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第六部 どこまでも此岸
四
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明るい夜だった。満月が十分な光源になっている。それは有利でもあり不利でもあった。
「来た」ファーリーは座りなおした。B号のスリープが解除される。
一郎は室内着に上着を引っかけているだけだった。いかにも抜け出してきたと言う風情だが、見たままを信じるわけにはいかない。
ウォーデがこちらを見たのでうなずくとA号も目覚めた。こちらの画面は引いた全景だ。
「こんばんは、でいいのかな?」一郎が言う。何か誤解してるのだろうか。
「いいよ。島に時差なんかない」ファーリーが話す。
ぼくは画面をにらみ、自分の目とゴーグルで分析した。リラックスしている。
「他の人間やオートマトンは検知されない。ま、こいつのセンサーを信じるならな」ウォーデが言った。
「ビクタ、おまえもつきあえ」
「坊っちゃん、こいつはノーミーニング。知ってどうなる?」
「それは大間違い。無意味な情報なんてない」
「ある。スキズマティックニッポンなんか放っとこう」寝転がって大あくびをした。ゴーグルをはずし、画面すら見ない。
「好きにしろ」
「他の四人は?」
「ごまかしてもらってる。だから長くはいられない」
「じゃ、監視されてるんだ」
「そりゃそう。何もかもすぐ信用されるほど甘くない」
ファーリーはこっちを見た。ぼくはそのまま続けるよう促した。
「じゃ、近況とかなしですぐ本題。日本を分裂させ、小規模になった自治体の集合体にするってのは本気?」
「本気。国家は残るだろうけど概念だけで無意味になる」
「あなた、いや、あなたたち五人は支配者になるつもりか」
「そう。高尾山から見下ろす八王子はぼくらが治める。同じ動きを見せてる日野、多摩、相模原とは連合する」
「『臥竜鳳雛の会』も、でしょ」
「彼らはぼくらを支配してる気でいる。あんなくだらない教義にかまってる暇はないけど宗教は資金と権力が簡単に手に入るからね」
「本当に君らの考え? 花子は?」
「そっちのマザーにはたくさん世話になった。感謝してる。でも感謝以上の見返りはない。どうせ情報収集してるんだろうから、それがお礼代わり。分裂して小集団の連合体になる日本なんていい観察対象だろうし、花子の連絡は妨害してないだろ」
一郎の口調、表情、身振りには迷いや他人の考えを代弁しているような揺らぎはなかった。まるでぼく自身が演説しているようだった。
だけど、違う部分もある。分岐はかなり進んだようだ。破壊衝動は起きない。自分にも、画面内の相手にも。
姿を見ていると、あの子、と考えてしまうが、支配への欲望や目的を達成しようとする成人の強い攻撃性が見てとれた。言葉の選び方に隠しようがなく表れている。
「おい、そっちにぼくのもとになった人もいるんでしょ。『坊っちゃん』とか呼ばれてたの。出して」
ファーリーがこちらを見た。回線をつなぐ。
「何?」
「あなたがぼくとほぼ同じなら分かるでしょ。キングになりたいっての。ぼくはもうすぐ達成する。あなたは無理だけどね」
ビクタが背を向けたまま肩を震わせた。笑ったのか。
「厳しい言い方だけど、その通り。ぼくはチーム『カクブンレツ』のリーダー格にすぎないな。それもいつまでやら」
「島でぬくぬく暮らせよ」
ウォーデがタップ信号を送ってきた。接近者あり。五名以上。オートマトンは見られず。
ぼくは危害を加えず、作業にかこつけて妨害するよう指示した。
「一郎、キングになるなら覚えとくといい。『ダモクレスの剣』って言葉」
「おまえには『すっぱい葡萄』がお似合いだ」
「接近者がいる。さよなら」
「さよなら。ありがと」
画面から一郎の姿が消えた。ウォーデとファーリーは機体の不具合を装ってその場を取り繕っている。B号の動きを見ればそれもあながち嘘ではない。
ビクタの肩はまだ震えている。覗いてみると菓子を食べていた。
「来た」ファーリーは座りなおした。B号のスリープが解除される。
一郎は室内着に上着を引っかけているだけだった。いかにも抜け出してきたと言う風情だが、見たままを信じるわけにはいかない。
ウォーデがこちらを見たのでうなずくとA号も目覚めた。こちらの画面は引いた全景だ。
「こんばんは、でいいのかな?」一郎が言う。何か誤解してるのだろうか。
「いいよ。島に時差なんかない」ファーリーが話す。
ぼくは画面をにらみ、自分の目とゴーグルで分析した。リラックスしている。
「他の人間やオートマトンは検知されない。ま、こいつのセンサーを信じるならな」ウォーデが言った。
「ビクタ、おまえもつきあえ」
「坊っちゃん、こいつはノーミーニング。知ってどうなる?」
「それは大間違い。無意味な情報なんてない」
「ある。スキズマティックニッポンなんか放っとこう」寝転がって大あくびをした。ゴーグルをはずし、画面すら見ない。
「好きにしろ」
「他の四人は?」
「ごまかしてもらってる。だから長くはいられない」
「じゃ、監視されてるんだ」
「そりゃそう。何もかもすぐ信用されるほど甘くない」
ファーリーはこっちを見た。ぼくはそのまま続けるよう促した。
「じゃ、近況とかなしですぐ本題。日本を分裂させ、小規模になった自治体の集合体にするってのは本気?」
「本気。国家は残るだろうけど概念だけで無意味になる」
「あなた、いや、あなたたち五人は支配者になるつもりか」
「そう。高尾山から見下ろす八王子はぼくらが治める。同じ動きを見せてる日野、多摩、相模原とは連合する」
「『臥竜鳳雛の会』も、でしょ」
「彼らはぼくらを支配してる気でいる。あんなくだらない教義にかまってる暇はないけど宗教は資金と権力が簡単に手に入るからね」
「本当に君らの考え? 花子は?」
「そっちのマザーにはたくさん世話になった。感謝してる。でも感謝以上の見返りはない。どうせ情報収集してるんだろうから、それがお礼代わり。分裂して小集団の連合体になる日本なんていい観察対象だろうし、花子の連絡は妨害してないだろ」
一郎の口調、表情、身振りには迷いや他人の考えを代弁しているような揺らぎはなかった。まるでぼく自身が演説しているようだった。
だけど、違う部分もある。分岐はかなり進んだようだ。破壊衝動は起きない。自分にも、画面内の相手にも。
姿を見ていると、あの子、と考えてしまうが、支配への欲望や目的を達成しようとする成人の強い攻撃性が見てとれた。言葉の選び方に隠しようがなく表れている。
「おい、そっちにぼくのもとになった人もいるんでしょ。『坊っちゃん』とか呼ばれてたの。出して」
ファーリーがこちらを見た。回線をつなぐ。
「何?」
「あなたがぼくとほぼ同じなら分かるでしょ。キングになりたいっての。ぼくはもうすぐ達成する。あなたは無理だけどね」
ビクタが背を向けたまま肩を震わせた。笑ったのか。
「厳しい言い方だけど、その通り。ぼくはチーム『カクブンレツ』のリーダー格にすぎないな。それもいつまでやら」
「島でぬくぬく暮らせよ」
ウォーデがタップ信号を送ってきた。接近者あり。五名以上。オートマトンは見られず。
ぼくは危害を加えず、作業にかこつけて妨害するよう指示した。
「一郎、キングになるなら覚えとくといい。『ダモクレスの剣』って言葉」
「おまえには『すっぱい葡萄』がお似合いだ」
「接近者がいる。さよなら」
「さよなら。ありがと」
画面から一郎の姿が消えた。ウォーデとファーリーは機体の不具合を装ってその場を取り繕っている。B号の動きを見ればそれもあながち嘘ではない。
ビクタの肩はまだ震えている。覗いてみると菓子を食べていた。
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