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番外編
萌の事情4
しおりを挟む「山崎さんって、何か変わってるよね」
「というかオタク?」
「美人なのに勿体ない」
そんな評価がされるようになったのは、中学生に上がった頃くらいのことだったか。
社交的な性格にはなれなくて、女子特有のグループなんてものも好きではなくて、1人でいることが多かったように思う。
宮下家は圧倒的に男が多くて、その中で育った私は女子同士の友情やグループ意識なんてものが正直少し煩わしかったのだ。
協調性が皆無とは思いたくない。
実際誰相手でもそれなりにそつなくは接することも出来たし、いじめも蔑みもなかった。
けれど、どうにも皆が右向け右である女子の空気に馴染めなかったのも事実だ。
いつも行動を共にするような友達が、私にはいなかった。
我を忘れて青春できるだけの行動力もなく、いつだって余計なプライドや羞恥心が邪魔をして、人との絆を深めることが苦手だった。
よく読む漫画のような女子同士の友情に憧れがあったのだと、言ったならば誰か信じてくれるだろうか。
授業の合間に好きな人の話をして、イベント時には一緒に盛り上がって、時には喧嘩もする。
そんな友達の絆は、私にとっていつもどこか遠く手の届かないもの。
憧れていても自分の臆病な部分と羞恥心が邪魔をする。
あまのじゃくだと、自覚はあった。
もう少し私自身が吹っ切れた性格だったなら良かったのかもしれない。
人の目にどう映るのか、鈍感な自分であれば気が楽だったのだろう。
普通の女の子が好きな話題よりも、男子が好むゲームや漫画が好きな自分。
キラキラしていて自分を輝かせることに時間をかけるよりも、ひとつでもグッズを集めたり本を読んだりゲームを進めたりすることが好きだった自分。
それでもそんな自分の趣味を全開にしたところで理解が得られないことも分かってしまったから、人から不思議がられない程度に見た目を気遣い趣味を潜めて暮らしてきた。
隠しきれていなかった部分も多々あったみたいではあったけれど。
それでも淡々と、誰も否定せず深く関わらなければ、皆ある程度はスルーしてくれる。
臆病で中途半端で、けれど変なプライドばかり高い。
私は面倒な性格をしていたのだ。
だから、真夏と友達になれたのは本当に幸運だった。
「ね、ね、山崎さんって奏知ってる?」
高校2年のクラス替え。
苗字が近くて席が前後になった真夏との初めての会話。
「奏……ああ、確かあの男子高校生の」
「そう、それ! 私めっちゃハマっててさあ」
やっぱり真夏は初めから全開だった。
自分の好きなことを好きだときっぱり大きな声で言える子。
一度好きになるととことん深くまで追及してしまう性格らしく、そして黙ってもいられない性格らしい。
周りがドン引きするくらいの勢いで真夏は熱く自分の趣味を語る。
そんな姿が私には眩しく映った。
同時に、自分の好きなものや考え、価値観をはっきりと示せる真夏がすごいと思った。
私にはできなかったことだから。
「山岸さんは自己主張がはっきりしててすごいね」
「う、ごめん。よくうるさいって言われたりする」
「別に良いと思うけど。私、山岸さんみたいな人好きだよ」
私にとっては何気ない一言だった。
けれど真夏はそんな私の言葉に目を輝かせて喜んでくれる。
いつだって楽しそうに奏の話をしては、低体温な私の返事にも喜び懐いてくれる真夏。
席替えまでの少ない時間で自分でも驚くほど仲良くなれたのは、そんな真夏の気性があったからだろう。
気さくで素直な真夏と名前で呼び合えるようになるまで時間はかからなかった。
真夏の隣はとにかく息がしやすい。
何しろ好きなものを好きだと言える、嫌なものは嫌と言える。
気ばかり張ってしまう学校の中で、真夏の傍でだけは素の自分でいられる。
央の仕事が多忙になってきて密かに感じていた寂しさも、埋めてくれたのは真夏だ。
少しずつ、私の心には余裕が生まれていった。
そうしてやっと周りにも目が向くようになって、そこで千依の存在に気付く。
一歳上で、本来ならば先輩であるはずの女の子。
私以上に人と接するのが不器用な様子の彼女は、いつも1人だった。
悪い人ではない、いつも返事は裏返りながらも必死にしてくれた。
空回ってしまって何もかも噛み合っていないだけ、本人が努力家であることは傍から見れば分かる。
友達作りに私も苦労したからこそ、どうにかしたいだなんてそんなことを思っていた。
けれどきっかけを掴めずいたのも事実だ。
「話しかけても怯えちゃうからなあ中島さん。私なんて声でかいし性格大雑把だからかえってストレスかけちゃいそう」
「……人と話してプレッシャーになってしまう人もいるからね。どうしたらいいかな」
そんな話を真夏としていたのを覚えている。
中島さんが1人でいることを好む人ならば、余計なお節介にも程がある。
けれどもし、クラスに馴染みたいと思っていたならば?
