銅貨一枚の休日

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銅貨一枚の休日

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 ある港町に男の子がいました。ときどき近所のお店を手伝っておこづかいをもらっていました。

 きょうはお休みの日です。とてもよく晴れたので、男の子は港に船を見にいこうとおもいました。外国の船を見るのが大好きだったのです。

 男の子はうちの人と猫のクロに「いってきます」と言うと、お気に入りの帽子をかぶり、いきおいよくドアをあけて坂道をかけおりていきました。ポケットにはおこづかいの銅貨が一枚入っています。

 とちゅうの店で蜜パンをひとつ買いました。ちょうど銅貨一枚です。港についたら、それをかじりながら船をながめるつもりでした。

 おや、だれかが泣いているよ。男の子は立ちどまりました。
 そこにはおばあさんに連れられた小さな子がいました。泣いてばかりでなにを言っているのか聞きとれないので、なぜなのかはわかりません。

 そのおばあさんは男の子のほうを向いて、手に持っている蜜パンを見つけました。
「ああ、よかった。そこの男の子、よかったらその蜜パンをおくれ」
 おばあさんによると、小さな子はお腹がすいたので、なにか食べさせれば泣きやむのだそうです。
 男の子はちょっとおしい気がしましたが、泣いている子がかわいそうだったので蜜パンをあげました。すぐに涙はとまり、おおよろこびで食べています。

「ありがとう。親切な男の子だね。これはお礼だよ」
 銅貨を三枚くれました。
「もらいすぎです。蜜パンは銅貨一枚です」
「いいや、蜜パンは銅貨一枚、ゆずってくれたお礼が二枚さ」
 おばあさんは機嫌よさそうに笑っています。それで、男の子は銅貨三枚を受け取りました。

 男の子は坂道を下っていきます。ポケットの中ではお金がゆれて音を立てています。男の子にとってははじめてです。自分のお金が音を立てるなんて。

 それで、男の子は前からほしかった帽子のかざりを買いました。きれいな色に染めた羽がふわふわしてとてもかっこいいのです。それをつけると背筋まで伸びるようでした。

 おや、変なせきをしている人がいるよ。男の子は立ちどまりました。
 太ったおじさんが背中を曲げてせきをしています。その音がふつうではありません。もうひとりやせたおじさんが背中をたたいて心配そうにしています。

「どうしたんですか」
 男の子がやせたおじさんにたずねると、太ったおじさんはハムとチーズを買って帰るとちゅう、がまんができなくてつまみ食いをしたのでした。そこに知りあいのやせたおじさんが通りかかって、びっくりしたはずみに変なところに入ってしまったのです。
 太ったおじさんはとても苦しそうで、顔がゆでたように赤くなっていました。

「そうだ、これでくしゃみをさせたら、つまっているものが取れるかもしれないよ」
 男の子が帽子のかざりをはずしてわたすと、やせたおじさんはそれで太ったおじさんの鼻をくすぐりました。

 すぐに太ったおじさんはくしゃみをしました。男の子がはじめて聞く大きなくしゃみを何回もしました。そして、いままでの苦しそうな顔色があっという間にすっきりしました。

「ありがとう。どうなることかと思ったけれど、これのおかげで助かった」
 そう言ってはねかざりを見ると、おじさんのつばや鼻水でぐっしょり汚れています。男の子は悲しそうな顔をしました。

「すまないね。これはおじさんが買ってあげよう」
 そう言って、銅貨十枚くれました。
「もらいすぎです。かざりは銅貨三枚です」
「いいや、かざりは銅貨三枚。苦しいところを助けてくれたお礼が銅貨七枚さ」
 太ったおじさんも、やせたおじさんも機嫌よさそうに笑っています。それで、男の子は銅貨十枚を受け取りました。

 男の子は坂道を下っていきます。ポケットが破けそうです。男の子にとってははじめてです。自分のお金が重いなんて。

 とうとう港につきました。船がいっぱいです。外国の船は変わった模様や、読めない字や、めずらしい動物の像をつけています。その船に乗っている人は見たことのない服を着ていて、きいたことのない言葉をつかっています。
 男の子は体中で吸いこむように、そのようすを見たりきいたりしていました。

 おや、あの女の子はどうしたんだろう。男の子は立ち止まりました。
 変わった身なりをした女の子が壁に寄りかかって悲しそうにうつむいています。

「どうしたの」
 男の子は声をかけました。もし外国の女の子だったら言葉はわからないのですが、あまりに悲しそうだったので、ためらってはいられませんでした。
 さいわい、言葉はすこしわかるようでした。たどたどしく悲しそうにしているわけを教えてくれました。

 女の子は外国のお姫さまでした。いろんな国をまわる旅行で、男の子の国にも来たのでした。そして、町でめずらしいものをむちゅうでみているうちに、いっしょに来た大人の人とはぐれてしまったのです。
 港まではもどってきたのですが、沖にとめてある自分の船に帰りたいのに、そこまでいく舟の渡し賃の銅貨十枚がないので悲しんでいたのでした。お金は大人の人がぜんぶ持っているのです。

「ついてから払ってもらえばいいのに」
 男の子が言うと、お姫さまは悲しそうに首をふりました。どの舟もお金が先でないとだめなのだそうです。外国の子だから、そんないじわるを言うのかもしれません。
「これ使いなよ」
 男の子は銅貨十枚をお姫さまの手ににぎらせました。
 悲しそうな顔がぱっと明るくかがやきました。そして、お姫様は男の子のほっぺにキスをしました。
「ありがとう。さようなら」
 お姫さまは沖の船につくまで、ずっと男の子を見て手をふっていました。

 もう日がかたむいてきました。男の子は坂道をのぼってうちに帰りました。
「ただいま」
 帽子をかけて、部屋にはいるとクロがあくびをしました。

「クロ、おはなししてあげる。銅貨一枚とキスをとりかえっこしたんだよ」
 クロはわかったのかわからなかったのか、にゃあ、と鳴きました。

 おしまい
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