どうしてこんな拍手喝采

ソラ

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circus man

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「あーーーーたのしかったわねー」

楓さんが大きなお土産袋4つも持ってそう呟いた。少し疲れてはいるが、いつもより明るい表情に俺ははいとうなづいた。

「あっ、北谷さん、片桐さん…尚也くん寝ちゃったんですか?」

集合場所にやってきた北谷さんと片桐さん、そして片桐さんに背負われる尚也君の姿が見えた。すやすやと気持ちよさそうに寝息をこぼす尚也君もどうやら満足そうである。

北谷さんは苦笑しながら、車に荷物を詰めた。

「高梨はテメェの車で来てんだろうな?」
「あたまえっしょ。この2人の足よ俺。」
「人聞き悪いわね~」
「高梨が暇だーって電話かけてきたんだろう!」
「ていうことなんで組長俺らはここで」

そう言うと高梨さんは車を出すために駐車場に消えていった。

「桜介くん」
「はい!なんすか冰澄さん!!!」
「わんちゃんみたい……。桜介くんが来るの待ってるね」
「…!!!!俺絶対合格するので待っててください!!!」

ぶんぶんとしっぽを振る桜介くんは車を出してきた高梨さんに引きずられるように回収されて行った。楓さんはウィンクをひとつ残すとその後を追う、俺はその光景に満足して頷いた。

「おい、随分ご機嫌じゃねぇか」
「平和だなぁって思ったんです!」
「可愛いじゃねぇか」
「政宗さん…今日なんだか気持ち悪いですよ…」
「てめぇ、人がせっかく……くそ、なんだ」

政宗さんは己の行動を遮ったポケットの振動に舌打ちをこぼした。いらだちをうかべる顔がディスプレイを捉えると、不可解へと変化する。彼は、そしてふたたび舌打ちをした。

「どうされました組長」

さっきまでは尚也くんの彼氏さんだった北谷さんが秘書へと様変わりすると政宗さんは前髪をかきあげ口を開いた。

「北谷、お前は片桐の弟送ってこい。片桐は、俺たちと一緒に行くぞ」
「組長どちらにいかれるのかいささか不明ですが、冰澄さんも尚也と一緒に送り届けますか?」
「いや、冰澄は…連れていく。あっちも冰澄目的だからな」

政宗さんの言葉に首をかしげると彼は至極めんどくさそうに首を掻いた。いつもと同じ雰囲気をまとっていることにこれが深刻ではないことがわかる。

「どちらへ?」
「本家だ。会長が、冰澄に会いたいだとよ」
「…辻間会長が?なるほど。それならば護衛はいりませんね?」
「あぁ、ちょっと寄ってくる。いいか冰澄」
「はい」

辻間会長、叔父さんの後見人だった人。母さんとももちろん面識があったはずで、父さんのことも知っている人。
そしておそらく政宗さんとも深い関係がある人だ。

北谷さんは一度頭を下げると自分の車に乗り込んだ。

「気は張らなくていい。あの人はいつも唐突だ。なんか欲しいもんあったら強請っていく姿勢でいろよ。敵じゃない。」

俺を安心させるように声をかける政宗さんの言葉に小さく頷きながら、頼もしい肩に頭を寄せると彼は一瞬驚いたように固まった。

****

「本家ー…」
「口空いてんぞ。」
「冰澄さんがそうなるのも当たり前っすよ俺も初めて来た時、度肝抜きましたし」
「和風じゃないんですね」

政宗さんの苦笑いを受けながら目の前の建物を見た。立派な洋風造りの家、というよりも屋敷に近いその建物が辻間さんのいる“本家”だという。
慣れた手つきで中へ踏み入る政宗さんについていくとスーツをきた男の人が立っていた。

少しくせ毛でタレ目がち、目元にあるかすかなしわは笑うと優しく浮かび上がる。彼はにこやかに俺を微笑むと頭を下げた。

「お久しぶりです。」

目の前の男の人に対して政宗さんが頭を下げて敬語を使ったことに驚いた。おれも反射的に頭を下げる。

「噂はかねがね聞いてるよ。いらっしゃい。会長が表出てろなんていうからなにか攻め入ってくるのかと思ってたけど。」
「会長も相変わらずですね。」
「あの人の俺に対する扱いももう少し改善されたらバッチリなんだけどね。」

どうやら政宗さんとは親しい関係のようで、男の人は、一通り政宗さんと話すと俺に目を向けた。

「こんにちわ。」
「こん…ばんわ」
「…そうか!もうそんな時間か!」

にこりと微笑んだ男の人はゆっくりと目を細めた。

「自己紹介するね。辻間陣です、よろしく。」
「冰澄、辻間会長のご子息で若頭の陣さんだ。陣さん、こいつが…」
「あぁ、言ったろう?噂はかねがね、ってね」
「……辻間さんの息子さん。」
「あぁ、よろしく」

高身長の彼は、俺と目を合わせる。直感的にさっきまで一緒にいた人を思い出した。どこか少年のようなその雰囲気は、本当に“三人”ともそっくりだ。

「……あ、の」
「…冰澄、高梨の親父さんだ。」
「驚いた、話したのか?」
「いや。冰澄は感が鋭くて。桜介と高梨を見てすぐ気づいてたのでたぶん、陳さんのことも」
「なるほど。洞察力と警戒心がすごいねぇ。敵が多い人生だったんだね。大丈夫、辻間の血筋は警戒しないで。」

陣さん、に曖昧に微笑み返してしまった。

彼は俺のその不自然な笑みに気づいていたようだけど何も言わずに、背を向け歩き始めた。俺達もその後に続くと、いかにも、な人たちが頭を下げていく。不思議な光景だ。

大きな家に1歩はいると、ふんわりと香った、懐かしいような匂い。
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