ぼたん ~不器用な歌い手達が紡ぐ音~

雪見桜

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本編

21.兄妹

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「おかえり、ちー」
「た、ただいま……」
「何で俺が怒ってるか、分かるよね?」
「ご、ごめんなさいいいいい」

案の定というか、千歳くんは怒り心頭だった。
すごく心配をかけてしまったのだから、やっぱり私が悪い。
ずっと千歳くんに私は支えられてきた。
私がどん底にいた時も引き上げてくれた人。
一番心配させてはいけない人を心配させてしまった。

「本当に、ごめんなさい」

しゅんとして頭を垂れる。
いくら憧れの人の一大事だからと言って、ないがしろにしては絶対にいけない人だった。
ちゃんと事情を話せば理解してくれる人だ、まず真っ先に相談するべき人だったと反省する。

「……ったく、バカだねちーは」
「ん」
「夢中になるのは良いけど、ちゃんと教えてよ?俺達は運命共同体なんだから」

こつんと頭を軽く突いて千歳くんが苦笑いした。
あんなに怒った声をしていたのに、すぐに引っ込める。
ますます罪悪感が胸を占めた。
グッと唇を噛みしめて反省する私。

「俺もちょっとキツく言い過ぎた、ごめんな? 会ってたのがあのリュウだって知ったらムカついちゃってさ」

そうして告げられた千歳くんの言葉に、私は目を瞬かせた。

「な、なんで知ってるの? リュウと会ってたこと」
「何でって、大塚さんに名乗ったんでしょリュウ本人が」
「え、だって……」
「なめちゃいけないよ、大塚さんの情報網。リュウの本名ぐらい知ってるって、あの人」
「え……そう、なの? そういう、もの?」
「……まあ大塚さんの情報収集癖は異常だけど」
「え?」
「何でもない」

千歳くんが何かを誤魔化す様に大きく咳払いする。
何が何だか分からないまま視線をあちこちに巡らす私に、千歳くんは苦笑して頭を撫でてきた。

「ちーが電話出ることも忘れるなんて何か音楽してたんでしょ? リュウは、やっぱりまだ続けてるんだね」
「うん、すごかった」
「はあ、これ以上頑張んないで欲しいな……距離開くじゃん」

千歳くんはどこか拗ねているようにも見える。
思わず私は笑ってしまった。
途端にムッとした顔の千歳くんに優しく頬をつままれる。

「ご、ごめんね千歳くん! でも、違うの」
「何が違うわけ」
「千歳くんはリュウを越えられるもん。距離、開いてなんかないよ?」
「……うーん」
「本当だよ! だから喧嘩売ったんだもん」

正直な思いを伝えれば、今度は千歳くんが目を瞬かせた。

「え、喧嘩売ったの? ちーが?」

信じられないと言うように聞き返されて、また笑ってしまう。
タツのことを思い浮かべると気持ちがとても清々しかった。
あの空間にいられたことが幸せだと思えるほど、素敵な時間をもらった。
そう、とても幸せな約束をしたんだ。

「売ったの。だって、千歳くんの魅力はまだまだこんなもんじゃないんだから」
「過大評価しすぎだって。頑張るけどさ」
「過大評価じゃないよ。千歳くんはてっぺんとれる人だから。私が保証する」
「……うん、ありがとうちー」

まだまだ自分に自信をつけるのは難しい。
けれど千歳くんのことならうんと胸を張れる。
千歳くんはあのリュウを越えられる。
力強くて、努力家で、そして圧倒的なオーラを持っている。
フォレストやタツが持っているあの輝きは千歳くんにもある。
圧倒的な勢いを持ちながらもこんなに心優しくて、私の歌にあれだけの感情を込めて歌ってくれる人、他にはいない。
私が考えた音を誰よりも理解して表現してくれる人。

タツの音は明るく前向きで皆を元気付かせてくれる。
千歳くんの音は、皆を圧倒させながらもどこか安心させてくれる。
同じ力強い音でも、少し違う。
違うけれど、ちゃんとそこには他にはない色がある。

『俺も、負けないから』

……うん、私だって負けない。

「あー、でもやっぱリュウは腹立つ」

大きな声で千歳くんがそんなことを言う。
首を傾げてその意味を問えば、千歳くんが苦笑して続けた。

「だってリュウが絡むとちーは本当元気になるからさ。感動させんのも惹きつけんのも全部あいつじゃん」

心底面白くないとブツブツ言う千歳くんは、やっぱり私には勿体ないくらいのシスコンなんだと思う。
嬉しくて思わず笑ってしまう。

「強敵、だね。たぶん上ってくるよ、あの2人」
「……2人?」
「タツね、相方さんいたの。その人もすごいの。だから多分近いうちに上がってくる」
「あー……胃が痛い。止めてくれ、これ以上才能持ちが上がってくるのは」
「ふふ、でも千歳くんが一番だよ」
「……だから過大評価しすぎ。でも負けねえ、絶対」
「うん、私も頑張る」

何回も何回も繰り返した確認を、私達はまたする。
そうやって私達はここまで来た。
辛いこともあるけれど、そうやってお互いに励まし合って今がある。
千歳くんと笑いあって、私達は決意を固くした。

千歳くんの中にも葛藤があるのを私は知っている。
なにせ千歳くんはまだとても若い。
私と同い年なのに、私や事務所の人々の想いを背負って舞台に立っている。
彼にかかっている重圧は相当のものだ。
芸能界には才能があって経験も豊富なアーティストがたくさんいる。
そんな人達の元に、形式的には1人で挑んでいるようなものだ。
いつも矢面に立ってくれるのは千歳くんの方。
私はいつだって守られている。
そして彼は私に弱音を滅多に吐かない。

「成長、しなきゃだね」

グッと手を握り締めた。
頼りっきりじゃなく、私にも頼ってもらえるように。

「ちーはもっと自信持ちなよ、大丈夫だから」

いつも千歳くんはそう言ってくれる。
だから、私もちゃんと応えたい。

「今にね、私も千歳くんを引っ張れるようになってみせるよ!」
「え、ちーが? うーん、それされると俺の立場がなあ」
「うん?」
「ううん、何でもない。ありがと」


そうして、やっぱり音楽馬鹿な私達は夜遅くまで曲を練り上げていた。







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