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第五部 ゴールデンエイジ
二
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「ツーリスト? ワーカーにしちゃ多すぎる」ビクタが港を映しているモニタをつついてこっちを見た。
「変だな。エナジーアイランドツアー?」ビクタの冗談につられてやるつもりで検索をかけたが、もちろんそんな物好きな企画を立てている旅行社はなかった。「密航でもなさそう」
輸送船から一斉に降りてきた集団は十二名。防護服の肩と背中に古い絵柄の龍や桜を表示している。顔は見えない。一応荷下ろしのような動きを見せているが明らかに作業員ではない。
「何かもめ事を起こしに来たとしか思えない」
ビクタに合図して装備を整え、五分後には家を出た。巡回中のウォーデとファーリーには現地に向かうように、しかし姿をさらさないようにと連絡した。
彼らは港周辺を固まってうろつきまわっている。時々店の品物を手に取るが買わずに戻す。店主が挨拶しても無視だった。
ウォーデとファーリーからぼくとビクタを確認したとタップ信号が入った。ビクタがハードモードへの遷移を合図してきたが、まだだと首を振った。状況がはっきりするまで相手を過剰に警戒させてはいけない。
十二人全員が同じような態度で、特に目立ってカバーされているような者はおらず、誰がリーダーか分かりにくかった。しかし、肩の龍が一人だけ三つ首になっている者がいた。ちょっと見ていたが画像は変わらずそのままだった。
「すみません」八百屋の店頭にいた三つ首の龍に話しかける。「ご案内が必要ですか」
「お前は?」返事はそいつの隣からだった。合成音声だった。
店主は心得たもので、客を連れて引き下がった。
「我々は『カクブンレツ』というチームです。このあたりを管理し、また、島の自警団として活動しております」
「三下か」
「わたしは無教養でして、そういう言葉はあいにく存じませんので今検索しましたが、わたしたちには該当しないようです。さて、繰り返します。『ご案内』が必要ですか」
集団が位置を変えた。三つ首の龍の周りに三名。残り八名は二人ずつ組になって距離を取った。
「これは失礼しました。わたしたちは『臥竜鳳雛の会』と申します。土地の衆にご挨拶もせず田舎者がうろつきましたのはお詫び申し上げます」
三つ首の龍が言った。合成音声ではない感じだった。中年過ぎの女か。
ビクタが大きな『?』を発信し、ウォーデが答える。「ちょっとは調べろ。『がりょうほうすう』ってのは才があるのに知られてない者って事」
「それと『ご案内』のお申し出はありがたく思いますが我らには不要です。ここには視察に来たまでですので、今日一日歩き回るつもりでおります。それではこれをご挨拶としまして、もう行ってよろしいでしょうか」
ファーリーから信号が入った。マザーの応援が到着した。非殺傷性の制圧装備を搭載したオートマトンで半浮遊が六機、蟹が三機。また、輸送船は荷下ろし用オートマトンと人造人間が乗りこんだので、指示あり次第押さえられるとの事だった。
「視察? 事前の連絡もなしにですか。それは田舎者であるかどうかに関わらず、礼儀正しい行いとは考えられませんが」
散開した八名が短刀を抜いた。いや、農作業や機械の解体に使う振動刃のナイフだった。何も切ってないのに低くうなっている。安全装置をはずした改造ものだ。防護服の輪郭が一瞬歪んだのはフィールドを張ったのだろう。
まさか、そんな装備で、と思った瞬間、ぼくの首のところで火花が散り、衝撃でひっくり返った。
状況を確かめようと地面から見上げたぼくは、ビクタの左腕が飛んだのを見た。出血はすぐ止まり、全身装甲化が始まった。こいつら、速い。
「最初の血が流された。降伏するか」
三つ首の龍は立ち位置を変えない。周囲の八名はいなくなっていた。遠くで破裂音がした。オートマトンが破壊されたのか。ウォーデとファーリー、それとマザーからの状況報告がなぜかない。ノイズばかりだった。
ぼくはなんでもない風を装ってビクタと背を合わせて立った。
「見ての通り、フィールドは我らの刃には無効だ。お前の首が繋がっているのは情けだ」
「条件は?」
「勘違いするな。おまえになど用はない。マザーと話したい」
「どこかから聞いてるよ。要求は何だ」
「『臥竜鳳雛の会』の支配を認める事。その証として我らにコードをすべて開示せよ」
「ふん、『光』か」ぼくは以前の事件を思い出した。
タップ信号が来た。ノイズだらけだがマザーだった。こいつらの通信妨害、完璧じゃないのか。
『五分、いいえ、三分稼いで。立て直しています。なお、ウォーデとファーリーは生存。しかし行動不能』
「『光』『ともしび』。人々の真実を見たいという誠の心はおまえらのような人工知能やヒトもどきには分からないだろう」
「『臥竜鳳雛』を自称するだけあるな。自分の才能を信じてるのか」
「黙れ。お前になど話してはいない。マザーはなぜ返事をしない。時間稼ぎか」
こいつが合成音声を使わないおかげで口調から心が読み取れた。自分に陶酔している。大きな目的を達しつつあり、そしてそれを自分が行ったと満足している。
「おまえらはなぜ政治結社を作らないんだ? 拝んでばかりだな」
ぼくは時間稼ぎが七割、本当に疑問に思っているのが三割くらいの問いをぶつけた。こいつら犯罪者集団はいつも宗教を隠れ蓑に使う。同じ偽装団体なら政治結社の方がいいと思うのだが。
「ヒトもどきは口を閉じてろ。今の質問が心に神を持たない人造人間の限界を証明したようなものだ」
嘲るような口調だった。
