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しおりを挟む「それにしても驚いたな。まさかこんなところで会うなんて。懐かしいな、10年ぶりくらいか…?」
私たちは今、駅前のファミレスにいる。予期せぬ再会に、立ち話もなんだし一緒に夕飯でも、となった。
「さすがに10年経っていれば変わっているよな。顔を見ても最初はピンとこなかったよ。そっちはよく俺だと分かったな」
面識のない(と本人は思っていた)女性から突然自分の名前を呼ばれて先生は最初困惑した様子だったが、私が藤崎小学校6年2組卒の結城美沙絵です、と名乗ると、ああっ! と思い出してくれた。
「先生はほとんど変わっていません。20代後半でも十分通りますよ」
「おいおい、さすがにそれは言い過ぎだ」
先生は苦笑した。
「ところで、先生は今はどちらの学校にいらっしゃるんですか?」
「前村小学校だ」
前村小学校は、ここから電車で3駅先のところだった気がする。今年度赴任したそうだ。
「結城は? もう社会人か?」
「はい、今年大学を卒業して就職しました」
「そうかぁ、時が経つのはホント早いな。で、どんな仕事してるんだ?」
「母校の聖智大学の図書館で司書をしています」
「へえ、聖智大なんて、いい大学出たんだな!それに司書なんて、本好きの結城にはピッタリだな」
「えっ?」
「学校でいつも本を読んでいたじゃないか。ほら、あの花壇の前のベンチで」
先生、覚えていてくれたんだ…!
「でも司書になるのは狭き門だと聞くが、凄いじゃないか」
「いえ、運がよかっただけなんです。私は比較文化学部で多文化共生論を専攻しながら司書課程も履修して資格を取ったんですが、たまたま大学の図書館に欠員が出たんです。元々卒業生を優先的に採用する傾向があるらしくて」
私は小さい頃から本が大好きで、暇さえあれば本を読んでいた。高校では3年間図書委員を務めていた。地元の図書館にもよく通っていたので、職員さんたちにすっかり顔を覚えられてしまった。そんな私が将来図書館で働きたいと思ったのは自然の流れだった。必死に勉強をして司書の資格を取ったものの、確かに昔からよく言われているように図書館への就職はかなり厳しい。退職者が少なく欠員がめったに出ない。それに今は非正規雇用が多く待遇面も正直良くない。それでも志望者が多く人気の職業なのだ。私が大学の図書館に正職員として勤務できたのは、入学当初から色々相談にのってくれていた司書の橘涼子さんが、私を推薦してくれたからだった。涼子さんは今では職場の頼れる大好きな先輩で、本当の姉のように慕っている。
そんな経緯をかいつまんで話すと、先生は目を細めた。
「よかったな、念願の仕事に就くことができて。運がよかっただけじゃない、見ている人はちゃんと見ているんだ。お前の熱意や努力が認められたんだよ」
「…っ!」
先生の柔らかい笑みに胸がドキンとした。
「あ、ありがとうございます。まだまだ覚えることが多くて毎日大変なんですが、一人前の司書になれるよう、頑張ります」
「頑張れよ。そのうちお前に何か本の相談に乗ってもらうかも」
「えっ…あの、まだまだ未熟者なので簡単な相談でお願いします…」
「アハハ…! 分かった、その時はよろしく頼むな」
その後も食事をしながらお互いの近況や、当時のクラスの思い出話などに花を咲かせた。話が尽きず、気が付くと店に入って3時間以上経っていた。まだまだ話をしていたかったが、お互い翌日も仕事ということで残念ながらお開きとなった。
私たちは駅を挟んでお互い反対側の地域に住んでいることが分かった。先生のマンションは駅から5分ほどのところだそうで、私が一人暮らしをしているマンションは、駅から少し離れた徒歩15分ほどの閑静な住宅街にある。
それを知った先生は、人通りの少ない夜道は危ないから送る、と言った。私は、先生の家とは逆方向だからと断ったのだが、先生は、もし何かあったら大変だから、と譲らなかった。
先生は先月この町に引っ越してきたばかりだそうで、駅のこちら側に来るのは初めてだという。住宅街なので近所に1軒だけあるコンビニを過ぎると街灯も少なくなり、駅前に比べると確かに夜は暗い。でも周囲に緑が多く近くには大きな公園があって、私はとても気に入っている。
歩きながら世間話をしているうちにマンションに着いた。いつもは長く感じる道のりが今日はあっという間に感じた。名残惜しかったが先生にお礼を言った。
「先生、今夜はありがとうございました。久しぶりにお会いできて嬉しかったです」
「ああ、俺も色々懐かしい話ができて楽しかったよ。明日も仕事なのに遅くまで付き合わせて悪かったな」
「いえ、先生だってお忙しいのに、わざわざ送っていただきまして申し訳ありませんでした」
「大丈夫だよ。さあ、早く中に入れ」
「はい…。ありがとうございました。おやすみなさい」
「おお、おやすみ」
先生は軽く手を上げると踵を返した。
「あっ、あの…!」
私は咄嗟に先生を呼び止めた。
先生が振り返る。
「ん? どうした?」
「…いえ、なんでもありません。失礼します」
私は先生に頭を下げ、中に入った。
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