私と同じように心に憧れを抱きながら、それが上手く形になっていないだけだとしたら?
そう思うと、無視することが出来ずにいた。
きっかけがようやく出来たのは、とある休日のこと。
真夏に付き合いCDショップに足を運んだ時だ。
中島さんが見知らぬ男と歩いているところを偶然発見する。
「今の中島さん、だよね?」
「うん。一緒にいた人誰だろう、知り合いかな。なんか引っ張られてたけど、中島さん」
「……ねえ、まさか誘拐とかないよね」
「まさか」
「いや、でもさ。中島さんフラーッて付いて行っちゃいそうじゃない?」
「………」
真夏の言葉を否定できなかった。
少し強引に誰かに引きずられた様子の中島さん。
全身黒ずくめの顔も見えない男の人。
見比べて中島さんの心配をしてしまうのは仕方ないだろう。
よく教室で転んだり話すのに必死で荷物をぶちまけたりするところを見ていた私達は、彼女がわりと鈍くさいと呼ばれる方の人間であることは察していたから。
そうして追いかけて、それがきっかけで千依と仲良くなった。
人と話すことが苦手でいつも声をかけられただけで震えるくらいなのに、それでも千依は必死に言葉を返す。
何事にも一生懸命前を向いて頑張ろうとする彼女をすごいと思うようになるには時間がかからなかった。
千依は温かくて優しい。
いつだって私や真夏の普通とは少しズレた深い趣味の話をしたって、興味深そうに聞いてくれる。
人の価値観を否定することなく、尊重してくれる子。
だから私だって自分の好きなことは好き、駄目なものは駄目だと思うままに言えるようになった。
千依が必死に頑張っているのを見ているから、私も頑張ろうと思えることも増えていった。
真夏も千依も、私にとってはとても大事な恩人。
女の子同士の友情だなんて憧れのものを私に与えてくれた。
「……私も勉強しなきゃ」
「お? 何だ、回想終わったか」
恋人が出来て友達が出来て、そうして私の精神はぐっと安定したと思う。
今自分が何をするべきか、何をしたいのか、落ち着いて考えることができるようになった。
密かに央に置いていかれているように感じていた自分は、今はもういない。
私は私のペースで良い。
一歩ずつでも未来に向かえれば、比べる必要などないのだと教えてくれたのは、友達だ。
「それにしても、何でまた公務員志望? お前文才あるんだから文学部行ってそのままそういう方面目指せば良いのに」
「央が給料不安定な職種なんだから、私は安定路線の方が良い。路頭に迷いたくないし」
「……何気に酷いこと言うな、お前」
「いま現実見ないでいつ見るの。私は央が好きなことで夢を追いかけているのを見るのが好き。何かあっても私が経済面では支えるから」
「へいへい、すっかり逞しくなっちゃって。そろそろ兄貴分も終了かな。結構気に入ってたんだけど」
「……別に、央の妹でいたかったわけじゃない」
「おう、頼りにしてるわ。まあ俺もそう簡単にはヒモにならないけどな」
私の目標は、千依や央のような道とは少し違うかもしれない。
でも私は私なりに将来の道を大事な人に使っていきたいと思った。
央が思う存分好きなことを追いかけられるように。
そしてそんな輝いている央を傍で見続けられるように。
そんなこと恥ずかしすぎて親友達には言えなかったけど。
央はやっぱりお兄ちゃんのような安心させる笑みで私を見つめる。
「なあ、萌。俺は、お前のそういうとこが好きだよ。不器用で愛情深いとこ」
「……なに、急に」
「たまにはな。お前、どこか自信不足なとこあるから」
皆未来に向かって頑張っている。
私も負けずに自分の足で歩いていきたい。
央の予想外の告白に赤くなりながら、私は参考書を開いた。
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