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本編
20.タツの過去7(side.タツ)
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シュンの評価はいつでも良くて、しかも下がらない。
同じく俺の評価も変わらない。
それでも挫ければそこで終わりだと、ひたすらギターを握った。
声もひたすら鍛えた。
仕事と音楽しかないくらいに打ち込んで、不安を少しでも払拭するべく時間を使っていった俺。
初めはそれで何とか振り払ってきた。
だが小さな言葉も小さな評価も積っていけば段々と重くなるものだ。
シュンの足を引っ張っているという焦りと、向いてないという周りの声。
気付かぬ内に、溜めていたんだろう。
「おい、タツ。お前少し休め」
「いや、大丈夫ケンさん」
「大丈夫じゃねえよ、それに最近のお前の音は機械的すぎる。どんどん下がるぞそんなんじゃ」
ついにはあの鬼教師だったケンさんにまでストップをかけられる始末。
焦る気持ちが強く、自嘲する思いも重なって、自分の目指す方向や自信、誇りといったものが見えなくなっていたのは事実だ。
そんな時に偶然出会ったのが、チエという少女だった。
『変わらず、真っ直ぐで、温かくて、優しい音です。貴方を憧れにして、良かった』
俺の気分転換をさせようとシュンが連れだしてくれた人気のない公園。
そこで彼女はそう言った。
あの時誰から見ても煮詰まっていた俺にそんなことを言ってしまう女の子。
高校の制服を着ているところをみると、シュンよりさらに若く昔の俺なんて記憶にも怪しいはずだ。
それなのに彼女は迷いのない目でそう言って走り去っていった。
真っ直ぐなのだろうか?
ただ平坦ということではなく?
温かくて優しい? 素人くさいだけだ。
そう思う自虐的な自分はいる。
けれど、ああやって涙を流してまで必死に言ってくれた彼女。
「……だから言った。見てくれてる人は見てくれる」
シュンに言われて放心状態の俺は脱力する。
名前も知らない少女の言葉に心が揺さぶられた。
長いこと忘れていた、演奏する側と聴く側とのあの繋がった感覚。
熱くなった目の奥を抑えられなかった。
そうすると今度は他の人にもそう思ってもらえるようになりたいだなどと余計な欲まで湧いてしまう。
そうして、また身心に無理を強いて音にのめり込んでいく。
それでも所詮凡な俺から出てくるものは、滅茶苦茶なものばかりでどうしようもない。
こんな俺にでも何かを感じてくれる人々に、ちゃんと返せる自分でありたいのに。
いくら模索しても先に進めない。
結果として目に見えるものがひとつもない。
すぐに落ち込む自分が情けなくも、やはり自信はどうしても持てない。
再び救ってくれたのは、やっぱりあの少女だった。
俺の中の見つからない答えを、音楽を通して彼女は教えてくれた。
俺の作ったあのやっぱり滅茶苦茶な曲を、楽しそうに弾いてみせたチエ。
音の一つ一つを拾い上げるたびに気付かせてくれた。
ああ、俺はやっぱり音楽馬鹿なんだと。
苦悩していた割に能天気なほど明るく前向きな曲を作っていた事にそこでようやく気付く。
あれこれと悩むくせに、一度演奏を始めてしまえば止められない。
中毒のようにのめり込んで楽しいとさえ感じてしまう。
そのことに、やっと気付いた。
長い苦労が、それだけで報われる気がした。
---------------------------------------------
長いこと回想しているうちに、気付けば店は閉まっていた。
そこにいるのは、最早馴染みになった師匠夫婦と相方と俺の4人だけ。
「抜け出すまで長すぎだ、アホ。っとに、お前は器用そうに見えて不器用だな」
呆れたように言うケンさん。
ずっと見守られていたんだと知って、苦笑する。
「でもまあ、良かったんじゃないかい? スッキリした顔してるんだし。恵まれた顔持ってんだから、そっちの方が良いよ」
ケンさんの奥さんである雅さんは、相変わらずカラカラと笑い場を盛り上げてくれる。
こんな無力な俺を信じ応援してくれる人は、少ないながらもちゃんとまだいるのだ。
一番に気付くべきだった大事なことを認識して、「ははっ」と罪悪感交じりの声が漏れた。
「分かった所で、これ。出てみない?」
そうして唐突にシュンが紙を取り出す。
「……全国公開オーディション?」
書いてある文字をそのまま読めば、シュンが無表情のまま頷く。
「ライブ形式で行われる新人発掘のコンテスト。優勝すればデビューらしい。かなり金かかってるし、大々的にやると思う」
どこからそんな情報を仕入れたのか随分詳しくシュンは言う。
「やろう、タツ。僕はいけると思う」
いつになく強気で言ったシュンにまた俺は気付く。
どうやらあの子に刺激されたのは俺だけじゃなかったらしい。
思わず笑い、頷く俺。
「そう、だな。やるか」
すっきりした気持ちで俺はそう答えた。
『勝負、です』
頭に蘇る新しい約束。
「……うん、見てろ。負けないから」
