ユニコーンの眠る場所

みっち~6画

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29 先輩教諭を疑う⑥

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 恋人から愛想をつかされたのには、それなりの理由があるのだろう。人の愛情を永遠につなぎとめることなど、だれにもできないのだから。
 だが、先輩に対して、ぼくは常に良い後輩であることを心がけてきた。それだけに、この一連の裏切りには戸惑いしかない。
 これは、自分を慕う後輩にしてよい仕打ちだろうか。
「そろそろ会議が始まるぞ」
 うながされて、共に廊下に出る。
「そう言えば、ヤマトの付き合ってるヤツってさ」
 取り留めのない話の最後に、なんでもないことのように、先輩は那智の話題を出した。
 結婚は考えているのか、相手の両親には会ったことはあるのか、など実に念入りに様子を探ってくる。
 不審に思ったのか、『昨日』のぼくはあいまいに答えて話題を変えた。さすがの先輩もそれ以上追及する訳にもいかず、話を打ち切るしかなくなった。
 その横に陣取って様子をうかがっていたぼくには、彼が小さく舌打ちしたのが見えた。
 思えば、春の歓送迎会でひどく酔いつぶれたぼくは、仕方なく那智に車で迎えに来てもらったことがあった。
 絶対に怒っているはずだ、と翌日慌てて連絡を入れたぼくに、那智は「いいことあったから別に」と笑って返した。
 ――いいこと?
 それは、飲みなれない酒につぶれて迎えを要求する情けない恋人の代わりに、新しい出会いがあったから、とは考えられないか?
 今にも降り出しそうな、曇り空を見上げる。
 平凡ながらも真正直に生きていた結果が、これなのか。
「……何が犯人だよ」
 職員会議の間じゅう、何を話すにも得意げな様子の先輩を見つめていた。
 彼は、クラスの問題児の話題が出た時も、あれこれ対策を施しているから問題ない、ときっぱりと言い切った。
 もうすでに、先輩のことばに嫌悪すら覚える。恋だ愛だ、略奪だなどと息巻くよりもやるべきことが、先輩にはあるはずだ。
 会議が終わると、『昨日』のぼくはいそいそと片づけを始めた。
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