77 / 88
番外編
千歳の独り立ち1
しおりを挟む「チトセさん、ちぃさん、おめでとうございます!」
「目線こちらに頂けますか?」
「振袖姿、よくお似合いですよ」
見事な快晴で、見事な成人式日和だった。
私と千歳くんは今、有名な神社の一角で多くのフラッシュを浴びている。
20歳を迎えた冬、他の新成人である芸能人と混ざってカメラに手を振る私達。
「ありがとうございます。俺のことはどうでも良いので、ちーのとびっきり綺麗な姿をとびっきり綺麗に撮ってあげてくださいね。そして俺にその写真を分けて下さい」
「ち、千歳くん!?」
「あはは、チトセは本当ちぃちゃん大好きだなあ。シスコンにも程があるぞ、相変わらず」
「いやあ、学生時代は千歳がここまで妹大好きとは知らなかった。生で見るとすごいな、本当」
千歳くんは鉄壁の笑みで私をフォローしながら、元同級生たちと談笑していた。
芸能科の高校にいた千歳くんだから同じ場所には友達や顔見知りも多くて、しきりに声をかけられ再会を喜びあっている。
その隣の私は相変わらずあわあわと動揺しきりで、成長出来ているのかかなり不安だ。
それでもやっとカメラを前にしても顔が土気色にはならなくなった。
音楽以外の時間でも少しずつ、自分を表に出せるようになってきたんだろう。
「さあ、おめでたい日ということで、定番の質問をしましょうか。皆さん、どのような大人になりたいですか?」
「あはは、本当にされるんですねその質問。答えばっちり用意してますよー?」
「おお頼もしい。では坂本さんからお聞きしましょうか」
囲み取材での軽快な会話に笑みを見せる余裕だって生まれてきた……と、思う。
相変わらず頭を必死にさせてぐるぐる考えながらも、それでも準備してきた回答を忘れることはもうない。
表面上だけでも、きちんと取り繕えるようになってきた。
「次に奏のお二人はどうでしょう?」
「月並みな表現にはなりますが、自分の言動に責任を持てる大人になりたいと思います。俺達を支えてくれる方々やここまで育ててくれた方々への感謝を忘れずに」
「あら、素敵ですね。ちぃさんは?」
「はい。きちんと自分の足で立てる大人になりたいです。支えられっぱなしではなくて、千歳くんや大事な人達を少しでも今度は私が支えられるように頑張ります」
「ふふ、今日も素敵な兄妹愛をありがとうございます。コメント、いただきます」
すらすらと出てきてくれた言葉に内心ほっとする。
マイクを向けてきたアナウンサーさんもにこりと笑ってくれて、千歳くんも変わらず柔らかな笑みで見守ってくれる。
何とかその気遣いに返したくて精一杯笑み返す。
そうして今日の仕事を私達は終えた。
『千依、見たぞテレビ。振袖、生で見たかったな。よく似合ってた』
「ほ、本当? あのね、初めて真っ赤な色を着たの。鮮やかで綺麗な色で、私、負けてなかったかな?」
『全然。可愛かった』
「か、かわ……っ」
『おーい、固まるなー? 声聞かせて』
「た、タツ……無理、だよ。慣れない、よ」
『……うん、本当可愛い。会いたくなるわ、今すぐ』
「わ、私も、タツに会いたい」
『待ち遠しいな、来週会うのが』
「……うん。でも、頑張る」
『……ん、俺も』
家に帰った後の、もはや日課ともなったタツとの電話。
日課と言っても、有難いことに今も私達は2人とも多忙の毎日で数日に一度くらいではあるけれど。
それでも声を聞けばたちまち元気になれてしまうのだから、本当にタツには敵わない。
会えるのは月に2度あれば良い方で、それも千歳くんや事務所の人達に手伝ってもらいながらの隠れたお付き合い。
きっと普通の恋人同士に比べれば、私達が一緒に過ごせる時間はうんと少ない。
それでも幸せを噛み締められるのは、いつだってこうやって思いを確かめ合えるから。
タツは変わらず優しくて寛容で、私の心を軽くしてくれる。
恋愛も漏れなく下手くそな私を受け入れて、大事にしてくれる。
……応えられるような自分になれるかな?
