58 / 79
第四部 夢見心地に分岐する
十五
しおりを挟む
指示通りベッドに横たわると、つぎの瞬間真っ白な部屋にいた。
「成功だ。起きて」右耳から聞こえてきた。イヤーピースは右だけにはめられていた。
「注入器は皿に乗っている。一本だけだ。ごまかして送れたのはそれだけだった。さあ部屋を出て。後は指示に従えばいい。あと十五分」
立つとふらふらした。身体の感覚が違う。何もかも小さく、短すぎる。力の入り方も変だ。ドアを開けるまでに二回よろけて膝をついてしまった。
それと、この子の意識が残っている。緊急であり、完全な転送ではないので消去されず心の底に押し込んだようになっている。急に外界の光をなくして身体の自由が利かず怖がっていた。
ドアを開けると長い廊下だった。「右へ。突き当りの階段を降りて」
指示を出している声に気づいてはっとした。片耳だけでひどい音質だったので分からなかったが、これは自分だった。
今この瞬間、自分が二人いる。島の完全版と、子供を操作できるだけのこの簡略版だ。
じゃあ、任務が終わったら自分は、いや簡略版はどうなるんだろう。
頭を振った。よけいな事を考えている時間はない。しかし吐き気がする。この子がそう感じているのだろうか。
「そのドアを開けて」
「開かない」自分の口から発せられる幼い声に戸惑った。
「もう一度」
「開いた」
「左の壁沿いに点検口がある。登録したから掌をあてて」
メンテナンス用のハッチを開けるときれいに整理された機器が現れた。
自分の心から泣いている子供の声が聞こえるのはいい気分ではない。
「赤い箱を探して。あと五分」
「あった」
「では……」ひどい雑音が入った。
「聞こえない。雑音がひどい」
「すま……通……妨害……。右の……」
「右の何? 赤い箱はあった。次は!?」
「……緑。右……」
赤い箱の右に配線を送る管があり、緑に塗られていた。「右の緑の配線管でいいのか。繰り返す。右の緑の配線管だ」
とりあえず打ってしまえと思ったが、緑の配線管や機器は他にもあった。確認した方がいい。
暗い、助けて。誰かいないの?
涙がこぼれた。理不尽な恐怖に怯えていた。この子が何をしたと言うんだ?
この子? いや、自分だ。自分の一部だ。区別がつかない。境目がぼやけてる。この恐怖は子供のなのか、自分のか。
「配……管。……緑の……、右。繰……」
ぼくは注入器を握りしめて打ち込んだ。涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、その必要はないのに何度も何度も叩きつけていた。
「成功だ。起きて」右耳から聞こえてきた。イヤーピースは右だけにはめられていた。
「注入器は皿に乗っている。一本だけだ。ごまかして送れたのはそれだけだった。さあ部屋を出て。後は指示に従えばいい。あと十五分」
立つとふらふらした。身体の感覚が違う。何もかも小さく、短すぎる。力の入り方も変だ。ドアを開けるまでに二回よろけて膝をついてしまった。
それと、この子の意識が残っている。緊急であり、完全な転送ではないので消去されず心の底に押し込んだようになっている。急に外界の光をなくして身体の自由が利かず怖がっていた。
ドアを開けると長い廊下だった。「右へ。突き当りの階段を降りて」
指示を出している声に気づいてはっとした。片耳だけでひどい音質だったので分からなかったが、これは自分だった。
今この瞬間、自分が二人いる。島の完全版と、子供を操作できるだけのこの簡略版だ。
じゃあ、任務が終わったら自分は、いや簡略版はどうなるんだろう。
頭を振った。よけいな事を考えている時間はない。しかし吐き気がする。この子がそう感じているのだろうか。
「そのドアを開けて」
「開かない」自分の口から発せられる幼い声に戸惑った。
「もう一度」
「開いた」
「左の壁沿いに点検口がある。登録したから掌をあてて」
メンテナンス用のハッチを開けるときれいに整理された機器が現れた。
自分の心から泣いている子供の声が聞こえるのはいい気分ではない。
「赤い箱を探して。あと五分」
「あった」
「では……」ひどい雑音が入った。
「聞こえない。雑音がひどい」
「すま……通……妨害……。右の……」
「右の何? 赤い箱はあった。次は!?」
「……緑。右……」
赤い箱の右に配線を送る管があり、緑に塗られていた。「右の緑の配線管でいいのか。繰り返す。右の緑の配線管だ」
とりあえず打ってしまえと思ったが、緑の配線管や機器は他にもあった。確認した方がいい。
暗い、助けて。誰かいないの?
涙がこぼれた。理不尽な恐怖に怯えていた。この子が何をしたと言うんだ?
この子? いや、自分だ。自分の一部だ。区別がつかない。境目がぼやけてる。この恐怖は子供のなのか、自分のか。
「配……管。……緑の……、右。繰……」
ぼくは注入器を握りしめて打ち込んだ。涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、その必要はないのに何度も何度も叩きつけていた。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-
半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる