少年王と時空の扉

みっち~6画

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57 欲しいものは奪い取れ②

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「犠牲、だと?」
 想定外のアイのことばに驚いたシュンが、玉座からわずかに腰を浮かせた。
「どういうことだ。おまえ、この場で父の罪を認めることですべては終わる、と申したではないか」
 嫌らしく目を細め、神官アイは少年王を見下ろした。
「それで、民衆にまで伝わるでしょうか。……残念ながら、わしはそう思いません。国じゅうのどこのだれにも、この混乱の原因を知らしめるには、目に見える何かが必要なのではないでしょうか。たとえば……そう、先々王に関わるすべての像を破壊する、などのね」
 いかがかな、とアイに見つめられ、隼斗は思わずひるんだ。
 隼斗が何か言う前に、先にシュンが椅子をけって立ち上がる。
「父に対する侮辱に加え、さらに神聖なる像まで破壊せよ、とは。そなた一体何を……」
 身構えるアイの視線に、ぞくりとするものを感じ取り、隼斗はあわてて声を上げた。
「ぼくも、像を破壊するのがいいと思う!」
 何を、シュンのひとみが驚きに見開かれた。
「そうするべきだよ。だって、悪いのはお父さんで、息子じゃないんだからさ。そうすれば、国は安定して、シュンも長生きできるよ!」
 満足げな神官アイが、気味の悪い笑みを浮かべて隼斗の前に立ちはだかる。
「良い返答が聞けて満足です」
 隼斗を見やるそのひとみは、まるでギザで出会ったアムルと同じように、どろりとしていた。
「先々王の死は強引に都を移した呪い、とささやく者もおります。我らがファラオは、いまだ世継ぎもおらぬ若き身の上。いつ何時、よもやのことが起こるか分かりませぬ。心配事は、ひとつでも取り除いておかねばなりますまい」
 乱暴に身をひるがえしたシュンが、そのまま庭を突き進んでいく。
 夕べ、神官などに屈することなく闘え、とけしかけていたはずの隼斗が、その神官の出した条件をのむように勧めることになるとは。逆に、従うべきと主張していたシュンは納得のいかない様子。
 これでよかったのだろうか、とわき上がる不安を、隼斗は打ち消すことができない。
 隼斗は不安を抱えたまま宮殿を駆け回り、姉の姿を探した。戦の準備が整った広場を横目に、片っ端から扉を開けていく。何度目かの部屋に入り込むと、目の前にほお傷の男が立っていた。
 彼は壮麗な装飾が施された二輪戦車に手をやって、あれこれ忙しそうに動き回っている。
 隼斗が見ているのに気が付くと、男は動きを止めてこちらを向いた。にらみつけられた隼斗は、逃げるようにその場を立ち去るしかなかった。
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