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26話 ソフィアはギュッと握られる
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今回の目的は全て達成できた。
公爵様の領地を出て、王都へ向かっている。
行きと同じように馬車ではアーヴァイン様と二人きりだ。
他の騎士団たちも別の馬車で移動をしているが、行きのときとはガラリと雰囲気が変わっている。
「まさかソフィア様の魔力でモンスターを引き寄せないとは思ってもいませんでした」
「野営は見張りの心配がいらないでしょうから、かなり楽になりますね」
「はは……騎士団としてはただの旅行になってしまいましたけどね」
公爵様から教わったこととしては、ほとんどのモンスターは概ね私の半径五キロ以内には近寄ってこれないらしい。
例外もあって、こちらからモンスターの逃げるスピードを超えて近寄ったり、極端に強いモンスターには効果がないそうだ。
だが、ケルベロスやオロチといったモンスターはこの国では滅多に出現したりしないそうだからほぼ安心していいのだとか。
唯一気をつけるのはドラゴンという、オロチの力をも遥かに凌ぐというモンスターである。
そんなもの出てきたら騎士団だろうが今の国家機関ではどうすることもできないらしい。
さすがにそんな恐ろしいモンスターとは戦いたくない。
と、いうわけで楽しい旅行気分で帰還となった。
……私以外は。
私は自分自身のことで悩んでいて、馬車の中でなにもできていない状態が続く。
そんななか、更に追い討ちをかけるようなことが起きていた。
「アーヴァイン様……。どうかされましたか?」
「い、いえ。なんでもありません」
私のことを何度もキョロキョロと見てくるのだ。
今までもそういう仕草はあったが、帰路になってからは回数が極端に増えていて、さすがに気になってしまう。
「ただ、ソフィア様の様子に違和感がありまして……。どうしたのかなと」
「いえ……。なんでもありません」
私は魔女だ。
アーヴァイン様もそこは意識をしているのか、何度もチラチラと見てくるようになった。
お母様は国の敵らしいし、敵の子供が王宮の近くでのんびり過ごすことなどできるはずがない。
アーヴァイン様と一緒にいるとドキドキが止まらなくなる。
この感覚はもっともっと体験していたいが、王宮まで戻ったら私はどこかへ消えようかと思っている。
「ソフィア様……。なんでもないわけないでしょう?」
「ちょ……え!?」
アーヴァイン様はどういうわけか私の両手をギュッと握りしめてきた。
毎日剣の鍛錬をしているせいかアーヴァイン様の手がとても硬く、力強い。
「なにか悩んでいるのですか?」
「私に触れて平気なんですか? 私は魔女で……」
「だからなんなのです? ソフィア様に変わりはないでしょう」
アーヴァイン様は当然のような感じで即答してきた。
この反応を見て、私はぽかんとしてしまった。
「まさかではないと思いますけど、ソフィア様は魔女だということが分かったことで悩まれていたのです?」
「な……。なんでわかったのですか?」
「毎日馬車の中でずっと一緒に過ごしましたからね。少しはソフィア様の性格や考えることも理解してきました」
「え……えぇ!?」
どうしよう……。
私はアーヴァイン様のことはほとんどわかっていない。
強いて言えばカッコよくて、剣の技術はものすごくて、頼りがいがあって、真面目で、情熱的なところもあって、責任感が強くて、騎士団の仲間思いで、騎士団のことになると楽しそうになんでも語ってくれて、でも時々天然なところがあって、優しくて、一緒にいるとドキドキが激しくなって……。
うーん……。
結構見ているつもりだったけれど、私はアーヴァイン様の表向きなことしか分かってないなぁ。
「失礼ですが、ソフィア様は時々変な判断をしようとすることがあります。まさかとは思いますが、どこかへ消えようなどと考えていたのでは!?」
「どどどどどどうしてわかっちゃったのです!?」
手を握られたままのため、私の思考回路もおかしくなっている。
反応も焦りがあって言葉を噛んでしまった。
一方、アーヴァイン様は大きくため息をはいたあと、かなり怒っているような顔に変わってしまう。
「おそらく公爵様が『正確に言えば人間ではない』という点だけを強く考えていたんじゃないかとずっと疑っていましたが、やはりそうだったのですね」
「私にはモンスターの血も少なからず流れているみたいですし、そもそもお母様は国の敵なわけですから……」
「ソフィア様のことを敵だと言ったわけではないでしょう! そんなことを言ったら、囚人の先祖を辿っていけば大勢の人間が敵になってしまう!」
アーヴァイン様のスイッチが入ってしまった。
こんなときに情熱的にならなくてもいいのだが……。
「例えが大袈裟ですよ」
「大袈裟などではありません。もしも仮にソフィア様が行方を眩ましたら、陛下や公爵様はどれだけ悲しむことか」
「そんなわけないでしょう……」
「はっきり言いますが、一番悲しむのは私です!!」
「へ!?」
一度は離してきた手で再び私の手をギュッと握られた。
しかも今度は手だけでなく、そのまま身体をギュッと抱きしめられてしまった。
公爵様の領地を出て、王都へ向かっている。
行きと同じように馬車ではアーヴァイン様と二人きりだ。
他の騎士団たちも別の馬車で移動をしているが、行きのときとはガラリと雰囲気が変わっている。
「まさかソフィア様の魔力でモンスターを引き寄せないとは思ってもいませんでした」
「野営は見張りの心配がいらないでしょうから、かなり楽になりますね」
「はは……騎士団としてはただの旅行になってしまいましたけどね」
公爵様から教わったこととしては、ほとんどのモンスターは概ね私の半径五キロ以内には近寄ってこれないらしい。
例外もあって、こちらからモンスターの逃げるスピードを超えて近寄ったり、極端に強いモンスターには効果がないそうだ。
だが、ケルベロスやオロチといったモンスターはこの国では滅多に出現したりしないそうだからほぼ安心していいのだとか。
唯一気をつけるのはドラゴンという、オロチの力をも遥かに凌ぐというモンスターである。
そんなもの出てきたら騎士団だろうが今の国家機関ではどうすることもできないらしい。
さすがにそんな恐ろしいモンスターとは戦いたくない。
と、いうわけで楽しい旅行気分で帰還となった。
……私以外は。
私は自分自身のことで悩んでいて、馬車の中でなにもできていない状態が続く。
そんななか、更に追い討ちをかけるようなことが起きていた。
「アーヴァイン様……。どうかされましたか?」
「い、いえ。なんでもありません」
私のことを何度もキョロキョロと見てくるのだ。
今までもそういう仕草はあったが、帰路になってからは回数が極端に増えていて、さすがに気になってしまう。
「ただ、ソフィア様の様子に違和感がありまして……。どうしたのかなと」
「いえ……。なんでもありません」
私は魔女だ。
アーヴァイン様もそこは意識をしているのか、何度もチラチラと見てくるようになった。
お母様は国の敵らしいし、敵の子供が王宮の近くでのんびり過ごすことなどできるはずがない。
アーヴァイン様と一緒にいるとドキドキが止まらなくなる。
この感覚はもっともっと体験していたいが、王宮まで戻ったら私はどこかへ消えようかと思っている。
「ソフィア様……。なんでもないわけないでしょう?」
「ちょ……え!?」
アーヴァイン様はどういうわけか私の両手をギュッと握りしめてきた。
毎日剣の鍛錬をしているせいかアーヴァイン様の手がとても硬く、力強い。
「なにか悩んでいるのですか?」
「私に触れて平気なんですか? 私は魔女で……」
「だからなんなのです? ソフィア様に変わりはないでしょう」
アーヴァイン様は当然のような感じで即答してきた。
この反応を見て、私はぽかんとしてしまった。
「まさかではないと思いますけど、ソフィア様は魔女だということが分かったことで悩まれていたのです?」
「な……。なんでわかったのですか?」
「毎日馬車の中でずっと一緒に過ごしましたからね。少しはソフィア様の性格や考えることも理解してきました」
「え……えぇ!?」
どうしよう……。
私はアーヴァイン様のことはほとんどわかっていない。
強いて言えばカッコよくて、剣の技術はものすごくて、頼りがいがあって、真面目で、情熱的なところもあって、責任感が強くて、騎士団の仲間思いで、騎士団のことになると楽しそうになんでも語ってくれて、でも時々天然なところがあって、優しくて、一緒にいるとドキドキが激しくなって……。
うーん……。
結構見ているつもりだったけれど、私はアーヴァイン様の表向きなことしか分かってないなぁ。
「失礼ですが、ソフィア様は時々変な判断をしようとすることがあります。まさかとは思いますが、どこかへ消えようなどと考えていたのでは!?」
「どどどどどどうしてわかっちゃったのです!?」
手を握られたままのため、私の思考回路もおかしくなっている。
反応も焦りがあって言葉を噛んでしまった。
一方、アーヴァイン様は大きくため息をはいたあと、かなり怒っているような顔に変わってしまう。
「おそらく公爵様が『正確に言えば人間ではない』という点だけを強く考えていたんじゃないかとずっと疑っていましたが、やはりそうだったのですね」
「私にはモンスターの血も少なからず流れているみたいですし、そもそもお母様は国の敵なわけですから……」
「ソフィア様のことを敵だと言ったわけではないでしょう! そんなことを言ったら、囚人の先祖を辿っていけば大勢の人間が敵になってしまう!」
アーヴァイン様のスイッチが入ってしまった。
こんなときに情熱的にならなくてもいいのだが……。
「例えが大袈裟ですよ」
「大袈裟などではありません。もしも仮にソフィア様が行方を眩ましたら、陛下や公爵様はどれだけ悲しむことか」
「そんなわけないでしょう……」
「はっきり言いますが、一番悲しむのは私です!!」
「へ!?」
一度は離してきた手で再び私の手をギュッと握られた。
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