籠の鳥

ソラ

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男が姿を消して、約五分後。
ようやく、由良は幾らか正気を取り戻していた。
相変わらず自由が利かないのは業腹だが、それからは目を背ける。
都合の悪いことは一旦棚上げする悪い癖が原因で痛い目を見ている最中だというのに、こんな時でも現実逃避は健在であった。

(とにかく、早いところこんな場所から逃げないと)

風を感じないから、少なくとも屋内なのは間違いなさそうだ。
そればかりか、車の走行音や人いきれなども聞こえてこない。
よほどの上層階か、あるいは地下だろうか。
『手放してなんてあげない』と言うからには、相応のハードルが待ち受けていそうだ。
その時感じた恐怖と屈辱が再燃して、由良は下唇を噛んだ。
――と、その時。

「……っ?」

不意に、胸の尖りがつんっと緊張した気がした。
目隠しの下で眉を顰める。
なんだろう、この違和感は。
じわじわ、じわじわと、切なくなるような心地がする。
由良はゆるく首を左右に振った。
無論たったそれだけで、その違和感が解消されはしない。
意図的に呼吸をゆっくり、大きなものにする。
枕許で――ほんのすぐ傍で稼働し続けている機械の存在に、気付かぬまま。
部屋中に取り付けられている監視カメラ越しに、別室で視姦している男が目を輝かせたと知らぬまま。

(あの男の意味不明な言動のせいで、身体が変に興奮しているんだ。まず、リラックスしないと)

深呼吸を重ねる。
三十秒、一分、二分。
違和感は軽減するどころか――むしろどんどん肥大化し、由良を追い詰めた。

「……っは、はっ……」

呼吸が上擦る。
シャツの下で乳首がどんどん、女のようにしこっていく。
呼吸が熱くなる。
ズボンの下でペニスがどんどん、硬くなっていく。
呼吸が荒くなる。
もどかしい。
身体が熱い。
腰が勝手に揺らめいてしまう。
酸素を求めて息をする度、自分の神経を犯す薬剤を吸い込んでいると知らぬまま。

「っあ……ぁっ、」

我慢できずにか細い声が漏れる。
ぐっと眉間の皺を寄せ、じわじわ、じわじわと迫ってくる熱に耐える。
頬は紅潮し、時折ぴくぴくと指先が跳ねた。
どこにも何にも、触られていないのに。

(なんだっ……なんだこれ、おかしい……! あの男が、何か、したのか!?)

さすがにもう気のせいでは済ませられない。
不自然な劣情がぐるぐると渦巻き、由良を追い詰める。
原因はなんなのか。
寝ている間に細工でもされたのか? それとも、部屋にいかがわしい仕組みでもあるのか?
歩き回ることも、そもそも目視で室内を確かめることもできない由良は、焦りばかり募らせる。
暗闇の視界で、肉欲が少しずつ少しずつ膨らんでいく。

「っくそ……ハッ、ハーッ……ハッ……ぁ、ぁあッ……」

奴が出ていってから、どれくらい経ったのだろう。
おかしい。
明らかにこの欲情はおかしいと気付いているのに。
早くなんとかしてほしい。
早く、早く、早く。
この熱の行き場を教えてほしい。

(だめ……だめだ、こんなっ……こんな……!)

 ひくんっ、と不意に腰が跳ねた。

「アッ、ぁあッ……!」

その瞬間ズボンの布地に当たり、だらだらこぼれる先走りでぐっちょりと濡れていた下着越しに性器が刺激される。
その感触を一度掴むと、もうだめだった。

どんっ、くちゅっ、ちゅっ……とんっどんっ
「ァっ……ぁっ、あっ、ハーッ……あっ、ァはッ……」

可動域のごく狭い中で、不器用に腰を宙へ突き上げる。
マットレスが喧しく喚いていたが、飢えていた由良は気にしていられない。
勃たせきっている乳首を慰めたくて、めちゃくちゃに身を捩らせた。

「ァっ、ぁんっ!アーンっ、ぁんっ、はんっ、あンッ」

シャツに擦れる度、甘く堕ちた声が弾ける。
――それでも、全然足りない。

(ぃやだッ……おかしい、おかしい! こんな女みたいなっ……いやだ、いやだ!)