「なんか言った、タツ?」
「いや、何でもない」
心に誓って、俺は手を握った。
同じく俺の評価も変わらない。
それでも挫ければそこで終わりだと、ひたすらギターを握った。
声もひたすら鍛えた。
仕事と音楽しかないくらいに打ち込んで、不安を少しでも払拭するべく時間を使っていった俺。
初めはそれで何とか振り払ってきた。
だが小さな言葉も小さな評価も積っていけば段々と重くなるものだ。
シュンの足を引っ張っているという焦りと、向いてないという周りの声。
気付かぬ内に、溜めていたんだろう。
「おい、タツ。お前少し休め」
「いや、大丈夫ケンさん」
「大丈夫じゃねえよ、それに最近のお前の音は機械的すぎる。どんどん下がるぞそんなんじゃ」
ついにはあの鬼教師だったケンさんにまでストップをかけられる始末。
焦る気持ちが強く、自嘲する思いも重なって、自分の目指す方向や自信、誇りといったものが見えなくなっていたのは事実だ。
そんな時に偶然出会ったのが、チエという少女だった。
『変わらず、真っ直ぐで、温かくて、優しい音です。貴方を憧れにして、良かった』
俺の気分転換をさせようとシュンが連れだしてくれた人気のない公園。
そこで彼女はそう言った。
あの時誰から見ても煮詰まっていた俺にそんなことを言ってしまう女の子。
高校の制服を着ているところをみると、シュンよりさらに若く昔の俺なんて記憶にも怪しいはずだ。
それなのに彼女は迷いのない目でそう言って走り去っていった。
真っ直ぐなのだろうか?
ただ平坦ということではなく?
温かくて優しい? 素人くさいだけだ。
そう思う自虐的な自分はいる。
けれど、ああやって涙を流してまで必死に言ってくれた彼女。
「……だから言った。見てくれてる人は見てくれる」
シュンに言われて放心状態の俺は脱力する。
名前も知らない少女の言葉に心が揺さぶられた。
長いこと忘れていた、演奏する側と聴く側とのあの繋がった感覚。
熱くなった目の奥を抑えられなかった。
そうすると今度は他の人にもそう思ってもらえるようになりたいだなどと余計な欲まで湧いてしまう。
そうして、また身心に無理を強いて音にのめり込んでいく。
それでも所詮凡な俺から出てくるものは、滅茶苦茶なものばかりでどうしようもない。
こんな俺にでも何かを感じてくれる人々に、ちゃんと返せる自分でありたいのに。
いくら模索しても先に進めない。
結果として目に見えるものがひとつもない。
すぐに落ち込む自分が情けなくも、やはり自信はどうしても持てない。
再び救ってくれたのは、やっぱりあの少女だった。
俺の中の見つからない答えを、音楽を通して彼女は教えてくれた。
俺の作ったあのやっぱり滅茶苦茶な曲を、楽しそうに弾いてみせたチエ。
音の一つ一つを拾い上げるたびに気付かせてくれた。
ああ、俺はやっぱり音楽馬鹿なんだと。
苦悩していた割に能天気なほど明るく前向きな曲を作っていた事にそこでようやく気付く。
あれこれと悩むくせに、一度演奏を始めてしまえば止められない。
中毒のようにのめり込んで楽しいとさえ感じてしまう。
そのことに、やっと気付いた。
長い苦労が、それだけで報われる気がした。
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長いこと回想しているうちに、気付けば店は閉まっていた。
そこにいるのは、最早馴染みになった師匠夫婦と相方と俺の4人だけ。
「抜け出すまで長すぎだ、アホ。っとに、お前は器用そうに見えて不器用だな」
呆れたように言うケンさん。
ずっと見守られていたんだと知って、苦笑する。
「でもまあ、良かったんじゃないかい? スッキリした顔してるんだし。恵まれた顔持ってんだから、そっちの方が良いよ」
ケンさんの奥さんである雅さんは、相変わらずカラカラと笑い場を盛り上げてくれる。
こんな無力な俺を信じ応援してくれる人は、少ないながらもちゃんとまだいるのだ。
一番に気付くべきだった大事なことを認識して、「ははっ」と罪悪感交じりの声が漏れた。
「分かった所で、これ。出てみない?」
そうして唐突にシュンが紙を取り出す。
「……全国公開オーディション?」
書いてある文字をそのまま読めば、シュンが無表情のまま頷く。
「ライブ形式で行われる新人発掘のコンテスト。優勝すればデビューらしい。かなり金かかってるし、大々的にやると思う」
どこからそんな情報を仕入れたのか随分詳しくシュンは言う。
「やろう、タツ。僕はいけると思う」
いつになく強気で言ったシュンにまた俺は気付く。
どうやらあの子に刺激されたのは俺だけじゃなかったらしい。
思わず笑い、頷く俺。
「そう、だな。やるか」
すっきりした気持ちで俺はそう答えた。
『勝負、です』
頭に蘇る新しい約束。
「……うん、見てろ。負けないから」
「なんか言った、タツ?」
「いや、何でもない」
心に誓って、俺は手を握った。
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