秘められた願い~もしも10年後にまた会えたなら~

宮里澄玲

文字の大きさ
5 / 54

5

しおりを挟む
 
 昨夜なかなか寝付けなくて、翌朝寝坊してしまった。とにかく急いで支度をして、大学に着いたのは始業3分前だった。
 「おはよう、美沙絵ちゃん。こんなギリギリに来るなんて珍しい。いつもはほとんど一番乗りなのに。何かあったの?」
 息を切らせながら駆け込んできた私に、先輩の橘涼子さんが目を丸くした。
 「おはようございます、涼子さん。すみません、寝坊してしまいまして…」 
 「そうだったの。まあ、いいわ。とにかくもう開館よ。仕事、仕事!」
 「はい」
 
 いつものように、本の貸し出しや返却作業、学生たちからの質問に答えたりなど、多岐にわたる業務をこなしているうちに、あっという間に昼休憩の時間になった。
 私たち職員は交代で時間をずらして休憩を取る。今日は涼子さんと一緒だ。私たちは学食に行った。
 食べながら私は切り出した。
 「あの、ちょっと聞いてもらいたいことがありまして…」
 「なぁに? 今日の寝坊と関係ある話?」
 「はい、そうなんです。実は……」
 私は、昨夜の出来事を話した。
 涼子さんは目を輝かせた。
 「へえ~そんな偶然ってあるのね! それにしても美沙絵ちゃんの初恋が小学校の時の先生だったなんて…!」
 昨夜の先生のことを思い出し、頬が熱くなった。
 「ね、ね、先生ってイケメン?」
 興味津々で涼子さんが聞いてくる。
 背が高くて切れ長の目のイケメンだと言うと、
 「ホント!? わぁ~、私も会ってみた~い!!」
 涼子さんはすっかり興奮してしまっている。
 「りょ、涼子さん、落ち着いてください…」
 「ああ、ごめんごめん。で、連絡先は交換したの?」
 「いえ…。向こうからも聞かれなかったし…」
 そう、家まで送ってくれた時に咄嗟に呼び止めたのは、先生の連絡先を聞きたかったから。でも、もし断られたら、と思い、躊躇してしまったのだ。
 「う~ん、残念。でもまだチャンスはあるわ。まあ、卒業生でもないのに今の先生の学校を訪ねるのはちょっとマズイかもしれないけど、また駅で偶然を装って会うという手があるし」
 「えっ、待ち伏せするってことですか?」
 「だって、今はそれしか方法ないでしょ? 先生と会ったのは何時頃?」
 「えっと…7時頃でした」
 「いつも帰りはそのくらいなのかしら。何日か同じ時間に駅で待ってみたら?」
 「……」
 私が逡巡していると、涼子さんが静かな口調で言った。
 「ねえ、せっかく再会できたのよ。先生が好きなんでしょう? しかも同じ町に住んでいるのよ! このまま何もしないで終わらせるつもり? 美沙絵ちゃんはもう大人で社会人なんだから相手が先生でも何も問題ないのよ」
 昨日、もう自分の気持ちに嘘はつかない、と決めたものの、これからどうしたらいいのか、まだ自分の中で答えを出せていなかった。
 「やっぱり先生のことがまだ好きです…。でも先生にとって私はいつまでも教え子でしかなく、恋愛対象として見られることはないんじゃないかと…」
 「そんなの告白してみなければ分かんないじゃない! とにかく、まず美沙絵ちゃんがやるべき任務は次に先生に会えたら必ず連絡先を交換すること! いい?」
 何だか私よりも涼子さんの方が張り切っている。
 「はい…何とか頑張ってみます」
 「私にできることがあれば何でも協力するから。また相談してね」 
 「ありがとうございます。涼子さんに話を聞いてもらってよかったです」  
 
 夜7時前、私は最寄り駅の改札口にいた。涼子さんに言われたからというわけではないが、何となく真っ直ぐ家に帰れずにいた。電車が駅に着くたびにドキドキした。
 
 1時間経った。結局、先生が改札口に姿を見せることはなかった。
 今日は諦めて帰ろう、昨日の今日でそんな都合よく会える訳ないか…。

 トボトボと家路に向かいながら、ふと思った。先生にはお付き合いしている人がいるんじゃないか、と。独身で1人暮らしだとは昨日言っていたが、彼女がいるかどうかは聞いていない。でも、あんなに素敵な人ならいて当然かもしれない。むしろいない方が不思議なくらいだ。どうして今まで思い至らなかったのだろうか。先生の彼女ならきっと先生とお似合いの綺麗で大人の魅力あふれる女性に違いない。もしかしたら今ごろ彼女と過ごしているのかも…。想像するだけで胸が痛く、涙がこぼれそうになった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

神楽坂gimmick

涼寺みすゞ
恋愛
明治26年、欧州視察を終え帰国した司法官僚 近衛惟前の耳に飛び込んできたのは、学友でもあり親戚にあたる久我侯爵家の跡取り 久我光雅負傷の連絡。 侯爵家のスキャンダルを収めるべく、奔走する羽目になり…… 若者が広げた夢の大風呂敷と、初恋の行方は?

貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈

玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳 大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。 でも、これはただのお見合いではないらしい。 初出はエブリスタ様にて。 また番外編を追加する予定です。 シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。 表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

フリーランスエンジニアの優しすぎる無償の愛

春咲さゆ
恋愛
26歳OLの木崎茉莉は人生のどん底にいた。上手くいかないことに慣れ、心を凍らせることで自分を守る毎日に絶望した茉莉は、雨の夜に思わず人生の終わりを願ってしまう。そんな茉莉に手を差し伸べたかっこいい彼。茉莉は、なぜか無償の愛のような優しさをくれる不思議な男性に少しずつ救われ、前を向いていく。けれど、疑ってしまうほど親切な彼には、親切であり続ける理由があって……。雨の夜の出会いがもたらした、優しくも切ない物語。

有名俳優の妻

うちこ
恋愛
誰もが羨む結婚と遺伝子が欲しかった そこに愛はいらない

たとえ夜が姿を変えても ―過保護な兄の親友は、私を逃がさない―

佐竹りふれ
恋愛
重なる吐息、耳元を掠める熱、そして——兄の親友の、隠しきれない独占欲。 19歳のジャスミンにとって、過保護な兄の親友・セバスチャンは、自分を子供扱いする「第二の兄」のような存在だった。 しかし、初めてのパーティーの夜、その関係は一変する。 突然降ってきた、深く、すべてを奪うような口づけ。 「焦らず、お前のペースで進もう」 そう余裕たっぷりに微笑んだセバスチャン。 けれど、彼の言う「ゆっくり」は、翌朝には早くも崩れ始めていた。 学内の視線、兄の沈黙、そして二人きりのアパート――。 外堀が埋まっていくスピードに戸惑いながらも、ジャスミンは彼が隠し持つ「男」の顔に、抗えない好奇心を抱き始める。 「……どうする? 俺と一緒に、いけないことするか?」 余裕の仮面を被るセバスチャンに、あどけない顔で、けれど大胆に踏み込んでいくジャスミン。 理性を繋ぎ止めようとする彼を、翻弄し、追い詰めていくのは彼女の方で……。 「ゆっくり」なんて、ただの建前。 一度火がついた熱は、誰にも止められない。 兄の親友という境界線を軽々と飛び越え、加速しすぎる二人の溺愛ラブストーリー。

ソツのない彼氏とスキのない彼女

吉野 那生
恋愛
特別目立つ訳ではない。 どちらかといえば地味だし、バリキャリという風でもない。 だけど…何故か気になってしまう。 気がつくと、彼女の姿を目で追っている。 *** 社内でも知らない者はいないという程、有名な彼。 爽やかな見た目、人懐っこく相手の懐にスルリと入り込む手腕。 そして、華やかな噂。 あまり得意なタイプではない。 どちらかといえば敬遠するタイプなのに…。

イケメン御曹司、地味子へのストーカー始めました 〜マイナス余命1日〜

和泉杏咲
恋愛
表紙イラストは「帳カオル」様に描いていただきました……!眼福です(´ω`) https://twitter.com/tobari_kaoru ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 私は間も無く死ぬ。だから、彼に別れを告げたいのだ。それなのに…… なぜ、私だけがこんな目に遭うのか。 なぜ、私だけにこんなに執着するのか。 私は間も無く死んでしまう。 どうか、私のことは忘れて……。 だから私は、あえて言うの。 バイバイって。 死を覚悟した少女と、彼女を一途(?)に追いかけた少年の追いかけっこの終わりの始まりのお話。 <登場人物> 矢部雪穂:ガリ勉してエリート中学校に入学した努力少女。小説家志望 悠木 清:雪穂のクラスメイト。金持ち&ギフテッドと呼ばれるほどの天才奇人イケメン御曹司 山田:清に仕えるスーパー執事

処理中です...