7 / 17
7、夜会でのできごと
しおりを挟む
私から尋ねる前に、シークベット公爵様が先に話をしてきたのである。
「その上で改めて謝りたいことがある。もちろん信じてくれなくても構わないが……」
「いえ、しっかりお聞きしたいです」
「わかった」
シークベット公爵様はひと呼吸してからゆっくりと口を開いた。
「四年前の夜会だ。私は参加が遅れてね。到着したときにはすでにミミナ殿が酔い潰れていたのだよ。服装とそのときの寝相が、皆から視線が集中していたため、咄嗟に救護部屋に運ぼうと抱き上げた。私の目的のためにも……」
「そうだったのですね……」
「救護部屋のベッドにミミナ殿を横にさせたときだったよ。なにものかに急に襲われ、私も一時的に意識を失ってしまった」
「え!?」
「意識が戻ったときには……その……私は服を脱いでいる状態でなおかつ……」
「はい!?」
「つまり……ミミナ殿とだな……」
それ以上のことは話さなくてもなんとなく理解できた。
だが、もう起こってしまったことは仕方がない。真実を知れてよかったとも思っている。
それよりも気になることが増えてしまった。
「誰に襲われたか、犯人はどうなったのですか?」
「いや、この件を公にしてしまうとミミナ殿にとてつもない迷惑がかかる。今もなお信頼できる者に内密で調査をしている。そう判断するしかできなかったのだ……」
残念ながら貴族制度は徹底されているため、下のものの立場は弱い。
今回の事件を発表したとしたら、私とシークベット公爵様が不本意ながらもそういうことになっていたことも知られていたはずだ。
そうなれば、どんなにシークベット公爵様が弁明してくれたとしても、酔った状況で勝手にそういうことをしたとみなされ、私が処刑される可能性があった。
この国の貴族の法律はズルいことが多い。
公爵を襲うだなんて国家レベルの大事件だ。
それなのに、たった一人の追放寸前の私のことを考えて黙秘してくれた。
これがどれほど救われていたのか、今知ることができた。
「本当にすまないと思っている。ずっと昔からミミナ殿のことが好きで好きで仕方がなかった。そのうえでなぜかあの状況下。我慢することはできなかった。ゆえにクルウス殿と私の血が繋がっているのだろう……」
シークベット公爵様が頭を下げてきた。そんなことまで言わせるために聞いたわけではないし、謝ってほしいだなんて微塵も思っていない。
むしろ私はその事実を知って救われた。
「ど、どうか頭をあげてください」
「許されるべきことではないとわかっている。私はどのようなことでもミミナ殿に従おう。たとえ公爵を剥奪し国外追放、もしくは処刑でもミミナ殿が望むなら従う!」
「そんなこと考えていませんよ! とにかく、どうか顔だけでもあげてください。怒っていませんし、今の話は全て信じます」
ゆっくりとシークベット公爵様が顔を戻す。
私の顔を確認するように見てきたことで、余計に自分の顔が真っ赤になってしまった。
「怪我は大丈夫でしたか?」
「ミミナ殿は優しすぎる。普通勝手に犯した相手にそのようなことは聞かない」
「クルウスのことが可愛いですから。父親の安否を大事にしたいです」
実のところ、私はすでにシークベット公爵様のことを好きになってきている。
知らないうちに命を救われていたり、クルウスのことを最初から可愛がってくれていたり、なにより起こったことを全て話してくれたことや親身になって平民の私と接してくれていることも嬉しかった。
だが、今は立場上一緒になることなんてできるわけがない。
確実に迷惑をかけてしまう。
だから好きという気持ちは私の心の中にしまっておくことにした。
「私にも回復治癒魔法が使える。多少の怪我など平気だよ」
「ならひとまずはよかった……」
それにしても犯人は誰で、なんの目的で気絶させたのだろう。
命を狙っているとしたら確実に殺せていただろうし……。
私とシークベット公爵様の不貞という形で私を処刑させたかったのかもしれない。
だが、あのときの状況を予測できる人なんていない気がするし、無計画ではこんなことはできないはずだ。
私の中で四年前の夜会のモヤモヤが増えてしまった。
そう思っていると、馬車にいたピシッとした格好の男性が近づいてくる。
「旦那様……そろそろお時間が」
「そうか、もうそんな時間か。わかった。あと少ししたらすぐ戻る」
「かしこまりました」
深くお辞儀をして戻っていく。
シークベット公爵様はそれからすぐに私に顔を向け、真剣な表情になった。
「こんなことをお願いするのも酷かもしれないが……」
「なんでしょうか?」
「クルウス殿……いや、クルウスのことだ。私の血が混ざっているということは、まだ伏せておいてほしい」
「むしろよろしいのですか?」
意外な提案に私は聞き直してしまった。
「このことが知られれば間違いなく国の管理下が入る。そうなればミミナ殿たちの平穏な生活が脅かされてしまうことだろう。この村での生活も不可能になり王都へ戻される」
「私たちのために……?」
「もちろんだよ。楽しそうにしている二人を見てすぐに理解できた。この村で平穏に生活していたほうが幸せなのだろうなと。それに、最初にミミナ殿は絶対にクルウスをここから離さないという意思も伝わっていた」
「は、はい……とても毎日充実しています。だからここでの生活は今は辞めたくないです」
シークベット公爵様だって自分の子と一緒に生活したい気持ちはきっとある。
それなのに、あくまで私たちの幸せを考えてこんな提案をしてくれていることが嬉しかった。
ますますシークベット公爵様のことが好きになってしまう。
「時間がないから、また今度来たときに最初に出会ったことについて謝罪させてほしい」
「謝罪はしなくともいいので、ぜひお越しください。今度いらっしゃったときはおいしい焼き魚やスープをご用意したいなと思います」
「ああ。ありがとう! 楽しみにしているよ。それと……クルウスには決して無理はしないでほしい」
「は、はい?」
日常的に無理はしていないと思う。
なんのことだろうと思っていた矢先、私のことを軽くギュッと抱きしめてくれた。
どうして私のことを好きになってくださったのかはわからないままだが、大事にされていることはとても伝わった。
また早く逢いたい。
簡単にまた来れるような立場の人ではないだろうから、気長に待つことにしよう。
クルウスには、いつかシークベット公爵様がパパなんだよと紹介できる日がきっとくる。
そう思えただけで、私にのしかかっていた鎖が一気に解放された気持ちになった。
今からは、より楽しく村での生活を満喫できそうだ。
「その上で改めて謝りたいことがある。もちろん信じてくれなくても構わないが……」
「いえ、しっかりお聞きしたいです」
「わかった」
シークベット公爵様はひと呼吸してからゆっくりと口を開いた。
「四年前の夜会だ。私は参加が遅れてね。到着したときにはすでにミミナ殿が酔い潰れていたのだよ。服装とそのときの寝相が、皆から視線が集中していたため、咄嗟に救護部屋に運ぼうと抱き上げた。私の目的のためにも……」
「そうだったのですね……」
「救護部屋のベッドにミミナ殿を横にさせたときだったよ。なにものかに急に襲われ、私も一時的に意識を失ってしまった」
「え!?」
「意識が戻ったときには……その……私は服を脱いでいる状態でなおかつ……」
「はい!?」
「つまり……ミミナ殿とだな……」
それ以上のことは話さなくてもなんとなく理解できた。
だが、もう起こってしまったことは仕方がない。真実を知れてよかったとも思っている。
それよりも気になることが増えてしまった。
「誰に襲われたか、犯人はどうなったのですか?」
「いや、この件を公にしてしまうとミミナ殿にとてつもない迷惑がかかる。今もなお信頼できる者に内密で調査をしている。そう判断するしかできなかったのだ……」
残念ながら貴族制度は徹底されているため、下のものの立場は弱い。
今回の事件を発表したとしたら、私とシークベット公爵様が不本意ながらもそういうことになっていたことも知られていたはずだ。
そうなれば、どんなにシークベット公爵様が弁明してくれたとしても、酔った状況で勝手にそういうことをしたとみなされ、私が処刑される可能性があった。
この国の貴族の法律はズルいことが多い。
公爵を襲うだなんて国家レベルの大事件だ。
それなのに、たった一人の追放寸前の私のことを考えて黙秘してくれた。
これがどれほど救われていたのか、今知ることができた。
「本当にすまないと思っている。ずっと昔からミミナ殿のことが好きで好きで仕方がなかった。そのうえでなぜかあの状況下。我慢することはできなかった。ゆえにクルウス殿と私の血が繋がっているのだろう……」
シークベット公爵様が頭を下げてきた。そんなことまで言わせるために聞いたわけではないし、謝ってほしいだなんて微塵も思っていない。
むしろ私はその事実を知って救われた。
「ど、どうか頭をあげてください」
「許されるべきことではないとわかっている。私はどのようなことでもミミナ殿に従おう。たとえ公爵を剥奪し国外追放、もしくは処刑でもミミナ殿が望むなら従う!」
