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卒業式の後、アプリコットの花が舞う中、私を引き止めない第二王子! そんな彼をポイ捨てして、私は大人へと旅立ちます。
しおりを挟む政略結婚という言葉は知っていましたが、まさか、こんな急に、、、
空は曇り、春にしては寒い朝です。
玄関脇に咲くアプリコットの木の桃色の花は、散り始めています。
「出発の日時は、誰にも伝えていないのに、なぜ、いらしたのですか?」
玄関ホールを出て、貴族用の馬車に向かう私の横で、第二王子様は下を向いています。
私は、隣国の伯爵令嬢です。
この王国の学園に3年間留学し、先日、卒業式を終えました。
旅立ちの日、一つに結んだ銀髪、旅行用の軽装ドレス、姿勢を凛として、馬車の前に立ちます。
第二王子様の黒髪に、舞っては落ちる花びらの、濃い桃色は、私には、もう似合いません。
満開の時期は、終わってみると、とても短かいものです。
「この国で見るアプリコットの花は、これが最後になります」
名残惜しい気持ちを払うため、決意を言葉にします。
私の誕生パーティーで、ロウソクを立てて一緒に火を灯したのが、昨日の事のように思えます。
私は、この王国で幸せになるものだと、思っていました。
それは、幼い私の、恋に恋する夢物語だったのでしょうか。
馬車に乗り込み、見送りの第二王子様を見ますが、下を向いたままです。
「第二王子様と言葉を交わせるのは、今日だけです」
馬車から身を乗り出し、消えそうな声を絞り出しましたが、、、聞こえなかったようです。
私の手袋は外してあります。
今、第二王子様の温かい手が、私に触れたら、未来は変わるかもしれません。
第二王子様の王族としての立場を理解し、目の前の幸せを選んでしまった私を、どう思っているのでしょうか?
「お嬢様、8時になりましたので、馬車を動かしてもよろしいですか?」
「も、もう少しだけ、、、」
御者を止めます。
隣国に向かう馬車の出発時刻になりました。
「第二王子様、一つだけ、、、」
「・・・」
「貴方は、夢を語る少年のままなのですね、、、」
「・・・」
ここまで言っても、貴方は下を向いたままなのですね。
私は、、、大人へと変わってしまいました。
ルージュは、落ち着いた桜色へと変えています。
「さぁ、行きましょう」
昨日までとは違う唇を動かし、馬車を動かします。
動き始めた馬車に、アプリコットの花がひとひら、後ろへ流れて行きました。
隣国へ向かう道の先、雲の切れ間から、青空が見えます。
◇
「王妃様?」
「あ、少し昔を思い出していました」
昔、、18年前の、、忘れたはずの景色です。
今は、王宮の庭園です。空が青く澄みわたっています。
あの国からいらしたご令嬢と、お茶を楽しんでいるところです。
この桃色の髪のご令嬢は、独身のままの第二王子様、現在は王弟陛下様、彼に、逆プロポーズをされたそうです。
第二王子様には、この様に豪傑な女性が似合うと思います。
そう思えるのは、結婚して幸せになれた、今のおかげでしょうか?
庭園のアプリコットの若葉が、まぶしく感じます。
━━ FIN ━━
【後書き】
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