怒られるのだろう。
「……藤山くんのお母さん、ちょっと苦手なのよねえ」
ぽつりと聞こえた担任の独り言に、満は俯いて聞こえない振りをすることしかできなかった。
あとは五時間目の授業しかないのと、また喧嘩になっては堪らないということで、満は教室には戻らずにそのまま家へ帰されることになった。
佐山も同様に怒られたそうだが、特に謝罪はされなかった。結局その件は満の意思とは関係なく、勝手に終わったことにされてしまったのだった。
家に帰ると、珍しく養母が満の姿を目に留めた。担任から学校での出来事について聞いたのだろう。怒られるのを覚悟していた。
しかし予想に反して、養母の反応は淡泊だった。静かに「余計なことはしないでちょうだい。本当、面倒なんだから……」と言い放って溜め息を漏らしただけだった。その後帰ってきた養父は、養母から学校での出来事を聴いても気のない返事をしただけで、満に何かを言うことすらしなかった。
養親が、満に対してかかる些細な労力すら惜しむということは分かっていた。しかし怒ることすらされないのだと、そのときに満は思い知ったのだった。
まるで、そんなエネルギーを使う価値はないとでも言うかのような、重苦しい溜め息の音だけが耳に残っている。その日の反応は、ささくれて小さな痛みを抱えた満の心にとどめのナイフを突き立てた。養親が本当に、満に対して興味がないのだと、元々分かってはいたはずなのに。
養母や教師の誰かが、満に「酷いことを言われたね」と共感を示してくれたのなら、どんなに救われただろうか。たった一度だけでも頭を撫でて「満は悪くない」と味方になってくれたなら、どんなに嬉しかっただろう。しかし、そもそも満の両親について噂していたのは養母だという。淡い期待を抱く隙さえなく、その日の出来事は満にさらなる孤独感をもたらした。
それからずっと、満は息を潜めて生きている。あれから佐山やその取り巻きたちに学校で直接絡まれることも度々あったが、月日が経つにつれて興味を失ったのか、段々と落ち着いていった。だからといって味方ができるということもなく、教室の雰囲気でなんとなく皆が満を避けるようになっていった。
それから、養親の「余計なことはするな」という無言の圧力は強くなった。元々、満は大人しいほうだったと思うが、ますます喋らなくなった。息を潜めて、隠れるように生きている。
自分と世界には何の繋がりもないのだ——そんな考えが浮かぶようになった。それから誰と話しても何をしていても、違う世界にいるような、見えない一線を感じていた。そのことに、もう満自身も慣れてしまっている。
自分の部屋に入って学校の荷物を床に置くと、肩の力が抜けた。頭を切り替えるように深呼吸をする。
制服からTシャツとジーンズというラフな格好に着替えると、体が少しだけ軽くなった気がした。
自分の部屋にいて誰の目にも留まらないときくらいしか、満が落ち着ける時間はなかった。しかしそれも、部屋の外に養親の気配を感じるたびに壊される、一時の安息に過ぎなかった。
学校にも家にも、心から満が心を安らげる場所はないのだった。だから、早くこの家を出たかった。複数のアルバイトを掛け持ちして、お金を貯めようとしているのはそれが理由だ。たった一人でも、支えがなくとも、立って歩いていきたかった。
吉本は「なんでそんなにバイトを?」と不思議そうにしていたが、満にはむしろ、そうしない理由がないというだけの話だった。
満は、心安らぐ場所を求めている。そして今の満に考えられる安息は、家を出て、一人で生きていくということなのだった。
そのために、働いている。今は耐えるように、息を潜めて生きている。息苦しさの中で、藻掻いているのだった。
「やっと終業式終わったぁ。体育館、暑すぎ」
「夏休み中にプール行こうよぉ」
「え、絶対行こ! 新しい水着も欲しいんだけど」
同級生の女子たちの会話が、ハンディファンの駆動音と一緒に耳に入ってくる。暑さのせいか声色はあからさまに気怠そうで、いつもの甲高くよく通る声は休憩中らしい。直接姿を見なくとも、彼女たちが机にだらりと身を預けているのが想像できた。
今日は夏休み前、最後の登校日だった。