「そんなこと考えていませんよ! とにかく、どうか顔だけでもあげてください。怒っていませんし、今の話は全て信じます」
ゆっくりとシークベット公爵様が顔を戻す。
私の顔を確認するように見てきたことで、余計に自分の顔が真っ赤になってしまった。
「怪我は大丈夫でしたか?」
「ミミナ殿は優しすぎる。普通勝手に犯した相手にそのようなことは聞かない」
「クルウスのことが可愛いですから。父親の安否を大事にしたいです」
実のところ、私はすでにシークベット公爵様のことを好きになってきている。
知らないうちに命を救われていたり、クルウスのことを最初から可愛がってくれていたり、なにより起こったことを全て話してくれたことや親身になって平民の私と接してくれていることも嬉しかった。
だが、今は立場上一緒になることなんてできるわけがない。
確実に迷惑をかけてしまう。
だから好きという気持ちは私の心の中にしまっておくことにした。
「私にも回復治癒魔法が使える。多少の怪我など平気だよ」
「ならひとまずはよかった……」
それにしても犯人は誰で、なんの目的で気絶させたのだろう。
命を狙っているとしたら確実に殺せていただろうし……。
私とシークベット公爵様の不貞という形で私を処刑させたかったのかもしれない。
だが、あのときの状況を予測できる人なんていない気がするし、無計画ではこんなことはできないはずだ。
私の中で四年前の夜会のモヤモヤが増えてしまった。
そう思っていると、馬車にいたピシッとした格好の男性が近づいてくる。
「旦那様……そろそろお時間が」
「そうか、もうそんな時間か。わかった。あと少ししたらすぐ戻る」
「かしこまりました」
深くお辞儀をして戻っていく。
シークベット公爵様はそれからすぐに私に顔を向け、真剣な表情になった。
「こんなことをお願いするのも酷かもしれないが……」
「なんでしょうか?」
「クルウス殿……いや、クルウスのことだ。私の血が混ざっているということは、まだ伏せておいてほしい」
「むしろよろしいのですか?」
意外な提案に私は聞き直してしまった。
「このことが知られれば間違いなく国の管理下が入る。そうなればミミナ殿たちの平穏な生活が脅かされてしまうことだろう。この村での生活も不可能になり王都へ戻される」
「私たちのために……?」
「もちろんだよ。楽しそうにしている二人を見てすぐに理解できた。この村で平穏に生活していたほうが幸せなのだろうなと。それに、最初にミミナ殿は絶対にクルウスをここから離さないという意思も伝わっていた」
「は、はい……とても毎日充実しています。だからここでの生活は今は辞めたくないです」
シークベット公爵様だって自分の子と一緒に生活したい気持ちはきっとある。
それなのに、あくまで私たちの幸せを考えてこんな提案をしてくれていることが嬉しかった。
ますますシークベット公爵様のことが好きになってしまう。
「時間がないから、また今度来たときに最初に出会ったことについて謝罪させてほしい」
「謝罪はしなくともいいので、ぜひお越しください。今度いらっしゃったときはおいしい焼き魚やスープをご用意したいなと思います」
「ああ。ありがとう! 楽しみにしているよ。それと……クルウスには決して無理はしないでほしい」
「は、はい?」
日常的に無理はしていないと思う。
なんのことだろうと思っていた矢先、私のことを軽くギュッと抱きしめてくれた。
どうして私のことを好きになってくださったのかはわからないままだが、大事にされていることはとても伝わった。
また早く逢いたい。
簡単にまた来れるような立場の人ではないだろうから、気長に待つことにしよう。
クルウスには、いつかシークベット公爵様がパパなんだよと紹介できる日がきっとくる。
そう思えただけで、私にのしかかっていた鎖が一気に解放された気持ちになった。
今からは、より楽しく村での生活を満喫できそうだ。
23
あなたにおすすめの小説
【完結】旦那は堂々と不倫行為をするようになったのですが離婚もさせてくれないので、王子とお父様を味方につけました
よどら文鳥
恋愛
ルーンブレイス国の国家予算に匹敵するほどの資産を持つハイマーネ家のソフィア令嬢は、サーヴィン=アウトロ男爵と恋愛結婚をした。
ソフィアは幸せな人生を送っていけると思っていたのだが、とある日サーヴィンの不倫行為が発覚した。それも一度や二度ではなかった。
ソフィアの気持ちは既に冷めていたため離婚を切り出すも、サーヴィンは立場を理由に認めようとしない。
