ぼたん ~不器用な歌い手達が紡ぐ音~

雪見桜

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本編

48.フォレスト

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「はい、どうぞ」

内から低く太い声が届く。
千歳くんが反応してドアノブに手をかける。
私は一度強く目を瞑ってから、彼に続いた。
そして目に入ったのは、いつもテレビの向こうで見ていた4人組。

「失礼します、ご挨拶にきました。奏です、今日はよろしくお願いします!」
「お、お願い……しますっ!」

千歳くんの言葉に続いて何とか言葉を発する私。
反応は早かった。

「ああ、よろしく。って、その後ろにいるの誰だ」

真っ先に返事をくれたのは、リーダーであるシゲさんだ。
寡黙だけど何かあると真っ先に矢面に立つ男前だと、そんな評価をされている人。

「俺の相方のちぃです。今日は彼女も演奏に加わるので一緒に挨拶まわりしているんですよ」

ニコニコと緊張の色も見せず千歳くんが答える。
どう反応すればいいのか分からずやっぱり私は「よろしくお願いします!」とだけ言って頭を下げた。

「……地味」

端的にぐっさり感想を言ったのは一番人気の隼人さん。
容姿端麗な人ばかりのフォレスト内でも特に顔が整っていて、そして猫のように気まぐれなキャラだったと思う。

「おい、隼人。ごめんな、チィちゃん? よろしくね、大地って言います」

そしてすかさずフォローを入れてくれるのは、優しく癒し系と人気の大地さん。
クールな感じの他の3人に比べ、安心するような笑顔を見せてくれる人だ。

「ずいぶん若ぇな、本当にそいつが曲作ってんのかよチトセ」

最後に率直にそう聞いてきたのは、ワイルド系で見るからに男らしさ全開のタカさんだった。
やっぱりどう答えれば正解か分からず、コクコクと何度も頷くしかできない。

テレビで受ける印象と全く同じ感じの人、全然違う感じの人、それぞれいるけれど、やっぱりみんなオーラがすごい。
そこにいるだけで惹きつけられるようなそんな空気。
さすがに第一線で長年活躍している人は違う。

「この子が奏の要ですよ、タカさん。ちーは天才で最強に可愛いですから。俺も霞むくらい」
「ああ? 可愛いとかどうでもいいわ。あんな曲作るように見えねえから言ってんだよ」
「嫌だな、見た目だけで判断しないでくれます? それにちーはめちゃくちゃ可愛いじゃないですか。タカさん目腐ってます?」
「ああ!? てめえ相変わらず性格悪ぃな」
「嫌だなぁ、隼人さんに比べればマシですって」
「……なんでそこで僕を巻き込むかな。構うの面倒なんだけど」

私が空気に圧倒されている間に、千歳くんはというとすっかりいつも通りのテンポでタカさんと隼人さんと会話をしていた。
ずいぶん親しそうなそれにびっくりして、思わずまじまじ千歳くんを見つめてしまう。

「……こっちが素か、チトセ」
「お前達、チトセ君と仲良かったのか? 知らなかったんだけど、いつの間に……」

どうやらそれはフォレストサイドも同じようだ。
年長組であるシゲさんと大地さんが驚いたように年少組2人を見ている。

「前番組でかぶった時に話したんだよ。こいつ胡散臭い笑顔しかしねえからうざくなって」
「あの時タカ機嫌最悪で僕に当たられるのも嫌だったから、たまたま通りかかったチトセに矛先ずらしたんだよね。何だかんだそれ以来話すようになってね」

答えをくれたのはフォレスト側の2人だった。
千歳くんは笑顔のまま、けれど少し口端がヒクヒクとしている。
……どうやらかなり腹の立つ出来事だったらしい。

「……お前たちな、他人に迷惑かけるなとあれだけ言っただろう。悪いな、チトセ君」

呆れたまま大きくため息をついたシゲさん。
大地さんがすかさず頭を下げてくれる。
タカさんと隼人さんはこんな時でもマイペースだ。
そして千歳くんは、そんなフォレストの反応ににこりと笑顔を浮かべたまま大地さんと顔を合わせる。
……何だか表情のない笑顔で怖いのは気のせい、なのだろうか。

「大地さん、謝らないでください。大地さんは何も悪くありません。それにタカさんが気分屋のガサツな人で、隼人さんが性格最悪なのも元々分かってましたから。特に隼人さん、同類ってすぐ分かるものですよね」
「ち、ち、千歳くん!?」

すっかり応戦体勢に入り毒舌を発揮し始めた千歳くんに気付いて慌てて止める。
嫌な予感がした段階でちゃんと止めに入るべきだったと後悔するけど遅かった。
千歳くんは基本的に冷静で器用な人だけれど、たまにプチンと切れて徹底的に攻撃的になる時がある。
まさに今のように。
ぎゅっと千歳くんの腕を掴んで駄目だと必死に伝える私。
思った以上に大きな声になってしまったらしく、強い視線を感じた。
ハッとフォレストの方を見れば、ひとり残らず私を見ている。

「ひ、ひぃっ、ご、ごめんなさいごめんなさい!」

気付いた時には謝り倒している自分がいた。
も、もしかして余計なことをしてしまったのではないか。
出しゃばる場面ではなかった……?
正解が分からなくて思わず千歳くんの方を止めてしまったけど、もしかして軽いジョークとか……?
途端に不安になる私。
頭をカクンと下げて90度になりそうなところで、今度は私が千歳くんに止められる。
落ち着くようにと千歳くんが肩を叩いて宥めてくれた。

「……おい、こいつ本気で大丈夫かよ。色々」
「地味で挙動不審……変なの」
「お前達もう黙れ、これ以上失礼なこと言うな。ごめんな、本当」
「……ったく」

反応はそれぞれだ。
心配されたり気味悪がられたり謝られたり呆れられたり、誰一人として同じ反応がない。
それでも不思議なことに、身体は必要以上に委縮したりしなかった。
なぜだろうかと考えて、ふと気づく。
……少し、似ているかもしれない。
そう思ったんだ。
使う言葉も、表情も、何もかも違うけれど何となく感じる。
タツと同じ空気を。
どこがと言われれば分からないけれど。

……うん、頑張る。
胸を張って、目線を合わせて。
今目の前にいる人達は私達の目標でもあるのだから。

「ち、ちぃです。み、皆さんみたく魅力的に演奏できるよう、が、が、頑張ります! よろしくお願いします!」

声は見事にひっくり返った。
条件反射でやっぱり頭は勢いよく下がり、身体は綺麗に90度。
まだまだ私はこれが精いっぱいで、そうそう変われるものでもない。
けれど顔を上げたら目線はそらさない。それだけは、頑張った。

「……なんかさ、一生懸命で可愛らしいよね。リュウがすっごい可愛がりそうなタイプじゃないか?」

返ってきた大地さんの言葉にハッと視線を送ってしまう。

「あー、分かる気がするわ。あのアホ根性バカだからな。この手のタイプ弱そう」
「タカに根性バカとか言われるのは屈辱だろうね、リュウも」
「ああ!? 隼人てめえ」

目の前で繰り広げられたのは、タツの話。
懐かしそうに、親しみを込めて話す3人と、会話に耳を傾けわずかに笑うシゲさん。

……タツ。
まだこの人達の中にもタツがしっかり生きているよ。
今も交流があるのかなんて分からないけれど、それでもちゃんと絆は続いている。

それが何だかたまらなく嬉しかった。
タツを信じて待っていてくれる人がここにもいることが嬉しい。
思わずふふっと笑顔を浮かべてしまう私。
それをフォレストの人達が見つめていた事にも気付かなかった。

「そろそろ失礼します。改めて、今日はよろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします!」
「……ああ、こちらこそ」

上手に挨拶が出来ていたのかなんて分からない。
もしかしたらすでに何か失態をしてしまったかもしれない。
それでも、心なしかフォレストの皆の顔は柔らかかった。
私も心が温かくて、幸せな気持ちをもらえた。

「上出来上出来、ちー、よく頑張りました」
「……お前らなあ、本気でハラハラするわ。色んな意味で」

楽屋に戻ってぐったりと崩れた私、にやりと笑う千歳くんに、げんなりした様子の大塚さん。
事情の知らないアイアイさんは「何やったんだ、お前ら」なんて面白そうに笑っている。
スマホから電子音がしたかと思えば、グループチャットが画面に映った。

『録画登録完了したよ、頑張れー! そして最高のチトセを見せてくれ!!』
『千依、いつも通りね。ちゃんと見てるからね。それと真夏、落ち着く』

2人らしい内容にふふっと笑みがこぼれる。
首を傾げた千歳くんに「真夏ちゃんと萌ちゃんから」と説明すれば、千歳くんもふわっと笑って「良かったね」と言ってくれる。
大きく頷いて、『ありがとう、頑張るね!』と入力し返事した。
そうして楽譜を手に取る。
音符をもう一度中に流し込んで、目を閉ざす。
頭の中に流れてくる音たちは、いつもと変わりない。
……うん、大丈夫。いける。

「んじゃ、そろそろリハの準備しろよ。終わったらすぐ進行の確認と全体リハだ、しっかりな」

大塚さんの言葉に強く頷いて、私は立ち上がった。

「千歳くん、やろう」
「うん、頑張ろう」

短く言い合って、光の舞台に私は足を踏み入れた。

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