ぼくと怪物三人組@トーキョーベイエナジーアイランド

alphapolis_20210224

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第三部 アップルパイ、閉回路ソースを添えて

十一

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 海沿いでは渡り鳥が休憩している。暖かく居心地いいのだろう。この季節、カモやシギの仲間にコアジサシ、カイツブリなどが葛西や三番瀬を目指してやってくる。ただ、居着きはしない。越冬地とは何かがちがうのだろう。鳥たちにとってここは一時的な場所にすぎないらしい。
 ここができた当初、ナノマシンが野生の生き物に与える影響が懸念されていたが、長期にわたる観察はそれを否定した。マシンはホモ・サピエンスとその改造種以外にとってはただの塵以下の物質だった。

 あの鳥たちには想像もできないだろうが、世界はまだ枕投げをしていた。

 いや、鳥もぼくらも同じだ。なわばりの見回りと自警団としての巡回を終え、朝日を顔に浴びて歩いていると、あちこちで枕が破裂し、羽毛が飛び散り、マシンが後片付けをしてるなんて考えもしない。

「何見てる?」嗅覚強化クリームですこし濡れた鼻をくんくんさせている。
「鳥」と答えながら指さした。
「何か臭うのかい?」ファーリーもくんくんやるが、わからないという顔になった。
「アップルパイ」
「ほんと? 鼻じゃあんたにかなわない」

「光った。インターセプト成功」ビクタが海の向こうの低い空を指した。
「大気圏外だな。迎撃されたって」ウォーデが速報を読んだ。まだまだ核兵器は戦術、戦略を問わず特別扱いで、撃った国と撃たれた国、着弾したかどうかや被害状況が速報されていた。
 ぼくのゴーグルの視覚支援機能は軌道を赤と青の点線でアニメーション表示した。青の迎撃ミサイルが赤を破壊する。残骸は大気圏上層で燃え尽きた。

「おはよう」
 帰り道、『Ayumi's Apple Pie Workshop』の前を通ると出荷しようとしているところだった。
「おはようございます」
「パレット、どうしたの?」ファーリーがこんこんと脚をたたいた。
「ちょっとスタビライザーがおかしいみたいで」荷を積むたびに震えている。歩いてもいないのにおかしい。
「まかせて」制御部にふれるとかすかに放電する。五分もたたないうちに震えが止まった。「これでよし。書き換えた」
「ありがとうございます」
「どう、売れてる?」
「おかげさまで」
「うちの坊っちゃんなんか予約券相場やってんだから」「よせよ」
「そうなんですか。でも相場ばっかりじゃなくて時々は食べてください。あ、これお礼です」
 四個包んでくれた。ビクタ以外遠慮したが結局全員受け取った。

 みんなと別れ、アップルパイを朝食代わりにむしゃむしゃ食べながら、ひまつぶしに相場を確認してみた。何回かやって飽きたのだが、ちょっとのぞいてみたくなった。
 相場は動いていた。しばらく値動きを見ていると、各店とも自動売買プログラムを排除しているのがわかった。いい事だ。こういう娯楽すら自動化しようとする無粋な輩は遊び場に入れてやらないのが一番だ。
 でも、分析まで手でなくてもいいだろう。ぼくは最近の相場を音に変換する。消波ブロックで砕ける波になった。しばらくすると、波に転がされた貝殻が打ち付けあうような音が混じる。そこは相場の乱れだった。だれかが無茶な売買をやった跡だ。利確をあわてたか遅すぎる損切り、それとも操作ミスかもしれない。

 うん? なんだこれは? もう一度聞きなおす。さらにもう一度。表示を切り替え、数字をならべながら聞く。
 ざらざらとしていた。猫がのどをならしている。波や貝殻といった海の音ではない。それにこの値はなんだろう。これでは売買など成立するわけがない。ただ埋もれるだけだ。
 ふざけているのか、いやがらせか。それにしては頻度が低い。このくらいシステムが吸収してしまうので実害はない。
 でも気になる。猫のごろごろは一定間隔だった。これも変だ。売買の指示を値動きとは無関係に定時に出している。やたらと小数点以下が多いのが特徴だった。

 パイの残りを食べ、コーヒーを飲む。おいしかった。そして笑った。こんな些事が気になるなんてどうかしてる。思ったより疲れてるのかな。画面を切り替えた。

 報道では使用された核兵器の一覧を地球の図にアニメーション表示していた。核兵器保有国はすべて撃ったり撃たれたりしていたし、保有国でなくとも撃たれていた。日本にも赤い線が何本も伸びていたが、すべて大気圏外で迎撃されていた。アメリカに感謝だ。
 防ぎきれなかった国では大被害が生じていた。放射性物質が残らないのはいいが、だからといって都市がまるごと機能を失うのは許容できない。撃たれたままでいる国はなかった。報復するか、同盟国が助太刀した。

 はるか昔から続く戦いのやり方を今もなぞっている。こういう点では人間はあまり進歩していないのかもしれないが、政府に助言する人工知能までそういう判断をしているのは気になった。結局人間の作った知能はヒトの知性や感性の天井を越えられないのだろうか。

 それはあまりにも寂しいな、とパイのかけらが散らばった皿とコーヒーカップを洗って片付けた。
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