ぼくと怪物三人組@トーキョーベイエナジーアイランド

alphapolis_20210224

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第三部 アップルパイ、閉回路ソースを添えて

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「退屈だ。ボアダムってのか?」
 ウォーデがあくびをするとちょっと怖い。犬歯を大きく頑丈なのに交換したついでに顎もいじったせいだ。
「そう。ボアダム。今日の仕事は朝のドランカー追っぱらっただけ」

「坊っちゃん、そんなの消しちまいな」
 ファーリーはまたアイスを食べている。本土から安定して入ってくるようになったもののひとつで、島民には喜ばれていた。

「でもほかに見るもんないし。政府広報にする?」
 三人そろって舌を出した。モニターは島内を区画に割って順に映しているが、今朝みたいなやけをおこした酔っぱらいをのぞけば柱にちょっかいかけようなんてのはいない。
「なあ、暇だし、あいつらの検知方法詰めようか」ファーリーがアイスのカップを潰してごみ箱に放りこんだ。
「できるわけねぇよ。おれたちゃ軍じゃねえ」ウォーデが噛みついた。いや、じゃれたんだろう。ちょっと取りなさなきゃ。
「まあまあ。無理って決めつけないで考えてみよう。ここには本土とちがってマシンが散布されてるし、島っていう限られた範囲だけだから、何か手があるかもよ」
 そう言ったが、以前から繰り返されている話なのでわれながら説得力はなかった。
「あたしゃ正攻法がいいと思うけどな」
 ファーリーは島の地図に赤点をばらまいた。唐辛子粉の瓶を倒したピザみたいになる。
「いくらかかると思ってんだよ」と、ウォーデがうなる。
「でも確かにそれくらいしかナッシング」ビクタは肩をすくめた。
「そうなるよな。あいつら見るには可視光センサーしかないし、光学的歪曲の補正に数がいる。そのシミュレーションでも少ないかもしれない」ぼくもうなずいて言う。
「それとネットワークもプライベートじゃないと乗っ取られる」ビクタがさらに青い線を付け足した。食欲のわかない色合いになった。
「警察相手にモグラネット? できっこない」ウォーデが牙をのぞかせる。
「あんた、さっきからできないできないばっかだけど、いい考えないの? 肩に乗っけてんのは毛玉?」
「じゃあ言うけどよ。いい考えってのはこの現状に素直に従う事さ。坊っちゃんみたいにな」

 みんなぼくを見る。

「これも、ぼくの甘さのせい? こうなったのも?」

 モニターを政府広報に切り替えた。例の事件と、それに対する対応をくりかえし説明しているやつだ。説明、といっても政府の立場だけど。

 六年前、インフィニティ・マザーが島のノーマル人間複数より採取した卵から胚へと発生を進めた。独自の理論に基づく新種の人造人間を生みだす計画だったらしい。
 それはやりすぎだった。『独自の理論』のどこかが引っかかった。
 本土の政府は法務人工知能の助言のもと、警察部隊を送りこんで実力で実験を凍結し、胚をすべて回収した。
 さらにその部隊を常駐させ、島の統治のあり方を変えた。マザーは原発管理と島民の日常生活に必要な運営のみ行い、治安維持は警察が直接携わる体制となった。そのためマザーのネットワークとは独立した監視柱がいたるところに立てられ、全島民に追跡アンクレットが装着された。犯罪は芽のうちに取り除かれ、治安が良くなり平穏がもたらされた。
 その結果、エナジーアイランドはより一層安定し、電力供給への不安もなくなった。めでたしめでたし。

「まあ、マザーがおかしくなったのは別に坊っちゃんのせいじゃない」
「そうだね。それに、『制服』があれだけいるんじゃ自警活動しなくていい」

「『カクブンレツ』はもうディゾルブ?」
「いや。ぼくらの活動は必要。『Quis custodiet ipsos custodes?』」
「なんだそりゃ」ウォーデが耳を立てた。
「ラテン語。『誰が見張りを見張るのか』」
「なるほど。坊っちゃんはそう考えてるのか」牙を見せる。

「だからファーリーが言うように現実的な『制服』の監視手段を組み上げなきゃならない。いつまでも目視の情報提供のみに頼ってらんないし」

 警察が来た時、島民は当然の反応として見かけたらお互いに報告しあった。警官情報は、市民の手作りとしてはエナジーアイランドで最大級のデータベースになっていた。

 ファーリーはいつのまにか次のアイスを食べていた。チョコチップだった。
「ブツが安定して入ってくるようになったのは大歓迎なんだけどね」

 可視光センサーを多数用いる以外に『制服』連中を監視する手段で現実的なものとして、マシンを使う手がある。警察の『制服』は電磁波を選択的に吸収、変換して電源としている。だからありあまるほどの電気で着用者は快適に過ごせるが、余剰分は捨てなくちゃならない。

 ぼくはモニターにそのエネルギーの入出力シミュレーションを映した。みんな暗記するほど見ているが、議論の整理のためだ。

 捨てる、とは言うが、外部に放出されるエネルギーの一部は可視光センサーを攪乱する光学的歪曲に使われている。この分が周囲の明るさや背景によって変動するので排出エネルギーは一定していない。

 ファーリーがシミュレーションにさらにアニメーションをのせた。マシンが排出エネルギーに引き寄せられて局所的に集合する様子だった。

「この偏在を検知する。間接的だけどこれなら今の手持ちでなんとかなる。マシンの分布はずっと測定されてきたから基礎データもたっぷりあるし」

 でも、この方法には『ただし』がつく。ウォーデが言う。

「ただし、マシンが偏ってるからといって警察の存在を意味しない」
「偏在パターンを学習させて確度を高めよう」
「『言うは易し』だな。それだけの演算ができる機器と時間はどこにある? それにそこらのネットワークを使ったりマザーに頼んだりしたらあっちにも見えるぞ。全部監視下にあるんだから」

 ウォーデの言う通りだった。だから、ずっと考えていた案を話そう。笑われてもいい。ものすごくおかしなように思えても、これが現実的かつ最善だと考えているからだ。

「ぼくらの人工知能を作る。外部から完全に隔絶した機器、言うならば閉じた回路になってて、マシンの偏在パターンから警察部隊の展開の検知のみを仕事とする。どう?」

 三人ともあっけにとられている。そういう顔をしていた。

「坊っちゃん、クローズドサーキットってそういう意味じゃない」

 ビクタがやっと口を開いた。
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