ぼくと怪物三人組@トーキョーベイエナジーアイランド

alphapolis_20210224

文字の大きさ
59 / 79
第四部 夢見心地に分岐する

十六

しおりを挟む
「坊っちゃん、デプレッション?」
「うん、あれこれありすぎて、しかも全部落ち込む出来事だったし」

 ビクタはうなずいてチョコレートを差し出す。ついでにぼくの画面を見たがったので共有した。

「ああ、マザーのレポート。ダウナーだ」

 あの女はまだ朦朧とした状態に置かれている。その状態で本土の警察による遠隔尋問が行われ、襲撃の動機が明らかになった。
 それによると目標はマザーだった。ぼくを爆殺し、子を失う経験をさせようというつもりだった。

「なぜ坊っちゃん? ストレンジウェイオブシンキング」
「それ。『坊っちゃん』って呼ぶからだって。『マザー』と『坊っちゃん』、母と子の関係性があるって思ったって」
「とてつもないミスアンダースタンディング」ビクタは呆れていた。いや、憐れんでいたのかもしれない。

 マザーは本土の専門家チームとともに自己破壊衝動の除去を含めた治療を行うと言う。そのうえで火薬を提供するなどした協力者をあぶりだすつもりだった。つまり、治療を名目とした尋問だ。それなら薬物だって使い放題だろう。

「これであの教団もめでたく制限団体の仲間入りだな」
「それはグッド」

 ビクタはまだぼくを見ている。ほかにもあるんじゃないかと言う目だった。

「ウォーデはほぼ回復。痛がってるけど皮膚も培養筋も乗りがいいんだって」
「ベースはコモンだし」
「そうだな。ぼくらは共通規格だもんな」

 まだ見ている。それも知りたいけど、そうじゃないだろうと顔が言っていた。

「なんだい? はっきり言えよ」
「ディスレスペクトフル。口に出すのは」
「おまえに限ってそんなふうには思わないよ。不躾なんかじゃない。心配してくれてるんだろ? ありがと」

 ぼくはゴーグルの画面を切って修飾なしにビクタを見た。大きくて、ごつくて、食べた物の甘い香りがする。

「簡略版の削除に立ち会った。ぼく本人が消去を確認しなきゃならないからだってマザーが。変わった倫理観だと思うけど。そりゃそうかなとも思った」

 黙って聞いている。

「あいつ、消える前に『ありがとう』って言った。もう子供が泣く声は聞きたくなかったからって」

 チョコは減っていない。

「次は完全版として複製されるけど、ぼくは泣いてる声は聞かずに済む」

 目を動かし、ビクタの顔から手を見た。ミニチュアの山脈のようだ。

「感覚のない暗闇を怖がって泣くんだよ。そういう心のある子を消すんだなって考えてた」

 筋肉と血管でできた峰がぴくりと動いた。

「リーガルにはホミサイドじゃないけど、エシカルには……」
「倫理的には……何?」
「ごめん。アイハブノーアイデア」
「でも、五人にそうするんだ。何も考えないわけにはいかないよ」

「マザーのプロポーザルは魅力的」
 うなずく。そこはビクタの言うとおりだった。

「複製だもんな」
「そう。デュープリケイトで、その後はクレードとしてそれぞれ分かれる」
「分岐三本のうち一本は子供を持てる可能性もある」
「自分がペアレントになるってアンビリーバブル」
「この場合『自分』って何だろうな」ぼくは笑った。「今ここにいるぼくらは子供を持つ方の『自分』じゃないし」
 ぼくは話題を切り替えて嫌な考えから逃れようとしていた。『自分』が乗っ取る存在が跡形もなく始末されるという事実からだ。

 ビクタがチョコを取った。

「お菓子以外リアリティーがない。ホールワールドがふわふわのドリームになっちゃたみたいだな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-

半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...