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Sweet Kissのその先は…
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しおりを挟む5月のゴールデンウイークの中日。
雲一つない快晴の下で、森つぐみは朝からウキウキが止まらなかった。
「つぐみ、朝からごきげんだな。顔がずっとにやけっぱなしだぞ」
隣で車のハンドルを握りながら恋人の桜木俊樹がからかった。
「にやけっぱなしって……。だって……だって! やっと、初めて外でデートできるんだよ! それに――」
「ククッ…! まるで小学生みたいだな。ほら、遠足の時みたいな」
「ちょっと! 俊樹ってばヒドイ。私、もう大学生なんだよ、子供扱いしないで!」
「ハハハッ! そうだな、悪かったよ」
笑いながら頭を優しく撫でられた。
そんな甘い笑顔を見せるなんて…もう、反則なんだから……。
車を数時間走らせ、昼過ぎに目的地に着いた。
つぐみはその見事な風景に見惚れて、自然に口から「わぁ…」と感動の溜息が漏れた。
ここは、静かな美しい森に囲まれた、戸建て風のコテージが建ち並ぶ宿泊施設。
同じ敷地内に様々なタイプの宿泊施設が程よい間隔で建ち並んでおり、つぐみ達が泊まるのはまるで避暑地にある別荘のようなコテージで、しかも露天風呂付だ。
車から降りると、桜木が当たり前のようにつぐみの手を取り、しっかりと繋ぐ。
つぐみがはにかみながら桜木を見上げると、桜木も柔らかな笑みを浮かべながらつぐみを見つめた。
「何だかまだ夢を見てるみたい…。こんな風に俊樹と普通に手を繋いで普通に外でデートできて、しかもこんな素敵な所に泊まれる日が来るなんて…」
「俺もだよ。つぐみのご両親にも付き合いを認めてもらったし、少し遅くなってしまったが、やっとお前の合格祝いもできる」
「本当にありがとう! 最高のプレゼントだよ」
「つぐみ、これまで辛い思いや寂しい思いをさせて悪かった。でも、これからは今までできなかったこととかたくさんして、楽しい思い出を色々作って行こうな」
「うん!」
今春、つぐみは第一志望で桜木の母校でもある聖智大学に無事に合格した。
その知らせに、両親はもちろん担任や親友の新田真菜もとても喜んでくれた。
そして誰よりも喜んでくれたのが桜木だった。
おめでとう、これまでよく頑張った、本当にお疲れ様、と祝福してくれた。
そして、合格祝いは何がいい?と聞かれたつぐみは、モノはいらないから誰にも邪魔されずに俊樹とずっと過ごしたい、と告げたのだった。
卒業式の翌日、桜木がつぐみの両親に挨拶をしに来た。
両親は、娘からよく話を聞いていた英語教師を目の前にして最初は驚いていたが、元々桜木に親近感を持っていたのですぐに和やかなムードに包まれた。
実はつぐみはあの初めての桜木の授業のことをあの日の夜に早速両親に話していたのだ。桜木がカナダからの帰国子女だと伝えると両親も桜木に興味を持った。というのも、両親はカナダのオタワの大学に留学中に知り合って結婚したからだ。だからつぐみにも英語に興味を持ってほしくて、日本の大学で英語を教えているカナダ人の友人のエリックに頼んで小さい頃から英会話を教えてもらっていたのだ。今度授業の様子を録音して聞かせてくれないかと頼まれて、つぐみは何度か録音して聞かせたことがある。そして桜木の授業を聞いて両親は感心し、さらに好感を持っていたのだ。
桜木がこれまでの経緯とつぐみのことを真剣に想っていることを話し、娘さんとの付き合いを認めてほしいと頭を下げた。つぐみの生活態度は至って真面目だったし勉強もきちんとしていて成績が良かったことは両親も分かっていた。2人は卒業まで節度ある付き合いをしていたというし、つぐみは無事に第一志望の大学に合格した。
実際に桜木と会って話をし、その律義で誠実な人柄に直に触れることができた両親は、快く2人の交際を認めたのだった。
