ぼくと怪物三人組@トーキョーベイエナジーアイランド

alphapolis_20210224

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第三部 アップルパイ、閉回路ソースを添えて

十四

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「どこで『制服』なんか手に入れやがった」
 ウォーデは目をこすっている。ただでさえぼやけるのにグレーの雪がちらちらして視界不良などというレベルではなかった。
 しかしそれはこちらにも都合よかった。侵入者にしてみればこっちが意図をもって行動しているのか、急な事態に混乱してうろついてるのか分からないだろう。

「とにかく、とっつかまえて引ん剝こう」
 ぼくが言うとにやりとした。
「情報収集のみじゃ?」
「臨機応変」

 やつらは直線的に島の中心部、すなわち原子炉を目指していた。追跡には都合よかった。森に入ればこれまで以上に接近できる。自分たちでまいた雲でセンサーの大部分は役に立たないはずだ。
 途中でネットワークの端子を見つけたので情報を更新し、即席の捕獲計画を伝言した。

 森に入ると雪が少なくなってきた。マシン濃度は大丈夫だった。ならあいつらの規模も小さいなと判断した。
 ただ、早くしないと敵のセンサー類が復活する。『制服』を着ているくらいだから警察仕様のを使っているかもしれない。それはまずい。ぼくはウォーデの腕をタップした。

『急ごう』
『了解』

『あいつで』
『OK』

 森になれていないのか遅れ始めた一人を二人で引きずり倒した。ぼやけているので大ざっぱに見当をつけてつかんだ。
 しまった、すり抜けたかと思ったが、ウォーデが成功していた。ぼんやりした塊を爪で引き裂くと『制服』は機能停止した。輪郭がはっきりした。
 騒ぐな、とハンドサインをして『制服』を脱がし、見える装備は全部取りあげた。そいつは若い女でこっちを睨みつけている。目で殺せるならそうしたいという感じだった。
 そして、右腕がぷらんと垂れていた。
「強すぎたな」
「でもしょうがない。適当なとこつかむしかなかったし、力加減なんて出来ねえよ」

「おまえの所属と目的は?」ぼくが聞き、ウォーデが爪を喉にあてがっている。野蛮だがじっくり時間かけてられない。女は黙って視線をそらした。うなずくと、ウォーデは右肩を握った。女の目に涙が浮かぶ。
「もう一度だけ聞く。おまえの所属と目的は?」こいつはプロじゃない。痛みで落ちる。ウォーデもそれはわかっているのでまた右肩を握った。

「『真実の光』の教義をかなえるために来た」
「教義とは?」
「この世を人の手に取り戻す」
「具体的に」

 また口をつぐんだ。薄いシャツを通して肩の腫れがはっきりわかった。情けはかけてられない。でも、こういう汚れ仕事をウォーデにばかりやらせるのもいけない。だからぼくが左中指を折った。

「次はどこを折られたい?」
「論理爆弾を注入する」楽な仕事だ。肉体的苦痛だけで情報を得られる。
「もっとくわしく」
 その女は痛みに顔をしかめながら装備の一つを指さした。注射器のような形をしている。そのなかのナノマシンをマザーに注入できれば無限にエラーを発生させ続けられると言う。
 なるほどな。マザーならではだ。通常の人工知能プログラムのように分散して存在しておらず、バックアップも取られていないからこその方法だった。まあ、理論上は。
 ぼくは取り上げた装備にあった緊急キットの鎮痛剤を最大量にして女に注射した。がくっとくずおれた身体を木陰にかくす。ついでに肩をはめて指に簡単な添え木を当ててやった。

「坊っちゃん、何のんびりしてる?」
「何って、こんな計画成功するわけない。銀の雲もなくなったし、あいつらオートマトンに始末されるよ。ぼくらが行くまでもない」引きずってめくれあがった女のシャツをもどしてやりながら言った。
「でも、万が一って事も」
「ないよ。ナノマシンを回路に注入してプログラム書き換えって、学生の実験じゃあるまいし。こいつらには失望した。大胆な襲撃だなって感心したのに。でも一応連絡だけはしといて」

 ウォーデがマザーに連絡していると、ファーリーから通信が入った。アルゴスの無線回線を使っている。

「やつらの狙いはマザーだった。ナノマシン注入するって言ってるけど正気かどうかわからない。なんで詰めだけこんなにずさんなんだ?」
「こっちも同じ。計画がいいかげんな理由はわからない。けどそろそろ無力化されてるころじゃないかな」

 森を出たとき、気を失った人間を多数積んだパレットが三台通りすぎていった。あの女も回収されていた。十五人。たったそれだけで自滅的襲撃を試みた。
 無謀な試みだったし、かれらはその報いを受けた。『光』だけでなく大本の『ともしび』も息絶えた。

「でも、ここまではできたわけだ。どうやって?」
 ウォーデの疑問はもっともだった。そしてぼくは答えに心当たりがあった。

「なあ、アップルパイ食いたくないか」
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