凡庸魔法使いと超越能力少女のやっかいごと以上この世の終わり未満の冒険

alphapolis_20210224

文字の大きさ
3 / 90
第一章 緑の瞳の少女

しおりを挟む
 ローテンブレード家本城、とはいうものの、美麗とは言えない。戦争は当主の住まう城をも実用一点張りの姿に変えていた。それでも前庭は心づくしの花や木々で飾られており、平和、しかもそれを勝ち取った側の歓喜を感じさせた。
 ケラトゥス・ウィングは花と木の間の小道をまっすぐ歩いていく。無駄な肉のない引き締まった長身から翻るマントは装飾用で肩と背中に紋がついており、身分が許す範囲で色を使った衣服に身を包んでいた。紋に気づいた護衛兵たちは道を譲り、敬礼する。
 答礼をし、会釈を返す。茶色の目と厚めの唇はいつも愛想よくほほ笑んでいる。眉にかかってくる濃い茶色の髪を払う。戦時中は短く刈り込んでいたのだが伸びるのはあっという間だ。

「ウィングです。お呼びにより参りました」

 城に付属する小さな建物の門衛に告げ、開けられた扉をくぐった。そのまま玄関ホールを突っ切って階段を上がってすぐの扉。来れるのはこの事務所までだった。いつか本城に上がれる身分になりたいものだがあせってはいけない。一歩一歩着実に、いままで通りに出世していけばあと十年ほどでそういう立場になれるだろう。
 しかしいまは小さくなって上の命令をこなすしかない。ただただ実績を積み重ねるのだ。

 ケラトゥスは扉の外で立っている時はいつもそう考えていた。だから待っていられた。これだっていつか報われる辛抱だ。

 扉が開き、召使から入るよう合図された。すぐに目に入るのは四魔獣を脚に彫り込んだ机。その向こうに窓を背にして上司のオウルーク・ブレードが座っている。ローテンブレード家の紋章指輪が日の光にきらめいたが、この上司自身はローテンブレードの正血統ではない。

「ご苦労。挨拶はいいだろ? わしと君の間だ。ほかにだれもいない時は簡潔に行こう。現状報告を。それと、かけたまえ」
 話すと、大き目の口がしわだらけの顔にさらにしわを加えた。年齢によるものもあり、苦労によるものもあった。目は小さく肉の襞に埋もれそうだったが、唯一、丸い鼻だけが愛嬌を残していた。

 会釈をしてすわる。クッションが効いており、がたつきひとつない。軍ではありえない椅子だった。

「報告いたします。先の手紙によるものと変わりありません。魔宝具の輸送計画に変更なし」
「よろしい。それにしてもだ……、しつこいかな? 上が気にしている。正規兵でないのはいかがかとな」
 オウルークは書類とケラトゥスの顔を交互に見ている。またか、と思うが顔には出さないようにする。蒸し返すのにはなにかあるのだろうか。そういうのを汲み取れないと出世に障る。
「ご心配はもっともです。わたくしも戦時中であれば軍に支援を要請しておりました。しかし戦後復興に伴う軍の縮小もあり、ここで護衛運送などを依頼するともっと上の筋、はっきり申し上げて王室のご機嫌を損ねると判断いたしました。また、現場には募集は元軍人のみに絞るよう指示を出しておりますので実力は変わらないと存じます」
 本当は予算の都合なのだが、それは口にしない。お互い分かっていることではあるし、貴族の家というのは没落を目の当たりにするのを極度に嫌がる。別の理由をつけてやれば喜んで飛びつくものだ。

「そうだな。わしもそう言っているのだが。なんども済まんな。ところで、あれについてだが……」
 声をひそめ、指でケラトゥスを招いた。すぐ立ち、机を回りこんでそばで腰を曲げて耳打ちする。
「おまかせください。目立たぬようほかの魔宝具と同様に輸送いたします。こちらも計画通りに」

 オウルークは眉間にしわを寄せたが、明るい日差しのせいで陰影がかき消され、ケラトゥスは気づかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた

黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。 そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。 「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」 前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。 二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。 辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

処理中です...