ぼくと怪物三人組@トーキョーベイエナジーアイランド

alphapolis_20210224

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第三部 アップルパイ、閉回路ソースを添えて

十五

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 粉で真っ白な手を拭い、重ねて隅に置いてあったスツールを出してくれた。『Ayumi's Apple Pie Workshop』には香ばしいパイ皮とアップルフィリングの甘い香りがまだ残っていた。みんなで輪になって腰掛けると、一日の終わりに業務の反省会をしているような雰囲気になった。

 いや、本当にそうかも知れない。これは反省会だ。

「ここから情報提供をしていた。警備状況やオートマトンの分布についてなどを。そうですね?」
 ぼくは感情を出さないようにした。もうこの女に逃れる場所はない。ならこれ以上追いつめる意味もない。
「はい」ふっきれたようにさわやかな表情だった。
「目的は? あなたはもう『光』にも『ともしび』にも関わりはないはずだし、思想に共感したとも考えにくい」

 三人はぼくとのやり取りをじっと聞いている。やはり表情は変えない。

「ええ。かれらの活動には興味はありません。今もです。でも必要な力を持っていたのはかれらだけでした。それにつながりが全部切れたわけじゃないですし」
「その力を動かして何がしたかったのですか」
「五人の子供たちの現状と遺伝情報。それが取り引きでした」

 さあ、聞こう。嫌でもはっきりさせておかないといけない。

「取り引きは成立した?」

 女はうなずいた。「一人はわたしの遺伝的な娘でした」

 ファーリーが息をのんだが、なんとか抑えた。それでいい。今感情を噴き出させられたら困る。

「現在は?」
「標本だそうです。七歳は迎えられませんでした」

 話を変えよう。このまま高ぶられてはいけない。

「質問を変えます。情報提供はどのような方法で?」
「予約券相場を使いました。注文情報に見せかけて値に忍ばせたんです」
「実はぼくも不審な数字には気づいていました。しかしどのような解析をしても意味のある結果は出せなかったんです。よろしければ教えてください」

 微笑みが返ってきた。

「情報、といってもあらかじめ取り決めておけば送るのは五文字くらいです。文字は二けたの数字であらわします。それだけです」
「それだけ?」
「はい。子供が使うような単純な換字式の暗号です。だからこそ破られない。みんなまさかって思うし、人工知能にはなおさら解読不能です。もちろん同じ数字の頻出を避けるためにEなんかには複数の数字を割り当てますが」

「やられましたね。坊っちゃん」笑うが牙のせいでそうは見えない。

「仲間は?」
「いません。ううん。わたしは知らないって言ったほうがいいですね」

 後で確かめたが、胚を提供した者全員に『ともしび』が接近し、この女を含めて三名が協力していた。そして、積極的に協力しなかった者も口をつぐんで報告しなかった。いわば消極的協力、だ。
 それぞれが異なった方法で情報提供していたと言うのに気配すら悟っていなかった。自警団は今回の事件において情報の保安面で無能だった。結局ぼくらはアマチュア集団なのだろう。

 ビクタがゴーグルにニュースを送ってきた。船に取りついていたオートマトンは機能を停止し、人質は全員無事救出されたとの事だった。

「それで、わたしはどうなるんですか」
「どうしましょう。また労働奉仕ですかね。でも罪を換算したら一生になるかも。ま、本土の取り調べもあるでしょうが、どうせ遠隔です」
「なら今までと変わらないんじゃ」
 うなずいた「その通り変わりません。だからもっと直接的な行動に出てくれればよかったと思います。……そしたらおまえを殺せたのに」

「落ち着いて」ウォーデがささやき、ファーリーとビクタはゴーグルにそうメッセージを送ってきた。

「あなたがどう思おうが知った事ではありません。でもわたしはマザーを許さない。いつか娘の復讐をします。自分の人生を生きられなかった『人間』の恨みを晴らします」

 ぼくはぽかんとした。『恨み』という理解不能な概念を突然突きつけられたせいで表情を作れなかった。

 女はそんなぼくを冷笑し、その顔のまま全員を見まわした。

「もういいでしょう。帰ってください」
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