ぼたん ~不器用な歌い手達が紡ぐ音~

雪見桜

文字の大きさ
20 / 88
本編

19.タツの過去6(side.タツ)

しおりを挟む


「……あんたは、どうして挫けないんだ」

不意にそう問われる。
目を見れば、初めてそいつから情の通った強い何かを感じた。

「好きなものから無理やり弾きだされて、それでも何故まだ挫けず音楽を続けられる」

そう問われて俺の顔から浮かび上がるのは苦笑だ。
挫けてないわけではなかったから。
実際のところ何度も挫けているのだ。
例えば、今も。いつだって自分の無力さを痛感させられる。
どんなに腕を鍛えていたって、たかだか3年だ。
プロとして生きるには実力が足りない。
それを補える才能もない。
けれど芸能界にも世の中にも、シュンのように光るものを持った人間は山のようにいる。
そう痛感させられる時間は決して自分にとって楽しい時間ではない。
屈辱と、そう思ってしまうのは傲慢だろうか。
しかしそれは俺の中に浮かぶ正直な感想だった。
それでもこうして俺が未だギターを握り続ける理由、そんなものは一つしか思いつかない。


「音楽馬鹿なんじゃない?」

きっとそういうことだろう。
始まりは誰よりも中途半端な理由だった。
だが、だからこそここまで夢中になれた。
音を紡げる場所は変わってしまったし、未だ俺は何の将来も見いだせない。
それでも辞めるという選択はまだまだ俺の中にはないようだ。
そんな自分の思いに支えられている。

苦い顔で俺を見ていたシュンの目が、少しだけ丸くなる。
驚いているのだと、やっとシュンの感情を読み取ることに成功した。
案外こいつは正直な奴なのかもしれない。
そして俺と似た部分もあるのかもしれない。
そう思ったのはこの時のこと。

シュンは俺のギターを上手いとは決して言わなかったが、まだ素人の域にある俺のことを馬鹿にもしなかった。
素晴らしい才能も実力もあるのに、奢らない。
音楽がつまらないと言うのに、手を抜かない。
シュンは本当に音楽が嫌いなのだろうか?
そうは思えなかったのも一因だろう。
音楽に対して見ているこっちが苦しくなるほど真面目に向き合うシュン。
ストレスが溜まると言いながらも、ピアノを扱うシュンの手は丁寧だ。
音に、楽器に、敬意を払っているのが俺でも分かる。

……こういう奴が天下を取るのかもしれない。
唐突にそんなことを思った。
ごく自然に。自分でも驚くほど清々しく。

「なあ、シュンって言ったか」
「ああ」
「俺と組まないか?」

するりと言葉が出てきたのが分かった。
腕を磨く以外の方法をその時まで見付けられなかった俺に唐突に道が開けた気がしたのだ。
案の定目を見開き固まるシュン。
だが決して目はそらさない。俺の言葉を真っすぐに受け止め必死に考えている。

ああ、こいつは本当に真面目なのだ。
音楽に対していつだって真面目で、真摯で、だからこそあんな音が出せる。
ストレスが溜まるとかつまらないとか言いながら、それでもひとつひとつの音を呆れるほど丁寧に紡いでいる。


「案外、良いコンビになれるかもしれないぞ?」

俺の音楽でシュンを支えられると思えるほどの自信はまだない。
だが、直感でそう思った。
天下を取れるのは、俺じゃないかもしれない。
でもシュンなら取れる気がするのだ。
そしてシュンがそんな自分の音をつまらないと言うのならば、俺が引っ張り上げよう。
俺は技術も才能も足りない。
だが情熱と努力だけは誰にも負けないつもりだ。
技術が足りなくとも、必死で紡いだ心というものはちゃんと届いてくれるはずだ。
それを俺はフォレストで学んだ。フォレストでは何よりもそれを重んじていたから。
シュンに足りないものを俺が補えるなら、そうしたい。
それはそれまで考えたこともなかったことだった。

シュンがどうして俺の提案に乗ってくれたのか、分からない。
しかしその時から俺の夢は一人だけのものではなくなった。
ケンさんの店で働きながら、とにかくがむしゃらに音楽と向き合う日々。
シュンが加わったことで俺の日常は少しだけ賑やかなものとなった。
目標が見えてくるとギターの練習にも一層力が入る。
一通りの曲は余裕で弾けるようになったし、シュンの伝手を借りて通うようになったボイトレで声にも少しは張りが出てきたと思う。
そうやって少しずつ日々は変化した。

シュンがピアノだけじゃなく音楽全方向にセンスがあるのを知った時は驚いたが。
歌わせればケンさんにも「お前歌の方が良いんじゃねえのか」と言わせる程の声を響かせるし、曲を作らせれば緻密で繊細な曲をサラッと書き上げてしまう。

「……なんかお前一人の方が良い気がしてきた」

ついついそんな弱音も吐いてしまった気がする。
だがシュンはその度に呆れたように言った。

「一人じゃ無理だから組んでるんだ。タツは自分を過小評価しすぎ」

そして曲を作る時にも歌う時にも必ず俺の意見を求めてきた。
知識も技術も全く追いつかない俺の意見を真剣に聞いて、自分の作ったものを壊していくシュンが正直理解できない。
それでもそんなシュンに支えられていたのは確かなことだ。
支えよう、引っ張り上げようなどと言いながら、やはり俺は支えられる側だったのかもしれない。

シュンと組んでから1年ちょっと。
ある程度の曲が作れるようになって、俺達の骨格が出来上がって来た頃、やっとストリートライブをやってみたり音楽事務所宛に音源を送ってみたりと活動を本格化させた俺達。
だがまあ、そう簡単には事は運ばない。
そしてたまに返ってくる反応と言えば予想していたとは言え辛辣なものだった。

『ギターが邪魔』
『プロと素人でバランスが悪い』
『歌声をギターとコーラスが潰している』

シュンの才能にはやはり皆すぐに気付いた。
が、どうしても俺が足を引っ張っている……それが大体の評価だ。
中にはシュンだけを芸能界に入れようと連絡してくる事務所までいた。
シュンは断っていたみたいだが、自分勝手に惨めな思いを味わったりもした。

それでも挫けなかったのは、フォレストでの経験が大きかったのだろう。
たった少しの間に多くのファンレターをもらった。
俺を称える文、叱咤する文、応援する文。
何度も励まされる。
仲間との良いばかりじゃない思い出も、その時には支えとなっていた。
そうして何回も何回も無理やり自分を奮い立たせていた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2025.11.25)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ズボラ上司の甘い罠

松丹子
恋愛
小松春菜の上司、小野田は、無精髭に瓶底眼鏡、乱れた髪にゆるいネクタイ。 仕事はできる人なのに、あまりにももったいない! かと思えば、イメチェンして来た課長はタイプど真ん中。 やばい。見惚れる。一体これで仕事になるのか? 上司の魅力から逃れようとしながら逃れきれず溺愛される、自分に自信のないフツーの女子の話。になる予定。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

処理中です...