不可思議∞伽藍堂

みっち~6画

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17 翅のドレス③

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「すみません、お邪魔でしたか」
 そのワンピースは薄物で、膨らんだ肩先からは恐ろしいほど白い肌がのぞいている。ふたりが何も答えられずにいると、女は申し訳なさそうに目を伏せた。
 ルゥはそそくさと奥の間に引っ込み、大河は取り残される。あいまいな笑みを浮かべた大河は、女とルゥとを交互に見やった。
 女の季節外れな装いは、ワンピースだけではない。
 肩先にかけているのも、かご編の夏物のバッグだ。涼し気な目元のメイクも、いかにも寒そうに見える。
「……あ、そうか。判子を買いに来たんです……ね?」
 急に思い立った大河は、「すみません」と続ける。
「ここ、判子屋なようでいて、実は違うんですよ」
 大河の奇妙な言い訳を、女は黙って聞いている。
「ここじゃなくて、路地の奥の店になら、すごくきれいなものがたくさんあって、欲しいものが見つかるかも……」
 だめよ大河、と戻ってきたルゥが鋭い語気で大河をたしなめる。
「この人は伽藍堂に入れないの」
 女もまた、そっとうなずいてルゥのことばを肯定した。
「意味が分からない」
 投げ出すように両手を上げた大河の前に、ルゥが緑茶を置く。続けて、あなたも、と女を手招いた。
「つまりね、彼女は生きてる人間じゃないのよ」
 女は、悲し気な目でルゥを見た。
「それでも、死んでいる訳でもないの」
 大河の頭は、いよいよ混乱する。落ち着かせるために、熱い緑茶をすすった。
「それじゃあ答えにならないよ。なぜ生きても死んでもない人間は伽藍堂に入れないの」
「結界があるから。ほら、館まで続く玉砂利。あれが、店にふさわしくない者を排除しているのよ」
 結局、大河は肩を落として歩き去る女を黙って見送るしかできなかった。仕方ないのよ、とルゥがつぶやく。
「彼女だけじゃないの。ここには、そういう存在がたくさん、さまよっているんだから」
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