籠の鳥

ソラ

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混濁しがちな意識が浮上する。
満たされることのなかった喉の渇きを覚え、唾を飲んだ。
再び起き上がろうと試みるも、以前のように寝台に繋がれているらしい。両目もまた封じられている。

「……ッ、くそっ……」

やり場のない怒りと困惑が沸き立ってくる。
何故。
どうして。
早瀬は、こんな仕打ちをするのか?
いや、その答えは、鈍感だと昔からからかわれてきた由良にもさすがに察しがついた。
つまるところ、早瀬はこの自分が好きなのだろう。
『手放さない』だの『君はもう僕のもの』だの、執着的な告白じみた言葉を度々言われたし、なにより性的な関心を向けていなければ同性の性器を躊躇いなく触れたりしない。
動機は判った。
――理解できるかは別として。

「早瀬ッ……! どうせ聞いているんだろう! こんな姑息な真似をしていないで、正々堂々向かってきたらどうなんだ!」

暗闇に包まれたまま、由良は怒鳴った。

「俺はッ絶対にこんなわけ判らん暴力的行為には負けないぞ! お前は俺を手に入れたつもりでいるんだろうが、卑怯者のお前に屈してなんざやるものか!」

それは自分に対する虚勢の意味合いが強い自覚はあった。
なにせ由良は、心当たりが皆無だというのに早くも二度も淫らな熱に呑まれている。
今こうしている間にも、まっとうなものの考え方の一切を押し流していくような、由良をただの情婦へ突き落とす波に襲われるかもしれない。
こんな風に喚くことで威勢を保つ努力をしなければ、またぞろ情欲がぶり返しかねない。

「っく……早瀬っ、聞いてるのか!っこほ……ンッ、早瀬!」

反応があるまで叫びたいが、長い間水を飲んでいない喉が限界を迎えつつあった。
合間に乾いた咳を挟みつつ、二、三分ほど虚空に話し掛けていただろうか。

「随分元気だね、由良君」

ドアが開く音とともに、穏やかな声。
突然声を掛けられたことそのものにも、少なからず恐怖の対象になっている男の登場にも驚き、由良は咄嗟に口を噤む。

「あれ? なんだ、もうお喋りはやめてしまうの?」
「っ煩い!」

条件反射で応じただけでも、何度か咳き込む。
早瀬がベッドの縁に腰を下ろした気配がした。

「ごめんね、喉が渇いているんだよね。水持ってきたから、飲んでよ由良君」

言いながら、頭上で戒められている腕を解かれる。
されるがまま上体を起こし、裸の背の下にクッションが敷かれた。
度重なる疲労で我知らずくたびれている由良は、思わず力を抜いてそれに凭れる。
目隠しを解こうとした手を、けれど早瀬は見逃さなかった。
あっという間に後ろ手に縛られてしまい、由良は混乱を隠せない。

「待っ……なんだよ、水飲ませてくれるって……!」
「うん、言ったよ。だからほら、あーん」

口許に、陶器が触れた。
飲みやすいよう起こしてはくれたが、自由にしてくれる気はさらさらないらしい。
由良は忌々しげに眉を寄せたものの、本能には逆らえなかった。
恐る恐る口を開ける。
グラスの縁が下唇に当たり、少しずつ中の液体が咥内へ入ってくる。
由良はそれを、異常な状況下でぎこちなさは拭えなかったが、ゆっくりと嚥下した。
欲していた飢えが満たされ、四肢が脱力していく。
クッションに体重を預けているその下で、依然としてひと纏めにされている腕が痺れ、感覚を失っていく。
その感触すら、何故だかふわふわとした気持ちよさを齎した。

「……っ、ん……」

グラスの液体すべてを時間を掛けて飲み干し、ひくん、と腰が微かに震えた。
どうしてだろう、皮膚がさざめいている。
なんだか、おかしい――おかしい、気がする。
よく判らない。頭の中がぽわぽわとしていて、少しずつ、少しずつ、警戒心が崩れていってしまう。

「んっ……は、早瀬っ……ぉ、まえ、何飲ませっ……」

目隠しの向こうで、男がうっそり微笑んだ気がした。

「気付くのがちょっぴり遅かったかな。君を素直にしてくれるお薬だよ。美味しかったでしょう?」
「っば、……馬鹿野郎ッ……! お前っ……ただ、の、水だと思ったのに……!」
「うん、そうだね。これ、無味無臭だし。現物を見ている僕だって水と見分けが付かないもの。多分目隠しがなくても、由良君はごくごく飲んでくれたと思うよ」
「ばかっ……やろ……ぅ、ぁ、……ぁあッ……」

腹の奥から、ぞくぞくと、じわじわと、由良をだめにする欲情が迫ってくる。
なけなしの抵抗で身をくねらせる。
しかし両腕も両脚も拘束されていては、まともな動作は取れない。

「ぁあ……ぁ、ッはぁ……は、ぁんっ……はーっ……はーっ……」

愛しい人がふしだらな性欲に侵されていく過程を、早瀬はたっぷりと特等席で視姦した。
無意味に背を反らしたかと思えば、首を左右に振る。
その細い首すら、じっくりと火照っていく。
頬はとっくに赤みが差していて、なんとも美味そうだ。
 
「あァッ……ッ、は、ぁっ……ぃ、ぃやだっ……いやだぁッ……!」

クスリの効果でもって理性が壊れていくのを恐れ、由良は引き攣った声を上げた。
それでも身体は意思を裏切り、見る間に劣情へと絡め取られていく。
それが傍目にも判る。
茶褐色の粒でしかなかった突起が、よく熟した紅色の果実へ変貌するから。
萎えていたペニスが鎌首をもたげ、そそり勃ってビキビキと血管を浮き立たせていくから。

「はっ……ぁ、ぁあっ……ぃや、いやだァッ……ぉっおれ、ぁっ、なんでえっ……!」

もう感じたくないのに。もう達したくないのに。
精神はとっくに音を上げているにも拘らず、勝手に昂ぶっていく肉体が休息を許してくれない。

「ァッ、っひンッ!」

拙く喘いでいると、おもむろに足首を掴まれた。
視界を潰されているのも手伝い、感度が跳ね上がっている。
たちまち悦んだ嬌声が漏れ、由良はぐずぐずと泣きながら男の手でもってうつ伏せにひっくり返される。
締まりのないカウパー液を垂らし続ける屹立がシーツに擦れ、びくびくと震えて軽く達した。
上体は伏せたまま、腰だけ掲げさせられる。
力の入らない脚はがくがく痙攣していたが、早瀬が意に介する気配はない。

(いやっ、だぁ♡俺っ……もぉ、イキたくない、のにっ!こんなにっ……感じ、てる♡頭ン中っ、馬鹿になってる!♡♡)

『素直にするお薬』とやらは、てきめんに効いてしまっているらしい。
それを頭の片隅で自覚するのが精いっぱいだ。
無骨な男の手が粟立った皮膚を撫ぜるだけで、媚びた声が上がる。
くちゅ、くちゅ、と粘性の水音が耳についただけで、言い知れぬ期待感で腰から下がとろける。
幾度も重ねた絶頂でゆるんだ後ろの穴が、何かを求めてくぱくぱと収縮しているのが自分でも判る。

「ぁッ……♡ぁアッ♡はやっ、せぇ♡ァッ、ァっ!」

とろ、とろ、と尿道を伝い落ちていく先走りの感触にさえも、背に猥雑な電流が駆けた。
それがひっきりなしにやって来ては、由良の中の倫理観や常識を呆気なく押し潰していく。

「ぉれっ♡ァっ、ぃやっ、いやァっ……!おれ、ァ、いゃっ……なのに♡ぉんなッ、に、なってぇっ……♡」
ひくっ……ひくんっ
――ずぶっ

「アーーーッッ♡♡」
びくびくびくっ!
びゅっ……びゅうっびゅっ

待ち望んでいたものの衝撃は、由良の想像を軽々と上回った。
挿れられた途端前が弾け、先の手淫で枯れさせていたと思っていた精液が噴き出る。
容赦なく異物がねじ込まれたアナルが、待ってましたとばかりにぎゅうぎゅうと締め付けている。
ドラッグのせいで熱に爛れた粘膜が、細くて硬いものをしゃぶっている。

「ァッ……♡ぁっ、ぁんっ!あーー……ンッ♡」

いやだ、だめだ。
拒まなければいけない。
コレを受け入れてはだめだ。
頭では判っていながら、異物をしゃぶるのをやめられない。
後ろ手に拘束され、色狂いのように大きく脚を開き、自ら腰を振って骨ばった指を抽挿するのをとめられない。

「ァッ、ぁんっ!ァーンっ♡ぁはっ……はぁんっ、アンッ♡」

耳につく濡れた女のような鳴き声が、自分の口から上がっているのだと信じられない。
ああ――だが、気持ちいい。
気持ちいい……気持ちいい、気持ちいい!

「ぁはッ、はぁうっ!っひぃンッ!ぁっ、ァンッ!」
ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅっ!
とろっ……とろっ、とろーっ……

素直に堕ちきった褒美とばかり、指が増やされる。
それは激しく抜き差しして、ますます由良を狂わせた。
精液は栓を失して垂れっぱなしになっており、はしたなくシーツを汚す。
イキ続けていることにさえ、由良は気付けない。
体内で暴走している劣情の逃げ場を求め、めちゃくちゃに腰を振る。

「っひぁっァンッ、アーーーンっ♡♡そっ……ぁっ、アーッアあぁッ♡ぁっ……そこぉっ!はぁんっ♡ぁんっアッぁっ♡」
「ハァッ……ハァッ……」
「そこっそこぉっ♡ぁっ、もっ……っほぉンッ♡ぁんっ♡」
びくっびくびくっ!

硬くしこった箇所に指の腹が当たり、身も世もなく乱れた。
はしたなくねだると早瀬は執拗にそこばかり捏ねてきて、由良は淫靡な笑みを浮かべた。

「そっ……ぁアッ♡いぃっイイよぉっ♡ぃっ、ぁっ、ぁハァンっ、ァッ、ぁあっ……♡」
じゅるっ……ずぼっずぼぼっ……

出し抜けに指が抜かれ、由良はかくかくと腰を振る。

「ァッ……ひ、ァ、ンッ……んんっ」
(ぁあっ……♡もっ、と、ほしっ♡ァッ♡おれっ……もっ、ばかになっ、てぇっ♡おかしくっ、なってるっ!♡)

咥え込むものを渇望し、綻んだアナがくぱくぱと収斂する。
――その望みは、すぐに叶えられた。
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