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しおりを挟む昨夜なかなか寝付けなくて、翌朝寝坊してしまった。とにかく急いで支度をして、大学に着いたのは始業3分前だった。
「おはよう、美沙絵ちゃん。こんなギリギリに来るなんて珍しい。いつもはほとんど一番乗りなのに。何かあったの?」
息を切らせながら駆け込んできた私に、先輩の橘涼子さんが目を丸くした。
「おはようございます、涼子さん。すみません、寝坊してしまいまして…」
「そうだったの。まあ、いいわ。とにかくもう開館よ。仕事、仕事!」
「はい」
いつものように、本の貸し出しや返却作業、学生たちからの質問に答えたりなど、多岐にわたる業務をこなしているうちに、あっという間に昼休憩の時間になった。
私たち職員は交代で時間をずらして休憩を取る。今日は涼子さんと一緒だ。私たちは学食に行った。
食べながら私は切り出した。
「あの、ちょっと聞いてもらいたいことがありまして…」
「なぁに? 今日の寝坊と関係ある話?」
「はい、そうなんです。実は……」
私は、昨夜の出来事を話した。
涼子さんは目を輝かせた。
「へえ~そんな偶然ってあるのね! それにしても美沙絵ちゃんの初恋が小学校の時の先生だったなんて…!」
昨夜の先生のことを思い出し、頬が熱くなった。
「ね、ね、先生ってイケメン?」
興味津々で涼子さんが聞いてくる。
背が高くて切れ長の目のイケメンだと言うと、
「ホント!? わぁ~、私も会ってみた~い!!」
涼子さんはすっかり興奮してしまっている。
「りょ、涼子さん、落ち着いてください…」
「ああ、ごめんごめん。で、連絡先は交換したの?」
「いえ…。向こうからも聞かれなかったし…」
そう、家まで送ってくれた時に咄嗟に呼び止めたのは、先生の連絡先を聞きたかったから。でも、もし断られたら、と思い、躊躇してしまったのだ。
「う~ん、残念。でもまだチャンスはあるわ。まあ、卒業生でもないのに今の先生の学校を訪ねるのはちょっとマズイかもしれないけど、また駅で偶然を装って会うという手があるし」
「えっ、待ち伏せするってことですか?」
「だって、今はそれしか方法ないでしょ? 先生と会ったのは何時頃?」
「えっと…7時頃でした」
「いつも帰りはそのくらいなのかしら。何日か同じ時間に駅で待ってみたら?」
「……」
私が逡巡していると、涼子さんが静かな口調で言った。
「ねえ、せっかく再会できたのよ。先生が好きなんでしょう? しかも同じ町に住んでいるのよ! このまま何もしないで終わらせるつもり? 美沙絵ちゃんはもう大人で社会人なんだから相手が先生でも何も問題ないのよ」
昨日、もう自分の気持ちに嘘はつかない、と決めたものの、これからどうしたらいいのか、まだ自分の中で答えを出せていなかった。
「やっぱり先生のことがまだ好きです…。でも先生にとって私はいつまでも教え子でしかなく、恋愛対象として見られることはないんじゃないかと…」
「そんなの告白してみなければ分かんないじゃない! とにかく、まず美沙絵ちゃんがやるべき任務は次に先生に会えたら必ず連絡先を交換すること! いい?」
何だか私よりも涼子さんの方が張り切っている。
「はい…何とか頑張ってみます」
「私にできることがあれば何でも協力するから。また相談してね」
「ありがとうございます。涼子さんに話を聞いてもらってよかったです」
夜7時前、私は最寄り駅の改札口にいた。涼子さんに言われたからというわけではないが、何となく真っ直ぐ家に帰れずにいた。電車が駅に着くたびにドキドキした。
1時間経った。結局、先生が改札口に姿を見せることはなかった。
今日は諦めて帰ろう、昨日の今日でそんな都合よく会える訳ないか…。
トボトボと家路に向かいながら、ふと思った。先生にはお付き合いしている人がいるんじゃないか、と。独身で1人暮らしだとは昨日言っていたが、彼女がいるかどうかは聞いていない。でも、あんなに素敵な人ならいて当然かもしれない。むしろいない方が不思議なくらいだ。どうして今まで思い至らなかったのだろうか。先生の彼女ならきっと先生とお似合いの綺麗で大人の魅力あふれる女性に違いない。もしかしたら今ごろ彼女と過ごしているのかも…。想像するだけで胸が痛く、涙がこぼれそうになった。
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