体育館で終業式が行われたが、正直なところ式の時間は拷問のようだった。申し訳程度に小窓のカーテンは閉められて日光は遮られていたものの、全校生徒が揃ったことで人口密度が高まった体育館内はサウナのように蒸されており、女子も男子も関係なく汗を垂らしながら耐えていた。いつも長々と語りつくす校長先生も、今日ばかりは自分も暑いからか、少し短めに話を切り上げてくれた。
教室に戻ってきても暑さは変わらず、皆砂漠を歩く旅人のようにげんなりと顔を歪めていた。
しばらくすると、ようやくエアコンが稼働し始めた。
ひんやりと冷たい風が通ると、同級生が歓声を上げる。女子生徒が長く下ろしていた髪を結い上げて、冷たい風を首筋に当てようとする。髪が風によってわずかに靡いている様子はとても涼しげに見えた。ただの教室がまるで砂漠のオアシス、あるいは天上の楽園になったかのように、教室は感動に包まれている。
ただ、教室が涼しくなったとしても、運の悪いことに満の席は教室の端の窓辺だ。容赦なく太陽光が差し込んで、机と椅子はすっかり熱されている。それを分かっていながらも渋々座ると、布越しにぬるい熱さを感じて満の中から楽園の幻想はすぐに崩れ去った。
カーテンを閉めようかと思ったものの、窓枠に腰掛けて喋っている同級生たちがいたため、すぐに諦めた。一言、「カーテンを閉めるから一瞬退いてくれ」と頼めばいいだけなのだが、椅子の熱が満の気力を根こそぎ吸い取ってしまったように動けない。そもそも満は同級生と然程親しくはないうえ、自分から他人に話しかけるのが得意ではなかった。だから、その労力をかけることに消極的だった。
陽光は熱いが、冷房が効いてきて教室の中は先ほどより涼しくなっている。ならば、まあいいかと諦めて頬杖を突いたその瞬間、背後から影が落ちてきた。
「藤山、そこ暑くないのか?」
明るい声で同級生の一人に背後から声をかけられた。
満が声のほうに視線を向けると、その同級生は「ごめん、カーテン閉めるから一瞬退いてくれるか?」と、窓際の同級生たちに呼びかけるという満が諦めたことを一瞬でやってのける。そして高身長の影が光を遮ったかと思えば、さっと素早くカーテンが閉められた。窓辺で日に当たる満を気遣ってくれたのだろう。
「吉本、ありがとう。ごめん、自分で閉めればよかった。ちょうど暑くて迷ってたところでさ」
「だよな。なんか、藤山が直射日光で溶けちゃいそうだと思ったからよかった」
そう言って、快活な声と共に覗く白い歯が眩しい。
満に話しかけてきたのは吉本という同級生で、学級委員を務めている真面目な男子生徒だった。誰に対しても気さくで、教室の隅で日陰の苔のようにひっそりと過ごしている満に対してもよく気遣って話しかけてくれる、誰がどう見ても気のいい人物だった。
真面目な優等生だが、吉本は軟弱さとは無縁な容姿をしている。バスケ部で鍛えているから体格もいい。さっぱりと切られた短髪からは、まさにスポーツが得意な好青年という印象を受けた。
満はそっと、自分の体躯を見下ろした。スポーツマンな吉本に対して、帰宅部で体育の授業以外では運動もしない満は細身で頼りなく、明らかに軟弱そのものだった。身長も百七十センチにぎりぎり届かないくらいの、地味な容姿だった。吉本と並ぶと誰が見ても貧相で、横に並ぶのは少しだけ気後れしてしまう。そんなこと、吉本は気にもしないだろうけれど。
いつの間にか、前髪が少々睫毛に引っ掛かるくらい伸びており、満の地味で少し暗い印象に拍車をかけていた。満は鬱陶しい前髪を軽く払いながら、そろそろ前髪くらいは切ろうと決めた。
吉本は満の心情など知らないまま気軽に目の前まで来ると、満を覗き込むようにして屈んだ。
「藤山は、夏休みどこか遊びに行ったりする?」
「あー……、いや、特には。ずっとバイト入れてるんだ」
我ながらつまらない回答だ。せっかく会話を広げようとしてくれているのにごめん、と頭の中で謝る。吉本は特に気まずそうな顔もせず、快活な笑みを浮かべた。
「そっか。俺たちもほとんど部活だから、同じようなものだよ」
「バスケ部も大変そうだな。夏休み中も、あの暑い体育館で毎日練習なのか?」
「そう。もう汗だくだよ。夏休み中だと四十度とか余裕で超えるし、ほぼサウナ」
その暑さを思い出したのか、吉本は顔を顰めて手で顔を扇ぐ。四十度を超える体育館など想像するだけでもぞっとする。
