【牙折り】エンシスのやり直し龍伐譚 ~追放の愚将は砂の荒野でお菓子好きな魔女に弟子入りしてドラゴンを解体する!?~

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第四章

27/ 龍食の魔女

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 右手で【落涙】を握ったまま、何度か宙返りをしてエンシスは着地する。


 そのまま間を置かず、弾かれるように前方へ踏み込んだ。
 後退したスピードを全て逃さず反発させ、前進のエネルギーへ変換する。



 オウラはまだ【黒帳】を構えていない――
 スピードではエンシスが上回っている。


 兄と慕ったオウラとはいえ、今はイニティア王国を危険にさらす敵。
 容赦をかける必要はない。




(オウラ兄さん……! だけど、今は……!)

 そう自分に言い聞かせ、【落涙】を下段から斜め上へと切り上げる。

「う……らぁああ……!!」


 閃きすら置き去りにする剣戟を、オウラはヒラリと躱す。
 重心が後ろへ傾いて、後方へ飛び退く――ように見えたが、それはフェイントだった。

 オウラの右掌から黒々としたい魔力弾が放たれる。

「くっ」

 エンシスは【落涙】で魔力弾を斬り伏せて、凌ぐ。
 しかし刹那だが、魔力弾へ注意を向けてしまったその瞬間にオウラを見失った。


 ドラゴニアムの鎧で再現された、ステルスワイバーンの気配消失は、目の前に居ても姿を見失うレベル――。


 実力の拮抗した者同士の戦いでは、刹那にも満たない僅かな隙さえ、致命的になり兼ねない。

(どこへ……!? このままじゃ、また……!)


 一瞬の選択ミス、一瞬の躊躇が、文字通り命取りになる……


 そんな戦況で、相手を見失っている暇はない。
 まずい――冷たい汗が背中を伝う。


 しかしその気持ち悪さが、逆に思考を研ぎ澄ましてくれた。
 もともと過剰に圧縮された時間感覚が、より一層、密になっていく。


 思い出せ、思い出すんだ……あの時の感覚を――。



 ワスタで、スブリーデと共に挑んだアイスドラゴンの体内。


 迷宮のような果てしない空間で、莫大な魔力に翻弄されながら、それでも掴んだ『逆鱗』へと続く道標。


 見付からないように、見付からないように……そんな意志が込められた魔力を見付けるには、どうすれば良かったのか?



 ――フッとエンシスは脱力して、目を閉じた。



 脱力し過ぎて【落涙】も、掌から離れていきそうになる。
 切っ先が、地面に落ちていく。

 愛剣が掌から完全に離れる…………その、一瞬前。

 空っぽの左手が、動く。

 パシッと何かを掴んだ。



「上……」



 右手に力を込める。【落涙】が手中に戻る。
 そしてエンシスは空を見上げた。

「な、なに!?」

 見上げた先には、驚嘆に目を見開いたオウラが居た。
【黒帳】を上段に両手で構え、まさに今、振り下ろさんと腕を絞りながら、落ちてきていた。

「見付けたぜ、オウラ!」


 ガラ空きの胴体へ目掛けて、エンシスは【落涙】を滑らせる。


 大気が道を開けるように、刃先を避けていく。

 まるで止まっているように流麗な動き。
 見蕩れるほどに無駄のない美しい剣さばき。

「エンシスゥアアア!!」


 オウラの振り下ろしは間に合わない――
【落涙】は、横一文字にオウラの胴体をなぞった。


「『逆鱗斬り《セカーレ・スクワマス》』!!」


 シュィ……イン――
 と金属の擦れる音が鳴る。


 そしてオウラの胴がゴウっと瞬間的に燃え上がり、一弾指も間を置かずボロボロと崩れ落ちていく。


 ドラゴニアムの鎧が焼き切られた。
 まるでスブリーデが、『逆鱗』の錆を焼き切った時のような眩い光と共に。


「ぐあ……あぁあああ」


 勢いだけで振り下ろされた【黒帳】は標的を捉えることなく、有り余った威力はオウラを逆に振り回す。

 直刀に引きずられるように地面へ落ちていくオウラ。


 ……ガジャン!

 と大きな音を立てて瓦礫の中へ突っ込んだ。
 残心を取り、振り返るエンシス。

 トルドはこれで気絶したが、オウラは違うだろう。

「でも、強みは消した、ぞ…………ぉあ!?」

 ガクンと、糸が切れたように膝から崩れ落ちるエンシス。
 膝を着き、左脇を押さえる。

「ぐっ……傷が開いた……か」


 見ると、服の上からでも分かるほどに血が滲んでいた。
 苦痛に顔を歪めていると、ボコォン! と瓦礫が弾け飛び、オウラが高笑いしながら這い出てきた。


「くっくっく……くっはっはっはははははは!!! どぉおだ!? 痛えだろぉおおお?」
「これは……」


 アイズが、スブリーデから貰ったという回復符。


 流石に特別製で、致命的な傷すらも、ほぼ完璧に治してくれた。

 若干、皮膚にツッパリを感じたが、少し動いたくらいで傷口が開くような中途半端な回復ではなかった。


「だからエンシス。お前は何も知らないって言ったろ。この【黒帳】で付けられた傷は、コイツが破壊されるか、使用者の俺が解除をするまで、絶対に治らないんだよ!!」
「そ、んな……」


 そうしている間にも、エンシスの周りには赤い海が広がっていく。

 辛うじて使えるいくつかの回復系の魔法で、失血を食い止め、痛覚を遮断する。
 それでも前を向いているのがやっとだ。


「だからな? 何も分かってないんだよ。あの一太刀を食らってしまった時点で、お前は負けていたのさ」
「……っ」
「見ろ。アルバたちも、もうそろそろ終わるだろ……ヤツらもこの剣に斬られているからな。ジワジワと効いてきている」

 言われて空を見上げると、最早、満身創痍のアルバたちが、からがらアンデッドドラゴンの攻撃を凌いでいた。

「く、そ!!」
「まぁ、悔いることはない。どうせ、皆死ぬ……お前もアルバたちも、この国の愚民も!」
「ど、どうしてそこまで、イニティア王国を……!」


 オウラがドラゴンを慕い、魔女を憎悪しているのは知っている。記憶から垣間見えた。

 しかしその憎悪をイニティア王国に向ける理由が分からない。


「ふん。だから、お前は何も分かってないって言ってんだよ」



 勝利を確信したのか、オウラは悠然と語り出す。

 廃墟の街をソロステージのように闊歩する。
 全てが自分の思惑通り……そんな愉悦がオウラを饒舌にする。

「この国には『六龍斬』を凌ぐ戦力……常識の範囲から逸脱した人外、〝三神〟がいる。斬るという概念そのもの、『剣聖』。魔法の権化、『魔法帝』……」


 ゆっくり数えるように指を折っていくオウラ。

「そして、最後のもう1人は」



 ――途端、ドクンとエンシスの心臓が強い音を鳴らす。


「ドラゴンを食らう魔女、『龍食《りゅうばみ》』……あるいはハイドランギア=スブリーデ。さっきまでお前の隣に居たろ? 金色の目をした、あの女だ」
「な……まさか……スブリーデが……!?」





 オウラのコトバに、エンシスは固まる。


 ワスタで出会った、あの天真爛漫な少女が……?

 あの、ココラタが好きで、時折寂しそうな目をする少女が……
『剣聖』や『魔法帝』と並ぶ存在だというのか?


 ――スブリーデが、『剣聖』らと並ぶ〝三神〟?



 スブリーデは、確かに自分を『魔女』と名乗っていた。

 トルドも『魔女』だろと指摘した。

 人智を超えた力も目の当たりにした。

 そして、イニティア王国の王国民だとも言った。


 思い返せば、確かにピースは揃っていた。しっかりと。

 でも、どうしてもそれが組み合わさらなかった……
 否、エンシス自身が、組み合わせるのを避けていたような気がする。



 彼女のあの純粋な笑顔の裏に、そんな途方もないものが隠されているとは、信じたくなかったのかもしれない。



「......そ、そんな......アイツが......スブリーデが〝三神〟だったなんて」

 オウラは冷たく笑っている。

「いや、そもそもお前が助けて、この国に連れてきたんだろうがよ! 何すっとぼけてんだよ!!」
「……え?」
「ああ……! うぜぇなぁああ! お前が、あの日! ヴォルカを殺して!! 救った魔女の村の生き残りのガキが!!! あの『龍食』なんだよ!!」



 垣間見たオウラの記憶の中。
 あるいは自分自身の記憶の中。
 あの村は、どんな村だったか――思い出せない。


 だが、炎と絶望の中で、小さな手を握った記憶は……微かに残っている。




 でも確かに、エンシスが救った村は魔女の村だった。

 その生き残りこそスブリーデだった。
 その時、殺したドラゴンがオウラの〝家族〟だった。

 自分を中心に因果が絡まっている――
 それだけは理解出来た。理解させられた。

「あのガキは……魔女が、魔女の天敵たるドラゴンに対抗するため作りあげた、対ドラゴン特化の人型魔法兵器『ドラゴンイーター』……その唯一の完成形にして、唯一の生き残りなんだ!」

 オウラは怨嗟を叫ぶ。

「分からないか? アイツがこの国に来てから! この国の対ドラゴン戦線は格段に進歩したろ!? 飛躍的に向上した! 『ドラゴンイーター』の知識や技術を吸収した結果だ! だから、このイニティア王国は! この国の平和は! 魔女の力の賜物なんだよ!!」
「……っ!」

 エンシスは息を呑むことしか出来なかった。


 じゃあ、自分がドラゴンを倒してきたことが報いとなって、今イニティア王国に降り掛かっているということなのか。


 自分が信じてきた正義が、オウラの悲しみを生み、そして今、この国の危機を招いているというのか。



 やっぱり全部、自分のせいなのか。因果応報なのか。


「かつては魔女が人類に対する厄災だったろ? 今はそれがドラゴンに置き換わった。同じ厄災として扱われていたのに、どうして魔女は許されたんだ? 魔女だけは許されて、ドラゴンだけ忌み嫌われるのは何故だ!? 俺は、魔女に虐げられ、ドラゴンに救われたんだ!!!」

 逡巡するエンシスに向かって……
 唐突に、何の脈絡もなく【黒帳】が振り下ろされた。
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