ぼたん ~不器用な歌い手達が紡ぐ音~

雪見桜

文字の大きさ
25 / 88
本編

24.新曲

しおりを挟む

自分でも驚くほどの勢いで五線譜が埋まっていく。
書いては消し、ああでもない、こうでもないと唸るうちに書かれた楽譜が黒く染まっていく。

「……本当いつも思うんだが、こいつの頭の中はどういう構造してるんだ」
「大塚さん今さらなに言ってんの。そんなの分かるわけないだろ、ちーは超人なんだから」

そんな声なんて聞こえていない。
千歳くんも千歳くんなりに主人公像を掴もうと台本と睨めっこしていた。
そして、おおよそ私と同じ答えに辿りついたらしい。
私よりも賢く聡い千歳くんだ。
その千歳くんが私と同じ答えに着いたということは私の解釈は間違えていないんだろう。

「……哀れだな、この主人公も。なのにちっともそんな感じがしない。カッコイイんだけどすっごい切ない」

ぽつりと呟かれた言葉。
耳に入ってハッと千歳くんに目を向ける。

「え、なに。ごめんちー、もしかして邪魔した?」
「ううん、ううん! 千歳くん、こっち」
「え」
「もっと教えて」

私よりうんと詳しく理解していると判断して、引っ張りだし色々と質問攻めをした。
どうしてここでこういう行動に出たのか、どうしてここでこんなこと言ったのか。
大まかに理解できていても納得できない言動をひとつひとつ拾い上げて千歳くんに意見を聞く。
千歳くんは表現力に長けたアーティストだ。
その分感受性も豊かで、彼の意見はいつも参考になる。
そうしてほとんど寝ずに事務所に缶詰で、曲の骨格が大まかに出来あがった。
〆切3日前のことだ。

ここからは千歳くんを中心に詰めていく。
伴奏をどうするか、テンポはどうか。
歌うのは千歳くんだけれど、今回は千歳くんが前に出るのではなくてドラマの核が前に出る。
ドラマの雰囲気と、ストーリーの軸。
作った曲がそこから外れていないか。
細かく詰めていく。

「う……ん、なんかここのメロディーが気持ち悪いな。千歳くんの声だとこっちの方が多分良い、かな」
「え、ここ? そう? あー、でも確かに言われてみれば」
「あとサビの一歩手前、テンポズレてるからもう少し刻んだ方が良いかも」
「となると、結構変わるな。ちょっと待って調整する」

そんな会話はレコーディング室で行われる。
ほぼ即興に近い形で作りあげられていく曲。
双子というのはこういうとき便利だ。
意志疎通がしやすい。
そして私達と仕事をしてくれる楽器隊の人達も皆とても出来る人達だ。
滅茶苦茶な順序で高速に修正していく私達を理解してついてきてくれる。
時間が全くないと言いながら、妥協のできない曲作りが続けられた。
そうしてやってきた〆切当日。

「で、できた……」
「うえ……さすがに疲れすぎて気持ち悪」

最後の一音を作り終わった瞬間に雪崩れる私達。
さすがに集中力も限界だった。
ちなみに楽器隊の人達はもう少し先に上がっていたけれど、皆やつれた顔をしていた。
……無理に付き合わせて申し訳ない。
最後に一番の核である千歳くんの歌を詰められるだけ詰めて、理想形に近くなるまでやっていたら本当にギリギリになった。

「……大したもんだわ、まさかこのレベルを本当に1週間で作りあげるとは思わなかったぞ」
「無理だと思うこと頼まないでよ、大塚さん」
「悪い悪い、お前らの力を信じてたってことで許せ」
「お、大塚さ……修正依頼は、出来れば明後日以降が嬉しい、です」
「千依、分かったからお前は寝ろ。倒れんぞ」

とにもかくにも、この仕事はやっぱりやりがいがある分ハードだ。
それでも納得いくものが作れたと思う。
私も千歳くんも、これならば自信を持って届けられる。

出来あがった曲は、闇というには少し地味な印象かもしれない。
初めて聴く人には闇の印象は抱きにくいだろうと私も思う。
本当にこれで良いのかと楽器隊の人達には何度か尋ねられた。
けれど、きっとこれで良い。
たぶんこの主人公は、闇というよりも希望を見いだそうとしていたと私は解釈した。
手段が闇になってしまっただけだ。
闇が主テーマではあるけれど、主人公の心情を思えば一般的な闇のイメージとは少しずれる。

ダークヒーローには違いない作品。
主人公は、光の世界では自分の守りたいものが守れないと察してしまうほど繊細で聡い少年だった。
そして光も闇も切り捨てられなかったひどく優しい少年だった。
だから間違えた方法であろうとも、闇に落ちて希望を託した。
そういう話だ。
超能力物というどこか現実離れした話でありながら、現代社会にも通じる課題をテーマにしたドラマ。
だから闇を主体とするのではなく、切なさとクールさを主軸に曲を作った。

依頼者からどう受け取られるか分からない。
こんな曲ではイメージにそぐわないと言われてしまうかもしれない。
仕事相手は私達よりうんと人生経験を積んできた大人で、私達の解釈はまだまだ甘い所もある。
それでも今の自分達に出来る最大限を発揮したつもりだ。

『……うん。俺達はライバルだ』

そう言ってくれたタツの言葉に胸を張れる自分でありたいと、そう思った。
自分の居場所で、タツにも負けない曲を作れる私でありたいから。


「2人ともお疲れさん。通ったぞ、この間の曲。この短期間でよく仕上げてきたと、監督直々に感謝の言葉があったくらいだ」
「ほ、ほんと……?」
「ああ、少しだけ修正は入るがな。それもドラマで使う都合上のものだから」
「良かったあ……」
「ま、当然だね。ちーが全力で作ったんだから」
「お前もよくやった、千歳。よくここまで感情を掴んで表現できたな」
「……別に俺は。というか褒めるとか止めてよ、気色悪い」
「素直じゃねえな、お前は」

……私の中でもまたひとつ誇りが積み上がる。
千歳くんと拳を突き合わせて喜んで、出来上がった楽譜を指でなぞる。
どうかこの曲も誰かの心に届きますように。
そう願い抱きしめた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。 「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」 その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。 恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。 まさにいま、開始のゴングが鳴った。 まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。

【完結】元恋人と、今日から同僚です

紗和木 りん
恋愛
女性向けライフスタイル誌・編集部で働く結城真帆(29)。 仕事一筋で生きてきた彼女の前に、ある日突然、五年前に別れた元恋人が現れた。 「今日から、この部署に配属になった」 そう告げたのは、穏やかで理性的な朝倉。 かつて、将来や価値観のすれ違いから別れた相手だ。 仕事として割り切ろうと距離を取る真帆だったが、過去の別れが誤解と説明不足によるものだったことが少しずつ見えてくる。 恋愛から逃げてきた女と、想いを言葉にできなかった男。 仕事も感情も投げ出さず、逃げずに選び直した先にあるのは「やり直し」ではなく……。 元恋人と同僚になった二人。 仕事から始まる新しい恋の物語。

ヒ・ミ・ツ~許嫁は兄の親友~(旧:遠回りして気付いた想い)[完]

麻沙綺
恋愛
ごく普通の家庭で育っている女の子のはずが、実は……。 お兄ちゃんの親友に溺愛されるが、それを煩わしいとさえ感じてる主人公。いつしかそれが当たり前に……。 視線がコロコロ変わります。 なろうでもあげていますが、改稿しつつあげていきますので、なろうとは多少異なる部分もあると思いますが、宜しくお願い致します。

幸せのありか

神室さち
恋愛
 兄の解雇に伴って、本社に呼び戻された氷川哉(ひかわさい)は兄の仕事の後始末とも言える関係企業の整理合理化を進めていた。  決定を下した日、彼のもとに行野樹理(ゆきのじゅり)と名乗る高校生の少女がやってくる。父親の会社との取引を継続してくれるようにと。  哉は、人生というゲームの余興に、一年以内に哉の提示する再建計画をやり遂げれば、以降も取引を続行することを決める。  担保として、樹理を差し出すのならと。止める両親を振りきり、樹理は彼のもとへ行くことを決意した。  とかなんとか書きつつ、幸せのありかを探すお話。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 自サイトに掲載していた作品を、閉鎖により移行。 視点がちょいちょい変わるので、タイトルに記載。 キリのいいところで切るので各話の文字数は一定ではありません。 ものすごく短いページもあります。サクサク更新する予定。 本日何話目、とかの注意は特に入りません。しおりで対応していただけるとありがたいです。 別小説「やさしいキスの見つけ方」のスピンオフとして生まれた作品ですが、メインは単独でも読めます。 直接的な表現はないので全年齢で公開します。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

処理中です...