「それでも走り回れるんだから、本当に凄い」
心からの賛辞を呈すると、吉本は照れ臭そうに笑った。
「なあ、ところでバイトが入っていない日はあるのか? バスケ部は午後休みの日もあるんだけど、もしよかったら空いてる日に二人で遊びにでも行かないか?」
吉本の誘いに、満は少々たじろいだ。クラスの中心人物の吉本が自分を遊びに誘ってくれるとは思わなかったのだ。
「なんで俺と?」
率直に尋ねると、吉本は若干困ったような、照れているような微妙な表情で頬を掻いた。
「いや、藤山と遊んだりしたことないだろ? せっかく同じクラスなんだし、一回くらい遊んでみたいと思って」
「そうか……?」
満は流行り物に敏感でもないし、そもそも遊びに行くという経験値が低い。あまり楽しさを提供できるとは、自分でも思えなかった。きっと吉本は気を遣ってくれているのだと思うと、そんなに気を遣うことはないのにと申し訳なさを抱く。
「……ごめん、遊ぶのは難しいかも。バイトは昼も夜もシフトに入る日が多くて」
満のその返答に、吉本は瞠目した。
「昼も夜も? それこそ大変だろ。なんでそんなにバイトを?」
「え、いや、休みの間に稼いでおきたいだけだけど……」
途端に心配そうな顔をする吉本に、しまった、と自分の軽率な発言を後悔した。吉本が優しくて、すぐに満のことを心配してくれるということは分かっていたのに。
「藤山、無理してないか? 暑いんだし、ちゃんと休みも入れないと」
「大丈夫だって。休憩なしでずっと働くわけじゃないし」
あまり心配されると次第に自分が悪いことをしている気分になってきて、慌てて言い訳をする。しかし、それを聞いた吉本の表情はますます曇っていった。
四月に同じクラスになってからはや三か月以上経つが、吉本は度々こんなふうに、必要以上に満を心配してくることがあった。
学級委員の責任感があるからか、と思えば申し訳なさが募り、満はそのたびに言い訳をしている気がする。
どうにか気にさせまいとする満の様子を見て、吉本は納得いかないというように口を尖らせた。
「……藤山って、少し危ういところがあって心配になる。やっぱり夏休みに遊ぼうぜ。一日くらい、休み入れられないの?」
「いや、そんな心配しなくていいって。大丈夫。ごめん、ありがとうな」
ほとんど無理やりに会話を切り上げようとしたところで、ちょうど担任が教室に入ってくる。まだ言いたいことがありそうな顔をしながらも、吉本は自席に戻っていた。満は安堵して、静かに溜め息をついた。
同級生の噂話を小耳に挟んだことがある。吉本の両親は都庁で働いているらしく、その優等生ぶりは真面目な両親譲りなのだろうという話だ。その話を聞いたとき妙に納得した。誰にでも平等に接する吉本の姿を見ると、その公務員の真面目な両親の背を見て育ったのだろうと思ったからだ。そして、その両親から大切に扱われて育ってきたのだろうということも、想像に難くなかった。
吉本は気さくで話しやすく、いい奴だというのがクラスの共通認識で、満もそれに異論はない。どちらかと言えば、それを好ましいと思っている。ただ、満に対してはなぜか過干渉なところがあり、それには少しだけどうしたらいいか分からなくなるのだった。
吉本には小学生の弟がいるのだということも噂話で聞いたことがある。吉本とは反対に柔い見た目をしているらしい。それを聞いたとき、もしかしたら吉本は満をどこか弟に重ねていて、それで過保護気味になるのかもしれないと思った。
満は、自分を吉本とは正反対の存在だと思っていた。人間関係も、体格も。両親のいない満は、家庭環境すら吉本とは対極的だ。
大事にされている吉本を妬ましいとは思わない。しかし、満が毎日昼も夜もバイトのシフトを入れて必死に稼ごうとしている理由を説明しても、きっと共感は得られないだろうと思う。同情するか、ますます心配されてしまうだけだろう。それが、満には少し息苦しいのだ。
「なあ、吉本っていつもわざわざ藤山に話しかけにいくよな? 何を話してんの?」
「何って、普通の世間話だけど」
自席に戻った吉本と別の同級生の密やかな会話が聞こえてくる。吉本の席は一列挟んだ斜め後ろにあり、そう遠くないから割と会話は聞こえてきてしまう。
同級生がふうん、と気のない返事をする。
