少年王と時空の扉

みっち~6画

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71 アレクサンドリアのひとつ星①

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「そんなの、だめ!」
 そっと背後から近づいてきた給仕の女が、隼斗を突き飛ばすかっこうで母クレオパトラの前に立ちはだかった。
「姉ちゃん? 無事だったんだ!」
 ごめんね、と短く弟に謝罪のことばを投げてから、アカネは母に向き直った。
「逃げなきゃ、だめなの。自分でも、大変な時代って言ったじゃない。だったら、本物のクレオパトラの意志を尊重しないと。彼女に、大切な時間を返してあげるの」
 はた目には、女王に飲み物を注いでいるようにしか見えないだろう。
 アカネはうまい具合に建物の影に身を潜めながら、母クレオパトラの説得を続けた。
「父さんも待ってる。あたしたちにも、母さんが必要」
 濃いアイシャドウで覆われた母のひとみが、何もない床を見ている。
「でもね、私にはまだやるべきことがあって……」
 でもじゃないわ、とアカネは語気を荒げた。
「じきに、頼みのカエサルも暗殺される。後ろ盾を失ったエジプトは、見る影もなく衰退するのよ」
 厳しい顔つきで娘を見やり、母クレオパトラは抗議の声を上げた。
「何を言うの。母さんだって、ちゃんと知ってるわ。カエサルが死んでも、その後継者のアントニウスがまだ生きているじゃない。クレオパトラは彼と協力して、エジプトの統治を続けるはずよ」
 母さん、とアカネが語気を荒げた。
「忘れないで。そのアントニウスも死ぬのよ。そして、クレオパトラ自身も死を選ぶ。ここにたら、そうするしか、方法がなくなるのよ」
 会話の内容は半分も理解できない隼斗だったが、ここにいてはいけない、ということだけは、はっきりと分かった。
「逃げよう、母さん。お願いだから」
 それでもなお、母は笑いさざめく宴の席を見つめていた。
「母さんね、ここに来てから一年経つの。これでも結構努力をして、ここに慣れたのよ?」
 一年、と隼斗は繰り返す。
 そうなの、とあたりまえのようにアカネが隼斗を見やった。
「あんたにはまだ言ってなかったけど、あのエレベーターには、好き勝手に時間の流れをゆがめる力もあるみたい。あたしのときも、そうだった」
「えっ、それじゃあ、姉ちゃんもルクソールに一年いたの? シュンといっしょに?」
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