どんっがたんっどんっ
くちゅっ、ぶちゅっ……くちゅっ
「ァっ、あぁっ!イキッ……イキた、ぃのにぃっ……!はっ、ハーッ……ァっ、はぁんッ! あっ……ッひ、ぃン!」

己の着衣でオナニーしても、弾けきらない。
もどかしくてもどかしくて、由良は頭を振り乱した。

「イッ……っはぁン!アーッ……ァっ、アッ!だしっ……出したぁいッ……イクッのにぃッ……!」

達するに足る刺激を得ている筈なのに、ひと押しが足りない。
手首と足首をがっちりと戒められ、身をくねらせるだけで射精できるほうがおかしいのだ。
それでも、たっぷり吸い込んだクスリに正気を失いつつある由良は、泣きながら拙い自慰を繰り返す。
――イキたいのにイケない焦れったさは、やがてそれさえ、段々と快感に変わる。
由良が強制的に取り込んでいる薬物は、長期間摂取することで神経を、細胞を、粘膜を犯す。
しかも男が加湿器に混ぜていたクスリは、原液のままだ。
本来ほんの少量ずつを体内へ入れるべきところ、短時間で非常に濃い濃度のまま、一気に吸引させられた。

「――……ァはっ……はっ、ハァッ……♡ァっ♡ハ……ひぃんっ……」

加湿器が稼働を始めて、二時間後。
由良はひくっ、ひくっ、と手足を跳ねさせ、完全にトンでいた。
口の端からは唾液が伝い落ちるままとなり、舌もだらんと力なく垂れている。
それでも、『躾』も調教も途上にある由良は、未だに吐精していない。
精液と先走り混じりの液体をひっきりなしに漏らし、ズボンをぐちょぐちょに汚している。
その液体は後方にも回ってきていて、濡れたアナルは刺激を求めひくひくと収縮していた。

別室で一部始終を見届けていた男は、換気扇のスイッチをオンにした。
視姦しながら堪らずオナニーしていた後始末を済ませ、躾部屋の淀んだ空気が入れ替わった頃合いを見計らい、部屋へ向かう。
むわんと立ち上る、オスの匂い。
そればかりは換気扇でも間に合わなかったようだ。
ベッドに乗り上げ、拘束を解く。
由良は自由の身になったことにも、ましてや男に覆いかぶさられていることにすら気付かず、あへあへと喘いでいる。
すっかり脱力している腰を浮かせ、水気を含んで重たくなったズボンや下着を苦心して脱がせる。
汗を吸って殆ど全面肌に張り付いているシャツも脱がせ――全裸にさせる。

「ぁっ……ハァッ♡っひ……ハーッァっ♡ぁあっ……」

紅色に染めた皮膚が空気に撫ぜられ、それだけで由良はひくひくと震えながら鳴いた。
思わず生唾を飲む。
想像以上に効いていた。
過度な高揚を長いこと強いられている陰茎は、少々力を失いつつもしっかり勃起していた。
二時間ずっとシャツに愛撫されていた乳首は、痛々しいほどに赤く熟れている。
ぽっちりと実った果実と呼ぶに相応しい仕上がりだった。

ひくっ……ひくっ♡ひくんっ
「ァっ……アッ、アッ♡ァはっ♡」

 そして、目隠しをされたまま男に跨がられ、拒絶するどころかいやらしい声で鳴いている。
ハァッハァッと盛りのついた犬のように肩で息をしながら、男は恐々と由良の両脚をぐっと広げた。
メス穴は、まるで絶え間なく愛液でもこぼしていたかのように、すっかり濡れそぼっている。

「いっ……挿れるよ、由良君?」

聞こえていないと判りつつ、思わず話し掛ける。
長年焦がれていた状況が目の前にある。
完膚なきまでに屈服していて、この僕のチンポがほしいと脚を開けっぴろげている。
もう二度と本来の用途は果たせないチンポをだらしなく漲らせ、胸の飾りを尖らせている。
やはりまともな返事がないまま、構わずにそっと利き手の人差し指を含ませた。

「ァっ……アーッ♡ハァッ……♡あんっ……ぁんっアーンっ……♡」
びくっびくびくっ!

効果はてきめんだった。
長く尾を引く甘い嬌声。
想像の何倍もやわらかくほどけている後孔に、誘い込むように人差し指が飲み込まれる。
由良は男性経験はない筈だった。
にも拘らず、この感度の良さはなんだ?
トンでいるくせに、細い腰を痙攣させて感じ入っている。まだたった指一本しか挿入していないのに。

ぐちゅっ…… くちゅっくちゅっ
「ァっ、ハァンっ♡ぁんっ♡ァはンッァんっ♡」

それどころか、ゆるゆると腰を前後に揺らしている。
出せないままの屹立は、ぶらんぶらんと無様な醜態を晒している。

「――ッ!」
「ァんっ!アッ……ハァッぁンっ♡」

男は殆ど無我夢中で飛び退いた。
ばくばくと心臓が煩い。
妄想でも思い描いていなかったほどの展開に、頭が追い付いていない。
理性を失くしている由良をそのままに、男は慌てて部屋を飛び出した。
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