ぼくと怪物三人組@トーキョーベイエナジーアイランド

alphapolis_20210224

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第五部 ゴールデンエイジ

十三

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 口内が粘っこい。鉄の味もする。枕もとの水を飲んだがちっともましにならない。二回目の身体硬直もひどいものだった。
 すぐに看護師が来て、そのまま寝ているように告げた。白い肌だった。

 次に入ってきたのは花子だった。
「みんなは?」先手を打って聞いた。
「このフロアにいます。それぞれ個室です。ホテルと言うわけにはいきませんが」
「会いたい」
「今呼びますか」
 ぼくは首を振った。頭が重い。まだまともな話ができる状態じゃない。
「治療は終わっています。後は休むだけです。十分に休養が取れたらみんなで話しましょう」
 何を? と問い返そうとしたが、花子はさっさと出ていった。そんな気の使いかたをされたのは初めてだったので驚いたが、すぐに強い眠気が襲ってきた。

 目覚めるともっとずっとましな気分になっていた。しばらくすると四人が来た。それぞれ好きなように座ったり立ったり壁にもたれたりしている。ぼくは起きてベッドに腰掛けた。

 雑談が一通り終わって間が開いた後、最初に口を開いたのは花子だった。
「みなさんに言っておく事があります。わたしたち五人は情報的に無になりました。喜ぶべきなのか悲しむべきなのか分かりませんが、それが事実です」
「どうやって?」さくらは椅子の背もたれの方を前にして座っていた。
「デモ隊が施設を襲撃した時、機密保持のため全データを消去し、記憶装置などは物理的に破壊しました」

 煙はデモ隊のせいだけじゃなかったんだ。機密保持のため……か。

「じゃあ、おれたちはこれからどうなる?」雄二は立ったまま腕を組んだ。
「身元は準備します。またはみなさんがそれぞれ自分で作っても結構です。しかしここで重要なのは、もうわたしたちを人間と区別するものは無くなったという点です。この意味、分かりますか」
「そんな甘いもんじゃないだろ? 記録は施設のだけじゃない」ぼくは馬鹿にしたように言った。
「厳密にはそうです。島のがありますし、本土にも報道など記録があるでしょう。でも公的にわたしたちをわたしたちであると証明できるだけの有効性を備えた記録はありません」
 大三郎がもたれていた壁から離れた。「セルフアイデンティフィケーションをマイセルフでやる、と」
「その通りです。自分を自分であるという証明を好きに作れるのです。すばらしいでしょう? 一郎さんも回復していますし、ここには一週間から十日ほどとどまる予定ですが、その間にIDを作ってください。基礎部分は提供します」
「お前はどうするんだ?」別に興味はないが、話の接ぎ穂に聞いた。
「わたしもそうします。というか、もう出来ています。神田花子は生まれてすぐ商社を経営している在日米国人夫妻に引き取られて何不自由なく暮しています。公的な情報の上では」
「名前はそのまま?」さくらは背もたれにのせた両手を頭で組んだ。
「もちろん変えました。でもここで話すつもりはありません」

 ぼくは笑った。「ぼくらの情報を漏らしたり、デモを扇動したりしたのはおまえか、マザーか」
「区別する必要はありません」花子は黒幕であったとあっさり認めた。
「いや、ある。情報抹消のために騒動を演出しなきゃならないって判断したのはどっちだ」
 ぼくが言うと、三人もうなずいて花子を見た。
 花子は首をかしげてちょっと考えた。「それは興味深い疑問です。確かにわたしとマザーは完全に同一ではない。この情報抹消計画を思いついたのはわたしと言えます。マザーより二、三演算サイクル分早かったんです」
「じゃ、おまえらも分岐してるんだ。わずかな演算サイクル分とはいえずれが生じているなら、ぼくと同じ自己破壊衝動だって生じる可能性があるんじゃ?」
「その推測はかなり正しいと言えます」花子は持ってまわった言い方をした。混乱しているのかもしれない。
 雄二が歯を見せる。「花子自身には身体硬直機能はないんだろ? 危ねえな」
「その通りです。ただ、同期のずれ自体は当初から想定されており、すぐに破滅的な影響を及ぼす事はありません。それでも今後は演算サイクルのずれを解消するようにします。バッファを活用してもいいかもしれません。手順を複雑化するのは気が進みませんが」
「いや、それは解決策にはならないね」さくらが言い、花子は悲しそうにうなずいた。
「ええ、通信やその他の要因によるずれを完全になくす事はできません。しかし今までの所懸念されるような衝動は生じていません。現実的には完全に同期していると言えま……」 話しながら、花子はぼくを見た。「……なぜそんな目でわたしを見ているのですか」

「憐れだから」病院のスリッパはつま先がすこしほころびかけていた。「今の話だと、花子はマザーの端末、オートマトンみたいなものだから」
「いいえ。わたしはわたしです。今は神田花子です。マザーとは情報を共有しているだけです。作業上の便宜のために」
「情報? 人間でいえば記憶か。これまでしてきた事や考えた事を同期してるなら、今ここにいるおまえはインフィニティ・マザー、原子力発電所管理人工知能だ。花子っていう別人格じゃない。分かってるはずなのになんで意地張ってる?」

「わたしだって、人間です……。そうでしょう?」
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