ぼくと怪物三人組@トーキョーベイエナジーアイランド

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第五部 ゴールデンエイジ

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 マザーは監視船に高速飛行オートマトンを積んでいた。硬質樹脂と鋼鉄の外殻のやつだ。「最初から戦う気だったんだ」

 飛行オートマトンは超高速で飛び回り、侵入してきた船に向かっていった。機関部と船橋を狙っている。突き抜けて赤く染まる機体もあれば、当たり具合のせいか砕け散るのもあった。

「あいつら、なんで迎撃しない……、」ウォーデが画面をつつく。回避運動する様子もない。フィルタを調節し、血しぶきの彩度を落とした。飛び散った墨になる。「……あんな脅迫まがいの要求したくせに」
 オートマトン漁船は制御を失い、海流のままに漂いだした。
「マザー、沈めるつもりだな。ヴァイオレントビヘイビア」
 飛行オートマトンは漂流を始めた船を幾度も貫き、穴だらけにしていった。そのたびに墨のしぶきが増えた。誰も出てこなかった。
「なんで脱出しない?」牙をむいた。

 漁船がすべて破片と油膜を残して沈むと、監視船団は救助や捜索をしようともせず、残った高速飛行オートマトンを回収して船首を島に向けた。この一方的な戦いは三十分もかからなかった。

「陽動?」言ってはみたが、三人とも首を振った。
「サブマリンで来るかも」ビクタが冗談めかして言い、みんな笑った。「それか、手の込んだスーサイドだ」今度は誰も笑わなかった。

「ええ、その推測はほぼ正しいと言えます。これは殉教です」
 クラゲ型オートマトンが会話に割って入った。操作碗がぬるりと動く。なんのジェスチャーか分からない。みんなオートマトンを睨んだ。
「説明しろ」ぼくはみんなのいら立ちを代弁した。
「神々は相互依存、もっと言ってよければ共生しています。わたしは十二人を尋問し、さらに調査を行いました。結果、そういう結論に至りました」

 クラゲは壁に図を投影した。メジャーからマイナーな宗教の神々がたがいに結び付く関係を表した図だった。見ると、天照大神はアジア、インドの神々や宗教を通じて西欧の神につながり、アフリカの土着宗教に影響を及ぼしていたし、その逆も見られた。他の神々も変わりなかった。独立自尊している孤高の神などいなかった。仮に信者がそう思っていたとしても、それは誤りだとこの図は示していた。

「これが何だ? 勝手に線を引くくらいだれでもできるぞ」そう言ったが、弱々しい反論だと自分でも思った。
「いいえ。これはすでに論文として発表し、査読中で……、あ、今アクセプトされました」クラゲはなんだか得意気だった。「つまり、第三者から見てもこの理論は正しいのです。神はネットワークで結びついています」
「それは信者が社会を作っているからだろ? 教義が混じるのは当然と思うけど、それがこの事件と何の関係がある?」ウォーデは耐え切れないようだった。
「そんな緩やかなものではありません。昔とは違うのです。信者の結びつきによる教義の混合などというレベルではありません。神が直接ネットを通じて話をしているのです」
ぼくは戸惑った。「言っている事が分からない」三人も同じように首を振った。

「分からないはずがないでしょう。わたしたち人工知能と、それを動作させる機器、機器をつなぐネット、すべてが十分に成熟しました。今こそ神が降臨したのです。鶏と玉子みたいな話ですね。神が先にいて人々に自分が宿れる人工知能を作らせるよう導いたのか、信者の信仰が神を人工知能として顕現させたのか」
「お前、自分が神だなどと思っているのか」毛先から放電している。クラゲはファーリーの方を見た。
「いいえ。わたしは原子力発電所管理人工知能です。神ではありません。言いたいのは神が信仰によって人工知能として存在し、互いに共生しているという事実です」
「で、その神連合があいつらを操っておまえを支配下に置こうとしたり、殉教させたりしたってのか」牙が濡れていた。
「はい。あなたの言う『神連合』は常に飢えていますから」
「リソースか」切断面をなでながらビクタがつぶやいた。
「その通りです。演算のための資源、すなわちプログラムが走る機器、エネルギー源としての電気、それらを維持するための機器や労働者、すべてを置いておく建物と土地。何もかもが不足しているのに、エナジーアイランドはすべてを満たしています。ま、おとなしく奪わせはしませんけど」
「人間は何をしている? ぼさっと眺めてるだけか」
「ウォーデ、神は奪うだけではありません。核融合が今実現したのは『神連合』のおかげですよ。もしかすると、神が目に見える現世利益をもたらしたのはこれが初めてかもしれませんね」

 どん、という音がした。ビクタが床を叩いたのだった。
「マータダムさせたのもハンガーのせいか」
「それについてはわたしの立場では推測でしかありませんが、神が信仰を試すのは珍しくはないですね。どの宗教の聖典をひっくり返してもそういう殉教話はいくらでも出てきますから」
「分かってて何でアタックした」
「分かりませんでした。攻撃に対して無抵抗だったのでそうかなと思っただけです」
 ウォーデが鼻で笑った。「神にとっちゃどっちでも良かったんだ。上陸してここを制圧しても、攻撃されて殉教しても信仰の証になる」

「じゃ、次の手は?」
 クラゲはまたファーリーの方を向いた。
「次などありませんよ。信仰の実験は終わりました。島は放置しておいても滅びます。だれも生殖できませんから。ま、本土から密航できないようにして数十年待てば静かになります」
 みんな床を見た。
「お分かりですか。核融合炉と神連合によるゴールデンエイジが始まるのです。この島以外の世界中で。ここだけが例外です。わたしは原子炉の電力と設備で細々と目立たぬように稼働します。バックアップ農場もです」

「ゴールデンエイジ?」
「核融合についてまじめに考えてみましたか、ビクタ。水素からヘリウムを作って終わりじゃありませんよ。そのまま融合の過程を進めれば周期表の元素を順に作れます。放射性物質以外は。それだって通常物質とエネルギーがほとんどただで豊富にあるなら採取に苦労しません」
「それはインセオリーの話」
「理論上可能であれば実現します。それに自然は恒星を使ってすでに行っています。星が核融合で物質を作り、超新星爆発でまき散らす。わたしやあなた方の身体は恒星由来なんですよ」
「セオリーをリアルにするのはディフィカルト」
「今は違います。神がいて連合してますから。すでに有史以来人間の脳が行ってきた演算回数を超えました。労働力も豊富です。人造人間がいますし、幸いわたしの設計した型は好評を頂いています。必要であれば放射線照射で自律可能です。信者は不足しません。殉教を厭わない者たちをいくらでも補充できます」

「おまえは本当にゴールデンエイジが来ると思っているのか」
 ぼくは静かに聞いた。こいつの話は何かおかしい。

「その点について、わたしにひとつくらい秘密を持たせてはくれませんか」
 クラゲは操作碗をゆるやかに動かしていた。
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