それからはさらに両親と桜木は打ち解け、カナダの話に花が咲いた。そして、みんなでつぐみの卒業と合格祝いをしよう、となった。急遽パーティーの準備に取り掛かり、せっかくだからとエリックも呼んだ。桜木とエリックは初対面ながらすぐに意気投合し、英語でカナダのことを懐かしそうに話していた。美味しい料理とお酒(もちろんつぐみはノンアルで)、全員話せる英語で会話を楽しみ、パーティーは大いに盛り上がった。
その数日後、つぐみは真菜とファミレスで会った。そして初めて彼女に高2の時から桜木と付き合っていることを打ち明けたのだった。好きになったきっかけや想いを受け入れてもらえるまでのこととか全てを。真菜とは3年生の時に同じクラスになったので彼女は経緯を知らなかった。
真菜は目を大きく見開き、口をあんぐりとさせた後、ちょっと! 何それ! どういうことよ!? とつぐみに詰め寄った。
「ちょっと、ありえないんだけど!」
「うん、そうだよね……。教師と付き合うなんて――」
「じゃなくて! なんで今まで話してくれなかったの!」
「えっ?」
てっきり真菜は親友が教師と付き合っていた事実を知って怒ったのかと思ったが、そうではなく、ずっと内緒にされていたことに怒ったのだ。
「あ~あ、私はつぐみを親友だと思っていたのに、何でも話せる仲だと思ってたのに…そうじゃなかったんだね……悲しいよ」
「そんなことない! 私だって真菜のこと親友だと思ってるよ! ごめん、私だって本当は真菜に話したかった。内緒にしててずっと心苦しかったんだよ」
「でもさ、よく卒業まで隠し通したよね~。全然気が付かなかったもん。あんた女優になれるよ、アカデミー賞で最優秀主演女優賞取れるくらいのね」
他にも、打ち明けてくれたら色々協力したのに、私ってそんなに信用なかったんだね、とかチクチク言われて、つぐみはしゅんとなった。
「…ホント、スミマセン……もう勘弁して」
そんなつぐみを見て、ようやく溜飲を下げた真菜がポツリと呟いた。
「……でも、あんたすごいよ。本当に好きなんだね、桜木のこと。それだけ徹底的に隠し通したのは、あいつのためでしょ? あいつのことを守りたかったからでしょ」
「え…」
「桜木だってそう。あんたに一切手を出さなかったのは、それだけあんたのこと大事に想ってたからだと思うし。でも、私だったら耐えられないなぁ。デートもろくにできず学校でも会えないなんて寂しくて辛いよ」
本当は、たった1回(いや実際は2回)だけキスをした。でも、あの日のことは美しい大切な記念日として自分の心だけに秘めておきたかった。
「あんた…ずっと辛かったでしょ。よく頑張ったね」
真菜が手を伸ばしてつぐみの頭をよしよしと撫でた。
そう言われてつぐみは改めて思った。ああそうか…私はずっと頑張っていたんだ…。
つぐみの目から涙が一筋零れた。
「…俊樹のためならどんなことでも我慢できた。卒業までの辛抱だし、好きになったことは全く後悔してない。でも…やっぱり…誰にも言えない公にできない恋はちょっとしんどかったかもしれない……」
「あんたが人一倍責任感が強くて頑張り屋なことは知ってる。でも、もうこれからは正々堂々と付き合えるんだから目一杯楽しむんだよ! さっきは色々チクチク言ってごめん。言われて見ればさ、あんた達、すっごくお似合いだわ。ほら、もう泣かないの!」
「ありがとう、真菜。これからは何かあったら絶対に相談するから」
つぐみが涙を拭いながら微笑んだ。
「あ、結婚式の時は私にヘアメイクさせてね」
「はっ? えぇ! ちょ、ちょっと、気が早すぎるってば!」
今、真菜はヘアメイクアーティストを目指して専門学校に通っているのだ。
「あんた達の結婚式の日のために早くプロになれるように頑張るからさ! 今から予約しとくから、よろしくね!」
つぐみはただ顔を赤らめることしかできなかった。
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