「あいつ、ちょっと暗くない? 絶対自分から話しかけてこないし。……さっきも、ちょっと会話聞いてたけどさ、吉本が遊びに誘ってやってるのに素っ気なかったじゃん。気遣って話しかけることなくね?」
吉本に話しかけている男子生徒は、いつも吉本と一緒に行動しているうちの一人だった。なんとなく、吉本を心配している様子なのが窺えた。
男女問わず人気がある吉本は、いつも誰かしらに囲まれている。それなのに、わざわざその輪を外れて満のほうへ話に行ってしまうのを不思議に思っている同級生が多いのは、満自身も分かっていた。放っておけばいいのにと、言わないだけできっと皆思っているだろう。言外の圧力が、満の席にまで届いてくるようだったから。
吉本はその同級生を諫めるように、少し固い声色で返事をする。
「いいだろ、別に。話してみると普通にいい奴だし」
「ふうん。その割には遊びの誘いも振られるんだな?」
「うるさいな。藤山も忙しいんだから、仕方ないだろ」
それから教師が話し始めたことで、吉本たちの会話は聞こえなくなった。
吉本はクラスの中心で、対する満は日陰の存在だ。吉本のような存在が心配されるのは当たり前だ。多くの同級生たちに好かれている中で、わざわざ端にいる満を心配する吉本は稀有な存在だと思う。
しかし、明るい日向から手を差し伸べられたとしても、満にはその手を取ることはできなかった。日陰で根を張った足はそう簡単には動かせないのだ。
深海魚は、水面から顔を出しては生きられない。体の組織ごと、深海で生きることだけに特化した進化をしてきたからだ。生きる環境が違うということはそういうことで、それは簡単に変えられるものではない。
自分もそういうものだと理解をしている。きっと、吉本にはそんな満の価値観は理解できないだろう。理解できたとしても、この諦念に共感することはきっとない。
満はまた溜め息をついた。先ほどより重い溜め息を。
明日からは夏季休暇に入り、しばらく学校には来ない。夏休みの楽しみなどは特にないが、生きる環境の違う人たちが一つの箱に入れられてしまうこの息苦しさから解放されることを思えば、少しだけ心が軽くなった。
◆
終業式の日の予定は式とロングホームルームだけで、部活や委員会に所属しない生徒たちは昼前には帰宅できる。帰宅部の満も、解散と同時にさっさと学校を出て帰路に着いた。
空いた時間は専らバイトに明け暮れているため、今日もその予定だった。バイトは夕方からでまだ少し時間に余裕があったため、満は一度荷物を置くために帰宅することにした。
団地にある自宅のアパートに着いて、まず部屋の前で一度深呼吸をする。十年以上住んでいる家だというのに、満はいつも、この家に入るたびに微かな緊張感を伴っていた。せっかく学校の息苦しさから解放されたと思っても、家に帰ればまた別の息苦しさがあるのだ。
ひどく重く感じるドアを開けて玄関に入ると、部屋の奥から笑い声が聞こえてきた。テレビのワイドショーを流しているらしく、男性芸人の豪快な笑い声が響いている。その響きにどこか虚しさを覚えるのは、その笑い声に反してそれを見ている人間は興味なさそうに乾いた嘲笑を湛えているというのが思い浮かぶからだろう。
夜のように光の入らない廊下を歩くと、床の軋む音がやたらと耳に入る。掃除が足りない廊下は少々埃っぽく、鼻が仄かにむず痒くなる。
短い廊下の先、リビングのドアは薄く開いていた。そっと部屋の中を覗くと、そこには中年女性が床でだらしなく寝そべっていた。そして思った通り、テレビを見ているのに心底興味がなさそうで、馬鹿笑いする画面の向こうの芸人に嘲笑を浮かべている。それが、満の養母だった。
満が帰ってきたことに気付いているのかいないのか、彼女はちらりともこちらを見ない。それに対して、寂しさを覚えることはもうなかった。気付いていようがいまいが、どちらにせよ彼女の態度は変わらないのを分かっているからだ。十年以上そんな様子だから、満ももう慣れきってしまっている。
「あの……荷物を置きに帰ってきました。この後はバイトに行きます」
念のため声を掛けるが、養母は反応しなかった。テレビから視線を外さない。これも想定内だ。「おかえり」の一言を貰うだけの期待すら、満は十年前にとっくに捨てている。それでも声を掛けるのは、以前声を掛けずに部屋にいたときに「いつ帰っていたの」と、まるで幽霊を見たかのように気味悪そうな顔をされたことがあるから、というだけだった。
そんな態度をされていても、満はこの家の養子だ。
両親が死んでからしばらくして、満はある日突然、この藤山家に引き取られた。
養親が見ず知らずの子供だった満を引き取ったのが、ただ里親になることで貰える助成金が目当てだったのだろうということに考えが至ったのは、数年前だ。
最初こそ、養子として引き取ってくれたのだから子供が欲しいのだろうと思っていたし、満は幼いなりに恩を感じて、いい子でいようと思っていた。養親と、新しい家族になれるのだと純粋に信じ込んでいた。
しかし蓋を開けてみれば、養親は満を子供として大事に育てようという気がさらさらないのだと分かった。
養父と養母の仲は冷え切っているようで、家の中で会話をしているところをあまり見なかった。そもそも、養父はいつも帰りが遅く、満ともほとんど顔を合わせなかった。
養母は満に対しても口数が少なく、時折口を開いたかと思うと「家事やっといて」と命令する始末で、子供というより家事もしてくれる便利な置き物、くらいの認識のようだった。
同級生が父親とキャッチボールをしたこと、母親に何かを買ってもらったこと、家族で遊園地へ遊びに行ったことなどを楽しそうに話しているのを耳にしても、満にはどこか夢物語のように思えた。
きっと助成金でプラスになるだけの金しか使いたくなかったのだろう。養親は満に対して、世間体を守ることができる必要最低限のことしか施さなかった。それ以上の贅沢は許されなかったし、彼らが労力を使うようなことは絶対にしなかった。
ぺらぺらの薄い布団だとしても、寝床がある。食事は自分で用意しなければならない日もあるが、貰えないわけではない。それだけで十分だろう——と、何度自分を慰めたか分からなかった。
自分と養親の間にそびえ立つ決して越えられない壁が明確に見えたのは、十歳になった頃のことだ。
思い出すのは、窓に叩きつけるような激しい大雨の日のことだった。小学校の昼休み、いつものように外へ遊びに行くことができず暇を持て余した同級生たちが、やたらと騒がしかったのを覚えている。満は空が晴れようが曇ろうがいつも静かに教室で過ごしていたが、今日は逆に図書室へ移動しようか迷っていた。
好奇心と無鉄砲さの塊のような小学生男子たちの中で、大人しい性格の満は浮いた存在だった。周りの同級生たちに馴染めず独りでいることが多く、その頃から人の多い教室にいると息苦しさを感じていた。人の少ない図書室は、まだ過ごしやすい場所だったのだ。
しかし、今日のような日は図書室も人が多いだろうと、居場所のなさに心細くなり始めていたとき、同級生の男子が満に声を掛けてきた。
「なあなあ、ちょっと聞いていい? 藤山の親って、本当の親じゃないんだろ?」
「え……?」
初めにそう声を掛けてきたのは、クラスのリーダー格の男子である佐山だった。にやにやと口元を歪めた表情は、あからさまに揶揄の意図を含んでいる。
席に座ってぼうっとしていたところに突然不躾な質問を浴びせられて、すぐにはその意味を理解できずに唖然と見上げることしかできなかった。
そんな満の様子を見て、佐山は得意げに口角を上げる。
「藤山のおばさんが言ってたって、母さんたちが話してるのを聞いたんだ」
どく、どく、と自分の心音がやけに大きく耳に響いた。なぜ養母がそんなことをわざわざ他人に言ったのか、佐山はそれをなぜ、ここで満に聞いてくるのか。満の頭の中には疑問が浮かぶ。
今思えば、佐山は雨のせいで外へ遊びに出られず、ただ苛立っていたのかもしれない。そこで、大人しくて手頃な話題もあった満をターゲットとして見つけたのだろう。
佐山と満が話していることに気が付くと、佐山の取り巻きたちも集まってきた。あっという間に取り囲まれて、満は何か尋問を受けているような気分になった。下卑た笑みが増えると、満の鼓動はどんどん速まっていく。
「藤山、なんで本当の親いないの? 捨てられた?」
後から輪に入ってきた佐山の取り巻きの一人が、あまり興味なさそうに、欠伸混じりで質問を重ねてくる。
