凡庸魔法使いと超越能力少女のやっかいごと以上この世の終わり未満の冒険

alphapolis_20210224

文字の大きさ
4 / 90
第一章 緑の瞳の少女

しおりを挟む
「おやじぃ、こっちはいいよ」

 にきびの残る細身の若者が積みこみの終わった一頭立ての荷馬車の向こうから顔を出した。茶色の髪はぼさぼさで、これから伸ばして整えようというのだった。大きな目、小さな鼻と口はいずれもまだ少年っぽさを残していた。傷のほとんどないきれいな手で荷を叩く。大型の木箱でご大層にローテンブレード家の封印が施されていた。

「仕事中はあだ名を使うな、小僧。俺にはマールって名がある」

 おやじと呼ばれた四角い顔の中年男は額の汗を拭った。これはあだ名であって若者の親ではないがそのくらいの歳で、黒髪には白いものが混じっていた。目は猛禽のように鋭く、鼻から幅広の口にかけて傷痕が走っていて見た目は恐ろしげだった。
 中年男は若者の合図を受け、荷の固定具合を確かめて覆いをかけた。それから荷馬車の下にもぐって木槌でこんこん叩いてみている。馬は叩く音がするたびに耳をぴくりと動かしていた。

「俺にだってペリジーって名があらぁ。で、どしたんだ? おやじ、車軸はさっき見ただろ?」
「こいつ、荷馬車のくせにずいぶんちゃんとしたばねつけてる」

 マールはわざとあだ名を使うペリジーを木槌で殴るふりをしながら答えた。ペリジーも覗き込む。

「ふうん。まあ、魔宝具って聞いてるし、霊をおどかさないためじゃね?」
「そうかな。いや、ちゃんとしてる分にはいいんだがな。おい、そろそろ隊長呼んで来い」
「あだ名はだめなんじゃないの?」
 そう言って駆けていくと、積み下ろし場に静けさが戻ってきた。

 しばらくするとペリジーがほとんど白髪の初老の男を連れて戻ってきた。丸顔の真ん中の大きな鼻の頭がちょっと赤い。目もご機嫌で優しいが、若いころは獲物を貫き留める眼光を放っていたに違いないと思わせた。年齢がいたるところにしわを刻み込んでいる。首筋には火傷があり、襟で覆っているが隠しきれていない。

「朝っぱらからそいつはまずいっすよ、隊長。すぐ仕事だし、これから大砲と初顔合わせだってのに」
 笑いながら鼻を指さす。
「こら、仕事中はディガンだろ? みんなで決めたのに守りゃしねえ。それと、こいつが俺様の朝飯なんだ」
 鼻をこする。赤いのを取るつもりだろうか。その様子を見てまた笑うとマールは荷馬車の下を指さし、さっきの話をした。
「小僧の言う通りじゃないのか。霊の安定のためだろ。おまえなにをそんなに気にしてる?」
「ううん、もういいか。でもこの仕事、おかしな点ばっかなのは隊長も認めるでしょ?」
「そうだな。おまえが神経質になるのも分かる。そもそも魔宝具輸送の護衛が雇われの寄せ集め、霊の反発とか言う怪しげな理屈で荷馬車はばらばら、車列も作らない、なんて、な……」
 赤い鼻に似合わず、目が鋭くなった。
「……だがな、払いがいい。三世五枚なんて景気のいい話は戦後初めてだ。細かいことは置いとこうや」
「だよね。俺、それ元手にしてちゃんと勉強するんだ。会計の」
「ふん、小僧が商売でも始めるのか。身ぐるみはがされるぞ」
「隊長こそ、白髪頭でいまさら金持ったって仕方ないじゃん。墓でも買うのかい?」

 ディガンは大笑いした。それから急に真面目な顔になってつぶやいた。
「そうさな。それもいいかもな。そろそろ俺にも墓がいる」

「お、来たぞ」
 木槌で指す。男が歩いてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良
ファンタジー
 ――「要するに、アンタには死なれちゃ困るんだよ。俺が、この異世界で幸せな一生を送って、天寿を全うするまで、な」  魔族を統べる魔王イラ・ギャレマスは、自身の城へと攻め込んできた“伝説の四勇士”の三人、ジェレミィア・ファミィ・エラルティスを、その圧倒的な力を以て圧倒する。  残るは、黒髪黒目の冴えない男――シュータ・ナカムラのみ。  だが……シュータは、魔法陣で三人の仲間を魔王城の遥か彼方へと吹っ飛ばし、ただひとりで魔王と対峙する。  ――そして、二十分後。  不様に大理石の床に這いつくばっていたのは、魔王ギャレマスの方だった。  シュータの繰り出す圧倒的なチート攻撃の前に為す術もないギャレマスは、自身の敗北と迫りくる死を覚悟するが、そんな彼に対し、シュータは不敵な笑みを浮かべながら、意外な提案を持ちかけるのだった――。 「なぁ、魔王。ここはひとつ、手を組もうぜ……!」  『地上最強の生物』だが、めっぽうお人好しで、バカが付くくらいに娘の事を溺愛している中年オヤj……ナイスミドル(忖度)の魔王が、反則級のチートマシマシ異世界転移勇者をはじめとした周囲の者たちに翻弄されまくるコメディファンタジー、ここに開幕!  哀れな魔王の、明日はどっちだ……? (表紙イラストは、ペケさんから戴きました) *小説家になろう・ノベルアッププラスにも、同作品を掲載しております。

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...