叫べ、まだ終わりじゃない

おくなみ

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この音で、答えを出す

Zepp、その舞台で証明する

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SEが、会場の奥から徐々にせり上がっていく。
 ピアノの旋律に重なる電子ノイズとギターの低いうねり。
 “まだ終わりじゃない”の音が、Zeppに満ちていく。

 客席に、ざわめきが走る。

 先ほどのBLUEBIRDとはまったく違う、荒々しい空気。
 それは、まるで観客に向かって「何かが始まる」と告げる狼煙のようだった。

 ステージが一気に明転し、
 スモークの中から、まず翼がドラムセットに座る。

 続けて、蓮と結華が立ち位置につく。

 最後に悠人が、ゆっくりとステージ中央に歩み出た。

 その姿を見た瞬間、
 観客たちの期待とざわつきが、確かな“熱”に変わる。

 (見せてやるよ。俺たちの音を)

 悠人は、ギターを肩にかけたまま深く息を吸う。

 「いこう」

 その小さな合図に、翼がスティックを持ち直す。

 ドラムのキックが1、2と打ち込まれ、
 ベースが低音を滑らせる。ギターが鋭く割り込む。

 そして――

 悠人の歌が始まった。

 《1曲目:名前のない衝動》

 全力でぶつけるような立ち上がり。
 轟音の中にある、焦がれるような切実さ。

 BLUEBIRDの冷たく洗練された音とは真逆。
 不恰好で、揃ってなくて、だけど滲み出る熱量だけは誰にも負けていなかった。

 会場がどよめく。
 身体を揺らす者、拳を挙げる者、ただ立ち尽くして目を見開く者。

 音が観客の心を貫いているのがわかった。

 「すげぇ……」
 蓮が一瞬だけ、ステージ上で呟いた。

 「届いてる。ちゃんと、ここから」

 翼がドラムを打ち鳴らしながら、静かに頷く。

 結華のギターが激しく鳴る。

 悠人はマイクを握りながら、
 ステージのど真ん中で――観客を真っ直ぐに見つめていた。

 音に乗せたのは、技術でも計算でもない。
 ただ、“伝えたい”という衝動だけだった。

2曲目が始まる。
 《曲名:灰色の朝を蹴飛ばして》

 1曲目で火がついた会場の空気は、すでに悠人たちのものになっていた。
 ステージから放たれる音が、真っ直ぐに観客を打ち抜く。

 「跳べ!!」

 悠人の叫びに、フロアが反応する。
 一斉に揺れた客席。その中央で、思わず飛び跳ねる若者たちの姿が見える。

 彼らはきっと“まだ終わりじゃない”を初めて見る客だ。
 けれど、その音が持つ本気に、誰もが応えようとしていた。

 (……すごい)

 あかねは、会場の少し後ろの方でその光景を見ていた。
 もみくちゃになるような場所にはいない。でも、視界はクリアだった。

 悠人の姿。結華の指の動き。蓮のうねるような低音。翼の正確で力強いリズム。

 すべてが、重なっていた。

 「なんかさ……本当に、バンドになったんだね」

 思わず声が漏れる。誰に向けたわけでもない。

 横にいた誰かが振り向いたけれど、あかねは気づかないまま、ステージに目を戻した。

 悠人の顔が見えた。

 楽しそうだった。

 叫ぶように歌って、マイクから口を離してもまだ言葉を吐き続けていて、
 ギターを抱えながら、観客に訴えるように手を伸ばしていた。

 (ちゃんと、届いてる)

 それがわかった。

 3曲目。
 《曲名:君がくれた火種》

 結華がメインで旋律をリードする楽曲。
 彼女のギターが光を放つように鳴る。
 蓮のベースが支え、翼のリズムが寄り添う。

 悠人の歌は、すこしだけトーンを落とし、語りかけるようになった。

 (こんな曲あったっけ……)

 初期の頃にはなかった空気だった。
 誰かと音を重ねることでしか生まれない、あたたかさがそこにあった。

 悠人が振り返る。蓮と視線が合う。
 翼が軽く口角を上げる。
 結華がギターのネック越しに、少しだけ笑った。

 (……この音、ずっと聴いてたいな)

 あかねは、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じていた。

5曲目――《その背中、風の中》。

 すでに客席は最高潮。モッシュの渦がフロア全体を飲み込み、
 ダイブする観客が次々と浮かび上がる。
 ステージの照明も熱を帯び、光と音が混じり合っていた。

 そんな中――

 間奏のブレイクで、悠人は蓮の方へゆっくりと歩いた。

 目も言葉も交わさない。
 ただ、拳をそっと差し出した。

 蓮は一瞬驚いたように眉を動かす。

 けれど、すぐに理解する。
 こいつは、何も言わずに、すべてを託してきたんだと。

 「……っし」

 蓮は、静かに拳を合わせた。

 その瞬間だった。

 ――スイッチが入った。

 過去のすべてが、背中からふっと剥がれ落ちるような感覚。
 真田とのことも、自分の弱さも、全部。

 「いくぞおおおおお!!」

 雄叫びのようなシャウトとともに、蓮のベースが爆ぜた。
 フレーズは同じはずなのに、音がまるで違う。

 結華が目を見開く。
 翼が一拍だけ手を止め、すぐに笑って叩き直す。

 「……マジかよ、蓮」

 「今が、最高だ――!!」

 ステージの音が、楽器隊ごと“覚醒”した。

 その熱に、悠人が乗る。

 「6曲目――《まだ終わりじゃない》!!」

 イントロのリフが始まった瞬間、観客がざわつく。
 彼らの代表曲。ここからが“本当の勝負”だと、全員が理解している。

 だが――

 次の瞬間、誰も予想していない動きが起こる。

 悠人が、ギターを掴んだまま――客席に向かって助走をつけた。

 「え……!」

 結華が思わず声を上げる。

 「マジかよ、悠人――!!」

 翼が叫ぶより先に、

 悠人の身体が――宙に舞った。

 観客の上に、ダイブ。

 驚きと歓声が一気に爆発する。

 だが、観客たちは完璧に受け止めた。
 誰もがこの瞬間を信じていたかのように、悠人を浮かせる。

 そのまま――歌い出す。

 「まだ終わりじゃない――この声が、続くかぎり――!」

 ステージにいない。
 けれど、ステージ以上の場所で、悠人は叫んでいた。

 客の手の上で、空を滑るようにして、
 悠人の声がZeppの天井に突き抜けていく。

 ステージ上では、
 蓮が暴れるように弦を鳴らし、
 翼が渾身の力でドラムを叩き、
 結華が、涙をこらえるようにギターを鳴らしていた。

 今、ここに――
 “まだ終わりじゃない”が完全に、響いていた。
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