更にサーヴィンは第二夫妻候補としてラランカという愛人を連れてくる。
再度離婚を申し立てようとするが、ソフィアの財閥と金だけを理由にして一向に離婚を認めようとしなかった。
ソフィアは家から飛び出しピンチになるが、救世主が現れる。
後に全ての成り行きを話し、ロミオ=ルーンブレイス第一王子を味方につけ、更にソフィアの父をも味方につけた。
ソフィアが想定していなかったほどの制裁が始まる。
大好きなあなたが「嫌い」と言うから「私もです」と微笑みました。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
私はずっと、貴方のことが好きなのです。
でも貴方は私を嫌っています。
だから、私は命を懸けて今日も嘘を吐くのです。
貴方が心置きなく私を嫌っていられるように。
貴方を「嫌い」なのだと告げるのです。
お前は要らない、ですか。そうですか、分かりました。では私は去りますね。あ、私、こう見えても人気があるので、次の相手もすぐに見つかりますよ。
四季
恋愛
お前は要らない、ですか。
そうですか、分かりました。
では私は去りますね。
寡黙な貴方は今も彼女を想う
MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。
ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。
シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。
言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。
※設定はゆるいです。
※溺愛タグ追加しました。
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
他の人を好きになったあなたを、私は愛することができません
天宮有
恋愛
公爵令嬢の私シーラの婚約者レヴォク第二王子が、伯爵令嬢ソフィーを好きになった。
第三王子ゼロアから聞いていたけど、私はレヴォクを信じてしまった。
その結果レヴォクに協力した国王に冤罪をかけられて、私は婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。
追放された私は他国に行き、数日後ゼロアと再会する。
ゼロアは私を追放した国王を嫌い、国を捨てたようだ。
私はゼロアと新しい生活を送って――元婚約者レヴォクは、後悔することとなる。
彼女の離縁とその波紋
豆狸
恋愛
夫にとって魅力的なのは、今も昔も恋人のあの女性なのでしょう。こうして私が悩んでいる間もふたりは楽しく笑い合っているのかと思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりました。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。
【完結】お前を愛することはないとも言い切れない――そう言われ続けたキープの番は本物を見限り国を出る
堀 和三盆
恋愛
「お前を愛することはない」
「お前を愛することはない」
「お前を愛することはない」
デビュタントを迎えた令嬢達との対面の後。一人一人にそう告げていく若き竜王――ヴァール。
彼は新興国である新獣人国の国王だ。
新獣人国で毎年行われるデビュタントを兼ねた成人の儀。貴族、平民を問わず年頃になると新獣人国の未婚の娘は集められ、国王に番の判定をしてもらう。国王の番ではないというお墨付きを貰えて、ようやく新獣人国の娘たちは成人と認められ、結婚をすることができるのだ。
過去、国の為に人間との政略結婚を強いられてきた王族は番感知能力が弱いため、この制度が取り入れられた。
しかし、他種族国家である新獣人国。500年を生きると言われる竜人の国王を始めとして、種族によって寿命も違うし体の成長には個人差がある。成長が遅く、判別がつかない者は特例として翌年の判別に再び回される。それが、キープの者達だ。大抵は翌年のデビュタントで判別がつくのだが――一人だけ、十年近く保留の者がいた。
先祖返りの竜人であるリベルタ・アシュランス伯爵令嬢。
新獣人国の成人年齢は16歳。既に25歳を過ぎているのに、リベルタはいわゆるキープのままだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる