不可思議∞伽藍堂

みっち~6画

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29 がらんどう①

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 空っぽの部屋を出ると、回廊にはわずかな蒸気が漂っていた。
 困ったな、と大河は辺りを見渡す。
「どうしてルーレットは正確な場所を教えてくれないんだろう」
 ビスマス結晶の懐中時計から、ルゥは「届け先」を感じ取ることができないでいた。
「まったく、あれだけ饒舌に話をしていたのに、なんだって今は無言を貫くんだ?」
 ごめんね大河、とルゥが申し訳なさそうにルーレットの懐中時計を抱き締めた。
「まったく聞こえない訳じゃないの。ただ、海へ、海へ、としか言わなくて……」
 試しに大河も時計に耳をつけてみたが、ひやりとした感触が残るだけでなんの成果もなかった。
「それじゃあ、主さんはどこ? 会えるかな。何か知っているかも知れないし」
 ルゥは困ったように唇を引き結んだが、その目線はひとつの扉に向けられている。
 大河が足を向けると、「たぶん」と、ルゥが小さくささやいた。
「今の主さんは、話をすることはできないと思う」
「どうして」
 ルゥの言葉の意味が理解できず、大河は首をひねった。
 真鍮のドアノブをひねると、部屋の中央には飾りのある天蓋付の寝台が置いてあった。大河が様子を見ていると、ルゥは先に寝台に近づき、紗の布を引く。
「主さんよ」
 そこに寝かせられていたのは、赤子だった。
「主さんの姿はいつも違う。前に話をしたときは、大河くらいの年齢だった。でも今はね、この姿になって、力を蓄えているんだって」
「それほど、さまよい人の力は強いっていうことなのか」
「違うよ」
 大河の顔色を見て、ルゥがすばやく訂正する。
「主さんの力の方がずっとずっと大きいし、強いよ。でも質が違いすぎて、やっかいなんだって、言ってた」
 仕方ないな、と大河は階下に目を向けた。
「やっぱりおれたちは海へ行くしかないな。日が暮れる前に、場所を見つけないと」
 ふたりとも急ぎ足になって、何もない踊り場を通り抜ける。ステンドグラスの扉を押して外に出ると、ルゥは無言で洋館に向き直り、「いってきます」と頭を下げた。
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