ぼくと怪物三人組@トーキョーベイエナジーアイランド

alphapolis_20210224

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第六部 どこまでも此岸

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 分かっていたとは言え、遠隔操縦型オートマトンの操作はとにかく大変だった。平面の画面に映った周囲の様子を見ながら両手で操縦桿とボタンを、両足でペダルを操作する。自律的に判断するのは衝突検知くらいなのに、勢いがつきすぎていると止まれなかった。

「これのどこがオートマトン?」ファーリーは文句たらたらだった。山奥の廃墟で練習しているが、なめらかに動かせるようになる前にぼろ家を解体してしまいそうだ。さっきも階段の腐った木を避けそこなって踏み抜いていた。

「しかも同型機のはずなのにくせがある」いらいらを隠さないのはウォーデだ。脚に車輪がついていて路面の状態によって切り替えられるのだが、自動検知は中途半端なものだった。そのため操縦者が補佐しないといけないのに、指示と検知結果が食い違ったときの処理がまちまちだった。

 ビクタは最初から手を出そうともしなかった。肩をすくめて「これはノーグッド」と言った。

 しばらく動かしてみて、操縦機器に手書きされていた廃棄物分別記号を使い、操作への追随が遅れるのをA号、命令がある程度溜まるといくつかすっ飛ばして平気でいるのをB号とした。
「主に使用するのはA号にして、B号は予備機にしよう。指示に遅れるのはまだしも実行しないのはだめだ」みんなうなずいた。
「それでも、電子的には見えないってのが面白い。まだこんな骨董品が残ってたとはな」ぼくはB号を待機姿勢に戻した。古くてぼろだが、規制緩和前の機体なので電磁波漏れ対策は過剰なまでに完璧だった。電磁シールドはバッテリーを無駄に食うし、物理シールドのせいでオーバーウェイトだ。削ればもうちょっと軽快な動作ができるだろう。しかし、おかげで電子的探知に対しては存在しないも同然なのだった。

 操作に充分慣れたので、二機を高尾山に送った。マザーが手配してくれたのだが、フリーのオートマトンパイロットが三次請けか四次請けとして送電線点検を行う形だった。
 ぼくらは自動操縦の軽トラックで田舎道を走っていた。時々入る揺れやノイズがなければのんびりとしたいい風景だった。
「いい声。何て言う鳥?」「ヒバリだって」ウォーデがファーリーに答え、ビクタは大あくびした。
「そろそろ神域に入る。緊張して」
「よし、俺が一番」とウォーデが操縦機についた。文句ばっかりだったくせに結構気に入った様子だった。

 A号の起動と同時に『臥竜鳳雛の会』の警備員詰め所を無事通過した。許可証自体は本物なので問題はない。
 点検も本当に行う。正規の手順を踏み、操作を交替しながら電線の下を鉄塔から鉄塔へと歩いていく。点検用の小道は荒れ切っていたので車輪走行モードの出番はなかった。

 しかし、経験のある者が見れば、おや? と思うだろう。宿舎に向かうため、鉄塔をたどる順番や作業が少々効率を無視したやり方になっていた。元請けはマザーがごまかしてくれている。作業道の荒れ具合が想定を超えていたと報告するつもりらしい。

「見えた。あれだろ? 信者の宿舎って」

 周囲の緑に似合わない殺風景な建物だった。三階建ての箱で明るめの灰色。調べてみると、かなり昔に建てられた保養所の転用だった。

 ウォーデはA号を宿舎の方に向け、作業用レーザーを照明モードにして点滅させ、操作碗で鉄塔を叩き始めた。ひびなどの劣化部分を探すときのやり方だが、島のタップ信号になっていた。『注目!』とだけ言っている。

 数分後、窓が開いた。二階に花子、三階からは一郎、雄二、さくら、大三郎がこちらを見ている。すぐに花子が引っこみ、三階に加わった。

 一郎がレーザー信号を送ってきた。携帯用の測距儀だろうか。
『何?』

「画面、もっと鮮明にならないの? 表情をもっと見たい。目がわからない」
 ぼくは少々いらっとして言った。これでは心を読めない。だがウォーデは操作画面を見たまま首を振った。

『会社の目的、知りたい』こちらもレーザーのみにした。
『島、関係ない』
『干渉しない。知りたいだけ』
『信用できない』

 ぼくはウォーデの肩を叩いた。言っちゃえ、というサインだった。ファーリーもうなずく。ギブ・アンド・テイク。情報を引き出すにはこちらも発信しないといけない。

『自治に興味あり。その行き着く所にも』

 一郎は腕を組み、四人と話し合った。ぼくはファーリーにも画像の高精細化を頼んだがだめだった。機器は旧式、距離が空きすぎている。処理しても画像の補完ではなく創作になってしまう。
「もっと近かったら何とかなるんだけど」

『日本、分裂。いずれ世界も』
『君たちは?』
『その断片を支配。目の届く範囲の小領主になる』
『政府は引き下がらない』
『力はない。市民は静かに無視する』

 自分の意志なのか、言わされているのかすら分からない。何かサインを送っていたとしても見逃しているだろう。とにかく解像度が足りない。情報の欠落はもどかしく、あせりを感じた。
「出てきてもらって近くで話せないかな」
 ファーリーがウォーデの横から打ち込んだ。

『額合わせて話したい』
『今夜。裏の鉄塔』

 破損したまま放置されている鉄塔を指定してきた。分かったと伝え、仕事にもどった。彼らは様子をずっと見ていたが、向こうからは通信してこなかった。

「罠かな」牙を見せる。
「トラップでもつきあうしかないでしょ」培養筋が動く。まったく興味のない口調だった。ビクタにとっては他人事なんだろうか。
「ならB号を向かわせよう。停止して話すくらいならできるだろ」ファーリーの提案にビクタ以外の皆が賛成した。

 がたがたと振動するB号を起動し、指定の鉄塔に向かわせた。着くころには日が傾いていた。そのまま待機させる。A号は全体を見渡せる位置に潜ませた。

「どっち?」ウォーデがファーリーに聞いた。
「B号。画像処理もやる」操縦機の画面を大型モニターにつなぎ、高精細化を色々と試している。そのたびに画像が荒れたり、輪郭が異様にくっきりしたりしたが、そのうちにちょうどいい具合の設定が見つかった。
「これならいい。心理分析できる」ぼくは画面をつつく。

 ファーリーは得意気に笑うと放電した。
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