しかし深く考えないで口にしたのであろう同級生の軽い言葉が、驚くほど的確に満の心臓を抉った。ナイフを突きつけられたかのように、胸に痛みを感じた気がする。きっと心臓が目に見えたなら、だらだらと血を流していたに違いない。喉元までせり上がってくる何かを堪えながら、満は白くなるほどに自分の手を握り締めた。
「す、捨てられたわけじゃ……ない……」
「え? 何、聞こえない」
絞り出すような小さな声が気に食わなかったのか、同級生は不機嫌そうに机を叩く。
俯く満の様子など気にした様子もなく、佐山は笑い声を上げた。
「知らないのかよ? こいつの親、人を殺してるんだぜ」
「えっ?」
まさかそんな回答が返ってくるとは思わなかったのだろう。同級生はあんぐりと口を開けて固まっている。
頭が痛むのを感じながら、満は黙って会話を聞いていた。呼気が震えてしまいそうだった。
その頃、ちょうど満は事件のことを調べていて、あの日何があったのか、新聞に載っている限りのことを知った頃だった。
だから、佐山の得意げな顔を見て、その後に続く言葉をなんとなく予想することができた。できてしまった。
佐山はわざとらしく明るい声色で言う。
「なんと、父さんが母さんを包丁で刺したらしいんだよ! そんで、その父さんを兄貴が殺したんだって」
「なにそれ!?」
恐れを知らない子供の無邪気な好奇心を以て、同級生は目を輝かせた。
「うちの母さんは、シンジュウしようとしたんじゃないかって言ってた」
「シンジュウ?」
「一緒に死ぬってこと。どちらにせよ、親も子も人を殺すなんて悪魔ねって」
「ええー!? やばい、怖い! サイコパス一家じゃん!?」
「なー。父親も兄貴も悪魔なんだから、こいつも……」
その瞬間、満は堪らなくなって椅子を蹴り立ち上がっていた。倒れた椅子が立てた大きな音に、教室は水を打ったように静まり返る。
満はほとんど無意識のまま佐山に飛びつき、その胸ぐらを掴んでいた。遠巻きに見ていた何も知らない同級生たちが、固唾を飲んで満を見つめている。
「おい、佐山を放せよ!」
取り巻きの一人が声を上げる。佐山自身も、まさか満が反撃に出るとは思いもよらなかったのか、焦ったように声を荒げた。
「藤山、何怒ってるんだよ? 本当のことだろ!?」
「違う!」
「何がだよ! くそっ、放せよっ」
満は佐山に勢いよく胸を押される。思わず佐山を掴んでいた手を離してしまい、よろけてそのまま尻餅をついた。
「サイコパスとか、悪魔とか言われたのが嫌だったわけ? なら、理由を説明してみろよ! お前の父さんはどうしてお前の母さんを殺したんだよ。それを、なんで兄貴が殺したんだ?」
満は黙りこくる。それは、満のほうが説明して欲しいと思っていることだった。満が一番、そう思っている。
それなのに、訳知り顔をして土足で満の家の過去に踏み込んでくる佐山が、堪らなく嫌だった。
そうして黙って対峙しているうちに、誰かが呼んだのか、担任の教師が教室に飛び込んでくる。
「二人とも、何をしているの!?」
担任は慌てて満と佐山の間に入る。まだ若い担任は喧嘩の仲裁に慣れていない様子で、目に見えて慌てていた。
佐山は眉を吊り上げて、満を睨み付けながら叫ぶ。
「こいつが、俺は何もしてないのに急に掴んできたんだ!」
「えっ? 藤山くんが……?」
大人しい生徒の凶行を信じられないというように、担任は満を見つめた。満はもう一度、拳を握り締める。
「何も、何も知らないくせに……!」
思わず佐山を睨み付ける。すると、佐山も苛々とした様子で近くの椅子を蹴り飛ばした。
「じゃあ、なんだよ? ほら、説明してみろよ?」
「ちょっと! やめなさい、佐山くん!」
担任に咎められても、佐山は怯まず挑発するような視線をじっと満に向けている。
「……っ」
「もしかして何も知らないの? じゃあ、やっぱり捨てられたのと同じじゃん」
湧き出る感情に押されるまま、目から涙があふれた。そのままもう一度掴みかかりそうになったが、それはすぐに担任に押さえられた。
結局、行き場のない怒りをどうすればいいのか分からず途方に暮れるうちに隣のクラスの担任も駆け付けて、二人は引き離された。それぞれ順番に職員室に呼び出されて、説教をされる。職員室で担任が他の教師に事情を説明したときの、呆れたような視線と溜め息に身が竦んだ。
「藤山くん。お父さんとお母さんが亡くなっているというのは同情するけれど、揶揄われたからって、手を出すのはいけないわ」
担任は同情のポーズを見せながら満を諌めようとするが、言外に煩わしく思っていることが分かってしまう声色だった。
「お家の人にも連絡しますからね」
そう言われて、満の憂鬱に拍車が掛かった。きっと家に帰れば養母に、面倒事を起こすなと怒られるのだろう。
「……藤山くんのお母さん、ちょっと苦手なのよねえ」
ぽつりと聞こえた担任の独り言に、満は俯いて聞こえない振りをすることしかできなかった。
あとは五時間目の授業しかないのと、また喧嘩になっては堪らないということで、満は教室には戻らずにそのまま家へ帰されることになった。
佐山も同様に怒られたそうだが、特に謝罪はされなかった。結局その件は満の意思とは関係なく、勝手に終わったことにされてしまったのだった。
家に帰ると、珍しく養母が満の姿を目に留めた。担任から学校での出来事について聞いたのだろう。怒られるのを覚悟していた。
しかし予想に反して、養母の反応は淡泊だった。静かに「余計なことはしないでちょうだい。本当、面倒なんだから……」と言い放って溜め息を漏らしただけだった。その後帰ってきた養父は、養母から学校での出来事を聴いても気のない返事をしただけで、満に何かを言うことすらしなかった。
養親が、満に対してかかる些細な労力すら惜しむということは分かっていた。しかし怒ることすらされないのだと、そのときに満は思い知ったのだった。
まるで、そんなエネルギーを使う価値はないとでも言うかのような、重苦しい溜め息の音だけが耳に残っている。その日の反応は、ささくれて小さな痛みを抱えた満の心にとどめのナイフを突き立てた。養親が本当に、満に対して興味がないのだと、元々分かってはいたはずなのに。
養母や教師の誰かが、満に「酷いことを言われたね」と共感を示してくれたのなら、どんなに救われただろうか。たった一度だけでも頭を撫でて「満は悪くない」と味方になってくれたなら、どんなに嬉しかっただろう。しかし、そもそも満の両親について噂していたのは養母だという。淡い期待を抱く隙さえなく、その日の出来事は満にさらなる孤独感をもたらした。
それからずっと、満は息を潜めて生きている。あれから佐山やその取り巻きたちに学校で直接絡まれることも度々あったが、月日が経つにつれて興味を失ったのか、段々と落ち着いていった。だからといって味方ができるということもなく、教室の雰囲気でなんとなく皆が満を避けるようになっていった。
それから、養親の「余計なことはするな」という無言の圧力は強くなった。元々、満は大人しいほうだったと思うが、ますます喋らなくなった。息を潜めて、隠れるように生きている。
自分と世界には何の繋がりもないのだ——そんな考えが浮かぶようになった。それから誰と話しても何をしていても、違う世界にいるような、見えない一線を感じていた。そのことに、もう満自身も慣れてしまっている。
自分の部屋に入って学校の荷物を床に置くと、肩の力が抜けた。頭を切り替えるように深呼吸をする。
制服からTシャツとジーンズというラフな格好に着替えると、体が少しだけ軽くなった気がした。
自分の部屋にいて誰の目にも留まらないときくらいしか、満が落ち着ける時間はなかった。しかしそれも、部屋の外に養親の気配を感じるたびに壊される、一時の安息に過ぎなかった。
学校にも家にも、心から満が心を安らげる場所はないのだった。だから、早くこの家を出たかった。複数のアルバイトを掛け持ちして、お金を貯めようとしているのはそれが理由だ。たった一人でも、支えがなくとも、立って歩いていきたかった。
吉本は「なんでそんなにバイトを?」と不思議そうにしていたが、満にはむしろ、そうしない理由がないというだけの話だった。
満は、心安らぐ場所を求めている。そして今の満に考えられる安息は、家を出て、一人で生きていくということなのだった。
そのために、働いている。今は耐えるように、息を潜めて生きている。息苦しさの中で、藻掻いているのだった。
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