The Outsider

橘樹太郎

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第2章:邪竜と黄金色の竜

第13話:戦火を抜けて

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 スレイ達が黄昏の神殿へ向かった同時期の事───アストリア王国とクーデリア公国の戦争が始まろうとしていた。
 戦場となるのは、カイラン平原───両国の間に位置する広い土地で、大規模な決闘を行うには最適の地だった。
 この戦場の近くにある村には、避難勧告が出ているものの、難民の避難受け入れ先の事情や戦争反対などにより、避難は難航していた。
 それでも戦争たたかいの時は近付き───アストリア王国では、戦地へと赴く者達を気持ち良く送る為に、各地で宴会が開かれていた。
 戦争前の宴は、戦いを祝う為ではないにしろ、あまり気持ちの良いものでは無く、あくまで戦死する前に少しでも楽しい一時ひとときを過ごしてもらう為の行事だが・・・それでも、気が休まるのはその一瞬ときだけだった。
 ヴァートレスの村にて───戦地に赴くジョッシュ達は、宴会に参加していた。
 この日は嫌な程晴れており、薄暗い夜空には花火が打ち上がっていた。
 食事を平らげ、お酒を呑む。出兵するのは18歳からで、戦場で手柄を立てたいと志願する者もいれば、出兵勧告により止むを得ず出る者もいた。
「クソが・・・」
 ジョッシュは宴会の席で悪態をつく。そんな呟きを聞いて、ヴィルトがからかった。
「おいおい、そんな不機嫌だと食事や酒が不味くなるだろ?」
「だってよ・・・明日から戦うんだぜ?」
「なんだ、意外だな」
スレイあいつのせいかもな・・・」
 ジョッシュがそう言った理由は、恐らく、今はいない親友ともと一緒にいた事での心境の変化だろう。
 かつての出来事から戦いに慣れているジョッシュは、襲ってくる敵を倒す事に罪悪感を覚えてしまうスレイと関わっていく内に、彼も嬉々として戦う事に疑問を抱いていたのだ。
 そんな時、スレイはベアトリスと共に旅へと出ている───ジョッシュは親友が戦場に出ない事を羨むが、同時に彼等が生きているのか心配になっていた。
「・・・ったく、スレイの奴アイツ何処へ行ってるんだか・・・」
「心配なの?」
 後ろから話しかけてきたのはレーヴァだった。
「そりゃあ・・・まぁ・・・」
「ふふっ、ジョッシュも良い所あるね」
「当たり前だろ? それはそうと───」
 ジョッシュが言いかけるものの、酔いが回ったのか、彼は倒れかけた。
「大丈夫?」
「あちゃー・・・これは酔いが回ったね」
 心配するレーヴァに対して、シェイルが簡単に解析した。
「コイツ何杯も呑んでたしな」
「私、彼の事連れて行くね」
 レーヴァはジョッシュに肩を貸して連れて行く。それを見たヴィルトとシェイルは期待するように笑みを浮かべた。
「なぁ、アイツらもしかして・・・」
「まっさかぁ」
 戦争前夜の喧騒は、徐々に収まりを見せていき───日が昇るにつれ、恐怖や悲しみを実感させるような朝が訪れた。
 戦争当日───戦場に出る者達は家族や友人、恋人に見送られて戦地へと赴く。ジョッシュやレーヴァもカルロやレーナと言葉を交わしていた。
「お姉ちゃん、それにジョッシュ! ぜったい生きて帰ってね・・・約束だよ!!」
「そうね。なら、レーナはちゃんとカルロさんの言う事を聴いて良い子にするのよ」
 レーヴァは少し屈んで妹の頭を撫でた後、立ち上がってカルロに言った。
「カルロさん・・・私の妹を、レーナを頼みます」
「ああ・・・君達も、生きて帰って来てくれ」
 カルロからそう言われて、ジョッシュとレーヴァは頭を下げてその場から去っていく。レーナは戦地へ向かう2人を見て、眼を潤わせていた。
 戦場には馬車で向かい、荷台の中では隊員や兵士などと言った者達が所属の違い関係無く乗っていた。
 ある者は、死地へ向かう恐怖や大事な人との日々を思い出して泣き、また、ある者は馬車酔いか、それともストレスからか顔色を悪くしており、平静さを保っている者はごく一部だった。
 そんな中、ジョッシュは昨日の事について考えていた。
 それは彼に酔いが回って意識を失った後の事───彼は自分の家にいた。
 目覚めるとそこは部屋にあるベッドの上で、彼は服を着ていなかった。
 酔いで身体が火照ってしまい、それで服を脱いだのかは分からない。そんなことを考えていると、聞き覚え馴染みのある声が彼の耳に入った。
 ジョッシュが声のした扉の方向を見ると、そこにはレーヴァが腕を組んでいた。
「おはよう、ねぼすけさん」
 彼女は凛々しい女騎士として、既に準備を済ませており、ジョッシュは寝ぼけて凝視していたが、自身のある事に気付いた。
 そう───今の彼は裸で、レーヴァは恥ずかしそうに目を逸らしていた。
「準備が出来たら教えて・・・」
 彼女は気まずそうにそこから立ち去り、ジョッシュは自分の今の状態を認識して思考が止まった。
 そこから現在いまに至り───ジョッシュはその事を思い出して疑問に思っていた。
「〔なんで裸だったんだ・・・? まぁ、いいか〕」
 彼は今朝の状態について考えていたものの、あまりにもどうでもいい事だった為、考えるのをやめた。
 馬車は止まり、荷台からは続々と人が降りていく。そんな中、ジョッシュはヴィルトやシェイルと合流した。
「よぉ、ジョッシュ」
「ああ・・・2人共」
「まだ緊張しているのか? それとも二日酔いか?」
「いや・・・別に」
「戦争だからねぇ・・・笑えはしないよね」
「クレイグさんは?」
「さぁ・・・親父はどこに行ったんだか・・・」
 ジョッシュ達が話している頃、クレイグは王様に呼ばれて、作戦本部のテントに来ていた。
 テント内の中奥には簡素な作りの玉座があり、そこにはアストリア国王である"ガルディン"が座っていた。
 クレイグは王様の前に跪き、作戦本部へと呼んだ理由を訊いた。
「国王陛下、私に何か御用でしょうか?」
「クレイグ殿、立ち上がってくれ。話はそれからだ」
 ガルディンからそう言われて、クレイグが立ち上がると、王様から"ある剣"を贈呈される。それは普通の剣に見えるが───クレイグにはとても見覚えがあった。
「これは・・・"ケネル"の・・・」
「彼がまだ生きていたら、"娘"が一個騎士団の副団長になった事を喜んでいただろうな・・・」
 ガルディンが肩を落とし、表情を曇らせて俯くと、クレイグは彼を擁護した。
「あれは貴方のせいではない・・・」
「いや、あれは私のせいだ・・・だからあんな事が・・・」
 それは数十年前に至り───クレイグがまだ若い頃だった。
 この時代ときには、まだ銃士隊が設立されておらず、その前身として銃を使う騎士団が存在した。
 ヴァーガル騎士団と呼ばれる部隊は、いち早く天星人の技術で作った武器を使用しており、それに憧れを抱いていたクレイグは、同じくヴァートレスの村出身であったケネルと共にそこへ入団した。
 ライフルは現在いまと比べて少なく、何度も撃てる単発式ではなく、1発撃つ毎にボルトを自分の側へと引いて、薬莢を排出しないといけない仕組みだった。
 古代の資料に拳銃の記載はされていても、再現に難航していた事もあり、この時は無かった。
 その為、今よりも装備は充実しておらず、あくまで騎士やが銃を試験的に運用しているに過ぎなかった。
 アストリア王国とクーデリア公国の戦争は、前にも行われており、その戦場に、若きクレイグも赴いていた。
「その武器は便利でも、やはり剣には勝てんよ」
 クレイグの向かい側でそう言ったのは、ケネルで、彼は手に持った剣を布で磨いていた。
「流石に酔い過ぎじゃないか?」
「ふっ、冗談だよ。ただ、ライフルその武器ばかりに頼っていると、足元を掬われるぞ?」
「確かにな・・・こっちは弓と違って引き金を引けば簡単に撃てるし、そこまで力を要さない。だが、矢みたいに再利用できない事や発射時の音が消せない事も考えると───実戦に普及されるのはまだ先になりそうだな」
「そういう事。まぁ、それでもいつかは剣や弓これの時代から、それの時代に変わりそうだけどな」
 ケネルの言葉に、クレイグは笑いながら同感した。
 そして戦争が始まり───クレイグやケネルはライフルを持って後方支援を担当した。
 しかし、どれだけ最新鋭の武器を使おうとも、クーデリア公国の兵力は凄まじく、アストリア王国は劣勢であった。
「俺達は国や家族の為に戦う、ここで負けてなるものか・・・!」
「意気込むのは良いが、お前の女房や子供むすめに死んだ報告はしたくないからな・・・」
「ああ、俺もそれを願ってる」
 しかし・・・彼等の生きたい意思とは裏腹に、現実は残酷だった。
 それからしばらく時間が経ち───クレイグは、騎士団長と口論していた。
「ケネルを見殺しにしろと・・・? どういう事ですか、カーペンター団長!!」
 クレイグは戦線を離脱しており、ケネルは脚を負傷したまま戦地へ置き去りになってしまった。
 とはいえ、ケネル自身もクレイグだけでも生き延びさせる為に、戦線から離脱するよう言ったのだが・・・彼の親友は、置き去りにし見捨ててしまったと思い、悔いていた。
 クレイグは口論している間にケネルの身が危険に晒されていると思い、団長の静止も聞かずに奔走した。
 ケネルのいる場所まで走って行くと、そこにいたのは何人かの兵士と、血塗れで倒れているケネルだった。
 ケネルを囲んでいる兵士は公国側の所属で、彼の死を確認するように足のつま先で軽く蹴っていた。
 その光景を見たクレイグは激昂し、ライフルを撃って1人の敵兵士に命中させた。
 敵の兵士は先程死んだ者合わせて5人───残りの4人は手に持った槍や剣を握りしめてクレイグに挑んだ。
 ボルトを自分の方へ引き、薬莢を排出する。そしてもう1発撃とうとしたが、発射される途中で弾詰まりを起こしてしまった。
 クレイグはライフルの銃床ストックを斬りかかる敵兵士の顔面に強く叩きつけ、更にその兵士が落とした剣を拾って3人を相手した。
 この時のクレイグは、戦友ともを見捨ててしまった自分への怒りを敵にぶつけるように戦った。
 戦争だから、誰かが犠牲になるのは仕方ない事───しかし、彼はこの時、自分がそれを"解っていなかった"のだと自覚した。
 それから少し経った後───クレイグは王国の兵士に助けられた。
 クレイグが到着する前からケネルは既に死んでおり、彼は死ぬ直前、何かに手を差し伸べていたかように倒れていた。
 本部へと再び戻ったクレイグは、俯きながら拳を握り締め、再び立ち上がった。
「おい、クレイグ! どこに行くつもりだ!!」
 自分の上司である団長に呼び止められるものの、彼はその声を無視して馬に乗った。
 クレイグが向かった先はアストリア城で、彼は嘘をついて強引に城内に入り、ある扉の前まで来ていた。
 その扉の奥は玉座の間であり、ガルディンは大臣達と共に話をしていた。
「陛下、クーデリア公国との休戦条約、お疲れ様でした」
「いやぁ、お見事でしたよ。まさか、彼等が要求をのんでくれるなんて。これも陛下の手腕ですな」
 しかし、大臣達から褒められても、国王は嬉しくないのか、顔を俯かせ、他の人にこう言った。
「だが・・・もう少し早ければ、さらに多くの犠牲を出さずに済んだのでは?」
 それを聞いた他の人は称賛をやめて、気まずい表情で沈黙した。
 両国で休戦が結ばれたものの、未だにその情報はなしは前線に伝わっておらず、それを扉から聞いたクレイグは、拳を強く握って部屋に押し入った。
 衛兵2人が正気では無いと感じて、彼を取り押さえようとするものの、それでも強引に部屋へと入り、玉座に座るガルディンの頬に拳を喰らわせた。
 頬を強く殴られて視界が揺らぐ。その際に口内を切ったせいか、口からは血が滴っていた。
 部屋にいた全員がその光景に驚愕し、唖然とする。それもその筈、唐突に現れた一兵士が王様を殴ったのだ。
 クレイグは静かに震える腕を抑えながら、王様を睨み付けていた。
「・・・お前が休戦を結ばない間に、どれだけの人間が死んだと思ってるんだ?」
 その言葉は、ガルディンの心に大きく突き刺さって動揺させるが、彼以外の大臣や貴族などの重鎮は危機を察知して取り押さえた。
 クレイグは取り押さえられないように抵抗するが、この騒動を聞き付けた魔道士によりスリープをかけられて眠った。
 それからしばらくして目が覚めると───そこは監獄の一室だった。
 手枷や足枷はされておらず、服はそのままだった為、急ぎで監獄へ入れられたようだった。
 自国の王を殴ったからには、国家反逆罪でこのまま死刑を待つだけ・・・そう思っていた。
 しかし、クレイグの予想とは裏腹に、死刑は免れた。
 それはある日のこと───クレイグが壁に寄り掛かって座っていると、看守が彼の名前を呼んだ。
「"陛下"から面談だ、変な気は起こすなよ?」
 看守が牢の前から居なくなると、次に現れたのはガルディン国王で、彼は衛兵を2人だけ引き連れていた。
 装備が無いことにより無力だと思っているのか、クレイグは王様の護衛の数に笑った。
「ハッ、もう少しマシな護衛を連れて来い・・・そんな数じゃ相手にならん」
「貴様!!」
 煽りに激昂する衛兵を国王は宥めると、彼は牢に入ったクレイグに話しかけた。
衛兵達彼等は、前線には立たないものの、それ相応の訓練はしている。貴殿の心配は嬉しいが、彼等を侮るのは筋違いだ」
 王からそう言われた後、クレイグは自分を嘲るように本題へと入った。
「・・・で、俺の処刑を見に来たのか?」
「いいや、君を"解放"する」
 解放という言葉に、クレイグは表情を変えた。
「・・・どういう風の吹き回しだ?」
「言葉の通りだ」
 国王はそう答えると、話を続けた。
「君の言った事は、間違った事でもあるが正しい事でもある。あの戦争が起きたのは、我々・・・いや、私に責任がある。君に殴られたからといって、君を死刑にするのはおかしい気がするんだ」
「おいおい・・・あんたが今ここで俺を釈放すれば、死ぬ危険もあるんだぞ?」
「君はしないさ、"絶対"に」
「その自信は?」
「王の勘───ってものかな」
 そう言って王は牢の隙間から手を出した。
「おいおい正気バカ か? 手を斬り落とされたり噛み切られる可能性もあるんだぞ?」
「その時はその時だ」
 自信満々にそう答えられ、クレイグは呆れるものの、そんな彼の事が心配になり───握手を交わした。
「やれやれ───こんな命知らずの王が居たとはな・・・」
 それからというもの───銃士隊が発足され、クレイグはその創設に関わった。
 王様を殴った事には賛否が巻き起こっており、当然殴った張本人を快く思わない者もいる為、信頼してもらうには時間が掛かったが・・・それでも彼は国の為、ともの為───そして妻の為に、任務に身を投じた。
 殴った事に対して、クレイグへの風当たりが強くなっており、その妻も同様だったものの・・・それでも彼女は自分の夫を信じ、そして任務に向かう彼を見送った。
 それから現在に至り───クレイグはその時の事を思い出して感傷には浸るものの、恥ずかしくなっていたが、王から渡された剣を鞘から少し抜いて、刃を見た。
 剣は錆びておらず、刃こぼれすら感じさせないこの状態はまるで───一度いちどもこの剣を使っていない事を示唆していた。
 クレイグは念の為、ガルディンに対して剣に手入れを加えたか訊いたが、彼は首を横に振った。
「まさかあの時・・・」
 あの時、剣を振らなかったのは自分の死期を悟っていたからなのか、それとも彼の中のプライドが許さなかったのかは判らない。王が何故この剣を持っているのかクレイグが訊ねると、ガルディンはある手紙を渡した。
 その手紙はどうやらクレイグ宛てで、本文には『俺が死んだら、この剣をお前に譲る』と記されていた。
「この剣を今まで、陛下が?」
「ああ、いつ渡すべきか迷ったが・・・」
 ガルディンはこの剣を渡すのに躊躇していたようで、彼なりの葛藤があったのだろうとクレイグは思った。
「彼の娘も戦争に出るようだな」
「はい」
「彼の娘は彼と似て、とても優秀だ。彼女を戦争へと出す事に心が痛むが・・・」
「陛下を信じて戦場に赴く者もいます、陛下は威勢よく構えていれば良いのです」
 クレイグからの言葉に、ガルディンは自信を持った。
 クレイグは携帯時計で時間を確認すると、王に別れの言葉を告げた。
「さて、そろそろ行かなくては。では」
 クレイグは王様に一礼して立ち去る。その後ろ姿を見て、ガルディンは若い頃を思い出していた。
 一方その頃───ジョッシュとシェイルは戦い前の雑談をしていた。
 ヴィルトは人気の無い場所で、彼と同年代の女性と話していた。
