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番外編
④
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次の日から俺たちは幼馴染に戻った。
夏帆は朝、俺を迎えに来なくなり、俺も前のような生活に戻った。
とりあえず変わったことといえば、以前のように誰彼ともなく寝ることはなくなったということ。
そして、俺が小説を書きはじめたということだ。
最初は自己満足だった。
ただ自分の感じていることを言葉にすると、それが少しずつ俺の心を浄化しているような気がしていたからだ。
その原稿を読んだ夏帆は、夏帆の父親の会社で編集者として働いている兄にそれを渡し、何作品目かで俺のデビューが決まった。
作家になった瞬間、俺は『これでひとりになれる』と、また安堵した。
その頃にはもう、母親のしたことなど思い出す事も少なくなって、ただ人に対する強い猜疑心だけが燃えカスのように胸の底に積っていただけだった。
次の年に俺たちは高校を卒業して、学科は違ったが一緒の大学に入り、幸多に出会った。
幸多はどこかのらりくらりとした変なヤツで、いつの間にかつるむようになった。
地味に名前を知られていた俺は、大学に居心地のいいものを感じたことはなかったが、4年に上がって、ついに運命のあの日がやってきた。
松森健多。
そう、お前だ。
それが俺の運命を大きく変えた人間の名前。
俺が、唯一羽を休めることのできる場所。
その時まだ17の、俺と同じ、世間を何も知らない子供だ。
写メを見た時から俺はおかしかった。自分でもそう思うほど、不気味なくらい浮かれた。
それまで他人に興味をもったことなんてなかった俺が、お前だけはこの目でどんな人間なのか確かめたいと思った。
最初は単なる興味本位だった。
まさか自分が男に手を出すことになるなんて思ってもみなかった。
でもそれは、実際に生きて動いてるお前を見た瞬間から変わった。
触ってみて、話してみて、その驚くほど純粋で素直な瞳が俺の心を揺さぶった。
俺の曇った瞳とは違う、透明な光。
軽い悪戯で済ますつもりが、気がついたらお前を呼び出して、犯していた。
お前のよく動く口や、甘い啼き声、すべてが心地よかった。
いくら辱めてやっても、どこかで許されているような、そんな気がした。
だから初めてお前に名前を呼ばれたとき、もう駄目だと思った。
もう手放せない。絶対に。
お前の口からは嘘は出てこない。
たとえ嘘をついたとしても、それは可愛い嘘で、すぐに顔に出るからよくわかる。
それ以外はちゃんと話してくれる。
恥ずかしいことも、嫌なことも、俺が傷つかないように慎重に。
お前は優しいから、俺はそこにつけこんだだけなんだろう。
お前にはもっといい未来があったかもしれない。
俺なんかじゃなく、もっといい相手と巡り合って、幸せな家庭を築けたかもしれない。
お前の話してくれる亡くなった親父さんのように、いい父親になって子供を育てていけたかもしれない。
それでも俺は絶対に譲らない。
お前のすべてを奪う、そう誓ったから。
健多、赦してほしい。
お前がこの話を聞いて、俺の過去を聞いて、どう思うかわからない。
失望するかもしれない。同情するかもしれない。
でもたとえどう思われようが、俺はお前から離れない。
いつか必ず幸せにする。
俺と出会えてよかったと、そう思ってもらえるように。
その時まで、傍にいてほしい。
だから、どうか神様。
俺からコイツを奪わないでくれ。
ソファの上。
俺はそっと隣に座る健多の手をとる。
「健多。今から俺のこと・・・全部話す」
健多がすべてを聞き終わったとき、その手がまだしっかりと繋がれていることを、俺はただただ、心から祈っている。
Fin.
夏帆は朝、俺を迎えに来なくなり、俺も前のような生活に戻った。
とりあえず変わったことといえば、以前のように誰彼ともなく寝ることはなくなったということ。
そして、俺が小説を書きはじめたということだ。
最初は自己満足だった。
ただ自分の感じていることを言葉にすると、それが少しずつ俺の心を浄化しているような気がしていたからだ。
その原稿を読んだ夏帆は、夏帆の父親の会社で編集者として働いている兄にそれを渡し、何作品目かで俺のデビューが決まった。
作家になった瞬間、俺は『これでひとりになれる』と、また安堵した。
その頃にはもう、母親のしたことなど思い出す事も少なくなって、ただ人に対する強い猜疑心だけが燃えカスのように胸の底に積っていただけだった。
次の年に俺たちは高校を卒業して、学科は違ったが一緒の大学に入り、幸多に出会った。
幸多はどこかのらりくらりとした変なヤツで、いつの間にかつるむようになった。
地味に名前を知られていた俺は、大学に居心地のいいものを感じたことはなかったが、4年に上がって、ついに運命のあの日がやってきた。
松森健多。
そう、お前だ。
それが俺の運命を大きく変えた人間の名前。
俺が、唯一羽を休めることのできる場所。
その時まだ17の、俺と同じ、世間を何も知らない子供だ。
写メを見た時から俺はおかしかった。自分でもそう思うほど、不気味なくらい浮かれた。
それまで他人に興味をもったことなんてなかった俺が、お前だけはこの目でどんな人間なのか確かめたいと思った。
最初は単なる興味本位だった。
まさか自分が男に手を出すことになるなんて思ってもみなかった。
でもそれは、実際に生きて動いてるお前を見た瞬間から変わった。
触ってみて、話してみて、その驚くほど純粋で素直な瞳が俺の心を揺さぶった。
俺の曇った瞳とは違う、透明な光。
軽い悪戯で済ますつもりが、気がついたらお前を呼び出して、犯していた。
お前のよく動く口や、甘い啼き声、すべてが心地よかった。
いくら辱めてやっても、どこかで許されているような、そんな気がした。
だから初めてお前に名前を呼ばれたとき、もう駄目だと思った。
もう手放せない。絶対に。
お前の口からは嘘は出てこない。
たとえ嘘をついたとしても、それは可愛い嘘で、すぐに顔に出るからよくわかる。
それ以外はちゃんと話してくれる。
恥ずかしいことも、嫌なことも、俺が傷つかないように慎重に。
お前は優しいから、俺はそこにつけこんだだけなんだろう。
お前にはもっといい未来があったかもしれない。
俺なんかじゃなく、もっといい相手と巡り合って、幸せな家庭を築けたかもしれない。
お前の話してくれる亡くなった親父さんのように、いい父親になって子供を育てていけたかもしれない。
それでも俺は絶対に譲らない。
お前のすべてを奪う、そう誓ったから。
健多、赦してほしい。
お前がこの話を聞いて、俺の過去を聞いて、どう思うかわからない。
失望するかもしれない。同情するかもしれない。
でもたとえどう思われようが、俺はお前から離れない。
いつか必ず幸せにする。
俺と出会えてよかったと、そう思ってもらえるように。
その時まで、傍にいてほしい。
だから、どうか神様。
俺からコイツを奪わないでくれ。
ソファの上。
俺はそっと隣に座る健多の手をとる。
「健多。今から俺のこと・・・全部話す」
健多がすべてを聞き終わったとき、その手がまだしっかりと繋がれていることを、俺はただただ、心から祈っている。
Fin.
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