ユニコーンの眠る場所

みっち~6画

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11 問題児を疑う⑥

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 マスクの下の顔はまだ腫れていて、痛々しい。
 せめてもの償いに、食べ終わるまで隣に座ろうと決めた。
 なんとか地面に足を下ろそうともがくが、うまくいかない。
 代わりに、一生懸命パンを口に運ぶ久坂の横顔を見つめながら、おまえはひとりじゃないぞ、と心の中で何度も繰り返した。
「久しぶりなんですよ」
 急に話し声が聞こえて思わず腰が浮き上がり、慌てて隣にあった消火栓を引っつかんだ。
「なんか急に連絡が来て。困りますよね、本当こういうのは」
 そう言いながらも、やけにうれしそうに表情筋を緩めているのは、『昨日』のぼくだ。
「ええっと、確かまだ中学生だったっけ、妹」
 隣を歩いているのは、久坂の担任教諭でもある、ぼくの先輩だ。
「そうなんです。来年この高校を受験するみたいで、話を聞きたいようですね。義理の父もいっしょに来ているので、久しぶりに昼食でもどうかって誘われて」
「いいことじゃないか。普段は疎遠なんだろう? ちゃんと会って、親孝行してこいよ」
「まぁ、父って言っても、義理ですけどね」
「それでも、親は親だ」
 そうですねと言いながら、『昨日』のぼくは先輩と離れて銀色の自転車に手をかけた。
「それじゃあ先輩も、昼休み、外なんですよね? お互い楽しんできましょう」
 おう、と片手を上げて自転車を見送ると、先輩は鼻歌交じりに歩き出した。用心深く辺りをうかがい、自転車が完全に校門を出て行くのを確認している。
 その様子があまりに不自然だったので、思わずぼくは自転車から目を離し、先輩の動きを注視してしまった。
 その時、ベビーピンクのアンサンブルを着た女が、隣接する駐車場の影から立ち上がった。人目を避けて隠れていたのだろう。
 遅いわよ、と唇をとがらせるその女を見て、思わずうめき声を上げてしまった。
 その女は、ぼくと付き合っているはずの恋人、那智だったのだ。


 完全にアウトだろう。
 なぜ、隠れる? そんな必要ないじゃないか。
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