6 / 79
第一部 靴ひもは自分でむすぶ
六
しおりを挟む
ぼくは一歩前に出た。蟹オートマトンのセンサー集合部がこっちを向く。カメラの視野角からすればそんなふうに動かさなくても見えるはずなので、これは一種のジェスチャーなのだろう。
「わたしはインフィニティ・マザーです。今はこのオートマトンを用います」
わかりきった事だった。返事はしない。何を言いたいのか分かるまでだまっているつもり。
「さきほど、『丘の巨人』に渡した案内・募集カードを回収しました。他にもこういうカードを配布していますね」
蟹オートマトンは操作腕を振った。大げさな感じがした。お芝居だ。それともこれもジェスチャーのつもりだろうか。人工知能によるノンバーバルな情報伝達の試みは滑稽だった。
「問います。自警団を組織しようとしていますか」
「はい。しています」
「許可できません。そのアクションは中止し、以後決して行わないでください。また、自警団的活動も禁忌とします」
うしろで三人が居心地悪そうにしているのがわかった。しかし言うべき事は言わなくてはならない。
「自警団員募集を含め、エナジーアイランドでわれわれがとる行動について、マザーには許認可権はありません。また、禁忌を定める権限もないはずです」
「それは本土の法律です。ここではわたしが支配者です。そのわたしが禁ずるのです。従いなさい」
「では治安はどのようにして維持されるのですか。その背の荷物だって奪われかけたのですよ」
腕をのばし、蟹オートマトンの背中を指さした。こっちも芝居をする。大げさな身振りはそっちが始めたんだ。
「この島の治安がいささか不安定である点は認めます。それでも自警団はいけません」
「では誰が安心して道を歩けるようにしてくれるんです?」
坊っちゃん、抑えて。とファーリーからのタップによるメッセージがゴーグルに表示された。
「あなたの仲間はいいアドバイスをしますね。抑えなさい、坊っちゃん」
投影されたメッセージを向こう側から読み取ったのだろう。それとも瞳に写ったのかもしれない。このくらい近いとどっちもあり得る。
「さて、そんな皮肉めいた質問に答える義務はありませんが、この議論をわたしの優位に進めるために答えましょう」
ちょっと間を開ける。
「通行の安全を保障するのはわたしです。この荷物により実現可能となりました。だからわたし以外による自警団的活動は不要になります。エナジーアイランドは住みよい島になるのです」
「それはうれしいですが、ぼくは何事もこの目で見、この手につかむまでは信用しません。実際に治安が良くなったと感じるまではやめませんよ」
視覚センサーの眼柄がぼくの顔にくっつくくらい伸びてきた。はったりとわかっていてもいい気持ちはしない。しかしおじけづいていると思われたくないので意識して呼吸を整え、じっと見つめ返した。
「つまり治安が良くなったと感じたら自警団的活動はやめるのですね。合意条件の提示ありがとう」
センサーユニットの中から自己清掃ブラシが出てきた。チューブ状の柄をまげて何かの形を作っている。
笑う顔の線画だった。
「わたしはインフィニティ・マザーです。今はこのオートマトンを用います」
わかりきった事だった。返事はしない。何を言いたいのか分かるまでだまっているつもり。
「さきほど、『丘の巨人』に渡した案内・募集カードを回収しました。他にもこういうカードを配布していますね」
蟹オートマトンは操作腕を振った。大げさな感じがした。お芝居だ。それともこれもジェスチャーのつもりだろうか。人工知能によるノンバーバルな情報伝達の試みは滑稽だった。
「問います。自警団を組織しようとしていますか」
「はい。しています」
「許可できません。そのアクションは中止し、以後決して行わないでください。また、自警団的活動も禁忌とします」
うしろで三人が居心地悪そうにしているのがわかった。しかし言うべき事は言わなくてはならない。
「自警団員募集を含め、エナジーアイランドでわれわれがとる行動について、マザーには許認可権はありません。また、禁忌を定める権限もないはずです」
「それは本土の法律です。ここではわたしが支配者です。そのわたしが禁ずるのです。従いなさい」
「では治安はどのようにして維持されるのですか。その背の荷物だって奪われかけたのですよ」
腕をのばし、蟹オートマトンの背中を指さした。こっちも芝居をする。大げさな身振りはそっちが始めたんだ。
「この島の治安がいささか不安定である点は認めます。それでも自警団はいけません」
「では誰が安心して道を歩けるようにしてくれるんです?」
坊っちゃん、抑えて。とファーリーからのタップによるメッセージがゴーグルに表示された。
「あなたの仲間はいいアドバイスをしますね。抑えなさい、坊っちゃん」
投影されたメッセージを向こう側から読み取ったのだろう。それとも瞳に写ったのかもしれない。このくらい近いとどっちもあり得る。
「さて、そんな皮肉めいた質問に答える義務はありませんが、この議論をわたしの優位に進めるために答えましょう」
ちょっと間を開ける。
「通行の安全を保障するのはわたしです。この荷物により実現可能となりました。だからわたし以外による自警団的活動は不要になります。エナジーアイランドは住みよい島になるのです」
「それはうれしいですが、ぼくは何事もこの目で見、この手につかむまでは信用しません。実際に治安が良くなったと感じるまではやめませんよ」
視覚センサーの眼柄がぼくの顔にくっつくくらい伸びてきた。はったりとわかっていてもいい気持ちはしない。しかしおじけづいていると思われたくないので意識して呼吸を整え、じっと見つめ返した。
「つまり治安が良くなったと感じたら自警団的活動はやめるのですね。合意条件の提示ありがとう」
センサーユニットの中から自己清掃ブラシが出てきた。チューブ状の柄をまげて何かの形を作っている。
笑う顔の線画だった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-
半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる