The Outsider

橘樹太郎

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第1章:始まりの3年間

第5話:いつか分かり合える日まで

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 崖から落ちたジョッシュの手を引っ張っていたのは、ヴィルトでもシェイルでも無く、彼が憎んでいたスレイで、彼は踏ん張るようにジョッシュの手を掴んでいた。

「お、おい・・・」

「確かに俺の事は嫌いかもしれない───でも、君には大事な人達が居るはずだ」

 しかし、スレイも限界が近いのか、彼も落ちそうになる。すかさず他の訓練生や教官も彼の手助けをしようとするが、彼らが手助けする頃には遅く、二人ふたりは落ちてしまった。



 それから後のこと───スレイはある声に呼ばれた。

『───起きてください』

 女性の声を聞いた彼は、再び謎の世界で目覚める。あの時と同じく感覚は朧げで、自分の肉体が存在しているかすら分からなかった。

「俺は・・・」

『貴方はまだ死んでいません。さぁ、もう一度眠り、起きてください』

「待ってくれ、君は何者なんだ?」

『私は"イリス"───かつて貴方に救われました』

 その女性の声は自身の名前を伝える。だが、スレイにとって、その人物が何者なのかすら分からなかった。

「どういう事なんだ・・・?」

 訊こうとしても彼女には届かず、彼は再び意識を失った。



 そして、スレイが目を覚ますと、彼は目の前の焚火や自分に掛けられていた外套マントを見た。

「これは・・・」

 焚火に目を移しながら見上げると、目の前そこにはジョッシュがいて、彼は複雑な心境で表情を曇らせながら丸太に座っていた。

「あ・・・」

 気まずそうにするスレイにジョッシュは溜息をいた。

「・・・勘違いするなよ、借りを返しただけだからな」

「あ、ありがとう・・・」

 スレイが感謝をした後に座り直そうとすると、左脚から少し痛みを感じる。何かが刺さっていたような痛みだ。

「おいおい、安静にしてろよ?」

 意外な事を言ったジョッシュは、心配そうな表情をして、彼は心の中で驚いた。

「しっかし、天星人アウトサイダーでも治らない傷ってのはあるんだな」

 万能じゃなかったような言い方をされて、スレイは少し気を悪くして顔を膨らませた。

「冗談だよ冗談」

 スレイの様子を見たジョッシュが言う。彼はまるで憑き物でも落ちた別人になったように彼と話していたのだ。

 その後、二人静かに焚火を囲んでいたが、ジョッシュは沈黙に耐えきれず言った。

「昨日、親父の他にレーヴァからも怒られてな」

「あっ、それって・・・」

 気まずそうにするスレイに彼が言った。

「───いや、俺が悪かったよ」

 そう言って彼は話を戻した。

「あの日、急に来たレーヴァに連れ出されてたれちまったよ・・・その後あいつ言ったんだよ、『スレイ君は貴方が思う程悪い人では無い』って」

「そ、そうだったのか・・・」

「しかもあいつ、泣きながら言ったんだぜ?  仮にも騎士になったのにな・・・」

「───レーヴァにはジョッシュが"大事な人"だったのかもしれないよ」

 スレイにそう言われて、ジョッシュは飲んでいた水筒の水を咽せた。

「ば、馬鹿っ! そんな訳ねぇだろ!!」

 ジョッシュは焦るようにスレイに言って、彼は横になった。

「た、焚火は・・・」

「俺はもう寝るから、お前が焚き火消してくれ」

 スレイは近くの砂や土を焚火にかけ、火の勢いが弱まった後に水筒の水で消した。


 それからというもの、二人は寝ようとしていたが、お互い寝付けず、苦労していた。

「ああ、畜生・・・」

 ジョッシュが呟くと、スレイがそれに反応した。

「寝ていなかったのか」

「ああ・・・野宿なんて慣れていたと思ったが、寝付けねぇ」

「仕方ないと思うよ」

「・・・なぁ、お前どうして俺に優しくするんだ?」

「一応、普通の態度だよ」

「そうか・・・」

 お互いが少し沈黙した後に、ジョッシュから言った。

「・・・俺は天星人アウトサイダーの事はまだ認められない。だが、俺がお前にした事も認められるものではなかった」

「・・・偉そうな言い方して悪いけど、まだ自分のした事を後悔出来るなら良いと思う」

「何でそう思うんだ?」

「次後悔しないようにって思えるようできれば良いから、かな」

「・・・面白いな、お前」

「ありがとう」

「褒めてるって訳じゃ無いが、まぁ良いか」

 そんな会話から少し間が開き、ジョッシュがある事を口に出した。

「・・・昨日、お前が俺に殴りかかってきた時、本当は怖かった」

 そう言って、彼は話を続けた。

「俺が悪いから怖い思いをして当然なんだが・・・あの時のお前は気持ちに余裕が無かったのか───いや、兎に角怖かった」

「何で怖かったのかは分からなかったの?」

「ああ。その時のお前の眼は、まるで───」

 何かを言おうとする彼だったが、眠れなくなるのを防ぐ為に話を中断した。

「・・・こんな話して悪いな、おやすみ」

 彼が途中で話をやめて、スレイは少し気になったが、同時に気味の悪さも感じて二人は眠りに落ちた。



 スレイはその後、夢を見た。その夢にはある女性が目の前にいて、自身の両手を握りながら言った。

「"イルス"、絶対に後悔しないで。そうしないと、私のようになってしまうから・・・」

 その言葉を聞き終えて夢は終わる。それがどんな夢か分からないが───ただ一つ言える事は、スレイ自身が何かを忘れているという違和感だった。



 翌朝、彼は目を覚ますと、ジョッシュが背嚢を背負っていた。

「おい"スレイ"、出発するぞ」

 ジョッシュがスレイの名前を呼ぶ。意外な出来事にスレイの思考は停止しかけるが、すぐ我に返って嬉しそうに返事した。

 二人は荷物を持って出発する。多分本隊が捜しているだろうから、山を登る前の入り口に向かうことにした。


 道中は危険で、遠征時は教官が結界を張るクリスタルやポーションなどの魔除け道具を持っていた事で、安全は確保されていたが、今の自分達には無く、武器も銃剣バヨネットだけだった。

 しばらくして、スレイが疲れたかのように膝に手を当てた。

「おいおい、バテるにはまだ早いぜ?」

 ジョッシュが少し笑いながら言う。スレイはまだ行けると思い、体制を立て直そうとした。


 彼が再び歩く体勢に入ろうとした瞬間、茂みから音が聞こえた。

 二人は音の聞こえた方向を見ると、その茂みから"何か"が飛び出してきた。

 だが、飛び出した形跡が見つからず、ジョッシュが不思議に思っていると、スレイが急に首元を押さえて苦しんだ。

「おい、どうした!?」

 ジョッシュがスレイに触れようとするが、彼は辛そうに呟き、指を差す。そこは、先程"何か"が飛び出したかに思えた茂みだった。

「まさか・・・!」

 ジョッシュが懐に隠していた拳銃を取り出すと、指先で示された方向に撃ち込む。すると、スレイの首から見えない"何か"が離れ、銃弾を撃った先からは緑色の液体が茂みに付いた。

 スレイは首の拘束から解放されて咳き込んだ。

「やったか!?」

ジョッシュがその茂みの中を覗くと何もいない。彼は茂みに付着した緑色の液体に触れた。

「血か・・・?」

 ジョッシュが緑色の血に気を取られている隙に、"それ"は木の上から降りて彼に襲いかかった。

 見えない何かがジョッシュに飛びかかると"それ"は姿を表す───まるでカメレオンのようだが、2mぐらいはある怪物だった。

「クソッ・・・"ステレオン"かよ・・・」

 ジョッシュはステレオンという魔物に食べられないように魔物の顎を押す。しかし、それでも力負けしてしまい、いつ頭を食べられてもおかしくなかった。

 バヨネットを使用すれば良かったものの、彼は魔物に食べられないよう必死で、それどころではなかった。

 スレイはバヨネットをステレオンに突き刺すが、痛みで暴れた魔物の腕に当たって、地面に尻餅をついた。

 立ちあがろうとしたその時、手に硬いものが当たる。それをよく見ると、先程彼が使っていた拳銃が落ちていた。

 スレイはそれを咄嗟に拾い、こちらに標的を定めた魔物に向かって銃口を向けた。

「〔ごめんよ・・・〕」

 スレイは心の中で魔物に謝ってから引き金を引き、魔物に何発かの銃弾を撃ち込んだ。

 近距離だったのが功を奏し、銃弾は全て命中する。頭部や胴部に銃創が出来た魔物は口から緑色の血を出して倒れた。


 ジョッシュが彼に覆い被さって倒れたステレオンを退かそうと精一杯の力で横に倒そうとする。日々の訓練の成果が出たおかげか、何とか退かせることに成功した。

「大丈夫?」
 ジョッシュがスレイに手を差し伸べるが、彼の手が震えていることに気付き、安心するように少し笑った。

「ありがとな」

 ジョッシュはスレイにそう言う。
ジョッシュにとって、天星人とは"人の形をした化け物"としての認識があった為、引き金を引く事に対して戸惑いや恐怖を感じていたスレイに対して安心していたのだ。


 彼らが歩いて少し経ち、訓練生を率いていた教官が、二人を発見した。

 スレイは訓練所に戻った後、ヴァートレスの村に戻って治療をする事になった。

 ヴァートレスの村に着いたスレイは村の診療所で左脚の治療をしてもらった。

 診てくれたドワーフの先生から聴く限り、ジョッシュが行ったのはあくまで治癒ポーションによる応急処置であった為、本当に異常がないか確かめる必要があった。

「・・・うむ、脚には痛みはないようだな」

 診療所の先生にスレイが伝える。彼の隣にはその助手である水色の長い髪を後ろで束ねたエルフの女性が立っていた。

「エリーナ、彼に浄化魔法を使ってくれ」

「はい」

 エリーナという助手がスレイが怪我をしていた左脚の部分に手を当てると、その部分が一瞬青白く光った。

「"クリア"をかけたので、脚の中に残った木の破片や細菌は無くなりました」

 "クリア"という魔法で、身体に残った異物を消して、スレイの診断が終わった。


 診療所が終わってそれから次の日、スレイは自身の家で療養していた。

 特定の日だと訓練は休みで、訓練生達にとっては息抜きができる最高の日だった。

 この世界にも休日はあるものの、最近のスレイにとって全く休めなかった為、この日は気持ちを落ち着ける事ができた。

「どうしようか・・・」

 家の中で考えていると、誰かが扉を叩いた。

「スレイ、いるか?」

 スレイが玄関の扉を開くと、そこには銃士隊服を着たジョッシュがいた。

「どうしたの?」

 不思議そうにする彼に、ジョッシュは頭を掻きながら言った。

「あー・・・お詫びかどうか怪しいけど、城下町で飯でもどうだ?」

 それを聞いて悩む彼に、ジョッシュは続けて答える。

「別に強制じゃないが、奢れる範囲で奢るぜ?」

「えっ、でも俺王国からの給付金が・・・」

「その金は生活費に使えよ。この先何が起こるかわからないからな」

 彼は再び少し考えるが、ジョッシュと仲良くなるいい機会だと思い、二人で城下町へ行くことにした。
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