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30 がらんどう②
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玉砂利を踏み締める音を聞きながら、慎重に路地を行く。判子屋の前まで来ると大河はルゥの手を取って、駆け出した。
さまよい人に荒らされた店内を、ルゥに見せたくなかったのだ。
アーケード街には、すでに傾き始めた日が差している。
完全に日が落ちてしまう前にと大河は焦るが、なかなかタクシーはつかまらない。ようやくやって来た一台には、すでに客が乗っている様子だ。
「あれ? 大河じゃない。どうしたの」
タクシーが停車し、窓が開く。顔を出したのは、幼なじみの寿々花だった。
「悪いけど、乗せてくれないか。急いでいるんだ」
寿々花はすぐにルゥの存在に気づき、ちろり、と目線を送る。
「今は急いでいるから、説明は後でいいかな」
「……分かった」
言いたいことは山ほどあるのだろうが、今は一旦のみ込んでくれた様子だ。
「こいつは、おれの幼なじみだから、信用してもいいよ。大丈夫。困っている人間を、放っておけるような性格じゃないから」
警戒するように寿々花を見つめているルゥに、心配しないようにと声をかける。
「あら、そんなことを言われたら、協力しない訳にいかないじゃないの」
運転手に行き先を聞かれて「とりあえず、海岸へ」と大河が答えると、寿々花が不思議そうに顔を上げた。
「とりあえずって、何よ」
「ある場所を探しているんだけど、正確には分からなくて」
言い訳のように答えると、寿々花は身を乗り出して「他には?」とスマホを取り出した。
「検索するのか? ……ええっと、事故のあった海。猿を飼っていた男の人が、海に落ちた場所で……それが、どれくらい前のことかは分からないけど」
「それだけ? この近くの海岸なのかな」
最初は警戒していたルゥだったが、寿々花が検索を始めると、身を乗り出してスマホに見入っている。
あの、お客さん、と運転手がバックミラーをのぞき込みながら、話しかけてきた。
「ずいぶん前の出来事だが、大型の台風が直撃した年に、車を運転していた男性が海に転落した場所なら知っていますよ」
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