 しかし、その女性は一見すると人間ひとに見えるが、それでも彼はその人物が誰なのか判っていた。
「"ラオネ"、そんな姿を見せてどんなつもりだ?」
「だって、こっちの方が君好きでしょ? しかも、ボクが本当の姿で彷徨いたら討伐されかねんし」
「まぁ、確かに・・・で、お前は何をしに来たんだ?」
「まぁ、"伝言"をね」
 そう言って女性に擬態したラオネは、ヴィルトの耳元で何かを囁き、彼は不敵な笑みをこぼした。
「じゃあね、"魔弾の射手"。この戦争から生き延びて本来の任務に戻れる事を祈るよ」
 そう言って女性は立ち去り、ヴィルトもその場を後にした。
 そしてヴィルトが、雑談しているジョッシュとシェイルの所に戻った。
「よっ、色男!」
「昨日とかにでも口説いたのか?」
 2人からの揶揄いをヴィルトは簡単にあしらっていた。
「ところで、昨日は"やった"のか?」
 2人からの揶揄いをあしらう中、ヴィルトがジョッシュに向かって訊いた。
「・・・何の話だ?」
 その問いをよく解っていないジョッシュに対して、シェイルも彼を揶揄った。
「何とぼけちゃってさ・・・あの後の事だよ」
 そう言われたジョッシュが、昨日の事を思い出そうとしているものの、酔いが回っていたせいかなかなか思い出せない───そんな時だった。
「ねぇ、ジョッシュ。ちょっといい?」
 馴染みのある声が背後から聞こえ、ジョッシュが後ろを振り向いた瞬間───彼の唇にはある人物から口づけされた。
 それは一瞬の出来事であったが、2つの唇がお互いの柔らかい感触を感じている時は長かった。
 そう───ジョッシュに接吻キスをした相手はレーヴァで、彼女は唇を離した後、笑顔で頬を赤らめていた。
「・・・お互い生きて帰りましょ」
 そう言って彼女はその場を後に早足で去っていく。一連の姿は凛々しい王国の女騎士ナイトというよりも、垢抜けた恋する少女むすめだった。
 先程の出来事のせいか、思考が追い付かず唖然としているジョッシュは、そのまま棒立ちになっていた。
レーヴァの奴あいつ、まだ酔いが覚めてなかったのか・・・?」
 彼がそう呟くと、他の2人が茶化す。ヴィルトは口笛を吹き、シェイルは彼を再び揶揄った。
「ジョッシュ、良かったな!」
 そう言われてジョッシュが我に返ると、彼はシェイルに『うるせぇ』と言った。
 それから少し経ち───クレイグが他の銃士隊員を呼んで事前説明ブリーフィングをしていた。
 ジョッシュ達銃士隊の面々は、第一防衛線からの射撃を行い、突撃してくる公国の兵を仕留めていく。もし、その防衛線ラインが守り切れないと判断した場合には、後退して第2防衛線で戦闘を継続する流れだった。
 防衛線は全部で3つ、それぞれの間には兵士や騎士が待機しており、最前線から退却する銃士隊員の安全は確保されていた。
 そして最前線へと赴いた銃士隊員達は、それぞれ装備の確認を済ませていた。
 弾詰まりにより発砲出来なくなったら、それは命取りになる───彼等は念入りに装備を整えていた。
 塹壕から顔を出したクレイグは、向こうから向かってくる大群を確認し、他の隊員へ号令を掛けた。
「射撃用意・・・」
 引き金に触れ、敵が出来るだけ近付くのを待つ。震える手を抑えようとしながら、死への恐怖に泣き叫びたくなる気持ちを抑えながら───彼等は向かってくる敵に向かって銃口を向けた。
 ───そして、ついに発砲命令が下った。
「───撃て!!」
 クレイグの号令と共に引き金が引かれ、銃口からは火が吹いた。
 先頭にいた公国の兵士は倒れていき、そこから公国側が突撃を始めた。
 銃士隊員は塹壕へ近付かせまいと撃ち続けるが、敵の猛攻は収まらない・・・走って向かってくる相手に恐怖を覚えながらも弾切れを起こすまで発砲を繰り返した。
 敵から放たれる矢やファイアの魔法による火球が飛び交う中、銃士隊員達は敵の多さに嘆いていた。
「クソっ、撃っても撃ってもキリがない・・・!」
「絶対に諦めるな!」
「弾がもう無い・・・!」
 弾切れを知らせる様に、挿弾子がライフルから排出され、甲高い金属音が戦場に鳴り響く。そして再び挿弾子を装填し、敵を迎え撃つ───その繰り返しだった。
 しかし、公国の勢いは収まらない。彼等の方が兵力の多さから優勢というのもあるが、銃弾を恐れず立ち向かうその様は、逆に王国の兵士達に恐怖を抱かせた。
 そんな中、クレイグは他の隊員に指示を出すと、それぞれ爆弾を手に取る。そして導火線に着火すると、すぐにそれを敵の方向に投げた。
 敵陣に投げられた爆弾はその中で爆発し、激しい音と共に、公国の兵士は吹き飛ばされた。
 しかし、1人の兵士が爆弾を蹴って塹壕へと返し、塹壕内の銃士隊員達は動揺した。
「クソっ、逃げるぞ!!」
「オレが防ぐ!!」
「待て、カスパル───」
 爆弾へと覆い被さったと同時に爆発が起き───ジョッシュは激しい耳鳴りに襲われた。
 塹壕の間を味方の騎馬隊や兵士が飛び越えていく。塹壕内には血や肉片が散らばっており、それがカスパルの物だというのは確実だった。
 しかし、仲間の死に思いを抱く暇など無く、ジョッシュ達は塹壕から出て後退を始めた。
 辛くも塹壕から出てきたジョッシュは、他の隊員と共に第2防衛線まで走るものの、彼等が後退するまでの時間を稼いでくれた兵士や騎士の奮闘も虚しく、第1防衛線は陥落した。
 互いに援護しながら第2防衛線までの後退を急いだ。
 背後から追ってくる矢により、仲間が負傷し命を落としても、引っ張っていく余裕は無い───第1防衛線を越えた公国の軍勢と、それの進行を食い止めるように王国の兵士や騎士による乱戦が始まった。
 1人死に、また1人死に・・・それは敵味方問わず倒れていった。
 そんな時、グレゴリウス兵団が現れて、兵団長のフィルがクレイグ達に言った。
「我々はこの戦火を抜けて第1防衛線を奪還しに行く。悪いが援護を頼めないか?」
 その発言に、バートンは『無茶だ』と言ったが、クレイグは承認した。
「命の保証は出来ないが・・・我々も援護する」
 そう言われてフィルは感謝し、横から聞いていたバートンは、他の隊員へ銃剣をライフルに取り付けるよう指示を出した。
 銃士隊はフィル率いる兵団と共に、敵の真っ只中へと突撃した。
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 他の竜騎士は既に死んでいるその仲間を助けようとするが、銃士隊からの銃弾により近付けず、その場を後にした。
 しかし、最後の悪あがきなのか、墜落した竜騎士の手からは、爆弾が転がり落ちた。
 導火線には既に火が付いており、近くにいたジョッシュは竜騎士の死体を爆弾に被せて爆風を抑えようとするが、覆い被せたすぐに爆発してジョッシュは血肉を浴びながら吹き飛ばされ、意識を失った。
 ───激しい耳鳴り、鼻腔に広がるの匂い───意識を取り戻して立とうにも身体中が痛く、頭を強く打ったのか、意識が朦朧としていた。
 周りでは兵士達が鍔迫り合いをしていたり、耳鳴りで聞こえ辛かったものの、同じく負傷している隊員が悲痛の叫びを上げていた。
 朦朧とした視界の中、自分に矛先を向ける兵士をジョッシュは捉えるものの、その兵士はすぐ頭を撃ち抜かれて倒れた。
「おい、大丈夫か?」
 ジョッシュを救ったのは彼の先輩であるローレンのようで、続々と王国側の兵士や騎士が現れた。
 他の銃士隊員も来たが、彼等は研究所で作っていた兵装をしており、公国側へ制圧射撃を行った。
 魔力光弾での爆発により恐怖した公国側の兵士達は、一時的に撤退を始めた。
 防衛線を奪還し、一時的とはいえ、公国側を撤退させた事で喜ぶ王国の面々だが、ジョッシュは浮かない表情《かお》を見せた。
 戦争はまだ終わる気配は無い───一刻も早く終わって欲しいと祈るものの、それが叶う物だとは、この光景を見て、とても思えなかった。
 一方その頃───レーヴァは他の騎士団員と共に襲撃に遭っていた。
 彼女の属する騎士団の団長はその襲撃によって戦死───クリブやロベルとは逸れてしまった。
「〔何とか・・・トハの村へ・・・〕」
 レーヴァは残った仲間を連れて、救援要請のあったトハの村へと馬を走らせて行くが、それが罠だと、彼女は知る由も無かった。
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