ぼくと怪物三人組@トーキョーベイエナジーアイランド

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第五部 ゴールデンエイジ

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 目が覚めてもベッドでじっとしていた。指を動かし、つま先をまげて確かめる。どこもかしこも小さくて短い。七歳児の扱いに慣れるにはまだ時間がかかりそうだった。

『おはようございます。今日も一日元気よく。おはようございます……』

 ベッドから抜け出て支度をする。朝食は薄いトーストにべたべたと甘いストロベリージャム、塩辛すぎるベーコンと冷めて固まりきったスクランブルエッグ、サラダ、ミルク、何かの錠剤。今の胃には多すぎるが残さなかった。

『本日の予定は健康診断……』
「待て」
 声が止まった。
「いつ他の連中に会える? 島にも連絡したい」
『許可できません。早すぎます。現在あなたたちは不安定な状態にあります。お互いや複製元との会話はその不安定さを拡大し、破滅的な状況に陥らせる恐れがあります』
「破滅的、とは?」見ないでシャツのボタンを合わせようとしたができず、結局下を向いてしまった。声の言う通りかもしれない。もう一週間になるのにこの身体にすらなじんでいない。
『一人を除いて自己破壊衝動が見られます。特にあなたには強く表れています』
「分かった。でも会いたい、話したいというのは強い欲求で、許可されないとそれはそれで不安定になる」
『分かりますが、協力をお願いします』
「で、例外の一人って?」
『マザーが入った女児です』

 ぼくはうなずいた。あいつに自己破壊衝動なんかあるはずない。

「それと、これは何?」シャツの胸を指す。下着を含め、今朝支給された服すべてに刺繍が施されていた。『神田一郎』
『それはこの施設でのあなたの通称名です。昨夜決定しました。必要です。いつまでも坊っちゃんなどと呼ぶわけにはいきません。他も同様です』
「他? 教えてくれ」
『マザーが複製された女児は『神田花子』、ウォーデという人造人間が書き込まれた男児は『神田雄二』、ファーリーは『神田さくら』、ビクタは『神田大三郎』。『神田』はこの施設がある土地にちなみました』
「そりゃご丁寧な事で」
『あくまで通称ですから、ここを出る時に改名できます。さあ、そろそろ予定の時間です。健診を受けてください。部屋を出れば案内がいます』

 ドアを開けると廊下の天井に浮遊型のオートマトンが張りついていて、ぼくが出ると作動し、一メートルほど前に浮かんだ。高さは手をのばしても届かないくらいだった。動き出したのでついていくといつもの医務室だった。なら案内じゃなくて監視という事か。
 この施設はどこにも窓がないが、ここにもない。どこに行っても同じパターンが繰り返される床と壁と天井だった。モニターには健診の指示が映っている。そんなのより隅の時刻表示の方が情報としてありがたかった。
 服を脱いで床の印のある所に立つと、天井と床に固定されているオートマトンが身体中くまなく調べる。非接触なので不快感はない。
『息を吸って。そう、オーケー』朝からずっと同じ声だが、同一人物とは限らない。交替は受け応えでなんとなく分かった。

 部屋を出るとさっきのオートマトンが天井近くに浮かんでいた。機体を揺らしてついてくるように促している。もう声で指示する事すらしない。

 歩き出すようなふりをしてさっと逆方向に駆け出した。
『そちらではありません。止まりなさい』
 まずは外に出るつもりだった。運動の時にどこでどっちに曲がったか思い出す。階段を降りる頃に追いつかれたが、オートマトンは声で警告するのみで何もできない。奪われるのを恐れているのか、制圧装備がないのは見ておいた。
『止まりなさい。これは警告です』
 覚えていた通りだった。外の臭いがする。埃と金属が混じった空気。

 扉から飛び出ると日差しは強かった。中庭の中央に立って見まわす。周囲を窓のない建物に取り囲まれている。浮遊オートマトンは三機になっていた。ざっと見たところやはり装備はない。暴動鎮圧用のダーツでも撃つかガス散布くらいはするかと思っていたがそれすらなかった。

『屋内にもどりなさい。これは重大な規則違反です』
「そんな規則に同意した覚えはない。この一週間はまったく無駄だった。四人に会わせろ。それと、島との通信を要求する」
 荒々しく息をしながら言い切った。この身体ではあまり無茶はできない。何かするたびに苦しくなる。筋力も持久力もない。でもできる事はある。
『それについては準備を整えています。しかしまずあなたが落ち着いてください』
「これが落ち着けるか。ごちゃごちゃ引き延ばすなら舌を噛むぞ」
 そういいながら三機のオートマトンとの距離を見積もった。だめだ。七歳の身長と脚力ではどうにもならない。歩行型か人間でも出てきてくれればいいのだが、さっきから浮遊型だけだった。これでは手詰まりだ。

「わたしとなら話し合えるでしょ!」
 大声に振り返ると、さっき出てきた扉のそばに自分と同じくらいの女の子が立っていた。服も同じで、おさげが肩にかかっていた。刺繍はしわで良く見えない。
「おまえは?」
「神田花子。よろしく、一郎さん」
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