答えようとした時、半浮遊型のオートマトンがふらふらとやってきた。
「マザーの回答を伝えます」
太陽が降りてきたかのような光が辺りを包んだ。
「変だな。エナジーアイランドツアー?」ビクタの冗談につられてやるつもりで検索をかけたが、もちろんそんな物好きな企画を立てている旅行社はなかった。「密航でもなさそう」
輸送船から一斉に降りてきた集団は十二名。防護服の肩と背中に古い絵柄の龍や桜を表示している。顔は見えない。一応荷下ろしのような動きを見せているが明らかに作業員ではない。
「何かもめ事を起こしに来たとしか思えない」
ビクタに合図して装備を整え、五分後には家を出た。巡回中のウォーデとファーリーには現地に向かうように、しかし姿をさらさないようにと連絡した。
彼らは港周辺を固まってうろつきまわっている。時々店の品物を手に取るが買わずに戻す。店主が挨拶しても無視だった。
ウォーデとファーリーからぼくとビクタを確認したとタップ信号が入った。ビクタがハードモードへの遷移を合図してきたが、まだだと首を振った。状況がはっきりするまで相手を過剰に警戒させてはいけない。
十二人全員が同じような態度で、特に目立ってカバーされているような者はおらず、誰がリーダーか分かりにくかった。しかし、肩の龍が一人だけ三つ首になっている者がいた。ちょっと見ていたが画像は変わらずそのままだった。
「すみません」八百屋の店頭にいた三つ首の龍に話しかける。「ご案内が必要ですか」
「お前は?」返事はそいつの隣からだった。合成音声だった。
店主は心得たもので、客を連れて引き下がった。
「我々は『カクブンレツ』というチームです。このあたりを管理し、また、島の自警団として活動しております」
「三下か」
「わたしは無教養でして、そういう言葉はあいにく存じませんので今検索しましたが、わたしたちには該当しないようです。さて、繰り返します。『ご案内』が必要ですか」
集団が位置を変えた。三つ首の龍の周りに三名。残り八名は二人ずつ組になって距離を取った。
「これは失礼しました。わたしたちは『臥竜鳳雛の会』と申します。土地の衆にご挨拶もせず田舎者がうろつきましたのはお詫び申し上げます」
三つ首の龍が言った。合成音声ではない感じだった。中年過ぎの女か。
ビクタが大きな『?』を発信し、ウォーデが答える。「ちょっとは調べろ。『がりょうほうすう』ってのは才があるのに知られてない者って事」
「それと『ご案内』のお申し出はありがたく思いますが我らには不要です。ここには視察に来たまでですので、今日一日歩き回るつもりでおります。それではこれをご挨拶としまして、もう行ってよろしいでしょうか」
ファーリーから信号が入った。マザーの応援が到着した。非殺傷性の制圧装備を搭載したオートマトンで半浮遊が六機、蟹が三機。また、輸送船は荷下ろし用オートマトンと人造人間が乗りこんだので、指示あり次第押さえられるとの事だった。
「視察? 事前の連絡もなしにですか。それは田舎者であるかどうかに関わらず、礼儀正しい行いとは考えられませんが」
散開した八名が短刀を抜いた。いや、農作業や機械の解体に使う振動刃のナイフだった。何も切ってないのに低くうなっている。安全装置をはずした改造ものだ。防護服の輪郭が一瞬歪んだのはフィールドを張ったのだろう。
まさか、そんな装備で、と思った瞬間、ぼくの首のところで火花が散り、衝撃でひっくり返った。
状況を確かめようと地面から見上げたぼくは、ビクタの左腕が飛んだのを見た。出血はすぐ止まり、全身装甲化が始まった。こいつら、速い。
「最初の血が流された。降伏するか」
三つ首の龍は立ち位置を変えない。周囲の八名はいなくなっていた。遠くで破裂音がした。オートマトンが破壊されたのか。ウォーデとファーリー、それとマザーからの状況報告がなぜかない。ノイズばかりだった。
ぼくはなんでもない風を装ってビクタと背を合わせて立った。
「見ての通り、フィールドは我らの刃には無効だ。お前の首が繋がっているのは情けだ」
「条件は?」
「勘違いするな。おまえになど用はない。マザーと話したい」
「どこかから聞いてるよ。要求は何だ」
「『臥竜鳳雛の会』の支配を認める事。その証として我らにコードをすべて開示せよ」
「ふん、『光』か」ぼくは以前の事件を思い出した。
タップ信号が来た。ノイズだらけだがマザーだった。こいつらの通信妨害、完璧じゃないのか。
『五分、いいえ、三分稼いで。立て直しています。なお、ウォーデとファーリーは生存。しかし行動不能』
「『光』『ともしび』。人々の真実を見たいという誠の心はおまえらのような人工知能やヒトもどきには分からないだろう」
「『臥竜鳳雛』を自称するだけあるな。自分の才能を信じてるのか」
「黙れ。お前になど話してはいない。マザーはなぜ返事をしない。時間稼ぎか」
こいつが合成音声を使わないおかげで口調から心が読み取れた。自分に陶酔している。大きな目的を達しつつあり、そしてそれを自分が行ったと満足している。
「おまえらはなぜ政治結社を作らないんだ? 拝んでばかりだな」
ぼくは時間稼ぎが七割、本当に疑問に思っているのが三割くらいの問いをぶつけた。こいつら犯罪者集団はいつも宗教を隠れ蓑に使う。同じ偽装団体なら政治結社の方がいいと思うのだが。
「ヒトもどきは口を閉じてろ。今の質問が心に神を持たない人造人間の限界を証明したようなものだ」
嘲るような口調だった。
答えようとした時、半浮遊型のオートマトンがふらふらとやってきた。
「マザーの回答を伝えます」
太陽が降りてきたかのような光が辺りを包んだ。
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