まだまだ私の人生勉強はスローペースだ。
「タツ。頑張って大人になるから、これからもよろしくお願いします。ちゃんとタツのことも引っ張れる私になりたいな」
『今でも十分だけどな、ありがと。まあ、しばらくは俺に引っ張られて下さい。年長者の役得だから』
じゃあ、またな。
そんな言葉を聞いて、通話終了のボタンを押せばたちまち部屋は静かになった。
珍しく今日は曲を作る気にはならなくて、なんとなくテレビの電源を入れる。
ちょうどニュースのエンタメコーナーで、そこにいたのは着飾って決意表明をする私達だ。
「やっぱり、不思議だなあ」
テレビの向こう側に自分の姿がある。
他の華々しい芸能人の人達と一緒の場所にいて笑い合う。
学校にすら行けていなかった自分がついこの間のように感じるから、やっぱり実感が湧かなかった。
奏になって、ちぃになって、学校に通い始めて、友達が出来て、テレビデビューして、恋人ができて、ここ5年くらいは本当に矢のようにあっという間に日々が過ぎていく。
あまりの速さに何かを取りこぼしてしまっていないか、不安になるほど。
「うん、でも成長できている、はずだよね」
今でも私はひとつひとつ確認しながらの毎日だ。
独り立ち出来ているわけではなくて、気遣われることの方が多くて、けれど何とか前向きに頑張れているのは多くの人に支えられ続けているから。
支えに、期待に、応えられる自分にならなきゃ。
その思いは、私を取り囲む人が多くなればなるほど強くなっていく。
コンコンと、扉を叩く音が響いて振り返ればそこにいたのは千歳くん。
「今良い?」と顔を出してくれた千歳くんに笑って頷く。
ベッドに腰かけて息をつく千歳くんは、心なしか少し緊張している様子だった。
……一番に私を支え続けてくれる大事な相棒。
私が一番に支えられるようになりたいと思うお兄ちゃん。
千歳くんのいつもとは違う様子に、何の話か分かって私は深呼吸する。
「千歳くん、どうしたの? なにか、あった?」
たちまち千歳くんは苦笑した。
ずっとずっと一緒に育ってきた私達だから、お互いの考えは筒抜けだ。
ベッドに座る千歳くんと、作曲用の電子ピアノの椅子に座る私。
どっちも部屋着で完全にプライベートな姿で、けれど背筋が伸びる。
目線がかみ合って10秒ちょっと、千歳くんが真剣な表情で口を開いた。
「ちー。俺、家を出るよ」
それは千歳くんが自分自身で決めた、強い意志だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
それは、ホントに不可抗力で。
樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。
「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」
その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。
恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。
まさにいま、開始のゴングが鳴った。
まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。
【完結】元恋人と、今日から同僚です
紗和木 りん
恋愛
女性向けライフスタイル誌・編集部で働く結城真帆(29)。
仕事一筋で生きてきた彼女の前に、ある日突然、五年前に別れた元恋人が現れた。
「今日から、この部署に配属になった」
そう告げたのは、穏やかで理性的な朝倉。
かつて、将来や価値観のすれ違いから別れた相手だ。
仕事として割り切ろうと距離を取る真帆だったが、過去の別れが誤解と説明不足によるものだったことが少しずつ見えてくる。
恋愛から逃げてきた女と、想いを言葉にできなかった男。
仕事も感情も投げ出さず、逃げずに選び直した先にあるのは「やり直し」ではなく……。
元恋人と同僚になった二人。
仕事から始まる新しい恋の物語。
ヒ・ミ・ツ~許嫁は兄の親友~(旧:遠回りして気付いた想い)[完]
麻沙綺
恋愛
ごく普通の家庭で育っている女の子のはずが、実は……。
お兄ちゃんの親友に溺愛されるが、それを煩わしいとさえ感じてる主人公。いつしかそれが当たり前に……。
視線がコロコロ変わります。
なろうでもあげていますが、改稿しつつあげていきますので、なろうとは多少異なる部分もあると思いますが、宜しくお願い致します。
幸せのありか
神室さち
恋愛
兄の解雇に伴って、本社に呼び戻された氷川哉(ひかわさい)は兄の仕事の後始末とも言える関係企業の整理合理化を進めていた。
決定を下した日、彼のもとに行野樹理(ゆきのじゅり)と名乗る高校生の少女がやってくる。父親の会社との取引を継続してくれるようにと。
哉は、人生というゲームの余興に、一年以内に哉の提示する再建計画をやり遂げれば、以降も取引を続行することを決める。
担保として、樹理を差し出すのならと。止める両親を振りきり、樹理は彼のもとへ行くことを決意した。
とかなんとか書きつつ、幸せのありかを探すお話。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
自サイトに掲載していた作品を、閉鎖により移行。
視点がちょいちょい変わるので、タイトルに記載。
キリのいいところで切るので各話の文字数は一定ではありません。
ものすごく短いページもあります。サクサク更新する予定。
本日何話目、とかの注意は特に入りません。しおりで対応していただけるとありがたいです。
別小説「やさしいキスの見つけ方」のスピンオフとして生まれた作品ですが、メインは単独でも読めます。
直接的な表現はないので全年齢で公開します。
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる