GELADEN~装弾済み~

如月 風佳

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プロローグ

太陽

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『ジャリ…』 

何か音が聞こえた。 

『コツンコツン…』 

何か硬いもので頭を叩かれる。ゆっくり顔を上げると、太陽を背負った人物の顔が驚きに変わった。 

「なんだ…生きてんじゃん…」 

「…」 

だれ? 

と声を出したかったが、それは無理だった。男は美奈子の前にそっとしゃがんだ。 

「死んでると思ったぞ?」 

ニッと笑った顔に、美奈子は出ない声で泣き喚いた。 

人だ…、人だ…!生きている人だ!!!

ただ、それがもうどうしようもなく嬉しくて泣いた。

「…どーした?」 

彼も美奈子のことは知らないはずだ。けれど、彼はそういう孤児の様な子どもの相手に慣れているのか、優しく砂まみれの髪を撫でた。瓦礫の上で死ぬのを決めてから、自分でも手グシさえ通さなかった髪を彼は慣れた手つきで整えた。
始めて逢ったのに、始めてを思わせない言葉使いが優しくて、美奈子はまた泣けた。 
「まったく、今日は女をよく見つけるな…」 

苦笑して笑った顔が優しかった。 

「お前の女運には感服するわ…」 

「泣いてる女はほっとけないんだよ。」 
自分をあやしてくれる男の他に人がいる事をその時知った。赤いネクタイの青年と髪をポニーテールに結った女の子。 
「これ、落ちたわよ?」 
女の子がロザリオを拾い上げた。彼にしがみ付いた時に手に握っていたのを忘れていたから落としたのだ。 

「…」 

差し出されたロザリオを恐る恐る受け取る。左手はきつく彼のシャツを握っている。声が出なくて申し訳ない…。ぺこりと頭を下げた。 

「待って!それ、見せて!」 

赤いネクタイの青年が美奈子の拳を握った。 
「!?」 

神経が逆立っている所為で過剰に反応してしまった。
ビクリと震える肩を彼は優しく撫でた。
「驚かせて悪い。良かったら見せてやって欲しいんだけど。」

彼の言葉に美奈子は頷き、そっと拳を解いた。手の中の十字架を見るとネクタイの青年は口を白い綺麗な手で覆った。 美奈子の中にあるのはただの十字架ではない。真っ直ぐな線での十字を作ったものではなく、微妙に湾曲し、先が槍のようになった独特な形だった。

「これ…何で持ってるの…?」

美奈子は首を傾げた。何の変哲も無いペンダントなのだが…。

「き…君…、サンクチュアリからなんでこんなところに?」

青年の瞳が大きく見開く、美奈子は 嗚咽をしゃくり上げながらもう一度頷き、言いだした。

「サンクチュアリ? こ、この十字架は友達に頂いたものなのですが…」 

ネクタイの青年は少しの間考えていたが「君、名前は?」と、問いかける。

「小林美奈子です…。」

その言葉に一同が目を丸くした。

「お前、こんなトコで何してんだ…」

抱きしめてくれていた彼の間の抜けた声。

「“サンクチュアリ人”が何でこんなトコにいるの?」

ポニーテールの女の子の言葉。美奈子は訳が解らない。
彼女は手近にいたネクタイの青年に耳打ちする。

「逃げ遅れた政府関係者の娘なんじゃない…?」

それには美奈子を支えてくれていた黒髪の彼が返答する。

「いくらマヌケそうだからって、それでも“本名”を名乗るか?」

「あのっ!!!!」

訳の解らない話しに美奈子はついに切り出した。

「ここが地獄じゃないとしたら、ここは何処ですか?!東京はどうなってしまったんですか?!」

「トウキョウ?」

全員、首を傾げている。美奈子は自分の顔が青ざめてくるのをまざまざと感じ取り始めていた。

可笑しい。何か可笑しい。どうしてこの人達は東京を知らないのだろう。こんなに滑らかな日本語を話しているというのに。
「私、何処にいるの?」

呟かれた言葉に彼はため息を零した。

「ケンに逢わせた方がいいな。」 

ネクタイの青年はすぐに真剣な表情に作り変えると強く頷いた。

「美奈子って言ったっけ?俺はヒビキ。アッチのネクタイのヤツがアキラ。オレンジの髪してるのがヒロだ。」

笑って見せる顔は不安を一切薙ぎ払うような顔だった。漆黒の髪が風で靡いて、スッと切れ長な目から覗くのは、思わず恐怖さえ忘れ、見惚れるほどの美しい深紅。

「一緒に来い。こんなトコにいたくないだろ?」 

黒い服をすっきりと着こなしてはいるが、さっき抱き寄せられたときにその腕の逞しさも力強さも確証している

ヒビキは立ち上がると手を差し伸べた。
大きくてシッカリとしているのに指が長く綺麗な手だった。

 ヒロはその情景を違った感覚で見ていた。
自分はあの少女の位置にいた。
彼に引っ張り上げられた。

だから解る。見上げた彼の顔の美しさと救いが。

それは、あの立場にたたないと解らない事だろう。 

(手をとるのよ…あの手を…) 

彼の笑顔がどれほど救いになるか…。あの手がどれだけの力になるか…生きる意味になるか…彼女は知っている。 

思ったとおり、美奈子はヒビキの手を握った。 
 
彼には、恐ろしいほどの存在感があった。それこそ、太陽のような暖かい光を全身に纏っている様に感じるのだった。 
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